〜本で旅するヨーロッパの優雅なお屋敷〜
古い海外小説のページを繰れば、マナー・ハウス、カントリー・ハウス、広大で豪壮で優雅なお屋敷がいっぱい。 貴族が暮らし、紳士淑女が招かれ、執事や女中や庭師が働く…あの頃の、ほんものの「お屋敷」へ、本の中で旅してみませんか? |
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▼ゴシックロマンのお屋敷(マンダレー) |
「レベッカ」デュ・モーリア |
▼オースティンのお屋敷(ノーサンガー・アビー、マンスフィールド・パーク) |
「ノーサンガー・アビー」オースティン |
「マンスフィールド・パーク」オースティン |
▼青春文学のお屋敷(ソーンフィールド) |
「ジェーン・エア」C・ブロンテ |
▼少女小説のお屋敷(ミッセルスウェイト) |
「秘密の花園」バーネット |
▼ミステリのお屋敷(ヴェリンダー邸、赤い館) |
「月長石」ウイルキー・コリンズ |
「赤い館の秘密」A・A・ミルン |
▼ウッドハウスのお屋敷(トトレイ・タワーズ、ブランディングズ城) |
「ウースター家の掟」P.G. ウッドハウス |
「ブランディングズ城の夏の稲妻」「ブランディングズ城は荒れ模様」P.G. ウッドハウス |
▼怪奇ものには、古くて豪奢なお屋敷がつきもの |
「幽霊」イーディス・ウォートン |
「デ・ラ・メア幻想短篇集」デ・ラ メア |
▼ゴシックロマンのお屋敷(マンダレー)
「レベッカ」デュ・モーリア 著/茅野美ど里 訳(新潮文庫)
ゴシックロマン…それはわたしにとって、イギリスの広大な「お屋敷」が出てくる小説。執事と女中頭と小間使いと朝の間と大理石のマントルピース、そして薔薇園や菜園を含む広大な庭が出てくる小説なのです!(…偏見かな〜^^;)
『レベッカ』は、言わずと知れたゴシックロマンの金字塔。どきどきはらはら、思わず一気読みしてしまう、ストーリーテリングの面白さがあります。 「ゆうべ、またマンダレーに行った夢を見た」 書き出しの一文から、イギリス人の「家」に対する思い入れ、執着心がまざまざと感じられるのが、なんとも興味深い(マンダレーっていうのは、お屋敷の名前)。 さてお屋敷に欠かせないのが家事使用人たちですが、この小説では執事の存在感が薄くて、家政婦頭が物語の上でも重要な役どころを担っています(やっぱり怖いんだな家政婦頭って…と思う^^;)。 自分がもし、ある日突然、マンダレーのようなお屋敷の女主人になったら…なんて思いながら読みすすめるのも楽しいですよ。 →Amazon「レベッカ〈上〉 (新潮文庫)」 「レベッカ〈下〉 (新潮文庫)」 |
▼オースティンのお屋敷(ノーサンガー・アビー、マンスフィールド・パーク)
「ノーサンガー・アベイ」
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「マンスフィールド・パーク」ジェイン・オースティン 著/大島一彦 訳(中公文庫)
『マンスフィールド・パーク』は、オースティン後期の名作。他のオースティン作品と比べると、少し地味で真面目な印象で、中公文庫版の硬めの訳が似合っています。
貧しい家に生まれた主人公ファニーは、十歳のとき准男爵サー・トーマスのお屋敷マンスフィールド・パークにひきとられます。引け目を感じたり、蔑まれることもあったりして、お屋敷の中でファニーは控えめで目立たない存在でしたが、やがて優しさと機知に富む女性に成長し、幸せを掴むのです。 マンスフィールド・パークはまさに英国のカントリー・ハウスで、ファニーは広大な敷地内で乗馬を楽しんだりしています。またオースティンの時代は『レベッカ』やウッドハウスの時代より古く、移動手段は馬車。だからおかかえ運転手じゃなくて、おかかえ馭者がいるんですよね〜。現代との生活習慣の違いが興味深い。 ファニーのために開かれる、マンスフィールド・パークでの舞踏会の場面も、女子なら必見です。 →Amazon「マンスフィールド・パーク (中公文庫)」 |
