■バーナデット・ワッツの絵本

〜夢幻味あふれる色彩の妙〜


●バーナデット・ワッツ ― Bernadette Watts ―

1942年、イギリス、ノーサンプトンに生まれる。
幼い頃から絵が好きで、ケント州メイドストーンの美術大学で絵を学び、絵本作家ブライアン・ワイルドスミスに師事。
創作絵本ほか、グリム童話の挿絵を数多く手がけ、作品はスイス、ドイツ、日本など多くの国で翻訳紹介されている。
現在は、ケント州アッシュフォードで暮らしている。



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「赤ずきん」

「おじいさんの小さな庭」

「つぐみひげの王さま」

「とんでいけ海のむこうへ」

「ヨリンデとヨリンゲル」



「赤ずきん」

グリム 文/バーナディット・ワッツ 絵/生野幸吉 訳(岩波書店)
赤ずきん (大型絵本 (30))
おばあさんのくれた赤いずきんがよく似合うので、「赤ずきん」と呼ばれるようになった女の子。 ある日おかあさんの言いつけで、病気のおばあさんに、おかしとワインを届けに行くことに。 森の中にあるおばあさんの家へ向かう途中、一匹のオオカミがあらわれて…。

グリム童話の「赤ずきん」を、ワッツの色彩豊かな絵で味わえる一冊。
まず素敵なのは、赤ずきんの愛らしさ。赤いずきんも、エプロンも、しまもようのタイツも、茶色のブーツも、あどけない表情も、すべてかわいい。
そして魅惑的な森の風景。オオカミの誘惑で、花の咲き誇る森の奥へ奥へとはいりこんでいく、赤ずきんの気持ちがよくわかります。 めくるめく色彩のお花畑の美しいこと。けれども「みちからはずれてあるかないように」という、お母さんのいいつけに背いてしまっている、赤ずきんのうしろめたさや、 未知の森への怖れも読みとれる、暗さもひそんでいます。

また、おばあさんのお家の、かわいらしい描写。さりげなく描かれた雑貨などにも、神経がゆきとどいています。 猫や、小鳥や、蝶などがあちこちに描きこまれているのも、見逃せません。
オオカミの死の描写も際立っており、残酷だけれども滑稽で、童話のエッセンスがよく伝わってきます。

お花畑を描いた見開きが、この絵本の絵としては目立っていて、表紙にもなっていますが、夜の森を描いた絵も、ワッツならではの美しさで、とても素敵です。 かりうどが、おばあさんの家のそばを通りかかる場面の、青白い月のかがやきと、月光に染まる木々の、ふしぎな青さ。 ワッツの描く夜の風景のこの青さには、惹きこまれずにはいられません。

標題紙の次のページ、本文のはじまる前に、そっと描かれた、おかしとワインの入った籠と花束。 本文の終わったあと、奥付の前のページに、赤ずきんの眠るベッドがちょこんと描かれていることなどが、この一冊に対する画家の愛情や、誠実さ、丁寧さをうかがわせます。
この絵本は、ワッツの作品のなかでも、とりわけ美しく愛らしく、かつ、グリム童話ならではの不気味な暗さもひそんでいる、珠玉の作品です。

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「おじいさんの小さな庭」

ゲルダ・マリー・シャイドル 文/バーナデット・ワッツ 絵/ささき たづこ 訳
(西村書店)
おじいさんの小さな庭
花や小鳥とお話ができるおじいさん。おじいさんは、素朴で小さな自分の庭を、とても気に入っていました。 ところがある日、庭でいちばん小さいヒナギクが、おとなりに住んでいるお金持ちの、広い庭に行きたいと、だだをこねだして…。

絵もおはなしも、心あたたまる素敵な一冊。
おはなしは、子どもへのおやすみ前の読み聞かせにもぴったりという感じの、短いものです。
絵は、ワッツの夢幻味あふれる色彩感覚に圧倒されます。ワッツは”色彩の魔術師”と呼ばれるブライアン・ワイルドスミスに師事したとのこと。 一見、幼子が描いたようにみえるタッチなのに、画面全体をよく眺めてみると、色のあわせ方重ね方が、ひじょうに洗練されていることに驚かされます。
ほんとうに、おじいさんの庭の描写の美しいこと! ことに青を基調とした夜の庭の表現が際立っています。

