〜繊細なタッチ、ふんわりやさしい色遣い〜
●市川里美 ― いちかわ さとみ ―
1949年、岐阜県に生まれる。
1971年、フランス・パリに移住、その後、独学で絵を学ぶ。 1978年、ボローニャ国際児童図書展入賞。 1979年、『春のうたがきこえる』で講談社出版文化賞絵本賞を受賞。 現在もパリで活躍。著作は世界十数カ国で翻訳・出版されている。 |
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「あさなゆうなに」こどものための詩集・1エレイン・モス 選/市川里美 画/矢川澄子 訳(冨山房) |
「こどものための詩集」ということですが、大人が読んでも味わい深い詩の数々が、どこか郷愁を感じさせる美しい絵とともにおさめられた一冊。
収録された詩は、ファージョンやブレイクの作品、わらべうたなどで、訳は響きが良くわかりやすい日本語になっています。 子どものために、難しい漢字にはふりがながふってあります。 ひとつひとつの詩に寄せられた、市川里美さんの絵が、とても美しいです。自然の風物、ちいさな生き物や草花とともに、元気に遊ぶ子どもたちの様子が、 あたたかい眼差しで描かれています。童謡のような詩と絵、全体の雰囲気が、ケイト・グリーナウェイ『窓の下で』を彷彿させますが、 絵の中に施されたあそびごころあふれる仕掛けなど、『あさなゆうなに』独自の魅力も、もちろんあります。 大人にとっては、子ども時代のアルバムをめくるような気持ちにさせてくれる一冊。 詩と絵とがぴったり調和し、絵の中にテキストがうまくレイアウトされていて、詩画集として質の高い一冊と言えるのではないでしょうか。 →ケイト・グリーナウェイ『窓の下で』の紹介はこちら →Amazon「あさなゆうなに (こどものための詩集 1)」 |
「あなたもいますよ」あそぶこどもたち市川里美 画/矢川澄子 文(冨山房) |
さあ みんなして よくごらん きょうも せかいの あちこちで 『あなたもいますよ』5ページより 『あなたもいますよ』は、原題を『A Child’s Book of Seasons』といい、イギリスのハイネマン社から1975年に出版された、市川里美さんの処女絵本のJapanese edition です。市川さんの初期の絵本はケイト・グリーナウェイの作風と共通するとも言われますが、この『あなたもいますよ』や『みんなともだち』等は、まさにグリーナウェイやル・メールを彷彿させます。 とくにストーリーはなく、遊びたわむれる大ぜいの子どもたちの様子が、一年を通した季節の移ろいを背景に、淡い色彩で細やかに描かれ、遊びの様子を要約した矢川澄子さんの短いテキストが添えられています。 フランスに暮らした経験をもつ市川さんの絵は、やっぱりどことなくフランス風。描かれた家や家具や雑貨、庭や公園や町並みは、少し昔のヨーロッパの風景のようです。 子どもたちも、子どもたちの着ている服も、背景の壁紙の模様も、玩具も草花も、とにかくちまちま小さく描きこまれていて、すみずみまでゆっくりと眺めるのが何といっても楽しい。 またセピア調のごく淡い色使いが、ノスタルジックな雰囲気をかもし出しています。 この繊細で懐かしい雰囲気は、グリーナウェイやル・メールが好きな大人たちにきっと好まれるはずなので、絵本というより、市川さんのイラスト集として、大人が眺めるのに良いのではと思います。 市川さんの絵本のなかで、管理人のイチオシ作品です。 →「ケイト・グリーナウェイの絵本」はこちら →Amazon「あなたもいますよ―あそぶこどもたち」 |
「バラがさいた」市川里美 作(偕成社) |
かぜをひいて、もう一週間も家の中にとじこもっているノラ。つまらなくて退屈です。
ある日カーテンをあけてみると、窓の外にバラの花が咲いていました。
とおりかかった近所の人たちや友だちが、パーティや音楽会のおともに、バラの花をもらっていきます。
