■本棚の奥のギャラリー[写真篇]

〜美しいものを撮るひとたち〜


このページでは、管理人の本棚から、写真集をご紹介します。写真のことは詳しくないし、気軽に買える価格のものが中心です。
紹介点数はわずかですが、眺めていると、写真って、ほんとうにバラエティに富んでいるなと思います。さまざまな角度から、美しいものを撮るひとたちが、たくさんいるのだなと。



↓タイトルをクリックすると紹介に飛びます。

「アニマル・ハウス」キャサリン・レドナー

「イースト・サイド・ホテル」高橋ヨーコ

「wonder Iceland」keiko kurita

「壁の本」杉浦貴美子

「LEWIS CARROLL」ルイス・キャロル

「ウジェーヌ・アジェのパリ」ウジェーヌ・アジェ

「Atget: Paris」ウジェーヌ・アジェ

「Eugene Atget: Unknown Paris」ウジェーヌ・アジェ




「アニマル・ハウス」

キャサリン・レドナー 写真/カトリーナ・フリード 編/ナオミ・イリエ デザイン/
山下 理恵子 訳(グラフィック社)
アニマル・ハウス
写真家キャサリン・レドナーの、かわいくておしゃれで不思議な動物写真集。
といっても、ただ動物を撮ったというのではなくアイデアが洒落ていて、この表紙の写真のように、かわいい模様の壁紙やカラフルな絨毯を背景に、多種多様な動物たちが撮影されているのです。
ひつじ、ライオン、牛、あらいぐま、ペンギンにブタにニワトリに…人工的な空間の中におさまった動物たちの表情は、意外にも生き生きと愛らしい。彼らの自然な毛並み、色、形態が、人工の壁紙や絨毯の模様と、ミス・マッチかと思いきや、そのギャップこそが魅力的な写真を生み出しているのです。

この本は、ページが切り抜かれて、その向こうの動物たちの顔やおしりがちょこっとのぞいたり、見開きのページがさらに大きく開いたりと仕掛けもあり、名言や詩が巧みに添えられてもいます。
しましまに切り取られたページの向こうから、しまうまがのぞいていて、デ・ラ・メアの詩「日よけのブラインドの背後から、僕は座って眺める…」が引用されていたり。粋な写真絵本としても楽しめます。

大胆な模様の壁紙とイエロー系の絨毯の部屋にワニ…ブルー系の花模様の壁紙と白いフワフワ絨毯の部屋にラクダ。動物たちの表情だけでなく、壁紙の模様も見逃せない!とにかくどの写真も、新鮮な驚きに満ちています。

→「ウォルター・デ・ラ・メアの本」はこちら
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「イースト・サイド・ホテル」

高橋ヨーコ 写真(ピエ・ブックス)
イースト・サイド・ホテル (Photo+)
雑誌『クウネル』などで、よく名前をお見かけするカメラマンの高橋ヨーコさん。
蒼井優ちゃんの写真集『トラベル・サンド』『ダンデライオン』(ともにロッキングオン)などでも知られていますよね。

『イースト・サイド・ホテル』は、ピエ・ブックスの、Photo+(フォトプリュス)というシリーズのなかの一冊で、ちいさな写真集。
ルーマニアやアルメニアやブルガリアやモスクワなどを旅した折の、「いろんな寝床」の写真がおさめられています。
ちょっとうらさびれた雰囲気のホテルの部屋、生活感あふれる遠い国の誰かのおうちの様子。
いけてなさそうな風景なのに、お、このカーテンかわいい、壁紙も、ベッドリネンも、お皿の花模様も…となるのは、高橋ヨーコさんならではの切り口で撮られた写真だからなのでしょう。
ページを繰れば旅気分。かつての旅を思い出したり、あたらしい旅に出たくなったりする、そんな一冊。

手頃なお値段で手に入る写真集というのが嬉しく、カジュアルでチープなところがかわいいブックデザインになっています。

→「かわいい旅と雑貨の本」はこちら

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「wonder Iceland」

keiko kurita 写真・文(mille books)
iconicon
『wonder Iceland』は、フォトグラファーkeiko kuritaさんの写真集。
藤原康二さんがお一人で本を制作発行しているというブックレーベルmille booksの、初の写真集でもあるのだそうです。

