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□ 2010/06/28(Mon) |
●エリザベス・ローズ 文/ジェラルド・ローズ 絵/ふしみみさを 訳 『ウィンクルさんとかもめ』(岩波書店) ●Laure Beaumont-Maillet 著『Atget: Paris』(Hazan Editeur) 『ウィンクルさんとかもめ』は、表紙の絵に惹かれて購入した絵本。 カラフルで、大らかな、愛嬌のあるタッチ。繊細な絵も好きだけれど、こういう絵も大好き。 巻末の著者紹介によれば、ジェラルド・ローズは油絵を学んだ人だというから、ざっくりした、それでいてセンスあるタッチも頷ける。 初版は1960年。古い絵本でよくみられる、カラーとモノクロの見開きが交互になった体裁。人物の表情にとぼけたような味わいがあり、イギリスの港町を舞台にしたお話なのだけれど、いかにもそれらしい風情の町並みが描かれていて、カラーもモノクロページもにぎやか。 トラック運転手さんがカフェで、コーヒーではなくお茶を飲んでいたり、市長さんの朝食のお皿に、燻製ニシンが出てくるところなども、いかにもイギリスらしい。 お話はわかりやすくって、ハッピーなもの。見返しが涼やかな水色で、水平線と、かもめと、魚たちが、なんてことない線画で描かれているのも見逃せません。 1961年、ケイト・グリーナウェイ賞受賞作品。 ウジェーヌ・アジェの写真を、もっと観たいと思い、この写真集を購入。 アジェの残した写真のうち840点が掲載された、厚さが6センチほどもある一冊。写真は地域別に整理され、撮影場所の地図→写真、地図→写真といった具合に編集されています。 ペーパーバックで、厚みはあるのに判型が小さいのは、パリの石畳のブロックのサイズになっているのだそうです。 わたしが入手したものは、1993年発行の『Atget Paris(←Amazon)』の、新しい版になるようです。 この新しい版は、写真の細部が白くかすれてよく見えない感じになっているものも多く、それが「技術面においては完璧主義者ではなかった」(*)というアジェのもともとの写真なのか、それとも印刷のためなのか、写真に詳しくないわたしには、よく分かりません。 ただ収録点数の膨大さには圧倒されます。やっぱり、「アジェのパリ」は、とても美しいです。 アジェの写真を観ていると、およそ百年も前のパリの街角を、公園を、路地裏を、歩き回っている気分になれます。 * ハンス・クリスティアン・アダム 編『ウジェーヌ・アジェのパリ』(タッシェン)アンドレアス・クラーゼの序文より →Amazon「ウィンクルさんとかもめ (大型絵本)」 |
□ 2010/06/22(Tue) |
●ハンス・クリスティアン・アダム 編『ウジェーヌ・アジェのパリ』(タッシェン) ●P・G・ウッドハウス 著/森村たまき 訳『エッグ氏,ビーン氏,クランペット氏 ウッドハウス・スペシャル』(国書刊行会) 『ウジェーヌ・アジェのパリ』は、タッシェンの「アイコン・シリーズ」の一冊で、A5判型のコンパクトサイズ。お値段も写真集にしては手ごろで、でも内容は本格的です。 ウジェーヌ・アジェ(1857-1927)は、古きパリを撮りつづけたフランスの写真家。 わたしはアジェについてあまり知っているわけではなく、写真も写真史も不案内なのだけど、「アジェのパリ」ってどんなだかずっと気になっていて、この写真集を買いました。 とにかく写真のことはよくわからないのだけど、ここに載っている、古きパリの写真は、美しいと感じました。 アンドレアス・クラーゼの序文によると、アジェはこれらの写真を「芸術家のための記録資料」として撮っていたのだそうで、写真家マン・レイの要請で雑誌『シュルレアリスト革命』に数点の写真を載せることになったときも、匿名で掲載するように言い、写真はドキュメントだということ、「それはドキュメントであって他の何ものでもない」のだということを、説明したのだそうです。 芸術ではない、作品なんかではない、記録資料。誰もいないパリの古い街角のモノクロ写真。 けれどもアジェの写真を観ていると、わたしは、記録資料であるはずのこれらの写真の中に、入っていってしまうのです。他の芸術的で創造的な何かを観るときよりも、静かに、つよく、ひきよせられて。 