□ 2007/12/25(Tue) |
●H・C・アンデルセン 原作/マルセル・イムサンド リタ・マーシャル 写真・構成/小杉佐恵子 訳『モミの木』(西村書店) ●J.R.R.トールキン 著/田中明子 訳『ブリスさん』(評論社) 『モミの木』は、西村書店から邦訳版が刊行されている、<ワンス・アポンナ・タイム・シリーズ>の中の一冊。 <ワンス・アポンナ・タイム・シリーズ>は、第一線で活躍するイラストレーターやアーティストたちの自由な発想で描かれた絵本のシリーズで、この『モミの木』は、サラ・ムーン 写真『赤ずきん』とともに、シリーズ中の異色の作品です。 アンデルセンの有名な童話「モミの木」を原作とした写真絵本なのですが、ただ木や森を撮ったものではなく、主人公であるモミの木は、なんとちいさな男の子。 この男の子が美しい森の中に佇む様子、そのあどけない澄み切った眼差し。 かなしい結末であるだけに、モミの木=男の子の姿が、なんとも清らかで痛々しく、胸に迫ってきます。 雪の白さや陽の光の美しさ、愛らしい動物たちの様子も魅力的。 大人も楽しめる斬新な趣向のこの『モミの木』、クリスマス絵本としてもおすすめの一冊です。 『ブリスさん』は、『ホビットの冒険』『指輪物語』などのすぐれたファンタジー作品を生み出したトールキンが、自分と子どもたちの楽しみのために書いた、ユーモアとナンセンスに満ちたたのしいお話。 トールキン教授の自筆の絵が添えられ、手ずから本の形に綴じられていたというこの作品は、 『サンタ・クロースからの手紙』同様、公表することを前提にして書かれたものではなく、生前には出版に至らなかったとのこと。 この本は、原書の構成に準じ、右にトールキンの自筆原本、左にそのテキストを日本語訳にして配してあり、 トールキン教授の味わいある(まるでビルボやフロドが書いたのかと思わせる!?)筆蹟も楽しむことができます。 この自筆原本をしみじみ眺めて思うことは、『サンタ・クロースからの手紙』にしてもそうなのですが、やっぱりトールキン教授、こういった趣向は、子どもを喜ばせるためと言いつつ、ご自身がいちばん楽しんでおられたに違いない!ということ。 プライベートな書簡や手作り本まで公表されてしまう、ということについて、トールキン教授自身がどのように考えていたのかは分かりませんが、 『サンタ・クロースからの手紙』や『ブリスさん』からは、トールキン教授の、すぐれた学者でありながら子ども心を失わない、素敵な人柄が伝わってきて、ファンにとってはやっぱり嬉しい。 こぶりで横長の判型、函入り、装幀も美しいユーモア絵本。 もちろん『指輪物語』のファンでなくても楽しめる、愉快でほのぼのした一冊です。 |
□ 2007/12/23(Sun) |
●シャーロット・ゾロトウ 文/タナ・ホーバン 写真/みらい なな 訳『パリのおつきさま』(童話屋) ずっと欲しいと思っていたのに、品切れになっていたこの絵本。 1993年の初版から時を経て、2007年9月にめでたく第2刷が発行され、やっと入手することができました。 たくさんの本が、掃いて捨てるように、発行されては返本され、絶版になっていくこの時代。 でもあきらめずに待っていれば、こういうこともあるんですね。 センセーショナルなベストセラーでなくても、良書と呼ぶべきものには、細々とでも流通し続けていてほしいと思います。 そんなわけで、『パリのおつきさま』。 シャーロット・ゾロトウのテキストと、パリの街を美しく切りとったタナ・ホーバンの写真とで構成された、写真絵本の名作です。 最初のページ。ゾロトウの言葉は、ごく静かに語りかけてきます。 おかあさんとおとうさんがパリへ行くことになり、おるすばんをする「わたし」。 パリですてきなものを見つけたら教えてねと、「わたし」はおかあさんに頼みます。 次のページからは、タナ・ホーバンの写真に圧倒されます。 まずは朝日に輝く花ざかりのマロニエの木の下を、少女が遊んでいる写真に「わあきれい」とひきつけられ、 虹やセーヌ川、バゲットを抱えて歩くパリジェンヌ、次々にあらわれるパリの風景に目を奪われます。 けれどもとりわけ素晴らしいのは、やっぱり最後のページの、ゾロトウの言葉。 パリで何がいちばんすてきだったのかとたずねる「わたし」に、おかあさんはこう答えるのです。 「あなたにも ぎんいろのひかりが とどいたでしょう。おつきさまから見れば、わたしたち地球上の生き物は、みんなすぐそばで、寄り添って生きている。 シャーロット・ゾロトウの、この視点の転換の自由さには、いつも感動させられます。 |
