■ロード・ダンセイニの本

〜ケルト的幻想と詩情〜


ペガーナの神々 (ハヤカワ文庫 FT 5) 黎明の王女インザナが黄金の鞠をはじめて見つけたとき、この世はどこまでも暗く、神々の住まう聖地ぺガーナにおいてさえ、闇が閉ざしていた。玉髄と縞瑪瑙、玉髄と縞瑪瑙が一段ずつ段を形造る神々の階を駆け降りながら、彼女は黄金の鞠を空へ投げあげた。黄金の鞠ははずんで空へ上がり、髪をなびかせた黎明王女は神々の階に立って笑いさんざめいた。すると日が昇った。

―ロード・ダンセイニ 著/荒俣 宏 訳『ぺガーナの神々』所収
「黎明を創る」より抜粋

宇宙的視野をもつアイルランドの幻想小説家、ロード・ダンセイニ。
上記に引用したぺガーナ神話をはじめとするダンセイニ卿の作品群は、古雅で、壮麗で、たいへん美しいです。薄明に包まれたこの世界では、古めかしいものを愛する心、牧歌的な風景を愛する心、美を愛する心を、思う存分憩わせることができます。
このページでは、日本で刊行されたダンセイニ卿の本をご紹介。ダンセイニという名前は聞いたことがあるけれど、作品をまだ読んだことがないという皆様、難しく考えず、どうぞ気軽に手にとってみてください。

(※訳の違い等、作品が重複している場合がありますのでご了承ください)

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●著者紹介

●本の紹介

「世界の涯の物語」

「夢見る人の物語」

「時と神々の物語」

「最後の夢の物語」

「ぺガーナの神々」

「魔法の国の旅人」

「ヤン川の舟唄」

「ダンセイニ戯曲集」

「エルフランドの王女」

「魔法使いの弟子」

「影の谷物語」

「妖精族のむすめ」

「ダンセイニ幻想小説集」


●参考文献

「定本ラヴクラフト全集 7−1」

「ラヴクラフト全集 6」

「一千一秒物語」




●著者紹介


ロード・ダンセイニ

Lord Dunsany (1878-1957)

ロード・ダンセイニ肖像 アイルランドの劇作家・幻想小説家。
”ロード・ダンセイニ”は貴族としての称号であり、ファミリーネームはエドワード・ジョン・モートン・ドラックス・プランケット。
第18代ダンセイニ男爵。
軍人としてボア(南ア)戦争、第一次大戦に出征。旅行・狩猟を好み、クリケットやチェスの名手でもあったそうです。
1905年、処女作『ぺガーナの神々』を上梓。1909年、風刺劇『光の門』で劇作家としてデビュー。 イラストレーター、シドニー・H・シーム(Click!)とのコンビで多数の本を出版しました。

主な著書に、Time and the Gods(1906年)、The Sword of Welleran(1908年)、A Dreamer's Tales(1910年)、The Book of Wonder(1912年)、Fifty-One Tales(1915年)、Tales of Wonder(1916年)、Tales of Three Hemispheres(1919年)があります。
ケルト的幻想と詩情にみちた独特の作風は、ラヴクラフト、稲垣足穂ら、後の作家に多大な影響を与えました。

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●本の紹介


「世界の涯の物語」

ロード・ダンセイニ 著/中野善夫 他 訳(河出文庫)
世界の涯の物語 (河出文庫)
河出文庫のダンセイニ幻想短篇集成、第1弾。
The Book of Wonder(1912年)およびTales of Wonder(1916年)の全作品を収録、全篇訳し下し。
原書に収められていたS・H・シームの挿絵も全点収録されており、入手容易なダンセイニ作品としておすすめです。

永遠の薄明に包まれた<絶無の都>の真実を描く「彼はいかにして予言の告げたごとく<絶無の都>へいたったのか」、 世界の涯の街トン・トン・タラップの老門番が語る「老門番の話」等、 ダンセイニ卿の幻想短篇のなかでも、愉快で軽やかなお話が多くおさめられています。
またこの河出文庫の集成では、ダンセイニ卿の序文もしっかり収録されているのが注目で、Tales of Wonderのアメリカ版の序文などは、戦争を経験している著者の深い悲しみと希望を感じさせて、胸がつまります。
現実が辛ければ辛いほど、夢や魔法の物語が必要になるのだと思う。

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→Amazon「世界の涯の物語 (河出文庫)

