〜伝統的でユーモラス、そしてかわいい英国!〜
気がつけば、イギリスものを多く読んでいる。イギリスの作家のものと意識したわけでもないのに、このサイトで紹介している本といえば、なぜかイギリスものが多い…。 行ってみたい街といえば、華やかなパリより、いかめしい(?)ロンドン。そんな管理人がリストアップする、さまざまなジャンルの、イギリスのおもしろい本たちです。 *国書刊行会『ウッドハウス爆笑小説集』(仮題)
*ウッドハウス『エムズワース卿の受難録』 (文春文庫)
*国書刊行会「ジーヴス」シリーズ最新刊
*ウッドハウス『ドローンズ・クラブの英傑伝 (文春文庫)』
*国書刊行会「ジーヴス」シリーズ最新刊
*文芸春秋『ジーヴズの事件簿』が待望の文庫化、 |
▼イギリスのファンタジー | ▼イギリスの児童文学 |
▼イギリスのミステリ | ▼イギリス、子どものための詩集 |
▼イギリスの女流文学 | ▼イギリスのユーモア |
▼イギリスの絵本 | ▼イギリスの暮らし、いまむかし |
▼イギリスを旅する | ▼シェイクスピアを読まずして |
▼写真で見るヴィクトリア朝 | ▼かわいいイギリス |
▼イギリスのファンタジー
「輝く平原の物語」 ウィリアム・モリス・コレクションウィリアム・モリス 著/小野悦子 訳(晶文社)
ヴィクトリア朝の詩人であり、現代日本では装飾デザイナーとして知られるウィリアム・モリス。モリスはマクドナルドやトールキンの先達、ファンタジーの始祖でもあり、理想の書物を追求し自らケルムスコット・プレスをたちあげ、数々の美しい書物をこの世に送り出しました。
『輝く平原の物語』は、そのケルムスコット・プレスで最初に製作された記念碑的作品。この晶文社版では、ケルムスコット・プレス版のウォルター・クレインによる挿絵23葉が、そっくり収録されています。このクレインの挿絵の美しいこと! モリスの、良い意味で古めかしいファンタジーを、格調高く彩っています。 →Amazon「輝く平原の物語 (ウィリアム・モリスコレクション)」 |
「北風のうしろの国」 ジョージ・マクドナルド 著/中村妙子 訳(ハヤカワ文庫)
舞台は19世紀のロンドン。御者の息子ダイアモンドは、馬車小屋の2階の干し草置き場で寝起きしていました。風のつよいある晩、彼は、うすい板壁の節穴の向こうから、自分に話しかけてくる声を耳にします。声の主は「北風」…。
英国ファンタジーの名作。想像世界の美しさと、ロンドンの貧しい家庭の現実、はっとさせられる珠玉の言葉たちが、子どもに語りかける調子で書かれており、とても読みやすく感じられます。 はたして「北風のうしろの国」とは、いったい何処のことなのか? それは、読んで確かめてみてください。 →Amazon「北風のうしろの国 (ハヤカワ文庫 FT ハヤカワ名作セレクション)」 |
▼イギリスの児童文学
「たのしい川べ」 ケネス・グレーアム 文/石井桃子 訳(岩波書店)
『クマのプーさん』のA.A.ミルンなどに多大な影響を与えたイギリス児童文学の名作。
何が素晴らしいと言って、詩情ゆたかに描かれる、イギリスの田園風景の美しさといったら! 読んでいるうち、ネズミやモグラたちが楽しく暮らす、川べのおだやかな景色が心のなかにゆっくりと広がって、何とも心地よいのです。 挿絵は、『クマのプーさん』の挿絵も手がけるE.H.シェパード。シェパードが描く生き生きと愛らしい動物たちの姿も、この本の魅力のひとつとなっています。 →Amazon「たのしい川べ」 |
「クマのプーさん」/「プー横丁にたった家」 A.A.ミルン 作/石井桃子 訳(岩波書店)
イギリス児童文学の永遠の名作。
