〜ページを繰って、ひとり静かに訪れる〜
銅版画、オブジェ、絵画…。 さまざまなアーティストたちの作品集は、ページを繰ると、ひとり静かなギャラリーを訪れたような気分に。 一冊ずつ、だいじに集めた本たちで、本棚の奥にひっそりと、自分だけのギャラリーをつくってみませんか? |
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「one day 或る日 勝本みつる初期作品集」勝本みつる 著(月兎社) |
京都にある評判の素敵な本屋さん、恵文社一乗寺店(Click!)を訪れたとき、ギャラリー・コーナーにこの本が置いてあって、思わず目にとまりました。
表紙が、なんともいえず良くて。 ちいさく仕切られた箱の中に、レースのリボンだとかコサージュだとか、古いモノクロ写真のなかの少女の切り抜きだとか、ふしぎなものがたくさん入っている。 コラージュ、というのかな。なぜだかこういうものに惹かれるわたしは、手にとってぱらぱらとめくってみたのですが、収録されている作品はまさに<コーネルの箱>に通ずる、箱のコラージュ。 うわあ〜、いいなあ、ちょっと欲しいかも。と思ったのですが、アーティスト勝本みつるさんという人について何の予備知識もなく、けっこうお値段のはる作品集でしたので、その場では買わなかったのです。 だけどどうしても気になってしまって。勝本みつるさんというお名前さえもうろ覚えだったので、恵文社さんのサイトで探して、いろいろ調べてみましたら(もちろんネットで)、勝本氏が女性だということが判明。 …そんなことも知らなかったわけですが。 それでわかったことは、勝本みつる氏は、アッサンブラージュと呼ばれる立体的なコラージュ作品などを作っておられる方で、本のカバー装画もたくさん手がけていらっしゃるということ。 たとえば小川洋子『薬指の標本』(新潮文庫)、河出書房のModern&Classicシリーズの一冊『年老いた子どもの話』、国書刊行会のボウエン・コレクション(全3巻)の表紙カバーなど。 この作品集については、版元である月兎社さんのサイトで全ページフラッシュで見ることができて(Click!)、見れば見るほど良くて、結局、Amazonで購入とあいなりました。 思わずひきよせられた表紙は、「仕事の周辺」として収録されている写真のなかの一枚で、月兎社さんのブログからの情報(Click!)によると、「アトリエの抽斗に眠る作品の住人候補たち」を撮影したものなのだそうです。 この本におさめられているアッサンブラージュは白い箱のコラージュが中心。グロテスクで残酷な一面をのぞかせながら、不思議に清潔感のあるこれら白い作品群は、見る者に失われた少女期の思い出、何より心の奥底にしまわれたイノセントな場所を想起させます。 わたしは箱のコラージュといったらジョゼフ・コーネルしか知らなかったのだけれど、現代日本でもこんなに美しいものをつくっていらっしゃる方がいるんですね。驚きとともに、嬉しいです。 フランス装にチョコレート色の挿み紙という、瀟洒な造本も魅力の、見ごたえある作品集です。 (*しかもこの本、Amazonでふつうに買ったのですが、何とサインいりだったんですよ! サイン本なんて初めて入手したので、わが目を疑ってしまいました) (*2009年6月現在、版元の月兎社さん(Click!)では完売。Amazonマーケットプレイスに中古商品が出品されていますが、かなりの高値がついている状態です) →Amazon「勝本みつる初期作品集 one day 或る日」 |
「study in green 緑色の研究」勝本みつる 著(月兎社) |
『study in green 緑色の研究』は、待望の、勝本みつるさんの第3作品集。
勝本氏は、アッサンブラージュと呼ばれる立体的なコラージュ作品などを作っておられる方で、本のカバー装画もたくさん手がけていらっしゃいます。 たとえば小川洋子『薬指の標本』(新潮文庫)、河出書房のModern&Classicシリーズの一冊『年老いた子どもの話』、国書刊行会のボウエン・コレクション(全3巻)の表紙カバーなど。 この作品集の中身については、版元である月兎社さんのサイトで全ページフラッシュで見ることができます(Click!)。 上記の『one day 或る日』では白い箱の作品が印象的でしたが、今回の作品集は、タイトルどおり緑色を扱った作品(グリーン・シリーズ)が収録されています。 やはり白い箱などの中に、緑色に染められた動物の毛や糸が、さまざまな素材―コサージュや、古い生活道具や、蝶や鳥や少女の写真の切り抜きや―とともに配置されている。 