▼青春文学のお屋敷(ソーンフィールド)
「ジェーン・エア」C・ブロンテ 著/大久保康雄 訳(新潮文庫)
『レベッカ』は、『ジェーン・エア』の設定と、とても似ているところがあるのだそう。『ジェーン・エア』もまた、言わずと知れた名作。ゴシック小説ではないけれど、ゴシックの要素がたくさん盛り込まれているのだとか。
う〜ん、言われてみれば確かに。主人公ジェーン・エアは、女家庭教師(ガヴァネスっていうやつですね)として、ソーンフィールドという立派な古いお屋敷に勤めることになります。 そこで屋敷の主人ロチェスターと恋に落ちるのですが、ソーンフィールドでは屋根裏から不気味な笑い声が聞こえてきたり、ロチェスター氏の部屋に火がつけられたり、その真相を誰もがジェーン・エアから隠そうとして嘘をついたり…。 『ジェーン・エア』はリアリズムの手法で書かれた青春文学ではあるけれども、ゴシックロマンの要素も満載なのです。で、結局この非現実的なゴシックロマンのくだりが面白いと思ってしまうのは、わたしだけでしょうか?(^^;) →Amazon「ジェーン・エア (上) (新潮文庫)」 「ジェーン・エア (下巻) (新潮文庫)」 |
▼少女小説のお屋敷(ミッセルスウェイト)
「秘密の花園」バーネット 著/龍口直太郎 訳(新潮文庫)
『秘密の花園』は、バーネット女史の名作児童文学。つむじまがりの主人公メアリー嬢が、庭づくりを通して子どもらしさ、生きる喜びを獲得してゆく感動的な物語ですが、よく読んでみると、舞台設定がちょっとゴシックロマン風なんですよね。
『秘密の花園』の舞台は、ヨークシャーのミッセルスウェイトという古い大きな屋敷。イギリスの古いお屋敷で、十年も誰も入ったことがないという花園が噂され、時折どこかから聞こえてくる泣き声に、召使の誰もが気づかぬふりをする…。うーん、なんだか『ジェーン・エア』みたい。 まさにイギリスって感じの、ヒースばかりが生い茂るヨークシャーのムアを渡ってくる風の音、メアリーが子どもの足で見て回るには広大すぎるお屋敷、美しい調度に彩られた部屋部屋…。 庭師が丹精した美しい庭園はもちろんのこと、大人もディテールを楽しみながら読める作品だと思います。 →Amazon「秘密の花園 (新潮文庫)」 |
▼ミステリのお屋敷(ヴェリンダー邸、赤い館)
「月長石」ウィルキー・コリンズ 著/中村能三 訳(創元推理文庫)
ミステリの中にも、お屋敷が出てくるものはたくさんありますよね。
この作品に出てくるお屋敷は、イギリスのヴェリンダー邸。さまざまな伝承に彩られたインド寺院の秘宝「月長石」がヴェリンダー家に持ち込まれ、その時からお屋敷の周囲に常に無気味なインド人の影がつきまとい、ついにある晩、宝石が忽然と屋敷から消失してしまいます。 無気味なインド人が何らかの方法で盗んだのか、それとも、お屋敷の中の誰かが? 宝石を贈られたヴェリンダー家の令嬢レイチェル、宝石を運んできたレイチェルの従兄弟フランクリン・ブレーク、レイチェルに求愛したゴドフリー・エーブルホワイト。他にもレイチェルの誕生日のパーティに招かれた大勢の客や、召使たちも巻き込んで、捜査が続けられます。 お屋敷に興味のある向きには、月長石にまつわる伝承についてのプロローグに続く、ヴェリンダー家の老執事ガブリエル・ベタレッジの長い長い手記が、何といっても面白いでしょう。 ベタレッジのキャラクターが非常に魅力的で、手記を書くことになった、なんだかまだるっこしい説明から、 遅々として進まない物語を我慢して(?)読み進めると、いつのまにやらベタレッジ独特の語りの虜になっているのです。 ベタレッジ独特の語り…あえて言うならイギリスの裕福なお屋敷の老執事独特の語り、とでも申せましょうか。 論理的推理や犯人当てよりも、物語的興味がつよく読者をひきつける、イギリス最初の長編推理小説です。 →Amazon「月長石 (創元推理文庫 109-1)」 |