いがらしろみさんのロンドンの旅についてのエッセイと、keiko kuritaさんの写真とで構成された『Milk Tea ロンドンのおいしいお茶とお菓子の時間』(これもmille books!)、この本がお気に入りで、表紙の写真とかとても素敵だなあと思っていたのです。
写真集ってけっこう値のはるものだから、買うのを躊躇することが多いのだけれど、このkeiko kuritaさんの写真集は、良心的なお値段で、即購入を決めました(^-^)
アイスランドに心惹かれるというkeiko kuritaさんが、2004年〜2009年までに8回訪れて撮りためたという、「wonder Iceland」の写真。どれも静かで、透明で、きれいで、眺めているといい気持ちになります。
かわいいものも、いろいろ撮られているのだけれど、かわいいって前面に押し出してない感じがいいなと思う。
あさい緑の原っぱにタイヤで作られたブランコ、風に吹かれる黄色い花、ロープにとめられた赤や青のせんたくばさみ。なんてね。
写真の詳しいことはよくわからないのだけど、この写真集は、いい本だと感じる。

→『Milk Tea ロンドンのおいしいお茶とお菓子の時間』の紹介はこちら

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「壁の本」

杉浦貴美子 著(洋泉社)
壁の本
テキスタイル作家を経て写真家となり「壁」を撮り続けている、杉浦貴美子さんの「壁」写真集。
杉浦貴美子さんの壁写真は、雑誌クウネル(→27号)で紹介されていたことがあって、以来、わたしも街角の「壁」が少し気になっていました。

この写真集におさめられた壁写真を知ると、そこらへんで見かける壁のシミやひび割れやパイプむき出しの様子などが、今までと違って見えてきます。
杉浦さんの感性で切り取られた「壁」たちは、パウル・クレーの絵のようだったり、コラージュアートのようだったり、美しかったりかわいかったり、とにかく見てると楽しいのです。
でもいくら現代芸術の作品のようでも、これらは間違いなくただの壁。杉浦さんのお気に入りの壁。そこがいいなあ、と思う。
芸術やアートって言われると身構えてしまうところがあるけど、ただの壁だと思えば親近感がわくというもの。わたしたちも街を歩けば、お気に入りの壁に出会えるかも?
「街中に絵があふれている」と、この本の帯には刷られています。

(→杉浦貴美子さんの壁写真、http://www.heuit.com/で見ることができます。楽しい!)

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「LEWIS CARROLL」

Anne Higonnet 著(PHAIDON)
Lewis Carroll
『不思議の国のアリス』で知られるルイス・キャロルは、また多くの写真を後世に残した写真家としても知られています。
一連のアリスの物語のモデルとなったアリス・リデルをはじめとする可憐な少女たちの写真や、家族写真、風景写真、ジョン・エヴァレット・ミレー、アルフレッド・テニスンなど著名人の肖像写真も撮っています。
ルイス・キャロルの写真というと、とりわけ少女写真が有名で、子どもたちにさまざまな扮装をさせたり、ときにはヌードも撮っていて、そのことから彼が偏った性癖の持ち主であるとの推測を呼んだりもしたのだそうです。
しかしこのことは、近年の研究できっぱりと否定されてもいます。キャロルが少女にしか興味を持てない人物だというのは、アリス・リデルに物語を贈ったことや、少女の写真をたくさん撮っていたことから憶測された、一種の「神話」であったようです。

さてこの洋書は、そんな多くの議論を呼びもしたキャロルの写真56点を、美しい装幀で楽しむことができる一冊。
見返しは上品な水色、ページの角の部分は斜めにカットされていて、見開きの左に短い英文、右に写真。余白をたっぷりとったレイアウトになっています。
アリス・リデルやリデル家の姉妹を撮った数点の写真(有名な乞食姿のアリスの写真もあります)、赤ずきんなどの扮装をした少女の写真、オックスフォードの風景写真、キャロルの家族の写真、マンボウの骨の写真(解剖写真に属するのでしょうか)、ミレーやテニスン、アーサー・ヒューズらとその家族、ロセッティ母娘の写真などが収録されています。
こうして見ると、キャロルはほんとうに写真が好きで、少女に限らず、いろいろなものを被写体としていたことがわかります。
キャロルの写真は、あの「アリス」の素顔(テニエルの挿絵ではラファエル前派の影響を受けた長い髪だけれど、アリス・リデルは前髪が短いショートヘア)をとどめるのみならず、大英帝国の絶頂期であったヴィクトリア朝、その時代特有の空気を現代に伝えてくれます。

→「恵文社一乗寺店」で、『LEWIS CARROLL』の中身を確認できます。

→アリスの本をまとめています「アリスについて」はこちら
→「イギリスはおもしろい」はこちら

→Amazon「Lewis Carroll

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「ウジェーヌ・アジェのパリ」

ハンス・クリスティアン・アダム 編(タッシェン)
アジェのパリ (アイコン) (タッシェン・アイコンシリーズ)
『ウジェーヌ・アジェのパリ』は、タッシェンの「アイコン・シリーズ」の一冊で、A5判型のコンパクトサイズ。お値段も写真集にしては手ごろで、でも内容は本格的です。
ウジェーヌ・アジェ(1857-1927)は、古きパリを撮りつづけたフランスの写真家。
わたしはアジェについてあまり知っているわけではなく、写真も写真史も不案内なのだけど、「アジェのパリ」ってどんなだかずっと気になっていたので、この写真集を買いました。

