〜洗練された構図と色彩感覚、不思議に淋しげな雰囲気〜
●リスベート・ツヴェルガー ― Lisbeth Zwerger ―
1954年、オーストリアのウィーンに生まれる。
美術アカデミーで学んだ後、23才でE.T.A.ホフマンの『ふしぎな子』を出版、挿絵画家としてデビュー。 以降、グリム、アンデルセンなどの古典童話や、世界の古典文学の挿絵を好んで手がける。 1990年、国際アンデルセン賞を受賞。 現在、国際的にもっとも高い評価を得ている絵本画家の1人。ウィーン在住。 *リスベート・ツヴェルガー邦訳版最新刊 |
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「アンデルセン コレクション」リスベート・ツヴェルガー 絵/H・C・アンデルセン 作/大畑末吉 訳(太平社) |
8編のアンデルセン童話に、ツヴェルガーが絵を添えた、とても美しい絵本。縦長の装幀もしゃれた一冊。
「皇帝の新しい着物」「マッチ売りの少女」などの有名なおはなしの他、「火打箱」「小さいみどりたち」など、 日本では比較的なじみの薄いアンデルセン作品もおさめられています。 ツヴェルガーの挿画の際立った特徴は、ありきたりな場面を決して描かないこと。彼女が描くのはいつも、物語の行間をうめる、意外な瞬間ばかり。 そんな挿画は、アンデルセンなどの有名な作品を読むときに、読者が陥りがちな先入観を払拭してくれます。 どの挿画も印象的ですが、「眠りの精のオーレ・ルゲイエ」の死神の絵は、とりわけ心に残っています。 少し違った切り口から、アンデルセン童話を楽しみたい時に。 →Amazon「アンデルセンコレクション」 |
「クリスマス・キャロル」リスベート・ツヴェルガー 絵/チャールズ・ディケンズ 作/吉田新一 訳 (太平社) |
ディケンズの有名な物語に、ツヴェルガーが絵を寄せた、クリスマスにおすすめの絵本。やはり縦長の装幀。
お金がいちばん大事だと信じ込み、笑うことを忘れた男スクルージ。クリスマス・イブの夜、彼の前に、 かつての相棒マーレーの幽霊が現れます。鎖をひきずって、長く苦しい旅を続けているというマーレーの幽霊が、スクルージに語ったことは…。 絵本というよりは、豪華挿絵本とも言うべき一冊。わりと長めのおはなしなので、絵は数ページに一葉、という感じ。 上記『アンデルセン コレクション』と同じく、場面と場面のすきまを垣間見せてくれる挿画。 繊細な描線と、おさえた色使いの絵が、19世紀イギリスの風俗をよく伝えています。ページをめくるごとに変化していく、スクルージの表情に注目! →Amazon「クリスマス・キャロル」 |
「クリスマスのまえのばん」クレメント・クラーク・ムーア 詩/リスベート・ツヴェルガー 絵/江國香織 訳 (BL出版) |
サンタクロースのイメージを決定づけたクレメント・クラーク・ムーアの有名な詩に、リスベート・ツヴェルガーが絵を添えたクリスマス絵本。
とってもツヴェルガーらしい一冊、やっぱり彼女の絵は大好きです。 まず見返しに、トナカイや子どもたちが輪になって手をつないでいる様子が、雪の結晶のようなかたちにデザインされています。 その「雪の結晶」が、銀色や金色で、中のページにもおしゃれに配置されています。 あと、最初と最後に、ベッドに入っている、かわいいねずみが描かれていて、「それこそねずみいっぴき、めざめているものはありませんでした」という一文からくる絵なのだと思いますが、 こういう絵にする場面の選び方が、まさにツヴェルガー。 子どもたちよりトナカイやねずみなどの動物が、とってもユーモラスにかわいく描かれているところや、深いのに透明感のある繊細な色使いなども、もちろん素敵。 クリスマス絵本らしく、きらりと光る銀色や金色が効果的に使われていて、画面にアクセントをつけています。 派手さはないのだけれど、品のある、しずかな、美しい『クリスマスのまえのばん』。 BL出版や太平社のツヴェルガー作品の邦訳版は、表紙の日本語のフォントやレイアウトもおしゃれなので、クリスマスのオーナメントや小物とともに部屋に飾るもよし。 そしてイブにはぜひページを繰って、トナカイたちと夜空を駆けるサンタさんに思いを馳せたい一冊です。 →「The Night Before Christmas―特選クリスマスの絵本―」はこちら →Amazon「クリスマスのまえのばん」 |