□ 2007/12/20(Thu) |
●ゼリーナ・ヘンツ 文/アロイス・カリジェ 絵/生野幸吉 訳 『大雪』(岩波書店) ●マーガレット・ワイズ・ブラウン 文/バーバラ・クーニー 絵/松井るり子 訳『うまやのクリスマス』(童話館出版) スイスの山村の農家で生まれ、数々の美しい絵本を描き、国際アンデルセン賞画家賞を受賞した絵本作家アロイス・カリジェ。 岩波書店から刊行されているカリジェの絵本は6冊ありますが、この『大雪』で、ついにすべて蒐集したことになります。うれしい。 自然に寄り添ったつつましい生活の様子が、実際の経験に裏打ちされた確かな筆づかいで、細部まで丁寧に描きこまれたカリジェの絵の魅力。 この『大雪』は、ゼリーナ・ヘンツの巧みなストーリーに、カリジェが美しい絵を添えたもので、タイトルのとおり、冬に読むのにぴったりの一冊です。 子どものそり大会のために、そりに素敵な飾り付けをしようと、協力するウルスリとフルリーナ兄妹。 ウルスリは、そりに飾る毛糸のふさを手に入れてくるようにと、フルリーナをつかいにやります。フルリーナは寒くて雪も降っているのにと、嫌がったのでしたが…。 山の冬の、厳しくも楽しい暮らし。この絵本からは、雪のおそろしさと美しさ、植物や動物たち自然の生き物のたくましさが、ひしひしと伝わってきます。 『うまやのクリスマス』は、マーガレット・ワイズ・ブラウンのテキストに、バーバラ・クーニーが絵を寄せたクリスマス絵本。 バーバラ・クーニーのクリスマス絵本は色々ありますが、これは初期のタッチで描かれた、地味だけれどもしみじみと美しい一冊。 カラーとモノクロのページが交互になっていて、カラーページに使われている色は、赤・黄・黒・水色のみ。 うまやのクリスマスの様子を語る詩のような短いテキストに、クーニーのあたたかみのある絵が寄り添って、神聖な夜の空気を伝えてくれます。 クーニーの描く、うまやの動物たちの愛らしいこと。 赤と水色(青)は、宗教画で聖母マリアの衣服に使われる色で、そんなところから使う色味が決められたのかなあなどと想像したりもします。 |
□ 2007/12/16(Sun) |
●植田 真 作『マーガレットとクリスマスのおくりもの』(あかね書房) 2007年11月刊行の、クリスマス絵本。 読み継がれてきたものを信頼しているので(というより自分の選書能力を信用していないというべきか)、新刊絵本を買うことが少ないのですが、 これは書店の店頭で、クリスマス絵本のコーナーにディスプレイされているのを一目見て、妙に惹かれて思わず手にとってしまったものです。 表紙は、黒い空を背景に、グレーの陰影をつけた白い大きな鳥に乗って飛ぶ少女の絵。 少女の服はグレイッシュなピンク色。 本を開くと、見返しも黒で、星と月が散りばめられていて、短いプロローグが語られています。 ページをめくると、余白の白が印象的な画面に、繊細な描線とごくひかえめな色づかいで、少女と、くるみわりにんぎょうと、鳥たちとが描かれていて。 これはまさに好みの絵だなあと、即買いしてしまったわけですが。 とりわけ大判のページに描かれる風景が素敵です。 主人公マーガレットの住むところ、グレーの冬空のしたにひろがる、モノクロに近い野原と森と。 この静謐な風景の中に、入っていきたいと思う。 もちろんテキストも、心温まるクリスマスのおくりものの物語に仕上がっていて、面白いです。 植田 真さんという作者の方について、まったく知らなかったのですが、巻末の著者紹介によると、江國香織『号泣する準備はできていた』の装画を手がけていらっしゃるとのこと。 ストーリーと絵を手がけた自作の絵本は、この『マーガレットとクリスマスのおくりもの』が2冊目なのだそうです。 江國香織さんの著作の装画を手がけていらっしゃることからもわかるように、大人の女性もきっと好みそうなタッチの絵。 大人も子どもも楽しめる絵本を、これからも期待しています。 |
□ 2007/12/09(Sun) |