幼い少年クリストファー・ロビンと、クマのプーさん。ふたりを中心に、コブタやウサギ、カンガにフクロ、トラーなど、なかよしの動物たちが、森の中でまざまな冒険をくりひろげる楽しいファンタジー。 作者ミルンは、息子と、息子のお気に入りのテディ・ベア、たくさんのぬいぐるみたちを登場させて、素敵な魔法の物語を描き出したのです。 『たのしい川べ』と同じくE.H.シェパードの挿絵も、お話と切り離せない心にしみる味わいで、大きな魅力のひとつとなっています。 →Amazon「クマのプーさん プー横丁にたった家」(単行本) |
▼イギリスのミステリ
G・K・チェスタトン「ブラウン神父」シリーズ G・K・チェスタトン 著/中村保男 訳(創元推理文庫)
ブラウン神父は、まん丸な童顔につぶらな瞳、不恰好で小柄なからだに、大きな帽子と蝙蝠傘がトレードマーク。
どこから見ても人畜無害の貧相な坊さんなのに、事件が起これば意外や意外、快刀乱麻をたつように、
あざやかな名推理を披露します。
奇想天外なトリック、風刺とユーモアのきいたブラウン神父譚は、コナン・ドイルの作品と並んで後世の作家に多大な影響を与えた、まさに本格、ミステリの古典です。G・K・チェスタトンのトリック創案率は、古今随一なのだそうですよ。 →Amazon「ブラウン神父 シリーズ」 |
エリス・ピーターズ「修道士カドフェル」シリーズ エリス・ピーターズ 著(光文社文庫)
修道士カドフェルシリーズは、12世紀のイングランドを舞台に、ブラザー・カドフェルが探偵役をつとめる、歴史本格ミステリー。
主人公カドフェルはもちろん、ヒュー・べリンガーや、ラドルファス修道院長など、いつもここぞという時にキメてくれる、頼りがいのある男性キャラクターたちがかっこいい。 スティーブン王と女帝モードの王位をめぐる戦いに、貴族たちの勢力争いと、教皇の権力も絡んでくる中世のイングランド内乱の一部始終は、歴史小説としても読み応えあり。 そして中世ならではの推理方法、修道士探偵ならではの人間味あふれる事件解決への過程は、このシリーズ最大の魅力です。 →Amazon「修道士カドフェル シリーズ」 |
▼イギリス、子どものための詩集
「孔雀のパイ」 ウォルター・デ・ラ・メア 詩/エドワード・アーディゾーニ 絵/間崎ルリ子 訳
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「シング・ソング童謡集」 クリスティーナ・ロセッティ SING-SONG A NURSERY-RHYME BOOK 訳詩集クリスティーナ・ロセッティ 著/安藤幸江 訳(文芸社)
ヴィクトリア朝の詩人クリスティーナ・ロセッティの、童謡風の初期の詩集。
1872年にロンドンのGeorge Routledge and Sons社から出版された『Sing-Song』は、ラファエル前派の重要な画家の一人である、アーサー・ヒューズの挿絵入りで刊行されました。『シング・ソング童謡集』は、原書初版時のアーサー・ヒューズの格調高い挿絵121点が掲載された、とても価値ある訳詩集です。 クリスティーナ・ロセッティの詩は、わかりやすく、みずみずしく、あたたかい。自然への親しみに満ちた眼差しは、19世紀のアメリカ詩人エミリー・ディキンソンにも通じるものがあると感じました。 →Amazon「シング・ソング童謡集―クリスティーナ・ロセッティSING‐SONG A NURSERY‐RHYME BOOK訳詩集」 |
▼イギリスの女流文学
「マンスフィールド短編集」 安藤一郎 訳(新潮文庫)
チェーホフに学んだ表現技法で、詩情あふれる短編を書いたキャサリン・マンスフィールド。この本は、マンスフィールドが作家としての地位を高めた短編集『園遊会、その他』(1922)を訳したものです。
「園遊会」は、マンスフィールドの代表作で、少女の繊細な感受性、その感受性が初めて感じた「人生」を、鮮やかに切り取った一篇。読後も余韻に心がふるえるよう。 マンスフィールドの作品は文学的にとても重要なのだろうと思うけど、現代日本の女性としては、当時のイギリスの中上流階級の風俗が垣間見えるのも、なんとも面白いです。 →Amazon「マンスフィールド短編集 (新潮文庫)」 |