とにかく写真のことはよくわからないのだけど、ここに載っている、古きパリの写真は、美しいと感じました。
アンドレアス・クラーゼの序文によると、アジェはこれらの写真を「芸術家のための記録資料」として撮っていたのだそうで、写真家マン・レイの要請で雑誌『シュルレアリスト革命』に数点の写真を載せることになったときも、匿名で掲載するように言い、写真はドキュメントだということ、「それはドキュメントであって他の何ものでもない」のだということを、説明したのだそうです。
芸術ではない、作品なんかではない、記録資料。誰もいないパリの古い街角のモノクロ写真。
けれどもアジェの写真を観ていると、わたしは、記録資料であるはずのこれらの写真の中に、入っていってしまうのです。他の芸術的で創造的な何かを観るときよりも、静かに、つよく、ひきよせられて。
この本にも、コンパクトサイズにしてはたくさんの(おそらく選り抜きの)写真が収録されているけれども、もっともっと、アジェの写真を観てみたいと思ったことでした。

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「Atget: Paris」

Laure Beaumont-Maillet 著(Hazan Editeur)
Atget: Paris
ウジェーヌ・アジェの写真を、もっと観たいと思い、購入した写真集。洋書ですが、文章はほとんどないので、英語が読めなくても問題はありません。
アジェの残した写真のうち840点が掲載された、厚さが6センチほどもある一冊。
写真は地域別に整理され、撮影場所の地図→写真、地図→写真といった具合に編集されています。
ペーパーバックで、厚みはあるのに判型が小さいのは、パリの石畳のブロックのサイズになっているのだそうです。

Atget Paris わたしが入手したものは、1993年発行の『Atget Paris【Amazon】』(左の画像)の、新しい版になるようです。
この新しい版(上の画像)は、写真の細部が白くかすれてよく見えない感じになっているものも多く、それが「技術面においては完璧主義者ではなかった」(*)というアジェのもともとの写真なのか、それとも印刷のためなのか、写真に詳しくないわたしには、よく分かりません。
ただ収録点数の膨大さには圧倒されます。やっぱり、「アジェのパリ」は、とても美しいです。

アジェの写真を観ていると、およそ百年も前のパリの街角を、公園を、路地裏を、歩き回っている気分になれます。

* ハンス・クリスティアン・アダム 編『ウジェーヌ・アジェのパリ』(タッシェン)アンドレアス・クラーゼの序文より

→Amazon「Atget: Paris

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「Eugene Atget: Unknown Paris」

David Harris 著(New Pr)
Eugene Atget: Unknown Paris
ウジェーヌ・アジェの写真集、3冊目。洋書です。
この本はハードカバーの大判で、テキストもけっこう多いのですが、英語はからきしなので、写真だけ眺めています。

やはりウジェーヌ・アジェの写真は、凄い。ひとめ見ただけで、胸を打たれる。
アジェが撮り始めるまでのパリに流れた時間。アジェが写真を撮り歩いたあいだに流れた時間。そこから今までに流れた時間。
アジェの写真を観るたびに、その長いながい時間を感じずにはいられません。
淡々と、静かに、日々の糧を得るために撮り続けられた写真を前に、自然と、呼吸もひそやかになってしまうほど…。
アジェの写真は、もともとぼやけている部分も多くあるけれど、この本におさめられた写真は、白くかすれて細部が見えないということはなく、印刷がとてもきれいだと感じました。

わたしはなぜか教会建築に惹かれるので、教会の内部を写した何枚かの写真、これらのためだけにでも、買った価値があったと思いました。
また教会の外壁や屋根のアーチ状のものを撮った写真もいくつか収録されているのですが、写真集を買った当初は、このアーチ状のものが何なのかわからなかったのだけれど、 その後、須賀敦子さんの諸著作に触れるうち、これこそ、ゴシック様式の大聖堂建築に特徴的な、フライング・バットレス(飛び梁)というものだったとわかったのも嬉しい。
アジェの写真は、芸術家のための資料として撮られたものということですから、さまざまな建物の細部を、いろんな角度からとらえてあるんですよね。
この写真集は大判で印刷がきれいなので、そういう細部を丹念に眺めるのも興味深いです。

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