■挿絵本のたのしみ

〜現代絵本のルーツ〜


不思議の国のアリス アリスは、お姉さんと並んで土手にすわっていましたが、なにもすることがないので、たいくつしてきました。お姉さんの読んでいる本をちらっとのそいてみたのですが、その本にはさし絵もないし、会話のやりとりもありません。アリスは思いました。 「絵がなくて、おまけに会話もない本なんて、いったいなんの役に立つっていうの?」

―ルイス・キャロル 著/アーサー・ラッカム 絵/高橋康也・高橋 迪 訳
『不思議の国のアリス』より抜粋


20世紀初頭、イギリスでは古典や童話に美しい挿絵を添えた、豪華なギフトブックが流行しました。 《挿絵黄金時代》または《ブックス・ビューティフル》の時代とも呼ばれるこの時期に活躍したのが、 アーサー・ラッカム、エドマンド・デュラック、カイ・ニールセンといった挿絵画家たち。 このページでは、現代日本でも楽しめる、黄金期の画家たちの美しい挿絵本や画集をご紹介します。


↓タイトルをクリックすると紹介に飛びます。

●アーサー・ラッカム

「不思議の国のアリス 新装版」

「アーサー・ラッカム 改訂版」

「Rackham's Fairy Tale Illustrations in Full Color」

「The Arthur Rackham Treasury: 86 Full-Color Illustrations」

●エドマンド・デュラック

「雪の女王 アンデルセン童話集1」

「人魚姫 アンデルセン童話集2」

「テンペスト」

「Dulac's Fairy Tale Illustrations In Full Color」

●カイ・ニールセン

「おしろいとスカート」

「十二人の踊る姫君」

「空飛ぶトランク アンデルセン童話集3」

「Nielsen's Fairy Tale Illustrations in Full Color」

●ウォーリック・ゴーブル

「Goble's Fairy Tale Illustrations: 86 Full-Color Plates」




●アーサー・ラッカム ―Arthur Rackham―

1867年、ロンドン生まれ。
幼い頃から絵が好きで、画家になる決意をかためた若きラッカムは、昼は保険会社勤務、夜は美術学校に通うという、修行時代を経験します。

1894年に挿絵画家としてデビューすると、1900年『グリム童話集』で注目を集め、1905年『リップ・ヴァン・ウィンクル』の挿画で、その名声を決定的なものに。 以後、『ケンジントン・ガーデンのピーター・パン』『真夏の夜の夢』『ニーベルンゲンの指輪』など、数多くの優れた作品で絶大な人気を博し、イギリス挿絵黄金時代を牽引します。
1939年4月、最後の名作『楽しい川辺』を病床で完成させると、その出版を見届けることなく、1939年9月6日、71歳の生涯を閉じました。

ラッカムの画風は、紙のあたたかみを感じさせる味わい深い描線と、その描線からにじみ出てきたような繊細で淡い色彩とが特徴。 彼の描いた妖精たちは「ラッカメア・フェアリー」と呼ばれ、今も多くの人に愛されています。

→「連想美術館」アーサー・ラッカムのページを参照する



「不思議の国のアリス 新装版」

ルイス・キャロル 著/アーサー・ラッカム 絵/高橋康也・高橋 迪 訳
(新書館)
不思議の国のアリス
「不思議の国のアリス」といえば、ジョン・テニエルの挿絵が、あまりにも有名。 ですが《ブックス・ビューティフル》の時代、テニエル以外の画家によるアリスの挿絵本が続々と出版され、なかでも当時の人気画家アーサー・ラッカム挿絵のアリスは、今もなお生き残っています。

テニエルのアリスが物語としっくり調和していたため、ラッカムの挿絵本が発売された当時、本国イギリスでは非難の声があがったのだそうです。 でも、わたしはこの本を読んでみて、ラッカムのアリスが大好きになりました。
ラッカムは、ドリス・トーミットという少女をモデルに、この愛らしいアリスを描いたのだとか。 作者ルイス・キャロルが愛し、「不思議の国のアリス」のモデルとなったリデル家の次女アリスは、 きっとラッカムの描いたアリスのように、可愛らしい女の子だったに違いありません。
テニエルより叙情的なラッカムの挿絵は、読者を「不思議の国」にやさしく誘い、あたたかく包み込んでくれます。