「五月の霜」 アントニア・ホワイト 著/北條文緒 訳(みすず書房)
著者アントニア・ホワイト自身の、カトリック寄宿学校での体験をもとにして書かれた、少女の成長物語。ゆたかな感受性と想像力をもつ主人公ナンダは、カトリックに改宗した父の方針に従い、キリストの五傷修道院付属の寄宿女学校に入学。カトリックの裕福な旧家出身のレオニーと出会って親友となり、友人関係や階級の問題に悩みます。
当時のイギリスにおけるカトリック寄宿女学校の、日本人には理解しがたい、厳しい規律にしばられた生活が興味深い。またカトリックの厳かな典礼、神秘的な雰囲気がなんとも美しいです。 →Amazon「五月の霜 (lettres)」 |
「よくできた女」 バーバラ・ピム 著/芦津かおり 訳(みすず書房)
まだ食料配給がつづく戦後のロンドン。主人公のミルドレッドは、30過ぎの独身、オールドミス。昨今の日本でなら「おひとりさま」とか「負け犬」(もう死語でしょうか?)などと呼ばれるような女性です。
牧師だった父の残してくれたささやかな収入に頼りながら、パートタイムで「貧窮した貴婦人」のお世話をし、牧師館や教区の人びとと交流しながら、穏やかでそれなりに楽しい毎日を過ごしていた彼女でしたが、同じフラットに、(ハンサムで女たらしの)海軍将校ロッキーと(美人だけど家事ができない)文化人類学者のヘレナ夫妻が越してきてから、なんだかいつものペースが狂いはじめて…。 「20世紀のオースティン」との呼び声も高いという、バーバラ・ピム。版元のみすず書房では、この本を「おひとりさま」小説の傑作と宣伝しています。 そんな文句に、ほいほいつられて手にとったのだけれど、これは面白い!です。オースティン的な、女性の日常生活の細々したこと、よくある会話が綴られ、その中にイギリス独特のユーモア精神や風刺や哀感がおりまぜられています。 ストーリーは、ドラマティックでもロマンティックでもなく、特別なことは何も起こりません。面白いのはミルドレッドのシニカルでユーモラスな語り口。 文化人類学者のヘレナに、学士院での発表に誘われたミルドレッド。共同研究者のエヴァラード(金髪のハンサム)は「死ぬほど退屈すると思いますよ。あまり期待しないように」と言いますが、ミルドレッドは思います。「もちろん口には出しませんでしたが、どうせ私のような女は、人生にほとんど、いえ、なんの期待もしていないのです。」 また現代の日本の女子にとって共感させられる部分も多々あります。とくに、家事が得意で、世話好きで、気配りもできる「よくできた女」ミルドレッドが「おひとりさま」で、「結婚できるのはアレグラ・グレイのような縫物が苦手な女性であったり、洗い物をしないヘレナ・ネイピアのような女性」だと、ミルドレッド自身が考察しているところなど。 読んでみないと上手く伝わらないかもしれないけれど、ミルドレッドはけっして厭世的だったり、「負け犬」の遠吠えをしているのではないんです。自分も他人もごく客観的に見つめて、そこに悲劇ではなく、おかしみや、風刺的な人生観を見出しているわけで、これこそイギリス独特のユーモア精神なのだと感じます。 リアルでシニカルでユーモラスな「おひとりさま」の心理と行動。にやりとさせられる部分多し! オースティン作品のように上流階級の華やかな生活を垣間見たり、お金持ちとの結婚で幕を閉じたりしないところが、やはりオースティンより現代に近い小説で、いっそう身につまされます(…ハハハ)。 →Amazon「よくできた女(ひと) (文学シリーズ lettres)」 |
▼イギリスのユーモア
P・G・ウッドハウス「ジーヴス」シリーズ 森村たまき 訳(国書刊行会)
ユーモア小説の大家P・G・ウッドハウス。「ジーヴス」ものは、英国紳士と執事が繰り広げる軽妙なコメディのシリーズです。
