いろんな国の暮らしと風景、古い童話のあたらしい魅力。
それぞれに楽しさいっぱいの、写真絵本をご紹介。
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「赤ずきん」ワンス・アポンナ・タイム・シリーズペロー 原作/サラ・ムーン 写真/定松 正 訳(西村書店) |
『赤ずきん』は、西村書店から邦訳版が刊行されている、<ワンス・アポンナ・タイム・シリーズ>の中の一冊で、
斬新な切り口の絵本がたくさんラインナップされたシリーズのなかでも、とりわけ異色の作品です。
『赤ずきん』の絵本は数あれど、写真絵本(モノクロ)というのは珍しい。それもメルヒェンの世界をそのまま写真にしたのではなくて、現代の町を舞台に、 赤ずきんをねらう悪いオオカミを黒い車で表現するという、モダンなアレンジが施されています。 原作はペローの『赤ずきん』なので、グリムのそれとは違って、結末がアン・ハッピー。 おばあさんのふりをしたオオカミに、「ここへきていっしょにおやすみ」と言われるがまま、服を脱ぎ、ベッドに入る赤ずきん。 ベッドの中で正体を現した悪いオオカミに、すっかりたいらげられて、ジ・エンド。 最後の見開きの写真に写されているのは、乱れた白いシーツ…。 モノクロのスタイリッシュな写真で展開される、なんともハイセンスで淫靡な『赤ずきん』。 1984年のボローニャ児童図書展グラフィック部門大賞受賞作品です。 ※<ワンス・アポンナ・タイム・シリーズ>は、第一線で活躍するイラストレーターやアーティストたちの自由な発想で、おなじみの民話や童話のあたらしい魅力を紹介する、要チェックの絵本シリーズ。 写真絵本『赤ずきん』『モミの木』のほかにも、さまざまな技巧を用いた数々の異色作がラインナップされています。こぶりでひかえめな装幀もおしゃれ。 →Amazon「赤ずきん (ワンス・アポンナ・タイム・シリーズ)」 |
「アニマル・ハウス」キャサリン・レドナー 写真/カトリーナ・フリード 編/ナオミ・イリエ デザイン/
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写真家キャサリン・レドナーの、かわいくておしゃれで不思議な動物写真集。
といっても、ただ動物を撮ったというのではなくアイデアが洒落ていて、この表紙の写真のように、かわいい模様の壁紙やカラフルな絨毯を背景に、多種多様な動物たちが撮影されているのです。 ひつじ、ライオン、牛、あらいぐま、ペンギンにブタにニワトリに…人工的な空間の中におさまった動物たちの表情は、意外にも生き生きと愛らしい。彼らの自然な毛並み、色、形態が、人工の壁紙や絨毯の模様と、ミス・マッチかと思いきや、そのギャップこそが魅力的な写真を生み出しているのです。 この本は、ページが切り抜かれて、その向こうの動物たちの顔やおしりがちょこっとのぞいたり、見開きのページがさらに大きく開いたりと仕掛けもあり、名言や詩が巧みに添えられてもいます。 しましまに切り取られたページの向こうから、しまうまがのぞいていて、デ・ラ・メアの詩「日よけのブラインドの背後から、僕は座って眺める…」が引用されていたり。粋な写真絵本としても楽しめます。 大胆な模様の壁紙とイエロー系の絨毯の部屋にワニ…ブルー系の花模様の壁紙と白いフワフワ絨毯の部屋にラクダ。動物たちの表情だけでなく、壁紙の模様も見逃せない!とにかくどの写真も、新鮮な驚きに満ちています。 →「本棚の奥のギャラリー」はこちら →Amazon「アニマル・ハウス」 |
「イエペはぼうしがだいすき」石亀泰郎 写真(文化出版局) |
デンマークのコペンハーゲンに住む、3歳の男の子イエペ。イエペはぼうしがだいすきで、何と100ものぼうしを持っています。
いちばん好きなのは、表紙でもかぶっている茶色のぼうし。いつもこのぼうしをかぶって、保育園に通っています。ある日、ぼうしをかぶらずに保育園に行ったら、なんだか調子が出なくって・・・。 『イエペはぼうしがだいすき』は、初版が1978年というロングセラー絵本で、写真絵本のなかでもとりわけ有名な作品とのこと。 手にとってみるとなるほどこれが、とってもキュートで魅力的な一冊! 写真家の石亀泰郎氏が、デンマークの公園で出会ったイエペという少年を撮影したもので、ソフト帽を目深にかぶった姿は、巻末の石亀氏の言葉のとおり、まるで童話の主人公のよう。 家族に囲まれ、保育園に通い、元気に遊ぶイエペ少年の表情や仕草が、カラー写真でたっぷり楽しめ、なんとも愛らしい〜。 またデンマークの家や幼稚園の様子、かわいい雑貨類など、大人の読者にとっても見所満載。 家族の朝ごはんのテーブルに並んだ、牛乳パックのデザインなんか、すごくかわいいんですよ♪ →Amazon「イエペはぼうしがだいすき」 |