「くるみ割り人形」E・T・A・ホフマン 原作/ズザンネ・コッペ 文/リスベート・ツヴェルガー 絵/ 池田香代子 訳(BL出版)〜音楽と朗読のCD付き〜 |
クリスマスイブの夜、ちいさなマリーは、ツリーの下に置かれたくるみ割り人形を見つけます。
夜がふけてから、マリーが目にしたふしぎなできごと。時計の上の金めっきのふくろうがしゃべりだすと、7つ頭のねずみの王さまとその軍勢が部屋を埋めつくし、
くるみ割り人形とおもちゃの兵隊たちが、彼らと戦いをくりひろげたのです。実はくるみ割り人形とねずみの王さまには、秘められた因縁話があったのでした。
ホフマンの有名な原作を、ズザンネ・コッペが短く書き下ろしたおはなしに、ツヴェルガーが絵をつけた作品。 1980年にもおなじ原作に絵を寄せたツヴェルガーは、2003年、新たにこの『くるみ割り人形』を描きました。 現実と空想とが、複雑にしかし美しくからみあった魅惑的な物語は、きっと画家の創作意欲をかきたてるのでしょう。 この『くるみ割り人形』は、きわめて洗練された美しい絵の数々が、おはなしに彩りを添えています。 思ってもみない意外な構図。淡い色はかろやかに淡く、深い色はこっくりと深く描かれ…さらに独特の絵具のにじみが、読者の空想をかきたてます。 →「クリスマスの絵本」はこちら |
「ちいさなヘーヴェルマン」リスベート・ツヴェルガー 絵/テオドーア・シュトルム 作/池内 紀 訳(太平社) |
いたずらな男の子ヘーヴェルマンは、乳母車を押してもらうのが大好き。いつも車を押してくれる母親が寝静まった夜、ふしぎなことが起こります。
船の帆にみたてたパジャマに、ヘーヴェルマンが息をふきかけると、乳母車がひとりでに動き出したのです。
その様子を見ていた、としよりのお月さまは、乳母車で町へ出たヘーヴェルマンに、やさしく寄り添います。
ツヴェルガーの絵本の中でも、わたしのイチオシの作品。 幻想的なおはなしが、ツヴェルガーのどことなく淋しい絵と調和して、不思議な味わいの絵本になっています。 絵やテキストを縁取る飾り罫、青を基調にした上品な色使い、お月さまの秀抜なデザインなど、ツヴェルガーの魅力を堪能できる一冊。 大人にも子どもにも、きっと深い印象を残すはず。 →Amazon「ちいさなヘーヴェルマン」 |
「ラクダのこぶは なぜできた?」ラドヤード・キップリング 作/リスベート・ツヴェルガー 絵/宮内悠介 訳 (ノルドズッド・ジャパン) |
『ジャングル・ブック』などで知られるキップリングの童話に、ツヴェルガーが絵をつけた作品。
この世がまだできたてのほやほやだった頃。ほかの動物たちがみんな働いているのに、 一頭だけ怠けているラクダがいました。そこへ砂漠の精霊ジンがあらわれて…。 キップリング自身が、実際に子どもたちに語ってきかせたという童話。 ところが子どもたちは、戦死などでたてつづけに亡くなり、作者は悲しみの中で、執筆を始めたのだそうです。 愛情と悲しみのうちに綴られた物語は、冷たさではなく、やさしさとあたたかみに満ちています。 ツヴェルガーの描く動物たちは、どこかユーモラスでかわいい。ワンポイントに配置されている模様なども、オリエンタルで素敵です。 →Amazon「ラクダのこぶはなぜできた?」 |
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