語り手バートラム・ウースター(愛称バーティ)は、富裕でおきらくごくらくな、有閑階級の若紳士。陽気で人はいいのだけれど、おバカというか不測の事態に対処する能力が完璧に欠けていて、厄介事にいつもまきこまれてしまいます。バーティは困ったときは天下無敵の最強執事ジーヴスに相談をもちかけ、ジーヴスは常にあざやかな手並みで事件を解決してみせるのです。 バーティのマンガみたいにテンポよい語りや、バーティとジーヴスの真面目にアホらしい掛け合い漫才、次々登場するバーティの友人や親類たちのおバカで強烈なキャラクター。「ジーヴス」ものを読めばどんな不機嫌なときだって笑わずにはいられない。 どのエピソードも、延々同じパターンの繰り返しなのですが、それが最高に面白い! これぞ、偉大なるマンネリズムと言えましょう。 →Amazon「ジーヴス シリーズ」 |
「自負と偏見」 オースティン 著/中野好夫 訳(新潮文庫)
イギリス小説史上最高の作品とも言われる、ジェイン・オースティンの代表作。舞台は200年前のイギリスの田舎町、美人でやさしい姉ジェーンと青年紳士ビングリー、才気と茶目っ気にあふれた妹エリザベスと大金持ちで少々気難しいダーシー、二組の結婚にいたるまでのお話。
主人公はエリザベスで、冒頭のエリザベスの両親の会話からして、皮肉で辛辣で面白い。品のない頭の軽い夫人と、夫人のおしゃべりをまったく聞いてない旦那という構図は、今の日本でも、どこででも見られそう。 登場人物たちは皆欠点だらけ、女子のリアルな心理、赤裸々なガールズトーク。200年前の人間模様は、今とまったく変わらなくて、オースティンを読んでいると、人間っていうのはこういうものなんだと、他人と自分の愚かさを許せる気持ちになってくるから不思議です。 読めば読むほど含蓄深い、まさに、永遠の人間喜劇。 →Amazon「自負と偏見 (新潮文庫)」 |
→「ジーヴス」ものがお好きな方に、アシモフ「黒後家蜘蛛の会」の紹介はこちら |
▼イギリスの絵本
「不思議の国のアリス 新装版」 ルイス・キャロル 著/アーサー・ラッカム 絵/高橋康也・高橋 迪 訳(新書館)
「不思議の国のアリス」といえば、ジョン・テニエルの挿絵が、あまりにも有名。 ですが20世紀初頭のイギリス挿絵黄金時代、テニエル以外の画家によるアリスの挿絵本が続々と出版されました。なかでも当時の人気画家アーサー・ラッカム挿絵のアリスは、今もなお生き残っています。
ラッカムは、ドリス・トーミットという少女をモデルに、この愛らしいアリスを描いたのだとか。作者ルイス・キャロルが愛し、「不思議の国のアリス」のモデルとなったリデル家の次女アリスは、 きっとラッカムの描いたアリスのように、可愛らしい女の子だったに違いありません。 テニエルより叙情的なラッカムの挿絵は、読者を「不思議の国」にやさしく誘い、あたたかく包み込んでくれます。 →Amazon「「不思議の国のアリス」 |
「ケイト・グリーナウェイのマザーグース」 西田ひかる 訳/ケイト・グリーナウェイ 画(飛鳥新社)
日本でもよく知られるイギリスの伝承童謡マザーグース。この一冊は、英国の絵本史上最大の人気作家であるケイト・グリーナウェイが手がけたマザーグース絵本の邦訳版。収録された童謡の数も多く、一篇一篇に添えられたグリーナウェイの絵の美しさは、見る者を飽きさせません。
人物の古風な服装、英国式の庭園、細部まで丁寧に描かれた雑貨や草花。愛らしい子どもたちの姿を生涯描きつづけたグリーナウェイのマザーグースは、他の挿絵画家の追随を許さない、独自の完成された世界を築きあげています。 →Amazon「ケイト・グリーナウェイのマザーグース」 |
▼イギリスの暮らし、いまむかし
「キッチンの窓から」/「庭の小道から」 スーザン・ヒル 文/アンジェラ・バレット 絵(西村書店)
冬のティータイム、クリスマスのごちそう、イギリスの伝統料理プディングについて。春の始まりを告げるイースター、夏は楽しいピクニック、秋にはゼリーやチャツネなどのビン詰めづくり。季節ごとのイギリスのキッチンの風景を、レシピをまじえて綴ったスーザン・ヒルのエッセイに、アンジェラ・バレットが精緻な挿絵を添えた『キッチンの窓から』。