この新書館版「不思議の国のアリス」は、ラッカムのカラー挿絵13点、モノクロ挿絵15点を完全収録した、装幀も素敵な一冊です。

→読書日記に書いた、この本の感想はこちら
→アリスの本をまとめています「アリスについて」はこちら

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「アーサー・ラッカム 改訂版」

E´.T.classics
大瀧啓裕 監修・解説(エディシオン・トレヴィル)
アーサー・ラッカム (〓.T.classics)
アーサー・ラッカムの挿絵作品集。
ラッカムの挿絵本の邦訳版は、けっこう絶版・品切れが多いので、この作品集は貴重かもしれません。
『リップ・ヴァン・ウィンクル』から2点、『ケンジントン・ガーデンのピーター・パン』から9点、『楽しい川辺』から4点、 『不思議の国のアリス』から8点、『シンデレラ』から2点、『ニーベルンゲンの指輪』から18点、ほか9点。 全部で52点の作品が収録されていて、お値段ははるけれども満足度の高い一冊です。
巻末には、大瀧啓裕氏によるラッカムの評伝もあり、興味津々。

印刷がきれいで、装幀もとても凝っているので、胸躍るようなラッカムの美しい挿絵を、心ゆくまで楽しむことができます。
そこかしこに滲む闇、妖精たちのまとう薄衣のひだからも、幻想がゆらめき出てくるようです。

→Amazon「アーサー・ラッカム (〓.T.classics)
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「Rackham's Fairy Tale Illustrations in Full Color」

Arthur Rackham 著(Dover Pubns)
Rackham's Fairy Tale Illustrations in Full Color
アマゾンで購入した洋書、アーサー・ラッカムの挿絵作品集。
ペーパーバックの量産品ですが、53点もの挿絵作品がフルカラーで収録されているにもかかわらず、安価なのが嬉しいところ。

「Little Brother and Little Sister and Other Tales by the Brothers Grimm」(1917)から8点、「Snowdrop and Other Tales by the Brothers Grimm」(1920)から14点、 「Hensel and Gretel and Other Stories by the Brothers Grimm」(1920)から9点、「The Allies' Fairy Book」(1916-1917)から9点、「English Fairy Tales」(1918)から10点、「Irish Fairy Tales」(1920)から3点の挿絵を収録。
イラスト中心なので、英語が読めなくても安心して、ラッカムの絵の世界に浸ることができます。

グリム童話(「しらゆき べにばら」「つぐみひげの王さま」「白雪姫」「ラプンツェル」「七わのからす」「ヘンゼルとグレーテル」「赤ずきん」etc.)の挿絵が多数おさめられており、他の画家の作品と比較して鑑賞してみるのも興味深いです。
現代絵本画家の最高峰リスベート・ツヴェルガーは、ラッカムに影響を受けたと言いますが、彼女の初期の絵はたしかに、 独特の描線の美しさやおさえた色遣いなど、ラッカムの画風に通ずるものを感じます。
また「赤ずきん」は、ラッカムもツヴェルガーも挿絵を手がけていますが、この作品集におさめられたラッカムの作品(森で赤ずきんがオオカミに出会う場面)は、赤ずきんとオオカミをクローズアップするのではなくて、 無気味な森の木が存在感たっぷりに描かれていて、こういう表情のある樹木の描写はラッカムならではだなあと思いました。

→リスベート・ツヴェルガーの絵本の紹介はこちら

→Amazon「Rackham's Fairy Tale Illustrations in Full Color

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「The Arthur Rackham Treasury:
86 Full-Color Illustrations」

Arthur Rackham 著/Jeff A. Menges 編(Dover Publications)
The Arthur Rackham Treasury: 86 Full-Color Illustrations
アマゾンで購入した洋書、アーサー・ラッカムの挿絵作品集。
ペーパーバックの量産品ですが、86点もの挿絵作品がフルカラーで収録されているにもかかわらず、安価なのが嬉しいところ。

「Rip Van Winkle」から3点、「Alice's Adventures in Wonderland」から4点、 「A Midsummer Night's Dream」から7点、「Undine」から5点、「The Rhinegold & The Valkyrie」と「Siegfried & the Twilight of the Gods」から7点、「Mother Goose」から5点、「The Tempest」から3点、ほかイソップ童話やグリム童話、ガリバー旅行記、たのしい川べ、などなど、さまざまな挿絵本から少しずつ作品が集められています。
イラスト中心なので、英語が読めなくても安心して、ラッカムの絵の世界に浸ることができます。