→「庭・ガーデニングの絵本」はこちら

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「つぐみひげの王さま」

グリム童話
バーナデット・ワッツ 絵/ささきたづこ 訳(西村書店)
綺麗で利口なことが自慢のお姫さまは、求婚者たちをばかにして、みんな追い返してしまいます。 ある日、偉い人たちが大勢招かれたパーティで、お姫さまは、あごのさきが少しとがっている、人のよさそうな王さまを、「つぐみのくちばしみたいな あご」と言って笑いました。 お姫さまの振る舞いに、とうとう腹を立てた父王さまは…。

この絵本も、ワッツの色彩感覚が、やはり素晴らしいです。
『おじいさんの小さな庭』等とは違い、一見してあたたかい色調の絵が少なく思えたのですが、よく読んでみると、主人公のお姫さまの心情が、色であらわされているのです。
青と黄色の表現が、際立って美しいと思いました。
それにしても、ワッツの絵本をいくつか味わううち、グリム童話の面白さにようやく気づきはじめ、本格的に読み込んでみたくなりました。 絵本には、こういった物語世界への入り口としての魅力もありますよね。
なお、フェリクス・ホフマンも同じ原作で、『つぐみのひげの王さま』という美しい絵本を描いています。

→フェリクス・ホフマン『つぐみのひげの王さま』の紹介はこちら

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「とんでいけ海のむこうへ」

クリスティーナ・ロセッティ 詩/バーナデット・ワッツ 絵/高木あきこ 訳
(西村書店)
草花や動物、自然を童謡風にうたったクリスティーナ・ロセッティの初期の詩に、バーナデット・ワッツが絵を添えた、美しい詩画集。 詩と絵とがやさしく調和した、子どもも大人も楽しめる、素敵な絵本に仕上がっています。

淡いパステルカラーで、やさしくあたたかい雰囲気をかもしだすバーナデットの絵。 ちいさな植物や動物たちがたくさん描かれており、眺めているだけでも癒されます。
またクリスティーナ・ロセッティの詩集(『Sing-Song』(George Routledge and Sons,London,1872))の中から、バーナデットが選んだ22編は、どれもわかりやすい言葉で自然の美をうたいあげたものばかり。
言葉のリズムを大切にした日本語訳は、子どもにも親しめるのではないでしょうか。
絵に導かれる詩の世界。心に響いてくる美しい言葉が、きっと見つかるはずです。

→クリスティーナ・ロセッティ『シング・ソング童謡集』の紹介はこちら

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「ヨリンデとヨリンゲル」

グリム童話より/ベルナデッテ・ワッツ 絵/若木 ひとみ 訳(ほるぷ出版)
icon icon むかしむかし、大きな森の真ん中に、古いお城がありました。お城には、一人の年とった魔女が住んでいました。 この魔女は、城に近づく若い娘を、たちまち小鳥の姿に変え、かごに閉じ込めて、連れ去ってしまうのです。
ある日、愛し合う恋人同士ヨリンデとヨリンゲルは、森に入って、知らぬ間に、おそろしい城のすぐ近くまで来てしまいました…。

この絵本は、ワッツの初期の作品で、現在おなじみの、やさしいパステルカラーの愛らしいタッチとは、画風がずいぶん異なっています。
色彩の見事さや、草花や夜空の描写などに、現在の画風の原点を感じさせられますが、全体的に薄暗くて不気味な雰囲気が漂っています。
ですが、この薄暗さと不気味さが、グリム童話の奥深い森や魔法の空気を感じさせて良いのです。
小暗い森を描いた絵の、塗り重ねた色彩の深さ。魔女の住む古いお城に凝る闇。魔法の息づいていた時代への想像力がかきたてられます。
ヨリンゲルのみた夢の描写など、ほんとうに夢幻味あふれる色彩で、なんとなくシャガールの絵を思い出しました。
芸術性が高く、くりかえし味わえる、よい絵本だと思います。

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