姉妹編『庭の小道から』は、著者の庭への思い入れ、ガーデニングのこだわりについて書かれたエッセイに、やはりアンジェラ・バレットが幻想的で美しい挿絵を添えています。 ほんとうの豊かさとゆとりを感じる、英国流のライフスタイル。 →Amazon「「キッチンの窓から」「庭の小道から―英国流ガーデニングのエッセンス」 |
「ミスカーターはいつもピンクの服」/「ミスカーターといつもいっしょに」 ヘレン・ブラッドレイ 著/暮しの手帖翻訳グループ 訳(暮しの手帖社)
1900年生まれのイギリスのおばあちゃまが、自分が子どもだった頃の暮らしを、孫に見せようと描いた絵。この絵本は、そんな絵の数々に、著者による説明が添えられた一冊。ヘレン・ブラッドレイのタッチは、グランマ・モーゼスのそれに似て素朴ですが、あたたかく愛情に満ちて、20世紀初頭の英国の暮らしを、それはよく伝えています。
ヘレン・ブラッドレイの家は、中流以上のお金持ちだったよう。父親の事業は順調で、リースという小さな町の、ヴィクトリア風の家に住んでいたのだそうです。 午後のお茶のあとの散歩、お墓参り、お茶会ごっこ、町での買い物、休暇の前のお洗濯、お葬式のお茶の支度…。女性ならではの目線で描かれた絵は、現代日本の読者にも共感できる部分がたくさんあり、人の暮らしは、洋の東西や時代を問わず、存外変わらないものだなあ、などとしみじみ感じたことでした。 →Amazon「ミスカーターはいつもピンクの服」「ミスカーターといつもいっしょに」 |
▼イギリスを旅する
「ジス・イズ・ロンドン」 ミロスラフ・サセック著/松浦弥太郎 訳(ブルース・インターアクションズ)
旅する絵本作家サセックが、世界中の都市を訪れ、その土地の魅力を紹介する旅行絵本<ジス・イズ・シリーズ>。
サセックが案内してくれるロンドンは、なんとも魅力的な都市。 スーツ姿の紳士たちや、たくさんの歴史的建造物、赤い2階建てバスや、くまの毛皮で作った帽子をかぶったバッキンガム宮殿の衛兵さんたち。また、水色のギンガムチェックのワンピースを着た学生さんたちや、紅茶のために1日4回のおやすみをとることや、みんなが芝生のある公園でくつろぐ様子までもきちんと描かれているところが、サセックの旅行案内の素晴らしさ! デザイン性の高い<ジス・イズ・シリーズ>は、子どものみならず大人までも魅了します。 →Amazon「ジス・イズ・ロンドン」 |
「イギリスだより」 カレル・チャペック旅行記コレクションカレル・チャペック 著/飯島 周 編訳(ちくま文庫)
カレル・チャペックはチェコを代表する作家。「長い長いお医者さんの話」など、ちょっと風変わりな童話もたくさん書いています。
そんなチェコの人、カレル・チャペックが見たイギリス。この本は1924年の英国滞在記ですが、イギリスびいきだったというチャペックの、独特の語り口が最高におもしろい。
さまざまな小説で語られるところのロンドンの「クラブ」とは如何なるものか?あの高名な作家たちや歴史上の人物が在籍した「ケンブリッジ」と「オクスフォード」の違いとは何なのか?チャペックの語りに興味津々。 でも「旅」の真髄、そしてイギリスの風景を、よくあらわしているのは巻頭の「あいさつ」で、この部分を読むだけでも価値があるのでは、とさえ思います。ユーモラスな自筆イラストも多数収録。 →Amazon「イギリスだより―カレル・チャペック旅行記コレクション (ちくま文庫)」 |
「椋鳥日記」 小沼 丹 著(講談社文芸文庫)
小沼丹は私小説や随筆にすぐれた作家で、『懐中時計』『黒と白の猫』などの作品で知られています。また早稲田大学名誉教授の、英文学者でもありました。