上記で紹介している3冊の挿絵本や作品集の収録作品と、重複する絵もあるのですが、この本には日本では絶版となっている『ウンディーネ』『マザー・グース』の挿絵が数点収録されているので購入しました。
ラッカムの代表的な挿絵本(『リップ・ヴァン・ウィンクル』『不思議の国のアリス』『夏の夜の夢』『ケンジントン・ガーデンのピーター・パン』『ニーベルンゲンの指輪』)から数点ずつ収録されているので、ラッカム初心者にもお買い得な一冊ではないでしょうか。
代表的な作品以外に、アーサー王やシェイクスピア『テンペスト』、『ウェイクフィールドの牧師』に、クリスティーナ・ロセッティ『ゴブリン・マーケット』、さらにE.A.ポー『アッシャー家の崩壊』などの挿絵も1〜3点ずつ収録されていて、ラッカムってほんとうにたくさんの挿絵を描いていた、当代随一の人気画家だったんだなあと改めて感じ入りました。
『テンペスト』は、日本ではデュラックの挿絵が有名ではないかと思いますが(邦訳版があるので)、ラッカムも描いていたんですね。比較されることの多い二人ですが、デュラックの絵は上手くてシリアス、ラッカムのほうがユーモアがあるなあなんて感じます。

→クリスティーナ・ロセッティの詩集の紹介はこちら
→ケネス・グレーアム『たのしい川べ』の紹介はこちら

→Amazon「The Arthur Rackham Treasury: 86 Full-Color Illustrations

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●エドマンド・デュラック ―Edmund Dulac―

1882年、フランスのトゥールーズ生まれ。
トゥールーズとパリで絵画を学んだのちロンドンに渡り、1907年『アラビアン・ナイト』で一躍人気画家に。1912年にイギリス国籍を獲得しました。
15歳年上のラッカムとは人気を二分し、ともにイギリス挿絵黄金時代を牽引。代表作に『ルバイヤート』『ポオ詩集』『アンデルセン童話集』『ペロー童話集』などがあります。 のちには、切手やポスターの図案も手がけました。
1953年、没。

デュラックの絵では、描線が必要最小限に抑えられ、色彩によって物のかたちや陰影が描き分けられています。 輪郭線が目立たないデュラックの絵は、正確なデッサン力もあり、リアルに見る者に迫ってきます。

→「連想美術館」エドマンド・デュラックのページを参照する



「雪の女王 アンデルセン童話集1」

エドマンド・デュラック 絵/荒俣 宏 訳(新書館)
雪の女王 アンデルセン童話集(1) イギリス挿絵黄金期の実力派絵師エドマンド・デュラックが絵を寄せた、美しいアンデルセン童話集。
収載作品は「雪の女王」「豆つぶのうえに寝たお姫さま」「皇帝の新しい服」「風の話」の4編。
挿絵は「雪の女王」から7点、「豆つぶのうえに寝たお姫さま」から1点、「皇帝の新しい服」から1点、「風の話」から3点、 全部で12点のカラー絵が収録されています。

「雪の女王」や「風の話」は人生の真実を描いて奥深く、大人にこそ味わい深い童話ではないでしょうか。 この新書館版では、荒俣氏の訳文が優美で美しく、デュラックの挿絵は幻想の美と人生の悲しみとを、見事に描ききっています。
表紙にもなっている、氷の城に座す雪の女王を描いた一葉などは、つめたく凍りついた美しさに圧倒されます。

→読書日記に書いた、この本の感想はこちら
→「アンデルセン童話の世界」はこちら

→Amazon「雪の女王 アンデルセン童話集(1)
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「人魚姫 アンデルセン童話集2」

エドマンド・デュラック 絵/荒俣 宏 訳(新書館)
人魚姫 アンデルセン童話集 (2) イギリス挿絵黄金期の実力派絵師エドマンド・デュラックが絵を寄せた、アンデルセン童話集の第2巻。
収載作品は、「人魚姫」「夜なきうぐいす」「パラダイスの園」の3篇。
挿絵は「人魚姫」から5点、「夜なきうぐいす」から4点、「パラダイスの園」から3点、 全部で12点のカラー絵が収録されています。

収録作品は3篇とも、とても美しくて、感慨深い物語。デュラックの挿絵が、アンデルセンの創造した広大な異世界を香り高く彩って、読者を誘います。
「人魚姫」で描かれる、水中の風景の幻想的な美しさ。シノワズリともいうべき作品「夜なきうぐいす」 では、 遠い東のはての、神秘的な異国としての「中国」が見事に描かれ、ことに印象的です。