「赤い館の秘密」A・A・ミルン 著/大西尹明 訳(創元推理文庫)
A・A・ミルンといえば『クマのプーさん』で有名なイギリスの劇作家。『赤い館の秘密』は、ミルンが書いた唯一の推理小説であり、 この一作で彼の名はミステリ史上に残ることになりました。
ある暑い夏の昼下がり。15年ぶりに赤い館の主人を訪ねてやってきた、オーストラリア帰りの兄が突然殺され、 同時に館の主人は失踪してしまいます。事件の真相を探るのは、 ふらりと館に現れた素人探偵ギリンガムと、館に滞在していた友人べヴリーのコンビ。このコンビのやりとりが、実にほのぼのとしていて、良いのです。 ほかに登場人物は、赤い館の富裕な客人たちと、館で働く女中などの家事使用人たち。 わたしの個人的な意見では、この客人たちと家事使用人たちとが、 同じように人間味があり、キャラクターとして対等に公平に描かれている感じがしたのですが、これって作者ミルンの人柄でしょうか。それとも男性の目から見ているからでしょうか? たとえばアガサ・クリスティだと、女中とか召使とかの描写が、ちょっと差別的…?なんて思ってしまうのですが…(^^;)『レベッカ』でも新しい女主人と家事使用人たちとの関係の微妙さが描かれていますし、女性と男性では家事使用人に対する見方が違うのかもしれませんね。 →Amazon「赤い館の秘密 (創元推理文庫 (116-1))」 |
▼ウッドハウスのお屋敷(トトレイ・タワーズ、ブランディングズ城)
「ウースター家の掟」ウッドハウス・コレクションP・G・ウッドハウス 著/森村たまき 訳(国書刊行会)
ユーモア小説の大家ウッドハウス。『ウースター家の掟』は、富裕な有閑階級の紳士バーティと、有能な執事ジーヴスのコンビが繰り広げるコメディ「シーヴスもの」の大傑作長編!
美しき(はずの)カントリー・ハウス、トトレイ・タワーズで巻き起こる、たった一夜の怒涛の喜劇。 緊密なプロット、毒のある比喩と、古典や聖書の面白おかしい引用を駆使した、冴え渡る文体。最高にハッピーなコメディここにあり! 細かい説明などいりません、読むべし!です。 ウッドハウス作品には、素敵なカントリー・ハウスやマナー・ハウスがたくさん登場して、屋敷の主人もナントカ卿も、紳士淑女の皆様方も、執事も従僕も女中もコックも、みんなみんなミュージカル・コメディのように、陽気に歌って踊って笑わせてくれるって感じで、とにかくハズレ無しです。 女性が描くちょっと怖いようなお屋敷とはまた違った、パラダイスのようなお屋敷像がここにあります。 ウッドハウス氏にとって人間の原罪ないし<原初の不幸>は存在しない。彼の作中人物たちは禁断の果実を口にしたことのない人々である。彼らはいまだエデンの園に住まっている。ブランディングズ城の庭園は我々が皆追放された楽園の庭である。シェフ・アナトールはいと高きオリュンポス山の不死の人々のための食物を料理している。 ウッドハウス氏の世界が色あせることなど決してあり得ない。彼は我々の時代よりももっと索漠たる時代を生きるであろう将来世代の人々をも、その因われより解放しつづけることだろう。彼は私たちが生きられる、楽しめる世界をつくってくれたのだ 『ジーヴスの帰還』訳者あとがきに引用されたイヴリン・ウォーの言葉 →Amazon「ウースター家の掟 (ウッドハウス・コレクション)」 |