この本にも、コンパクトサイズにしてはたくさんの(おそらく選り抜きの)写真が収録されているけれども、もっともっと、アジェの写真を観てみたいと思ったことでした。 国書刊行会のウッドハウス・スペシャルの第2冊目。ビンゴ、フレディー・ウィジョン、ユークリッジらが登場する珠玉の短篇集。 ウッドハウス作品の邦訳は、国書刊行会と文藝春秋からそれぞれ刊行されていますが、興味深いのはやはり訳の違い。 訳は好みがあるから、意見は人それぞれだと思いますが、わたしはどうしても、森村たまきさんの訳を読んでいると、思わず笑ってしまうのです。 森村たまきさんは法律家で、もともと文学の翻訳の専門家ではないのだけれど、ウッドハウスの文体の面白さがわかりやすく伝わってくるのは森村さんの訳かなあと思う。 難しい熟語や引用をふんだんに盛り込んで、ちょっぴり毒舌も効かせて、珍妙にこねくり回された文体を、すっごいくだけた調子でおもしろおかしく訳してあって、バーティの語りとか笑わずにはいられません。 レディー・マルヴァーンは目線の威力でもって彼を凍りつかせようとしたが、そんなものはジーヴスには効かない。彼は完全防目線加工済みなのだ。 (『それゆけ、ジーヴス』92-93ページより) 「完全防目線加工済み」って、原文ではどうなってるんだろう…?→Amazon「アジェのパリ (アイコン) (タッシェン・アイコンシリーズ)」 |
□ 2010/06/14(Mon) |
●Edward D.Nudelman 著 『Jessie Willcox Smith: American Illustrator』(Pelican) ジェシー・ウィルコックス・スミスは、1863年フィラデルフィア生まれの挿絵・絵本画家です。 愛らしい子どもを描くことに長け、マザーグースやマクドナルド『北風のうしろの国』ほか、多くの作品のイラストを手がけています。 スミスによる絵本『クリスマスのまえのばん』は、1912年、およそ100年前に出版されたもので、クラシカルな雰囲気の絵がとても美しく、だからこそ、他に入手容易なスミスの挿絵本の邦訳版がほとんどないのは残念だと思っていました。 『Jessie Willcox Smith: American Illustrator』は、洋書で、全144ページ。そのうち46ページまでがスミスの生涯と仕事について英文で解説されており、あとのページにはColorplateが105点収録されています。 Colorplateは、大判の1ページに1点、または2点と大きくレイアウトされていて、ジェシー・W・スミスの愛らしい子どもたちの絵を、服装や背景の草花、雑貨などの細部までじっくり鑑賞できます。 この洋書には、『北風のうしろの国』の挿絵がほんの2、3点収録されていますが、スミスによる「北風」の姿は、どことなくラファエル前派の画家たちが描いたファム・ファタルのようでした。あと主人公のダイアモンドが愛くるしい…。 『北風のうしろの国』は良質の児童文学でありファンタジーなので、スミス挿絵の邦訳も、あれば良いのになあと思います。現在日本で刊行されているハヤカワ文庫版の、アーサー・ヒューズの挿絵も美しいのですけれど。 マザーグースの挿絵は7点収録されています。羊飼いのボー・ピープも、マフェットのお嬢さんも、つむじまがりのメアリー嬢もかわいい。 あと(おそらく)婦人向け雑誌(「Good Housekeeping」など)の表紙の絵も、多数収録されているのが興味深かったです。この時代、雑誌の表紙はイラストだったんですよね〜。 さて、ジェシー・W・スミスがどんな絵を描いているか詳しく知りたい方は、こちらのページ(→子どものための美しい庭「秘密の花園 My Secret Garden」)を参照してください。 ケイト・グリーナウェイやウォルター・クレインとともに、スミスの絵が多数紹介されています。楽しいですよ。 →「ジェシー・W・スミスの絵本」はこちら |
□ 2010/06/09(Wed) |