『雪の女王』と『人魚姫』、2冊のアンデルセン童話集におけるデュラックの挿絵は、非常にリアリスティックに描かれており、 だからこそ幻想の風景に、現実に在るもののような迫力を感じます。
異界に向かってひらかれた窓をのぞきこむような味わいは、デュラックの挿絵ならではのものでしょう。

→読書日記に書いた、この本の感想はこちら
→「アンデルセン童話の世界」はこちら

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「テンペスト」

シェイクスピア 作/エドマンド・デュラック 絵/伊藤杏里 訳/荒俣 宏 解説
(新書館)
われわれ人間は夢と同じもので作られている。

伊藤杏里 訳『テンペスト』より

テンペスト シェイクスピアの代表的な戯曲「テンペスト」に、デュラックが美しい絵を寄せた一冊。
カラー挿絵40点が収録され、巻末には挿絵本のコレクターとしても有名な荒俣 宏氏による解説が付されています。

どうしてもラッカムと比較して語られることの多いデュラックですが、荒俣氏の解説には、 「ラッカムの場合は、まず、味わいのあるペンの線が縦横に画面を走ってから、そこに湧きだすように水彩が染めこまれるわけですが、 デュラックではペンの線が必要最小限に抑えられ、代わって色彩が、ものの形や区別、そして陰影などを表現します。 人物と背景とが溶けいるように一体になったデュラックの画面は、黄金期最高の絵師の名に恥じません」とあります。
現実の風景の中に輪郭線はありませんから、描線が目立たず色彩で描き分けるデュラックの画風は、とてもリアルに感じられるのです。

「テンペスト」の挿絵では、使い魔エアリエルをはじめ、たくさんの妖精たちが登場する夢の風景が描かれています。
『ケンジントン・ガーデンのピーター・パン』におけるラッカムの妖精の明るさ愛らしさに比べ、デュラックの妖精は静かで、どこかおそろしくもあり、 薄明の彼方へ見る者を誘う、魔力をさえ感じます。

→読書日記に書いた、この本の感想はこちら
→シェイクスピア『夏の夜の夢・あらし』の紹介はこちら

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「Dulac's Fairy Tale Illustrations In Full Color」

Jeff A. Menges 編(Dover Pubns)
Dulac's Fairy Tale Illustrations in Full Color
アマゾンで購入した洋書、エドマンド・デュラックの挿絵作品集。
ペーパーバックの量産品ですが、54点もの挿絵作品がフルカラーで収録されているにもかかわらず、安価なのが嬉しいところ。

「The Sleeping Beauty and Other Fairy Tales」(1910)から18点、「Stories from Hans Andersen」(1911)から19点、「Sindbad the Sailor and Other Stories from Arabian Nights」(1914)から4点、 「Stories from the Arabian Nights」(1916)から6点、ほか7点の挿絵を収録。
未邦訳または邦訳版が絶版となっている作品の挿絵も、多数収録されています。
イラスト中心で、Introductionに1ページ英文があるくらいなので、英語が読めなくても安心して、デュラックの絵の世界に浸ることができます。

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●カイ・ニールセン ―Kay Nielsen―

1886年、デンマークのコペンハーゲン生まれ。
18歳でパリに出、モンパルナス・スクールで絵画を学び、この頃出会ったオーブリー・ビアズリーの作品と、日本の浮世絵に影響を受けました。
1911年にロンドンで個展を開いたのち、1913年『おしろいとスカート』、1914年『太陽の東・月の西』の挿画で評判になります。
舞台装置家としても活躍しましたが、晩年は恵まれず、1957年永眠。

様式美に彩られたニールセンの絵は、『おしろいとスカート』では明るく華やかなロココ風の雰囲気を表現し、 『太陽の東・月の西』では北欧的な幻想と哀感に満ちた画面を展開しています。 さらに後期の『アンデルセン童話集』『グリム童話集』では、アール・デコ調の画風にも挑戦しています。

→「連想美術館」カイ・ニールセンのページを参照する



「おしろいとスカート」

アーサー・クィラ・クーチ 編/カイ・ニールセン 絵/岸田理生 訳(新書館)
おしろいとスカート この『おしろいとスカート』は、クーチ卿編集の原本「IN POWDER AND CRINOLINE」のうち、 半分の作品が収載されています。残りは同じ新書館から『十二人の踊る姫君』(下記に紹介)として刊行されています。
『おしろいとスカート』収載作品は、「ミニョン・ミネット」「フェリシア―または撫子の鉢」「ジョンと幽霊」の3篇。 挿絵は「ミニョン・ミネット」から6点、「フェリシア―または撫子の鉢」から4点、「ジョンと幽霊」から2点、 全部で12点のカラー絵が収録されています。