『椋鳥日記』は、著者が早稲田大学の在外研究員としてロンドンに滞在した折の出来事を、多分に創作的に綴ったエッセイ。「緑色のバス」の章が白眉で、「グリイン・コオチと云う緑色の長距離バス」に乗って、イギリスの田園風景のなかを小旅行する、その描写が印象的。読後、自分もイギリスの田舎を旅したかのような気分にひたれます。 小沼文学の味わいを説明するのは難しくて、飄逸な筆致のなかに人生のペーソスがにじむ…とかいろいろ言えるのですが、わたしが好きだなあと思うのは、まるで英国紳士のようなユーモアが感じられるところ。 知性と教養にあふれながらどこかとぼけた風情の小沼作品は、日本文学、私小説という言葉から一般的に想起されるイメージより、ちょっと都会的で洒落ています。 →Amazon「椋鳥日記 (講談社文芸文庫)」 |
▼シェイクスピアを読まずして
「夏の夜の夢・あらし」 シェイクスピア 著/福田恆存 訳(新潮文庫)
シェイクスピアを読まずして、イギリスは語れません。あらゆるイギリスの小説にシェイクスピアの引用が見られるし、アーサー・ラッカムはじめイギリス挿絵黄金時代の画家たちのイラスト集を見ても、シェイクスピア作品の挿絵がたくさんあります。
さて「いやしの本棚」的おすすめシェイクスピア作品をあげるなら、やはり『夏の夜の夢・あらし』でしょう。 「夏の夜の夢」は若きシェイクスピアが書いた喜劇、「あらし」はロマン劇で、シェイクスピア最後の作品。どちらも妖精がたくさん登場する幻想的な、それは美しい戯曲です。 おちゃめな小妖精パック、プロスペローの使い魔エーリアル、魅力的な妖精たちと、胸を打つドラマティックな科白の数々。どちらもハッピーエンドなので、安心して夢幻の世界にひたれます。人間不信の悲劇もたくさん書いたシェイクスピアだけど、最後の作品が「あらし」のような美しい結末だったというのは意味深い。 →Amazon「夏の夜の夢・あらし (新潮文庫)」 |
▼写真で見るヴィクトリア朝
「Victorian and Edwardian Fashion: A Photographic Survey」 Alison Gernsheim 著(Dover Publications)
イギリスの古い小説ばかり読んでいると、当時の大英帝国の風俗が気になってきます。どんな服を着ていたのか、家具調度はどんなふうだったのか。
この洋書は、ヴィクトリア朝からエドワード朝の人びとの服装写真、235点を掲載。ペーパーバックの廉価版なので、紙の質や印刷の質が良いとは言えません。写真は、ヴィクトリア時代のものなのだから、当然モノクロ。写真のレイアウトは、B5判型のページに2枚ずつというのが大半です。 ですが、それはそれとして、写真そのものはとても魅力的。優雅なドレスを着た女性の写真の、フリルやレースの凝りに凝ったデザインを眺めるだけで飽きません。 ヴィトリア女王や、オスカー・ワイルド、アルフレッド・テニスン、ウィリアム・モリスの妻ジェイン・モリスなど、有名人の写真などはそれだけで興味深いですし(ジェイン・モリスはほんとにラファエル前派的な美人!)、また絵でもなく、映画でもなく、実際の写真ということで、時代の雰囲気がまざまざと感じられるのが何より面白い。 当時のパリの店先に吊り下げられたクリノリン。スケートするときもテニスするときも海へ行くときも、女性は長い裾のドレス。ハイドパークホテルでの優雅なダンスの様子や、片眼鏡をかけた英国紳士たち…。 注目ポイントがたくさんあって、とにかくヴィクトリア〜エドワード朝に興味のある人なら、楽しめるに違いない一冊です。 →Amazon「Victorian and Edwardian Fashion: A Photographic Survey」 |
「LEWIS CARROLL」 Anne Higonnet 著(PHAIDON)
『不思議の国のアリス』で知られるルイス・キャロルは、また多くの写真を後世に残した写真家としても知られています。
