■カレル・チャペックの絵本

〜日常にまぎれこんだお伽話〜


●カレル・チャペック ― Karel Capek ―(1890-1938)

チェコを代表する劇作家、小説家。
プラハのカレル大学で哲学と美学を学んだ後、ジャーナリストとして活動する一方、小説、戯曲、旅行記、童話など多彩な作品を発表。
1920年に書き上げた戯曲『R.U.R.(ロボット)』において、「ロボット」という言葉をつくったことでも知られる。
ほか『山椒魚戦争』『園芸家12カ月』『ダーシェンカ』など、代表作多数。
『長い長いお医者さんの話』をはじめとする童話作品は、妖精の小人や魔法使いたちが日常生活のなかにまぎれこんだ、ユーモラスであたたかい雰囲気に満ちており、画家である兄ヨゼフ・チャペックの挿絵とともに、日本でもよく親しまれている。

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「郵便屋さんの話」

「お医者さんのながいながい話」



「郵便屋さんの話」

チャペック童話絵本シリーズ
カレル・チャペック 作/関沢明子 訳/藤本 将 画(フェリシモ出版)
郵便屋さんの話 (チャペック童話絵本シリーズ)
このところ自分の仕事にうんざりしていた郵便屋さんのコルババさんは、郵便局のしまった夜更け、妖精の小人たちが、郵便局員のようにせっせと働いているのを見てしまいます。
思わず小人たちに話しかけたコルババさん。郵便局に住む彼らは、手紙の封をあけなくても、外からさわるだけで書いてあることがわかるのだと言います。「まごころのこもっていない手紙はつめたいし、書いた人の愛情があればあるほど手紙はあたたかい」と。
小人たちと出会ってからというもの、コルババさんは自分の仕事が、まんざらいやでもなくなってきました。この手紙はあったかいな、こっちはぽかぽかしてるよ、などと考えるようになったからです。
そんなある日、宛名もなく、切手もはっていない一通の手紙が郵便局で見つかって…。

カレル・チャペックはチェコを代表する作家。童話作品もよく知られています。
この『郵便屋さんの話』は、フェリシモの出版リクエスト企画とのことで、「チャペック童話絵本シリーズ」として刊行されています。
カレルの兄ヨゼフ・チャペックや、チェコの絵本画家による作品ではなく、日本であたらしく作られたチャペック童話の絵本。
これがとてもかわいい、懐かしくてあたらしい一冊に仕上がっています。

とにかく装幀が凝っていて、A5判型のこぶりの絵本をおおう表紙カバーは、はずして広げると、登場人物が一同に描かれた、大きな一枚の絵に。
物語の主人公「郵便屋さんのコルババさん」の絵がレイアウトされた表紙そのものも、とてもおしゃれ。
本文の絵のバックが木目模様になっているところも、あたたかみを醸し出してなんとも素敵。
絵を描きおろした藤本 将氏は、イラストレーターであり雑貨や洋服のデザインも手がけるデザイナーとのこと。 この藤本氏の絵が、色使いといい絵柄といいチャペックのおはなしとしっくり調和していて、見れば見るほどかわいいのです。
洗練されたデザインが、おしゃれな雑貨のような味わいも感じさせるこの絵本。部屋にちょこんと飾っておきたくなる一冊です。

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「お医者さんのながいながい話」

チャペック童話絵本シリーズ
カレル・チャペック 作/関沢明子 訳/関美穂子 画(フェリシモ出版)
お医者さんのながいながい話 (チャペック童話絵本シリーズ) ずっと昔のこと、ヘイショヴィナという山に、マギアーシという魔法使いが住んでいました。あるときマギアーシはプラムを食べながら、魔法の薬のなべをかきまわしている弟子を叱ろうとして、プラムを種ごとのどにつまらせてしまいます。
弟子のヴィンツェクは、親方を助けようと医者を呼びました。ところがやってきた四人の医者たちは、マギアーシの治療をする前に、それぞれお話を始めたのです。ソリマーン王国のお姫さまの話、ヘイカルの病気の話、ハヴロヴィツェのカッパの病気の話、それから妖精のけがの話…。

フェリシモの出版リクエスト企画、「チャペック童話絵本シリーズ」の2冊目です。
チャペック童話の代表作ともいえる、この『お医者さんのながいながい話』に絵をつけたのは、型染作家の関美穂子さん。
型染とは、型や版を用いて模様を染める染色技法で、布地や和紙などを単色あるいは多色に染めあげます。関美穂子さんは、型染を用いて着物や帯の制作、雑貨のデザインも手がけておられます。
とある雑貨屋さんで関さんデザインのマッチ箱を目にしたことがありますが、鮮やかでモダンな色彩の絵が、型染のレトロな風合いで染めあげられて、なんとも素敵でした。
このチャペック絵本では、関さんの愛らしくて味わい深い型染が、凝った装幀でたっぷり楽しめます。
関さんのレトロでモダンな型染は、お化けが政治家になって暮らしたり、カッパが温泉で働いたり、妖精がハリウッド映画に出たりする、チャペック童話の独特の雰囲気ともぴったりマッチしています。

チャペック童話は、アンデルセン童話や、ましてグリムやペローの伝承とも違って、もちろん新しいわけですから、背景や小道具も現代的で、ハリウッドやら政治家やら郵便局やらが出てきます。
有名な戯曲『R.U.R.(ロボット)』において、機械文明の発達と人間の幸福について問いを投げかけたチャペックですが、これらの童話の中では、けっして未来に絶望していないように思えます。
だから妖精やお化けにしても、童話にでてくる人物にしても、もう、光があふれる今日の世界ではやっていけないのです。でもどこかほかで、もっとふさわしい仕事を見つけるでしょう、チャンスはいっぱいありますからね。

『お医者さんのながいながい話』55ページより

妖精やお化けや小人たち。長いあいだ生き生きと語りつがれてきた彼らが、「今日の世界ではやっていけない」なんてことに、どうかなりませんように。

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