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「夢見る人の物語」

ロード・ダンセイニ 著/中野善夫 他 訳(河出文庫)
夢見る人の物語 (河出文庫)
河出文庫のダンセイニ幻想短篇集成、第2弾。
The Sword of Welleran(1908年)およびA Dreamer's Tales(1910年)の全作品を収録、全篇訳し下し。
原書に収められていたS・H・シームの挿絵も全点収録されており、入手容易なダンセイニ作品としておすすめです。

大地と齢を同じくし星々を姉妹とする驚異の都の、栄華と崩壊を語る「バブルクンドの崩壊」、海の驚異とその驚異を知らぬ内陸の王国の運命を描く「海を臨むポルターニーズ」等、 古雅で壮麗な美しい幻想世界を描くお話が多くおさめられています。
これぞケルトの黄昏の光のなかに垣間見えるエルフランド、これぞダンセイニ!という作品集で、河出文庫の集成のなかでは、とりわけおすすめしたい一冊。
個人的に印象深いのは「追い剥ぎ」という作品で、これを読むと最後のところで、いつも泣いてしまうのです。

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「時と神々の物語」

ロード・ダンセイニ 著/中野善夫 他 訳(河出文庫)
時と神々の物語 (河出文庫)
河出文庫のダンセイニ幻想短篇集成、第3弾。
The Gods of Pegana(1905年)、Time and the Gods(1906年)、Tales of Three Hemispheres(1919年)の3巻を完訳。他にも生前単行本未収録の短篇11篇を収録、全篇訳し下し。
ぺガーナ神話については、原書に収められていたS・H・シームの挿絵も全点収録。ぺガーナ神話の完訳本として、たいへん貴重な一冊です。

ぺガーナ神話の全訳はやはり圧巻の素晴らしさですが、Tales of Three Hemispheres所収のヤン川三部作 「われわれの知る野原の彼方」も、広い意味でぺガーナ神話の一部をなす、非常に興味深い作品でした。
上記『夢見る人の物語』に収録されていた「ヤン川を下る長閑な日々」が、三部作の第一話として再録されています。 あの美しい物語に、続編があったというのは嬉しい驚きです。
わたしたち読者は、この本のページを繰って、とにかく旅立ちましょう。「われわれの知る野原の彼方」へ。

→「時と神々の物語」の読書日記はこちら

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「最後の夢の物語」

ロード・ダンセイニ 著/中野善夫 他 訳(河出文庫)
最後の夢の物語 (河出文庫)
河出文庫のダンセイニ幻想短篇集成、第4弾。
日本初紹介のThe Man Who Ate the Phoenix(1949年)を完訳、Fifty-One Tales(1915年)は差し換え作品を含めた52話の完全版を収録。 他にも没後初めて単行本収録された2短篇を収録、全篇訳し下し。
ホラ話風の、比較的とっつきやすいダンセイニ作品が多数おさめられており、おすすめです。

「五十一話集」は、日常と神話的要素が渾然一体となった、寓話ふうの掌篇がつみかさねられた作品集。文明への風刺のちりばめられているのも、読後つよく印象に残ります。
本邦初紹介の「不死鳥を食べた男」は、中期から後期への作風の移行期に書かれた、興味深い一篇。
幽霊、レプラホーン、バンシー、ジャック・オ・ランタン、魔女、そして妖精の女王までが登場する、嘘か本当かわからない噂話の数々が、 やがて村を覆いつくし伝説になっていく様は、初期・中期のダンセイニ作品がわかりにくいという読者にも、面白く読めるのではないでしょうか。

河出文庫のダンセイニ幻想短篇集成は、これで完結するわけですが、この集成が評判を勝ち得、後期のジョーキンズ・シリーズも続けて邦訳されることを、ファンの一人として、切に願っております(^^)

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「ぺガーナの神々」

ロード・ダンセイニ 著/荒俣 宏 訳(ハヤカワ文庫FT)
ペガーナの神々 (ハヤカワ文庫 FT 5)
一時絶版になっていたものの、復刊ドットコムの投票により復刊。
荒俣 宏氏の訳文も美しい、ダンセイニ初期の創作神話を多数収録した作品集です。