「ブランディングズ城の夏の稲妻」
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▼怪奇ものには、古くて豪奢なお屋敷がつきもの
「幽霊」イーディス・ウォートン 著/薗田美和子 山田晴子 訳(作品社)
『幽霊』は、『無垢の時代』で知られるイーディス・ウォートンが、実は熱心に書き続けていたという幽霊物語を集めた短篇集。
デ・ラ・メアにも通じる、恐怖や不安といったものを、あからさまにではなく、品よく、読者にじわじわと感じさせる幽霊譚の数々がおさめられており、こんな古めかしい幽霊譚には、やはりお屋敷がつきものなのです。 「カーフォル」「祈りの公爵夫人」は、ゴシック小説を連想させる古い館(まさにカバー写真のような)で、過去に起きた悲劇が明らかになります。 その悲劇というのが、ゴシック小説的で、上流階級で大金持ちで嫉妬深い夫が、妻を館の外に連れ出すことを嫌い、やがて妻の密通を疑い…という展開。中世の物語を読むときのようなタイムスリップ感が味わえます。 「ジョーンズ氏」「小間使いを呼ぶベル」は、やっぱり大きな屋敷が舞台で、姿の見えない執事や、死んだはずの小間使いの気配が、そこかしこに感じられ…という話。個人的には「小間使いを呼ぶベル」が好きでした。お屋敷に雇われている召使の暮らしぶりが垣間見えます。 「万霊節」は、大きなお屋敷の女主人が、足を怪我して眠られぬ夜をすごし、朝を迎えてみると、屋敷にたったひとり取り残されていて…という話で、この女主人が感じる孤独と静寂のおそろしさの描写が出色です。 →Amazon「幽霊」 |
「デ・ラ・メア幻想短篇集」W・デ・ラ・メア 著/柿崎 亮 訳(国書刊行会)
『幽霊』のイーディス・ウォートンが、「私が一級と太鼓判を押す、現代ただひとりの幽霊を呼び出すひと」と称えたデ・ラ・メア。
『デ・ラ・メア幻想短篇集』は、デ・ラ・メアの幻想短篇、本邦初訳10篇を含む計11篇がおさめられた、ファン垂涎の一冊です。 怪奇譚、しかも表紙カバーの装画がちょっと怖いのですが、臆せず手にとってみれば、それぞれ話の結びがまことにデ・ラ・メアらしい人情味にあふれた、なんともいえず心あたたまる作風を楽しむことができます。そして怪奇譚には、やはりお屋敷がつきもの。 「五点形」では、 亡き伯母から古い屋敷を相続した友人ビバリーに頼まれ、語り手である「私」がその屋敷に泊り込むことになります。ビバリーは、伯母の肖像画が、裏向けても椅子に置いても、次に見たときには必ずもとのとおり、壁にかかっているというのでしたが…。 古い屋敷や肖像画という道具立てが、古典的な幽霊譚という印象。謎は謎のまま終わるのですが、そこが決して消化不良な感じでなくて、心あたたまる雰囲気なのです。 「深淵より」は、豪奢な屋敷を相続した主人公ジミーが、眠れぬ夜に執事を呼ぶための引き紐をひくと、いないはずの執事がどこからか現われて…といった、やはり古典的な幽霊譚、そしてなぞめいた結末。屋敷の様子やジミーの見る幻が、デ・ラ・メアらしい複雑で込み入った描写でえがかれており、読み応えがあります。 「家」は、 手放すことになった家を、夜じゅう点検してまわるアスプレイ氏が、家への愛着や思い出からたちあらわれる幻を見る話。巻末の作品解題にもあるとおり、英国人の家屋敷への執着の念は、現代の日本人にとっては印象的です。 →Amazon「デ・ラ・メア幻想短篇集」 |
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