「わたしも いきたかったなあ」と呟くノラ。すると、不思議なことが…。 手にとってみて、まず驚いたのが、見返しに描かれたチェック模様。 どう見ても、手描きなんです。手描きのチェック模様の見返しだなんて、なんて素敵なんでしょう。 絵は、やさしい色合いで繊細に描かれていますが、初期のグリーナウェイスタイルとは異なっています。 バラの花が、とっても美しいです。雑貨などの繊細な描き方は、女性ならではのタッチだなあと思いました。 またぬいぐるみや人形が、生きて動いている友だちのように描かれているところが印象的。 バラの花たちと繰り広げるパーティの様子なども、子どもらしい空想に満ちて楽しいです。 結末、ノラが思いついた、バラの花をいつまでも残しておく方法…。絵本作家さんらしい、素敵な発想ですね。 →Amazon「バラがさいた」 |
「春のうたがきこえる」市川里美 作(偕成社) |
この作品は、作者の市川里美さんが、イースターの休暇をブルゴーニュ地方のいなかで過ごした折の思い出を、一冊の絵本に仕上げたものです。
この絵本を手にとると、春の、あのやわらかくまぶしい光が、心の奥に希望のようによみがえってくる、そんな気がします。 やわらかい色使いの、郷愁に満ちた画風。どの絵も、春の野原で、子どもたちの遊びたわむれる様子が、あたたかく繊細に描かれています。 なんというか、わたしはこの絵本の装幀が好きだなと思っていて、まずカバーのつや消しの紙の風合いが素敵。 ページを開くと、見開きの左側に短い文章がぽつんとあって、右側に額縁におさまったような体裁のちいさな絵があり、全体的に白い余白のスペースが多いのが印象的です。 この空白が、とても良いと思うのです。読者の思い出を喚起する「間」になっているというか。 忙しい人に、春の光や風のにおいとともに、しずかでゆっくりとした時間を与えてくれる、そんな素晴らしい絵本だと思います。 春の野原にピクニックに出かける気分で、どうぞページをめくってみてください。 →Amazon「春のうたがきこえる」 |
「みんなともだち」市川里美 画/矢川澄子 文(冨山房) |
ぼくたち みんな ともだちです 『みんなともだち』冒頭より 『みんなともだち』は、原題を『Friends』といい、イギリスのハイネマン社から出版された、市川里美さんの絵本のJapanese edition です。処女絵本『A Child’s Book of Seasons(邦題:あなたもいますよ)』出版の翌年1976年に刊行されています。 市川さんの初期の絵本はケイト・グリーナウェイの作風と共通するとも言われますが、この『みんなともだち』や『あなたもいますよ』等は、まさにグリーナウェイやル・メールを彷彿させます。 『みんなともだち』は、『あなたもいますよ』と同じスタイルの絵本で、とくにストーリーはなく、遊びたわむれる子どもたちの様子が、淡い色彩で細やかに描かれ、遊びの様子を要約した矢川澄子さんの短いテキストが添えられています。 『あなたもいますよ』が一年を通した季節の移ろいを背景にしていたのと比べて、こちらは、朝、昼、夜といった時間の変化を背景に、朝と夕方の陽射しの移ろいや、灯ともし頃の散歩、寝室での遊びの様子などが描かれています。 『あなたもいますよ』と同じく、描かれた家や庭や公園や町並みは、少し昔のヨーロッパの風景のよう。 セピア調のごく淡い色使いで表現される、ノスタルジックな子どもたちの服や、インテリア、雑貨などは、やはり今の大人の目に楽しいものではないでしょうか。 グリーナウェイやル・メールのファンはもちろん、ヨーロッパのアンティーク調の雑貨がお好きな方には、市川さんの初期絵本はおすすめです。 →「ケイト・グリーナウェイの絵本」はこちら →Amazon「みんなともだち」 |
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