人間を持てあそぶ数多の神々は、大神マアナ=ユウド=スウシャイの紡ぐ夢に過ぎず、 そのマアナでさえも<宿命>と<偶然>とに支配される存在でしかない。世界はやがてかならず<終末>を迎え、<死>も、<時>さえも存在しなくなる――。
初めてこの神話に触れたときには、著者の深い絶望を感じました。でも何度も読みかえすうちに思ったのです。 ダンセイニ卿は、絶望の先にこそ見える光を、信じつづけていたのではないかと。

収載作品『川』などは、いつ読み返しても涙がこぼれます。
無慈悲な神々が住まうぺガーナに流れる、ひとすじの川。沈黙の川、あるいはイムラーナと呼ばれるその流れに、夜ごと、 夢の司ヨハルネト・ラハイの船が浮かびます。 遠い昔にむすばれた夢によって作られた、美しい灰色の船に乗り、ヨハルネト・ラハイは人間たちに、彼らがとうに忘れてしまった儚い希いを、古いふるいまぼろしを、かえしてまわるのです。
ぺガーナの残酷な神々のなかでも、夢を司る神ヨハルネト・ラハイには、深い慈悲を感じます。
そしてそれは、美しく残酷な神々の物語を紡ぎだしたダンセイニ卿自身の、人間世界への希望、あたたかな眼差しを、あらわしているのではないかと思うのです。

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「魔法の国の旅人」

ロード・ダンセイニ 著/荒俣 宏 訳(ハヤカワ文庫FT)
魔法の国の旅人 (ハヤカワ文庫 FT (47))
一時絶版になっていたものの、復刊ドットコムの投票により復刊。
ダンセイニ後期の<ジョーキンズ・シリーズ>から、荒俣氏が選りすぐった11篇を収録した短篇集。

<ジョーキンズ・シリーズ>は、ロンドンの場末のビリヤード・クラブで、世界中を旅してきたという古株の客ジョーキンズ氏が、奇想天外なホラ話を皆に語ってきかせるという趣向。 収録作品のひとつ「われらが遠いいとこたち」は、SFとしても楽しめるような火星旅行の物語です。
ここに収録された数々のホラ話は、ジョーキンズ氏に名を借りて、ダンセイニ卿自身が語ってきかせてくれているという印象で、『ぺガーナの神々』などの壮麗な創作神話群とはまた違った、ダンセイニ作品の軽やかな魅力を楽しむことができます。

さて、幻想的なカバー装画とシュールなカットは、風刺画家J.J.グランヴィルのもの。
古書蒐集家としても知られる荒俣氏の訳された文庫本には、名だたる挿絵画家の作品が収録されていることが多いので、ちょこっと載っている挿絵も見逃せません。

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「ヤン川の舟唄」

バベルの図書館26
ダンセイニ卿 著/原 葵 訳/J・L・ボルヘス 編纂 序文(国書刊行会)
ヤン川の舟唄 (バベルの図書館 26)
ボルヘスが編んだ<バベルの図書館>シリーズのなかの1冊。装幀も美しく、縦長の判型に函入り、月報付きで、表題作「ヤン川の舟唄」ほか、7篇の幻想短篇と戯曲1篇がおさめられています。

「ヤン川」はダンセイニ卿の想像力の泉から湧き出でて<夢の国>の領土を流れる、幻想の大河。 ヤンの岸辺に点在する都市や山河の名前は、読む者のイマジネーションを刺激せずにはおきません。
ベルズーンド、グールンザ、マンダルーン、アスタハン、ぺルドンダリス、イリリオン、バー・ウル・ヤン…。
さあ、わたしたちもダンセイニ卿とともに、いざ。幻想の大河ヤンを流れ下る、めくるめく驚異の旅路へ。

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「ダンセイニ戯曲集」

ロード・ダンセイニ 著/松村みね子 訳(沖積舎)
ダンセイニ戯曲集
すぐれた劇作家でもあったロード・ダンセイニの戯曲集。
「アルギメネス王」「アラビヤ人の天幕」「金文字の宣告」「山の神々」「光の門」「おき忘れた帽子」「旅宿の一夜」「女王の敵」「神々の笑い」の9篇がおさめられています。
どの作品もケルト的幻想とペシミズムに満ちた神秘劇で、舞台で上演されるのをぜひ観てみたいところです。