ニールセンの挿絵は、タイトルどおり、おしろいの匂いを感じさせ、衣擦れの音が聞こえてくるような作品ばかり。
その雰囲気は、何というか、舞台の艶やかさ。
宮廷風の華やかで美しい絵は、たとえばエロール・ル・カインの絵本、『おどる12人のおひめさま』や『いばらひめ』などが好きな人なら、きっと気に入るはずです。

→エロール・ル・カインの絵本の紹介はこちら

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「十二人の踊る姫君」

アーサー・クィラ・クーチ 編/カイ・ニールセン 絵/岸田理生 訳(新書館)
十二人の踊る姫君 この『十二人の踊る姫君』は、クーチ卿編集の原本「In Powder and Crinoline」のうち、 半分の作品が収載されています。残りは同じ新書館から『おしろいとスカート』(上記に紹介)として刊行されています。
『十二人の踊る姫君』収載作品は、「ロザニー姫と浮気な王子さま」「十二人の踊る姫君」「笑わぬ男」「ロシア皇后のすみれ」の4篇。 挿絵は「ロザニー姫と浮気な王子さま」から3点、「十二人の踊る姫君」から4点、「笑わぬ男」から3点、「ロシア皇后のすみれ」から3点、 全部で13点のカラー絵が収録されています。

細部まで丁寧に描きこまれ、様式美の際立つニールセンの絵。華やかなロココ調の雰囲気。ドレスのひだや模様、背景など、じっと見入ってしまいます。
「十二人の踊る姫君」は、エロール・ル・カインの絵本『おどる12人のおひめさま』と同じおはなしを下敷きにしているので、両方の絵を見比べるのも楽しいです。

→エロール・ル・カインの絵本の紹介はこちら

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「空飛ぶトランク アンデルセン童話集3」

カイ・ニールセン 絵/荒俣 宏 訳(新書館)
空飛ぶトランク アンデルセン童話集 (3) 新書館のアンデルセン童話集、第3巻はカイ・ニールセンの挿絵です。
収載作品は、「ひつじ飼いの娘と煙突そうじ人」「丈夫なすずの兵隊」「豚飼い王子」「オーレ・ルゲイエ」 「空飛ぶトランク」「ほくち箱」「ニワトコかあさん」「ある母親の話」の8編。
挿絵は「ニワトコかあさん」以外1点ずつ、全部で7点のカラー絵が収録されています。

ニールセンの画風は、『おしろいとスカート』『十二人の踊る姫君』の挿絵とはまた違った、 メルヘンの雰囲気をよくあらわしながらも、あっさりとしたものになっています。
訳者である荒俣氏の解説を参照しますと、アール・デコ調の画風とのこと。 アール・ヌーヴォーの、植物をモチーフに曲線を多様した、有機的なデザインとは異なり、 機能的・合理的で簡潔なデザインがアール・デコ、ということらしいです。
ニールセンは、アンデルセンの世界を表現するために、あえて描きこまない簡潔な画風をとりいれたということ。 描きこまないことによって生まれる紙面の余白に、読者自身が、アンデルセン童話の美しさと哀しみとを垣間見ることのできる、素晴らしい挿絵だと思います。

→読書日記に書いた、この本の感想はこちら
→「アンデルセン童話の世界」はこちら

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「Nielsen's Fairy Tale Illustrations in Full Color」

Kay Nielsen 著(Dover Pubns)
Nielsen's Fairy Tale Illustrations in Full Color
アマゾンで購入した洋書、カイ・ニールセンの挿絵作品集。
ペーパーバックの量産品ですが、58点もの挿絵作品がフルカラーで収録されているにもかかわらず、安価なのが嬉しいところ。

「East of the Sun and West of the Moon: Old Tales from the North」(1922)から24点、「In Powder and Crinoline」(1911)から24点、 「Hensel and Gretel and Other Stories by the Brothers Grimm」(1925)から5点、「Fairy Tales by Hans Andersen」(1924)から5点の挿絵を収録。
イラスト中心なので、英語が読めなくても安心して、ニールセンの絵の世界に浸ることができます。