「パリのおつきさま」シャーロット・ゾロトウ 文/タナ・ホーバン 写真/みらい なな 訳(童話屋) |
シャーロット・ゾロトウのテキストと、パリの街を美しく切りとったタナ・ホーバンのカラー写真とで構成された、写真絵本の名作。
最初のページ。ゾロトウの言葉は、ごく静かに語りかけてきます。 おかあさんとおとうさんがパリへ行くことになり、おるすばんをする「わたし」。 パリですてきなものを見つけたら教えてねと、「わたし」はおかあさんに頼みます。 次のページからは、タナ・ホーバンの写真に圧倒されます。 まずは朝日に輝く花ざかりのマロニエの木の下を、少女が遊んでいる写真に「わあきれい」とひきつけられ、 虹やセーヌ川、バゲットを抱えて歩くパリジェンヌ、次々にあらわれるパリの風景に目を奪われます。 けれどもとりわけ素晴らしいのは、やっぱり最後のページの、ゾロトウの言葉。 パリで何がいちばんすてきだったのかとたずねる「わたし」に、おかあさんはこう答えるのです。 「あなたにも ぎんいろのひかりが とどいたでしょう。 『パリのおつきさま』より おつきさまから見れば、わたしたち地球上の生き物は、みんなすぐそばで、寄り添って生きている。シャーロット・ゾロトウの、この視点の転換の自由さには、いつも感動させられます。 →「月の絵本」はこちら |
「モミの木」ワンス・アポンナ・タイム・シリーズH・C・アンデルセン 原作/マルセル・イムサンド リタ・マーシャル 写真・構成/小杉佐恵子 訳(西村書店) |
『モミの木』は、西村書店から邦訳版が刊行されている、<ワンス・アポンナ・タイム・シリーズ>の中の一冊で、
斬新な切り口の絵本がたくさんラインナップされたシリーズのなかでも、とりわけ異色の作品です。
アンデルセンの有名な童話「モミの木」を原作とした写真絵本(モノクロ)なのですが、ただ木や森を撮ったものではなく、主人公であるモミの木は、なんとちいさな男の子。 この男の子が美しい森の中に佇む様子、そのあどけない澄み切った眼差し。 かなしい結末であるだけに、モミの木=男の子の姿が、なんとも清らかで痛々しく、胸に迫ってきます。 雪の白さや陽の光の美しさ、愛らしい動物たちの様子も魅力的。 大人も楽しめる斬新な趣向のこの『モミの木』、クリスマス絵本としてもおすすめの一冊です。 ※<ワンス・アポンナ・タイム・シリーズ>は、第一線で活躍するイラストレーターやアーティストたちの自由な発想で、おなじみの民話や童話のあたらしい魅力を紹介する、要チェックの絵本シリーズ。 写真絵本『赤ずきん』『モミの木』のほかにも、さまざまな技巧を用いた数々の異色作がラインナップされています。こぶりでひかえめな装幀もおしゃれ。 →「アンデルセン童話の世界」はこちら →Amazon「モミの木 (ワンス・アポンナ・タイム・シリーズ)」 |
「わたしのろばベンジャミン」ハンス・リマー 文/レナート・オスベック 写真/松岡享子 訳(こぐま社) |
地中海の島に住む、ちいさな女の子スージー。おとうさんと散歩しているとき、崖の下に、産まれて間もないろばを見つけて、家に連れて帰ります。
スージーはろばをベンジャミンと名づけ、ミルクをやったり、からだを洗ったり、散歩をしたり。ふたりは大の仲良しになりますが、ある日、スージーが目を覚ますと、ベンジャミンがいなくなっていて・・・。
『わたしのろばベンジャミン』は原書が1968年の刊行で、日本、アメリカ、イギリス、フランスなど、各国で翻訳出版されているロングセラー絵本。 モノクロ写真で、少女スージーとろばのベンジャミンとの交流を、地中海の島の海辺の村を背景に、美しく切り取ってあります。 スージーのふくふくと健康そうな丸顔と、産まれたばかりの幼いろばベンジャミンの愛くるしさ! 大人の読者の見所といえば、やはり地中海の島の暮らしの様子でしょうか。 スージーの家はおしゃれだし、村の石だたみの路地や、地中海の光に映える家々の白壁には何とも言えぬ味わいがあり、青い海(モノクロなんだけど)の表情も美しく、どの写真も素敵なのです。 →Amazon「わたしのろば ベンジャミン」 |
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