収録作品のひとつ「光の門」は、著者の劇作家としてのデビュー作。天国の入り口まで行った2人の男が、固く閉ざされた天の門を無理やり押し開けると、「中は空しい夜と星」「遠い星が途もなくさまよい歩いている」「無」であった、というお話。
生きていた頃の思い出や希望について話す2人の男ジムとビルの背後で、奇妙な笑声がおこり、天の門を押し開け「無」が現われる劇的な最後には、「残酷な激しい笑声」になります。幕が下りたあとも続く哄笑。
「神々の笑い」でも描かれるように、この怖ろしい笑声は、人間をもてあそぶ神々の声なのでしょうか。
戯曲は小説より簡潔なぶん、ダンセイニ作品特有の、無慈悲で残酷な神々の姿が際立ちます。

またこの戯曲集は、多数のケルト圏の文学を翻訳し、日本に紹介した大正期の歌人、松村みね子(本名:片山廣子)の格調高い訳文に触れることもできる、たいへん貴重な一冊です。
俺は思う、都会(まち)がいちばん美しいのは、夜が人家から滑り落ちて行く夜明けの少し後の時だ。都会はゆっくりと夜から離れて行く、ちょうど上着のように夜を脱ぎ捨ててしまう。 そして美しい素肌で立って何処かの広い河にその影をうつす。すると日が昇って来てその額の上に接吻する。その時が都会の一番うつくしい時なのだ。 男や女の声が街に起る、やっと聞えるか聞えないくらいかすかに、あとからあとからと起る。それがしまいにはゆったりと大きな声になって、どの声も一つに集まってしまう。そういう時には都会が俺に物をいうように俺はたびたび思う。 都会はあの自分の声で俺にいう。アオーブ、アオーブ、お前は何時か一度は死ぬ、わたしは此世のものではない、わたしは昔から何時も在ったものだ、わたしは死なないと。

『ダンセイニ戯曲集』所収「アラビヤ人の天幕」38ページより

→「片山廣子とケルト圏の文学」はこちら

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「エルフランドの王女」

ロード・ダンセイニ 著/原 葵 訳(沖積舎)
エルフランドの王女
ダンセイニの2番目の長篇小説。
人間の王子アルヴェリックが、魔法の国エルフランドの王女リラゼルを探して果てしない旅を続ける、うつくしい幻想小説です。

かつて人間は、人間を超える彼方の存在を信じ、畏れ、敬っていました。エルフランドとは「彼方の存在」の象徴です。 この作品は、つねに「彼方の存在」を見つめ、畏怖と憧憬の念を抱いていたダンセイニが描く、 エルフランドの探索と喪失の物語なのです。
現代を生きるわたしたちもこの作品を読んで、人間には到達できるはずもない叡智が存在することを、思い出したいものです。

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「魔法使いの弟子」

ロード・ダンセイニ 著/荒俣 宏 訳(ちくま文庫)
魔法使いの弟子 (ちくま文庫)
ダンセイニの第3番目の長篇小説。早川書房より刊行された作品が絶版となり、ちくま文庫で復活。
長篇第1作『影の谷物語』と同じく、スペインの黄金時代が舞台。 主人公ラモン・アロンソは、自らの影を代償に魔法使いと取引し、錬金術を会得しようとするのですが…。

魔法使いに影をとられてしまうというエピソードが印象的で、読後しばらく「自分の影」を意識するようになりました。
改めて考えてみると「影」はたしかに神秘的なもの。日本でも昔は「影踏み」という遊びがあったくらいですから。

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「影の谷物語」

ロード・ダンセイニ 著/原 葵 訳(ちくま文庫)
ダンセイニの最初の長篇小説。 スペインの黄金時代を舞台に、若き領主ロドリゲスと下僕モラーノの冒険の旅を描いた、上質な物語。

「〜でごぜえますよ」といったしゃべり方をし、旅に出るときにまず鍋とフライパンを荷造りするモラーノは、 なんとなく、トールキンの『指輪物語』に出てくるサムを思い起こさせるものがあり、実に愛すべきキャラクターです。
現在絶版となっていますが、Amazonではユーズド商品が出品されています。

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「妖精族のむすめ」

短篇集
ロード・ダンセイニ 著/荒俣 宏 編訳(ちくま文庫)
短篇集 妖精族のむすめ (ちくま文庫)
この本は、創土社版『ダンセイニ幻想小説集』『ぺガーナの神々』を元版とし、荒俣氏の編集により、ダンセイニ初期の創作神話が除外され、中期に書かれた幻想短篇のみが集められています。
一時期絶版になっていたものの、復刊ドットコムの投票および「ちくま文庫復刊フェア」の投票多数で、2005年11月、めでたく復刊しました。

