■ウォルター・クレインの絵本

〜花の妖精たちの華麗な宴〜


●ウォルター・クレイン ― Walter Crane ―

1845年8月15日、イングランドのリヴァプールに生まれる。
安価な絵本シリーズとして普及した「トイブック」において、日本の浮世絵の技法をいち早く用い、商業美術の世界に新風をもたらす。
その後ウィリアム・モリスと出会い、アーツ・アンド・クラフツ運動に参加、ケルムスコット・プレスのデザイナーとして活躍した。
1915年、没。
「トータルデザイン」を目指したモリスとクレインの合作『輝く平原の物語』は、現在日本でも晶文社から邦訳刊行されており、クレインの美しい挿絵23葉のすべてが収録されている。またスウェーデンの絵本作家エルサ・ベスコフも、クレインの絵に影響を受けている。

→「連想美術館」ウォルター・クレインのページを参照する



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「シェイクスピアの花園」

「マザーグースの塗り絵」

「Flora's Feast」



「シェイクスピアの花園」

ウォルター・クレイン 著(マール社)
シェイクスピアの花園
『シェイクスピアの花園』は、イングリッシュ・ガーデンとシェイクスピアの戯曲からイマジネーションをふくらませたクレインの美しい絵本『Flowers from Shakespeare's Garden』(1906)の復刻版です。
ローズマリー、三色スミレ、ヒナギク、野バラなど、シェイクスピアの戯曲に登場する花々が、美しく擬人化されて描かれています。

1ページに1種類の花の絵、シェイクスピアの戯曲からの短い引用が添えられ、絵の下に、ちいさく日本語訳が刷られています。
表紙カバーをはずした本体の表紙が原本と同じデザインになっていたり、紙も真っ白でなく生成りだったりと、クレインのクラシカルな絵の雰囲気を楽しめるよう装幀も工夫されています。
巻末にはクレインの作品と生涯について詳細な解説があり、これも楽しい。
イギリスではシェイクスピア作品はなじみ深いものですが(あらゆるイギリスの小説に、シェイクスピアの引用が見られますものね)、戯曲に登場した植物をテーマに造園された「シェイクスピアの庭」なんてものが、ほんとうにあるのだそうです。

擬人化された花々は、花の特徴を生かした美しい衣装をまとっていて、二人の淑女として描かれたカーネーションの絵など、当時の中流階級以上の女性たちの優雅な様子を思わせます。
こういった花の擬人化は、ベスコフやオルファース、クライドルフ等の絵本でなじんでいる人も多いと思います。クレインの絵は優雅で大人向けといった感じで、絵本好きな人は一見の価値ありではないでしょうか。

→「エルサ・ベスコフの絵本」はこちら
→「ジビュレ・フォン・オルファースの絵本」はこちら
→「庭・ガーデニングの絵本」はこちら
→「大人のための絵本―アートな絵に、うっとり」はこちら

→Amazon「シェイクスピアの花園

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「マザーグースの塗り絵」

ウォルター・クレインのアンティーク絵本より
ウォルター・クレイン 画(マール社)
マザーグースの塗り絵―ウォルター・クレインのアンティーク絵本より
『Walter Crane's Painting Book』は、1889年に出版された、世界で初めての「塗り絵」のための本で、ウォルター・クレインの絵本の中から選んだ絵が収録されています。
『マザーグースの塗り絵』は、『Walter Crane's Painting Book』の復刻版で、とても丁寧に作られています。

表紙カバーをはずした本体の表紙は、原本と同じデザイン、紙は真っ白でなく生成りで、アンティーク絵本の雰囲気が伝わってきます。
見開きの左ページに塗り絵用の線画、右ページにクレインのカラー画が配置され、クレインの絵をお手本にしながら色を塗っていく形式になっています。
しかもこの復刻版では、復刻部分に色を塗るのは抵抗があるだろうということで、巻末に画用紙にセピア色の線画を印刷した、現代の読者用の塗り絵ページがついているのです。う〜ん、こまやかな心遣い。
収録された絵は「マザーグース」「イソップ物語」「ゲーテ」「ライム」などをモチーフに描かれたもの。「マザーグース」の絵は、「ホカホカ十字パン」「ジャックとジル」「わたしは三艘の船を見た」「桑の木のまわりを」など6葉。
絵のもととなっている原詩とその日本語訳、クレインの生涯や作品についての解説も付されています。

クレインの絵は、日本の浮世絵の技法から採り入れた、はっきりした輪郭線を特徴としているので、なるほど塗り絵には最適であろうと思われます。
この本でクレインの絵だけをじっくり見てみると、やっぱりケイト・グリーナウェイやエルサ・べスコフにつながるものを感じますが、彼女らの絵もまた輪郭線がはっきり描かれているんですよね。
輪郭線をはっきり描く、といえばカール・ラーションの絵も思い出されますが、彼もまた日本の浮世絵に影響を受けたと言われています。クレインと、グリーナウェイ、ラーションは、生きた時代も重なっていますし、当時のヨーロッパでのジャポニスムの影響の大きさがうかがえます。
なにはともあれ、この一冊は当時の雰囲気を偲ばせる、優雅でクラシカル、たいへん贅沢な塗り絵本なのです。

→「エルサ・ベスコフの絵本」はこちら
→「ケイト・グリーナウェイの絵本」はこちら

→Amazon「マザーグースの塗り絵―ウォルター・クレインのアンティーク絵本より

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「Flora's Feast:
A Fairy's Festival of Flowers in Full Color」

Walter Crane 著(Dover Publications)
Flora's Feast: A Fairy's Festival of Flowers in Full Color
『Flora's Feast: A Fairy's Festival of Flowers in Full Color』は、『シェイクスピアの花園』と同じく、クレインのイマジネーションゆたかな絵本のひとつ。タイトルどおり、擬人化された花々、いわば花の妖精たちの、美をうたう華やかな宴が描かれています。

クロッカス、スノードロップ、マリゴールド、きんぽうげ…。どれも美しいけれど、やっぱり薔薇は華麗な庭の女王といったところでしょうか。でも個人的には忘れな草やすずらんなどの、ひっそりした花のほうが好みです。こんなふうに花々を観賞/鑑賞できるというのも楽しい。
画面構成や、花の擬人化という趣向は、『シェイクスピアの花園』と似ていますが、描かれた花は違いますし、同じ花があっても異なるデザインなので、見比べるのも興味深いです。

洋書だけれど、絵が中心で、テキストは短い花の説明だけなので、英語が読めなくても安心して楽しむことができます。

→Amazon「Flora's Feast: A Fairy's Festival of Flowers in Full Color

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ウォルター・クレインの絵本に興味をもったなら・・・

ウィリアム・モリス『輝く平原の物語』の紹介はこちら
「挿絵本のたのしみ」はこちら
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