●Rosemary J. Barrow 著『Lawrence Alma-Tadema』(Phaidon Press) 衝動買い。 ローレンス・アルマ=タデマは、英国ヴィクトリア朝時代の画家。古代ローマ、古代ギリシャ、エジプトなどの歴史をテーマにした写実的な絵を数多く描いて人気を博し、ハリウッドの初期歴史映画などに、多大な影響を与えたのだそう。 どんな絵を描いているかは、こちらのページ(→子どものための美しい庭「ローレンス・アルマ=タデマの世界」)を参照してください。美しい絵がたくさんアップされています。 この本は洋書なので、ちょっと読めないのですが、大判でペーパーバック、ローレンス・アルマ=タデマの作品が、カラーで年代順に多数収録されていて、見ごたえたっぷりです。 古代ローマにもいろんな労苦はあったでしょうが、アルマ=タデマの絵を見ていると、まるで楽園のように思える…。眺めていると、そんな古代の世界へタイムスリップできる一冊です。 →Amazon「Lawrence Alma-Tadema」 |
□ 2010/06/03(Thu) |
●杉浦貴美子 著『壁の本』(洋泉社) テキスタイル作家を経て写真家となり「壁」を撮り続けている、杉浦貴美子さんの「壁」写真集。 杉浦貴美子さんの壁写真は、雑誌クウネル(→27号)で紹介されていたことがあって、以来、わたしも街角の「壁」が少し気になっていました。 この写真集におさめられた壁写真を知ると、そこらへんで見かける壁のシミやひび割れやパイプむき出しの様子などが、今までと違って見えてきます。 杉浦さんの感性で切り取られた「壁」たちは、パウル・クレーの絵のようだったり、コラージュアートのようだったり、美しかったりかわいかったり、とにかく見てると楽しいのです。 でもいくら現代芸術の作品のようでも、これらは間違いなくただの壁。杉浦さんのお気に入りの壁。そこがいいなあ、と思う。 芸術やアートって言われると身構えてしまうところがあるけど、ただの壁だと思えば親近感がわくというもの。わたしたちも街を歩けば、お気に入りの壁に出会えるかも? 「街中に絵があふれている」と、この本の帯には刷られています。 (→杉浦貴美子さんの壁写真、http://www.heuit.com/で見ることができます。楽しい!) →Amazon「壁の本」 |
□ 2010/05/28(Fri) |
●tinycrown 著/長島有里枝 写真『ヴィンテージ フォー ガールズ ヨーロッパで見つけたハッピーモチーフ』(ピエ・ブックス) ●P・G・ウッドハウス 著/森村たまき 訳『がんばれ、ジーヴス ウッドハウス・コレクション』(国書刊行会) tinycrown(タイニークラウン)は、ヴィンテージのジュエリー・衣類などを扱う女の子のためのウェブ・ショップ(http://www.tinycrown.com/blog/)。ロンドン在住のバイヤー、イセキアヤコさんが運営されています。イセキアヤコさんは、恵文社一乗寺店勤務ののち、独立された方です。 『ヴィンテージ フォー ガールズ』は、tinycrownの扱うヴィンテージアイテムを、写真家の長島有里枝さんが撮りおろした、オールカラーのヴィジュアルブック。 ヨーロッパの香り漂うヴィンテージアイテムは、どれもただかわいいってだけじゃなく、厳選されていて、とっても繊細だったり、かと思えば素朴でおおらかだったり、とにかくほのぼのするデザインのものが多くて、眺めているだけでまさに「ハッピー」な気持ちになれます。 ブローチの下に敷かれたクロスや、ハンカチがかけられたハンガーがかわいかったりして、そんなところも見逃せないので、じっくり時間をかけて写真を眺めてしまいます。 またそれぞれのアイテムのモチーフの意味について、巻末に簡単な解説がついていて、参考になります。「ノット」や「蹄鉄」の意味など、日本人にはへぇ〜そうなんだという感じで、面白い。 ブックデザインが乙女っぽくなくて、すっきりしてクールな感じなのが、むしろ素敵です。 言わずと知れたウッドハウス・コレクション最新刊! 『がんばれ、ジーヴス』は、訳者あとがきによると『ウースター家の掟』の続編をなすとのこと。ほか3短編を同時収録。 ウッドハウス読者の誰もが言ってることと思いますが、ウッドハウスにハズレなし。 それにしても森村たまきさま&国書刊行会さま、ブランディングズ城ものの長編、続刊の予定はまったくないのでしょうか…(ていうか、とてもとても読みたい! ジーヴスものとはまた違うけど、めっちゃ面白いではないですか!なんでウッドハウス・スペシャル完結しちゃうんですか!? 乞う続刊!です)。 →「かわいい旅と雑貨の本」はこちら →Amazon「ヴィンテージ フォー ガールズ―ヨーロッパで見つけたハッピーモチーフ」 |