白と緑で構成された風景は、端正で、清潔で、美しい。 けれどもどこかに秘密がしまってでもあるように、謎めいている。 神秘的で、魔的な、緑という色。 勝本みつるさんの作品では、まったく出会いそうもない物と物とが出会って、不思議な美しさをたたえています。 学生時代、ロートレアモンの『マルドロールの歌』や、アンドレ・ブルトンなどのシュルレアリスム作品の、何が美しいのかよく分からなかったのだけれど、ああいった作品を鑑賞するヒントが、勝本みつるさんの作品にあるような気がする。 どのページも素晴らしいけれど、78-79ページの「a field, a home / 避暑」という作品など、見つめているとこの風景のなかに吸い込まれて、自分がいなくなってしまうんじゃないかというような…奇妙な感覚におそわれます。 収録カラー作品47点、造本・装幀もまたまた美しい。本棚の宝物になるに違いない作品集です。 (*Amazonにリンクを貼っていますが、管理人は版元である月兎社さん(Click!)の通信販売で購入しました。サイン本、しかも『one day 或る日』表紙カバーのオマケつき。 月兎社さんは、勝本みつるさんの作品集のほかにも、素敵な本をたくさん刊行しておられますので、要チェック! 今回、Amazon販売分はサインなしとのことです) →勝本みつる作品に興味のある方に:『コーネルの箱』の紹介はこちら →Amazon「study in green 緑色の研究」 |
▼参考:勝本みつるの装幀・装画(*画像はAmazonにリンクしています) |
「Scope」桑原弘明作品集桑原弘明 著(平凡社) |
掌にのる程度の、四角い小さな箱。その箱には銀や漆や緑青で、美しい、または時経たかのような装飾が施されている。箱からつきでた細い筒にとりつけられたレンズをのぞくと、不思議に懐かしい部屋や庭の光景が見える。
箱の側面に小さな穴がいくつかあり、懐中電灯の光をそこにあてると、箱の中におさめられた極小のオブジェが見える仕掛けなのだ。しかも別の穴から光を入れると、レンズから見える風景が変化する。朝、昼、夜といった時の移ろい、そして部屋の中からドアの外へと空間さえも広がっていく…。 スコープ、と呼ばれる魔術めいた小さな箱を作るアーティスト、桑原弘明氏。 スコープの写真に、巖谷國士氏による幻想旅行譚が添えられた、絵本仕立ての『スコープ少年の不思議な旅』において、氏の存在と作品を知った人間は多いだろう。 『Scope』は、副題のとおり桑原弘明氏の作品集で、ますます精巧に、ますます細かく、ますます奥深くなっていくスコープ作品と、箱や卵や書物の中に不思議な物が配置され、仕掛けによって動くというオブジェ作品も紹介されている。 バーネット『秘密の花園』にちなんだ「The Secret Garden」や、C.S.ルイスのファンタジーに材をとった「ナルニア国物語」といったスコープは、物語を知る者にとってはやはり楽しい。 また「鏡のある部屋」「真珠」など、桑原氏の作るスコープの中の部屋、その家具調度は、奇をてらわず端正で、いつかどこかで見たことがある、といった既視感さえ湧き上がる。 さらに「月の雫」「深き星の泉」など幻想的、神秘的な光景を見せてくれるスコープもあり、「イリュミナシオン」では聖なる空間における法悦さえ感じられる。 巖谷國士、四谷シモン、種村季弘の三氏によるエッセイは、作品理解の上でも興味深い。 巖谷氏は「ジョゼフ・コーネルとの共通点もあるが、レディメードはほとんど用いない。桑原弘明はかならず手作業で精密な模型をつくり、平面を立体として現前させてしまうマニエリストである」と言う。 そして種村氏は語る。「このなつかしさはデジタルな情報では叶えられない。ということは桑原弘明のスコープ作品は、なまなかな現代芸術よりはむしろ近代以前の職人芸につながっているということだろう」と。 マックス・エルンストやジョゼフ・コーネルが用いたコラージュの技法が20世紀の芸術に革新をもたらし、レディメードを組み合わせたアッサンブラージュ作品等を生み出したとするなら、桑原氏は現代日本のアーティストではあるけれども、やはり現代芸術よりは、もう少し遠い過去にルーツをもつ、手仕事の人と言えるのかもしれない。 →『スコープ少年の不思議な旅』の紹介はこちら →Amazon「Scope」 |
「ボヌール 南桂子作品集」南 桂子 著(リトルモア) |
2007年3月20日発売の雑誌『クウネル』(マガジンハウス)に、「南桂子の銅版画に描かれた世界」という記事がありました(Click!)。