注目は、日本でながらく絶版となっている『太陽の東・月の西』の挿絵が、多数収録されていること。
はっきり言って、この挿絵がすごい!
『おしろいとスカート』や『アンデルセン童話集』の挿絵も素敵だけれど、『太陽の東・月の西』の、北欧的な哀調を帯びた絵にこそ、ニールセンの真髄を感じます。 平面的・様式的な絵の中にひろがる、広大な幻想世界。たしかにル・カインの画風とよく似ています。
ニールセンに興味のある方、とにかく必見です。

→エロール・ル・カインの絵本の紹介はこちら

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●ウォーリック・ゴーブル ―Warwick Goble―


「Goble's Fairy Tale Illustrations:
86 Full-Color Plates」

Warwick Goble 著/Jeff A. Menges 編(Dover Publications)
Goble's Fairy Tale Illustrations: 86 Full-Color Plates
アマゾンで購入した洋書、ウォーリック・ゴーブルの挿絵作品集。
ペーパーバックの量産品ですが、86点もの挿絵作品がフルカラーで収録されているにもかかわらず、安価なのが嬉しいところ。

「The Water-Babies; A Fairy Tale for a Land-Baby」(1909、キングズリーの『水の子どもたち』の挿絵)から10点、「Green Willow and Other Japanese Fairy Tales」(1910、日本の昔話集の挿絵)から14点、 「Stories from the Pentamerone」(1911)から10点、「Folk-Tales of Bengal」(1912、ベンガル民話の挿絵)から13点、「The Fairy Book; The Best Popular Fairy Stories Selected and Reendeeered Anew」(1913、「赤ずきん」や「シンデレラ」などの童話の挿絵)から26点、「The Book of Fairy Poetry」(1920、クリスティーナ・ロセッティ、テニスン、デ・ラ・メアなどの詩の挿絵)から13点を収録。
イラスト中心なので、英語が読めなくても安心して、ゴーブルの絵の世界に浸ることができます。

ケルト妖精物語 (ちくま文庫) ネットで検索したところによると、ウォーリック・ゴーブル(1862-1943)は、イングランド生まれの挿絵画家で、やはりイギリス挿絵黄金時代に活躍した画家のひとり。 代表作にはH・G・ウェルズの『宇宙戦争』、そして日本の昔話を集めた「Green Willow and Other Japanese Fairy Tales」の挿絵があるとのこと。
井村君江 著『妖精学入門 (講談社現代新書)(←Amazon)』に、妖精画家のひとりとして名前があげられていて、章タイトルのページにいくつかゴーブルの挿絵が使われています。
またイエイツの『ケルト妖精物語 (ちくま文庫)(←Amazon)』のカバー装画(左の画像)もゴーブルによるものです。

日本では、ゴーブル挿絵の本の邦訳版は、ラッカムやデュラック、ニールセンのようには刊行されていません。でもゴーブルの絵も、繊細で幻想的でとても美しいです。
この挿絵作品集の中では、やはり日本の昔話を集めた「Green Willow and Other Japanese Fairy Tales」の挿絵が印象的。日本人が見ると、これは決して日本ではないのだけれども、だからこそこの世のどこでもない神秘的な空想の国になっていて、西洋の人々の東洋の文化に対する憧れのようなものが感じられます。
「Folk-Tales of Bengal」の挿絵も、やはりオリエンタルでエキゾチックな雰囲気です。
でもやっぱりイングランド生まれの画家ですから、「The Book of Fairy Poetry」という妖精詩集のために描かれた挿絵は、英国人の心に息づく妖精の姿を繊細に可憐に描いており、興味深いです。シェイクスピア『あらし』における、海底で遊ぶ海の精の姿や、『夏の夜の夢』のオベロンとティターニアの様子などは、愛らしくも美しい妖精画となっています。
妖精好きの人ならば、美しい妖精たちだけじゃなく、クリスティーナ・ロセッティの「ゴブリン・マーケット」や、トールキンの作品によせたゴブリンの絵なども見逃せません。
キングズリーの『水の子どもたち』の挿絵も妖精がたくさん出てきて幻想的です。ちなみにこの作品については、ジェシー・W・スミスの挿絵もよく知られています。

※「連想美術館」ウォーリック・ゴーブルのページを参照する

→「ジェシー・W・スミスの絵本」はこちら

→Amazon「Goble's Fairy Tale Illustrations: 86 Full-Color Plates

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