上記で紹介している全4冊の河出文庫ダンセイニ幻想短篇集成では、本書収録の作品がすべて新訳で集成されています。ならばこちらの短篇集を読む価値がないかと言えば、決してそんなことはありません。
荒俣氏の編集は素晴らしく、選ばれている短篇はダンセイニ卿の作品群のなかでもとりわけ魅力的な、珠玉のファンタジーばかり。
また氏の訳文は、古雅で壮麗なダンセイニ卿の作品世界をよく伝える、美しい仕上がりとなっています。
たとえばフィオナ・マクラウドなら、荒俣氏よりも松村みね子女史の訳文がなじむと思うのですが、ダンセイニ卿の作品と氏の訳文とは、とても相性が良いと感じます。
美しく、ときに残酷で、ときに愛らしくもある幻想短篇集。初めてダンセイニ作品を読む、という方にはおすすめの一冊です。
わたしはこの短篇集で初めてダンセイニに出会い、その尽きせぬ魅力の虜となってしまったのですから。
そして遠い都市の光が空の端をわずかに照らし出し、幸福な農家の黄金色に輝く窓辺が闇を覗きこむころ、古く神聖なロマンスが、顔まで衣で覆いかくしながら小高い森から降りてきて、暗い影たちを喚んで踊りを命じ、森の生きものたちを夜空のもとへ誘い出しては、草で編んだ彼女の寝間にわずかなあいだ小さな土蛍の灯を点し、灰色の土地に静寂をもたらす。そして彼女の寝間から琴の調べが丘を越えてかすかに響きでる。

『妖精族のむすめ』所収「海を望む峰ポルター二イズ」より抜粋

→フィオナ・マクラウドの紹介はこちら

→Amazon「短篇集 妖精族のむすめ (ちくま文庫)

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「ダンセイニ幻想小説集」

ロード・ダンセイニ 著/荒俣 宏 訳編(創土社)
初期の創作神話・幻想短篇・後期のジョーキンズシリーズがそれぞれバランス良く収録された本。
荒俣氏の編訳により、ダンセイニの短篇の、もっとも美しい部分が抽出された作品集になっています。
ダンセイニにつよく影響を受けた作家・稲垣足穂氏が帯の推薦文を書いており、巻末の訳者による作品論は非常に読みごたえあり。

これ一冊でダンセイニを知ることのできる好著なのですが、残念ながら現在絶版。Amazonマーケットプレイスで、古書の取り扱いあり。

→Amazon「ダンセイニ幻想小説集 (1972年) (ブックスメタモルファス)

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●参考文献


「定本ラヴクラフト全集 7−1」

H・P・ラヴクラフト著 矢野浩三郎監訳(国書刊行会)
<クトゥルー神話>で知られるラヴクラフトは、ダンセイニにつよい影響を受け、ダンセイニ風掌編や評論を残しています。
この本に収録されている評論「文学と超自然的恐怖」「ダンセイニとその業績」は、 ダンセイニ作品に対する冷静かつ詳細な分析がおこなわれています。

→Amazon「定本ラヴクラフト全集〈7-1〉評論篇 (1985年)



「ラヴクラフト全集 6」

H・P・ラヴクラフト著 大瀧啓裕訳(創元推理文庫)
ラヴクラフト全集〈6〉 (創元推理文庫) この本にはラヴクラフト初期のダンセイニ風掌編が収録されています。
「白い帆船」はIdle Days on the Yann、  「セレファイス」はThe Coronation of Mr.Thomas Shapの影響をうけて執筆されたと言われています。

→Amazon「ラヴクラフト全集〈6〉 (創元推理文庫)



「一千一秒物語」

稲垣足穂 著(新潮文庫)
一千一秒物語 (新潮文庫) 「一千一秒物語」で知られる稲垣足穂は、日本でダンセイニの影響をもっともつよく受けた作家です。
収録作品の多くがダンセイニの短篇形式を彷彿させますが、とりわけ「黄漠奇聞」は、 ダンセイニ卿へ意識的にささげられたオマージュといえるでしょう。

→Amazon「一千一秒物語 (新潮文庫)

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ロード・ダンセイニの本に興味をもったなら…

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「ふたりのマクラウド〜スコティッシュ・ケルトの誇り〜」はこちら
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