□ 2010/05/17(Mon) |
●keiko kurita 写真・文『wonder Iceland』(mille books) ●P・G・ウッドハウス 著/岩永 正勝、小山 太一 編訳『マリナー氏の冒険譚 P・G・ウッドハウス選集V』(文藝春秋) 『wonder Iceland』は、フォトグラファーkeiko kuritaさんの写真集。 藤原康二さんがお一人で本を制作発行しているというブックレーベルmille booksの、初の写真集でもあるのだそうです。 いがらしろみさんのロンドンの旅についてのエッセイと、keiko kuritaさんの写真とで構成された『Milk Tea ロンドンのおいしいお茶とお菓子の時間』(これもmille books!)、この本がお気に入りで、表紙の写真とかとても素敵だなあと思っていたのです。 keiko kuritaさんの写真集がついに発売、しかもお値段も良心的!(写真集ってけっこう値のはるものだから、買うのを躊躇することが多い)ということで、即購入しました(^-^) アイスランドに心惹かれるというkeiko kuritaさんが、2004年〜2009年までに8回訪れて撮りためたという、「wonder Iceland」の写真。どれも静かで、透明で、きれいで、眺めているといい気持ちになります。 かわいいものも、いろいろ撮られているのだけれど、かわいいって前面に押し出してない感じがいいなと思う。 あさい緑の原っぱにタイヤで作られたブランコ、風に吹かれる黄色い花、ロープにとめられた赤や青のせんたくばさみ。なんてね。 写真の詳しいことはよくわからないのだけど、この写真集は、いい本だと感じる。 ウッドハウスの本なしには、もう生きていけないと思うときがある。 そんなわけで『マリナー氏の冒険譚』。文藝春秋のP・G・ウッドハウス選集第3巻であります。 謎の紳士ミスター・マリナーが、<釣遊亭(アングラーズ・レスト)>の客たちに語り聞かせる、奇想天外な物語。 ミスター・マリナー自身の体験でなく、マリナー氏の親戚たちの活躍が語られるとのことで、ジーヴスものでバーティを苦しめたあのロバータ・ウィッカム嬢も登場! 貴重なウッドハウス本(なにしろ一冊がけっこうなお値段)、大事にとってあるのでまだ読んでないけど、”紳士がクラブで客たちに語り聞かせるホラかもしれない奇想天外話”と言えば、ダンセイニの<ジョーキンズ・シリーズ>を思い出します。 この形式、イギリスもしくは西洋の人びとが好む短篇形式なのでしょうか? →『Milk Tea ロンドンのおいしいお茶とお菓子の時間』の紹介はこちら →Amazon「wonder Iceland」 |
□ 2010/05/10(Mon) |
●ニコラ・ベーリー 絵/由良君美 訳 『マザーグースのうたがきこえる』(ほるぷ出版) ●ルイス・キャロル 作・絵/安井 泉 訳『地下の国のアリス』(新書館) 『マザーグースのうたがきこえる』は、『ながぐつをはいたねこ』等の絵本で知られるニコラ・ベーリーが、とくに親しまれているマザーグース22篇に絵をつけてまとめた、美しい絵本です。 わたしは英語が読めないので、マザーグースのほんとうの面白さがわかるとは言えないのですが、絵本はこの伝承同童謡の世界への入口になるし、マザーグース絵本を見比べるのも楽しいです。 この絵本は、グリーナウェイやル・メール、クレインなどのクラシカルなマザーグース絵本とは違う、まさに「マザーグース絵本の歴史に新しいページを開いた」一冊だなと感じました。 細密に描き込まれた絵は美しく、ユーモラスでもあり、ニコラ・ベーリー自身の解釈(「Who killed Cock Robin?」の"the Bull"の解釈など)が与えられている部分もあり、興味深いです。 「One, two, / Bucle my shoe;」などは、英語の数え唄で、和訳だけを読んでも押韻の快さがわからず、面白みがないと思うのですが、この絵本のような愛らしい絵がついていると、とたんに魅力が増し、また違った視点でこの数え唄を読みかえしてみようという気にもなります。 巻末に、ちゃんと原詩も載っています。 『地下の国のアリス』は、『不思議の国のアリス』のオリジナル版。 