そこに掲載されていたいくつかの絵にふしぎに惹かれるものを感じて、思わず購入したのが、この作品集です。
記事を読むまでは、銅版画家・南桂子という人について何も知らなかったのですが、この作品集はとても素敵で、買ってよかったと思います。 折にふれ手にとっては、しずかに眺める一冊です。 『クウネル』の記事から引用させてもらうと南桂子の銅版画は、「描かれるモチーフはいつも決まっていて、少女、鳥、樹々、花、蝶、魚、城…といった童話的なイメージが、 組み合わせを替えながらも、その都度登場する」とのこと。 たしかにそのとおりで、これらのモチーフは、絵本や童話の好きな人にとっては、どうしても惹かれてしまうものですよね。 では単に可愛らしい絵かというと、そうではなくて、南桂子の作品世界は、どこか淋しい雰囲気のする、静謐な空気に満たされています。 銅版に穿たれた、完璧に孤独な心の王国。 ひとつひとつの絵をじっと眺めていると、しんと心が落ち着くのは、なぜなのでしょう。 「シャトーと赤い実」「教会」「街の門」「森と塔」…絵の中に入っていって、教会の椅子にすわり、聖書をひらいてみたくなる。塔の上から、ひろがる森を、いつまでも眺めていたくなる。 そしていつしか、自分のなかの心の王国をも、思い出させる力がある。 巻末には、谷川俊太郎さんの詩や、南桂子さんの短い物語作品なども収録されています。 作品集のタイトル<ボヌール>というのは、フランス語で幸福を意味する言葉で、著者のたいせつにしていた指輪の裏に、ひっそりと刻まれていたのだそうです。 →Amazon「ボヌール」 |
「木立をすぎる時間 森麗子画文集」森 麗子 著(求龍堂) |
『木立をすぎる時間』は、恵文社一乗寺店(Click!)のサイトでレビューを見て、どうしても欲しくなってしまい購入。
恵文社の本のセレクトはとても面白くて、ついつい興味をひかれてしまいます。
森 麗子さんという方は、染め、刺し、織り、アップリケなどの技術を自在に使った「ファブリックピクチャー」という作品を発表しておられるそうで、 わたしはまったく存じ上げなかったのですが、『糸の旅』『とりの詩』『月と太陽の旅』など、作品集が多数刊行されています。 この『木立をすぎる時間』は、ファブリックピクチャー作品に、北欧を訪れた際の印象などを中心に綴られたテキストが添えられた画文集。 この本でファブリックピクチャーというものを初めて目にしたのですが、いちばん最初に収録された、「青い夜B」という作品を見て、森 麗子さんにとって、ファブリックピクチャーというのは詩なんだなあ、などとしみじみ感じたりしました。 木々、鳥、月や太陽、古い町並み。布というあたたかみある素材の上に繰り返される、親しみ深いモチーフの、なんともやさしく、愛らしいこと。 収録作品は49点。森 麗子さんやファブリックピクチャーについてよく知らなくても、眺めているだけで充分に楽しめる、しずかでおだやかな、とても美しい一冊です。 →Amazon「木立をすぎる時間―森麗子画文集」 |
「モーゼスおばあさんの四季」絵と自伝でたどるモーゼスおばあさんの世界W.ニコラ-リサ 編・詩/アンナ・メアリー・ロバートソン・モーゼス 絵・文/
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『モーゼスおばあさんの四季』は、アメリカン・フォーク・アートの第一人者、アンナ・メアリー・ロバートソン・モーゼスの絵と、自伝からの引用、編者の手になるわかりやすい言葉とで綴られた、和みの一冊。
日本でも有名なグランマ・モーゼス(=モーゼスおばあさん)については、かねてから関心を持っていました。この本に収録されている郷愁に満ちた絵の数々は、わたしの大好きなバーバラ・クーニーや、ターシャ・テューダーの絵本のルーツを見るようで、たいへん興味深いです。 一生を農家の主婦として過ごし、名声を得ながらも最後までアマチュア画家として絵を描きつづけ、101歳の生涯を幸福のうちに閉じたグランマ・モーゼス。 お値段も手ごろで手にとりやすいこの本は、グランマ・モーゼスの小さくて豊かな世界へのとば口として、ぴったりの一冊ではないでしょうか。 わたしの生涯というのは、一生懸命に働いた一日のようなものでした →「バーバラ・クーニーの絵本」はこちら →Amazon「モーゼスおばあさんの四季―絵と自伝でたどるモーゼスおばあさんの世界」 |
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