一連のアリスの物語のモデルとなったアリス・リデルをはじめとする可憐な少女たちの写真や、家族写真、風景写真、ジョン・エヴァレット・ミレー、アルフレッド・テニスンなど著名人の肖像写真も撮っています。 ルイス・キャロルの写真というと、とりわけ少女写真が有名で、子どもたちにさまざまな扮装をさせたり、ときにはヌードも撮っていて、そのことから彼が偏った性癖の持ち主であるとの推測を呼んだりもしたのだそうです。 しかしこのことは、近年の研究できっぱりと否定されてもいます。キャロルが少女にしか興味を持てない人物だというのは、アリス・リデルに物語を贈ったことや、少女の写真をたくさん撮っていたことから憶測された、一種の「神話」であったようです。 さてこの洋書は、そんな多くの議論を呼びもしたキャロルの写真56点を、美しい装幀で楽しむことができる一冊。 見返しは上品な水色、ページの角の部分は斜めにカットされていて、見開きの左に短い英文、右に写真。余白をたっぷりとったレイアウトになっています。 アリス・リデルやリデル家の姉妹を撮った数点の写真(有名な乞食姿のアリスの写真もあります)、赤ずきんなどの扮装をした少女の写真、オックスフォードの風景写真、キャロルの家族の写真、マンボウの骨の写真(解剖写真に属するのでしょうか)、ミレーやテニスン、アーサー・ヒューズらとその家族、ロセッティ母娘の写真などが収録されています。 こうして見ると、キャロルはほんとうに写真が好きで、少女に限らず、いろいろなものを被写体としていたことがわかります。 キャロルの写真は、あの「アリス」の素顔(テニエルの挿絵ではラファエル前派の影響を受けた長い髪だけれど、アリス・リデルは前髪が短いショートヘア)をとどめるのみならず、大英帝国の絶頂期であったヴィクトリア朝、その時代特有の空気を現代に伝えてくれます。 →Amazon「Lewis Carroll」 |
▼かわいいイギリス
「Milk Tea」 ロンドンのおいしいお茶とお菓子の時間いがらしろみ/keiko kurita 著(mille books)
菓子研究家いがらしろみさんのロンドンの旅についてのエッセイと、フォトグラファーkeiko kuritaさんの写真とで構成された一冊。
ロンドンでのお茶の時間の思い出。正式なアフタヌーンティーではなく、ティーバッグでラフにいれたミルクティーの、ほんわかした味のこと。この本に書いてあるミルクティーのいれ方や、ビスケットの食べ方は、すぐに実践できることだから、読んでいるとミルクティーが飲みたくてたまらなくなってきます。 お茶の時間のリラックスした空気を伝えてくれるカラー写真が満載なので、写真集として楽しむのもまたよし。緑あふれる公園でのピクニックや、教会の庭でいただくアフタヌーンティーの光景など、まさにロンドン!という感じです。 →Amazon「Milk Tea ロンドンのおいしいお茶とお菓子の時間」 |
「かわいいイギリスの雑貨と町」 大段まちこ/堀江直子 著(ピエ・ブックス)
写真家の大段まちこさんと、スタイリスト堀江直子さん。おふたりがロンドンとコッツウォルズ地方を訪ね、たくさんのかわいいものたちを紹介。
一般的には、どんよりしたくもり空と霧、古めかしく重々しい石造りの建造物のイメージが先行するであろうイギリスを、「かわいい」という切り口で旅すると…? 天井からアンティークのティーカップがモビールのようにぶらさがっている、おとぎ話のようなティールーム。紅茶好きには憧れの、本場のアフタヌーンティーとクリームティーのおはなし。「プディングクラブ」という、イギリス伝統のお菓子を楽しむイベントについて…などなど。 イギリスの伝統的で美しいものたちが、大段まちこさんのふんわりとした色彩の写真と、堀江直子さんのかわいいスタイリングで、たっぷり紹介されています。 →Amazon「かわいいイギリスの雑貨と町」 |
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