そもそも『不思議の国のアリス』は、ルイス・キャロルが、リデル家の三人姉妹に即興で語り聞かせたお話がもとになっています。 キャロルはリデル家の次女アリスに、この即興の物語を自作の本に仕立てて(挿絵まで自分で描いて!)プレゼントしたのだそうで、タイトルは『地下の国のアリス(Alice's Adventures Under Ground)』となっていました。 のちに『地下の国のアリス』に新たなエピソードを加え、テニエルの挿絵を付して出版されたのが『不思議の国のアリス』なのです。 『地下の国のアリス(Alice's Adventures Under Ground)』の邦訳版は、『不思議の国のアリス・オリジナル』(書籍情報社)と、『地下の国のアリス』(新書館)の、ふたつあります。 『不思議の国のアリス・オリジナル』(書籍情報社)は、キャロル直筆の原本の美しい復刻版と、日本語訳とが2冊セットになっています。 『地下の国のアリス』(新書館)は、縦書きで刷られた読みやすい邦訳に、原本のレイアウトに最大限配慮しながらキャロル自筆の挿絵を付したものです。 わたしはキャロルの挿絵とともにテキストを楽しみたかったので、新書館版を購入しました。 でも書籍情報社の原本の復刻版は、ほんとうに瀟洒で素敵な装幀で、本好きにはたまらん!という気もします…(^^; →「ケイト・グリーナウェイの絵本」はこちら →Amazon「マザーグースのうたがきこえる」 |
□ 2010/05/03(Mon) |
●リスベート・ツヴェルガー 絵/レナーテ・レッケ 文/池田香代子 訳 『ハーメルンの笛吹き男 グリム兄弟『ドイツ伝説集』より』(BL出版) ●ルイス・キャロル 著/ジョン・テニエル 絵/安井 泉 訳 『鏡の国のアリス』(新書館) 『ハーメルンの笛吹き男』は、リスベート・ツヴェルガーの最新邦訳絵本。 グリムの『ドイツ伝説集』におさめられた、中世ハーメルンの町の子どもたちの失踪伝説を、レナーテ・レッケが絵本用のテキストにし、ツヴェルガーが美しい絵を添えています。 ツヴェルガーの絵は、上品な中にも、ユーモラスな表現もあったりして楽しい。いちばん最初の、食卓にあらわれたねずみを怖がる男を描いた一葉、ごく地味な絵なんだけれど、構図といい色使いといい、やっぱり素敵。 見返しやテキストページに添えられた絵も見逃せないし、困り者のねずみたちが可愛く描かれているのもツヴェルガーらしい。 おっ、と思うのが、ハーメルンの市長の部屋の壁に描かれた町の紋章。市長たちが笛吹き男を迎えた時には、2匹の獅子(?)が盾(?)を真ん中に向かい合っているのだけど、笛吹き男に約束の黄金を払うのが嫌になって、市長たちがあれこれ言い訳を考えて悪い顔になっているときの絵では、紋章の獅子(?)も、「けっ」て感じで横向いたりしてるのです。 こういう細かい仕掛けを見つけると、にやりとさせられます。 この有名なおはなしには、ル・カインやグリーナウェイなど、多くの絵本画家が絵を寄せており、わたしはグリーナウェイの『ハメルンの笛ふき』(文化出版局)を持っていますが、比較するのも面白いです。 『鏡の国のアリス』を読んだことがなくて、読むとしたらどの邦訳版がいいのかなと悩んだのだけれど、テニエルの挿絵が見たかったのと、装幀の美しさで、新書館版を選びました。 新書館は、ルイス・キャロルの本には力を入れているように感じる。アーサー・ラッカム挿絵の『不思議の国のアリス』も、美しい装幀で新書館から刊行されています。 まだ全部読んでいないけど、「不思議の国」のときより、アリスが少し成長していて、丁寧な対応ができるようになっていたり、背がのびたりちぢんだりと、アイデンティティの揺らぎにアリスが不安になることもないので、「鏡の国」のほうが読みやすいなあと、大人のわたしは感じます。 でも、この成長しちゃうアリスが、キャロルにとっては淋しく感じられたりもしたのでしょうね。 テニエルの絵は、モノクロの線画で、クラシカルで美しい。 アリスの愛らしさ、という点では、やはりラッカムの絵に軍配が上がる気はしますが…(^^; ラッカムにも『鏡の国のアリス』の挿絵を描いてほしかったなあ…(ラッカムのファンはみんな思っていることでしょうが…)。 →「リスベート・ツヴェルガーの絵本」はこちら →Amazon「ハーメルンの笛吹き男」 |