●フィービとセルビ・ウォージントン 作・絵/まさき るりこ 訳 『ゆうびんやのくまさん』(福音館書店) ●ほし よりこ 著『きょうの猫村さん 1』(マガジンハウス) 『ゆうびんやのくまさん』は、ウォージントンの<くまさんシリーズ>のなかの一冊で、クリスマスの物語。 これだけはクリスマスの季節に買うぞと思い、ついに入手しました。 クリスマスにプレゼントを配達する、ゆうびんやのくまさんの一日。 シンプルなテキストに、英国の街の様子や室内雑貨などディテールの楽しめる絵が、やっぱり素敵。 この<くまさんシリーズ>、ほかに『せきたんやのくまさん』『パンやのくまさん』『うえきやのくまさん』『ぼくじょうのくまさん』の4冊が刊行されています。 (※『ぼくじょうのくまさん』のみ、童話館出版から刊行されています。) こぶりで入手しやすい価格なので、ぜひ揃えて楽しみたい絵本です。 『きょうの猫村さん』、続きを読まずにはいられなくて、やっぱり第2巻も購入。 表紙カバーのほのぼのした猫村さんの様子からは想像もつかない、けっこう濃いストーリー。 ほんと、外から見ただけじゃわからない、いろんな人生の坂道を、みんな登ったり下ったりしているわけで…なんてことも考えさせられてしまいます。 猫村さんを見習って、わたしもがんばらなきゃあ、って、きっとみんな勇気づけられてるんじゃないかな〜。 |
□ 2007/12/02(Sun) |
●J.R.R.トールキン 著/ベイリー・トールキン 編/せた ていじ 訳 『サンタ・クロースからの手紙』(評論社) ●ほし よりこ 著『きょうの猫村さん 1』(マガジンハウス) 『サンタ・クロースからの手紙』は、『ホビットの冒険』『指輪物語』などのすぐれたファンタジー作品を生み出したトールキンが、サンタ・クロースになりかわり、 自分の4人の子どもたちに毎年毎年送りつづけた手紙を、絵本のかたちにまとめた一冊。 つまり公表することを前提にして書かれたのではない、プライベートな書簡集なのですが、 それなのに、いえそれだからこそ、北極の切手や、サンタ・クロース独特のふるえた文字、雪のしみがついた封筒など、凝らされた趣向の何と楽しいこと! トールキンはサンタ・クロースからの手紙に、実に愉快な物語を織り込み、自筆のユニークな絵を添えています。 北極に住むというサンタ・クロースの住まいの様子、北極熊やエルフ、地の精(ノウム)といった仲間たちの繰り広げるトラブルやイベント、そしてゴブリンの攻撃と、 この手紙に書かれた内容は、『ホビットの冒険』『指輪物語』の読者には、あの美しい中つ国の消息を伝えるものとも読みとれます。 もちろん『指輪物語』を読んだことがなくとも、子どもたちへの愛情にあふれた、そしてトールキン教授自身が何より楽しんでいるに違いない、この手紙の面白さが減ずることはありません。 またトールキン教授の絵というのが、とぼけた落書きのようでありながら、細部まで描きこまれていて、何とも味わい深いのです。 ちょっと風変わりなクリスマス絵本として、おすすめの一冊。 『きょうの猫村さん』は、いまさら説明するまでもない、ネット発の大人気コミック。 猫村さんの科白を、女優・市原悦子さんの声で読んでしまうのは、わたしだけなのでしょうか? 猫村さんの後ろ姿、あのエプロンのたてむすびが、愛おしくてたまらない…。 |
□ 2007/11/25(Sun) |
●『one day 或る日 勝本みつる初期作品集』(月兎社) 京都にある評判の素敵な本屋さん、恵文社一乗寺店(Click!)を訪れたとき、 ギャラリー・コーナーにこの本が置いてあって、思わず目にとまりました。 表紙が、なんともいえず良くて。 ちいさく仕切られた箱の中に、レースのリボンだとかコサージュだとか、古いモノクロ写真のなかの少女の切り抜きだとか、ふしぎなものがたくさん入っている。 コラージュ、というのかな。なぜだかこういうものに惹かれるわたしは、手にとってぱらぱらとめくってみたのですが、収録されている作品はまさに、<コーネルの箱>に通ずる、箱のコラージュ。 うわあ〜、いいなあ、ちょっと欲しいかも。と思ったのですが、アーティスト勝本みつるさんという人について何の予備知識もなく、けっこうお値段のはる作品集でしたので、その場では買わなかったのです。 だけどどうしても気になってしまって。勝本みつるさんというお名前さえもうろ覚えだったので、恵文社さんのサイトで探して、いろいろ調べてみましたら(もちろんネットで)、勝本氏が女性だということが判明。 …そんなことも知らなかったわけですが。 それでわかったことは、勝本みつる氏は、アッサンブラージュと呼ばれる立体的なコラージュ作品などを作っておられる方で、たとえば小川洋子『薬指の標本』、 河出書房のModern&Classicシリーズの一冊『年老いた子どもの話』など、本のカバー装画もたくさん手がけていらっしゃるということ。 この作品集については、勝本みつるさんのオフィシャルサイトで中身を全ページフラッシュで見ることができて、見れば見るほど良くて、結局、Amazonで購入とあいなりました。 思わずひきよせられた表紙は、「仕事の周辺」として収録されている写真のなかの一枚で、版元である月兎社さんのブログによると、「アトリエの抽斗に眠る作品の住人候補たち」を撮影したものなのだそうです。 わたしは箱のコラージュといったらジョゼフ・コーネルしか知らなかったのだけれど、現代日本でもこんな美しいものをつくっていらっしゃる方がいるんですね。 驚きとともに、嬉しいです。 (* しかもこの本、Amazonでふつうに買ったのですが、何とサインいりだったんですよ! サイン本なんて初めて入手したので、わが目を疑ってしまいました) |
□ 2007/11/17(Sat) |
●岸田衿子 著/安野光雅 絵『ソナチネの木』(青土社) 岸田衿子氏の詩と、安野光雅氏の絵とが融和した、詩集のような絵本のような美しい一冊。 詩人、童話作家であり、『のばらの村のものがたり』や『かえでがおか農場のいちねん』、 『こねこのミヌー』など絵本の翻訳でも知られる岸田衿子さんの短詩は、平易な言葉でありながら深く、美しく、心の奥底に響いてきます。 安野光雅氏の絵は、幻想的で、音楽的で、なんとも不思議な味わい。おそらくは古めかしさを演出するために、黄ばんだ紙に描かれた絵は、砂漠に埋もれた岩壁に、古のひとびとが遺した壁画のよう。 そして紙の向こうにはうっすらと、楽譜が透けて見えるのです。 どこか遠くから聞こえる、かすかな旋律のように。 装幀もとても凝っていて、テキストはまっすぐに並んでいるだけではなく、ぐにゃりと曲がっていたり、逆さまになっていたり、絵の外に転がり出ていたりするのです。 この本の中に入ってゆくと、時を刻む砂に埋もれた遠い日々が、慕わしく甦ります。 わたしは 絵の中に入って行った 『ソナチネの木』24ページより |
□ 2007/11/10(Sat) |
●リスベート・ツヴェルガー 絵/イソップ 原作/吉田新一 訳 『イソップ12の物語』(太平社) ●リスベート・ツヴェルガー 絵/イディス・ネズビット 作/猪熊葉子 訳『国をすくった子どもたち』(太平社) ●『飛ぶ教室 児童文学の冒険 第4号』(光村図書) 『イソップ12の物語』は、国際アンデルセン賞受賞の人気絵本画家リスベート・ツヴェルガーが、自身で選んだイソップの物語12篇に、一葉ずつ挿絵をつけた絵本。 イソップ物語といえば、主な登場人物は擬人化された動物たちですが、確かなデッサン力で描写されるネズミやカラスやキツネの、なんとも表情豊かでユーモラスなこと! またツヴェルガーの絵といえば、はっとさせられる構図の魅力があげられるかと思いますが、とりわけ「月の親子」の挿絵などは、ツヴェルガーならではの洗練された一葉に仕上がっているのではないでしょうか。 『国をすくった子どもたち』は、『砂の妖精』などのファンタジーで知られるネズビットの風変わりな物語に、ツヴェルガーが絵を寄せた一冊。 少し昔のイギリスを舞台に、町中が「りゅう」であふれかえり、人々は生活を乱されてすっかり困ってしまい、やがてエフィとハリーの兄妹が、「りゅう」退治に出かけるというこのお話。 「りゅう」という、ファンタジーの道具立てとして重要な架空の生き物が出てくるわりに、幻想的な雰囲気はなく、むしろ淡々としてリアルな日常の描写が際立っています。 ファンタジーというより、現代文明への風刺の意味がより強く込められているのでしょうか。 ツヴェルガーの絵はやはり魅力的で、少し昔のイギリスの風俗が細やかに描写され、室内のテーブルやランプや暖炉、人々の洋服、そのテキスタイルデザインなど、見所がたくさんあります。 『飛ぶ教室 児童文学の冒険 第4号』の小特集は、「トーベ・ヤンソンのもうひとつの顔」。 2006年冬号なのだけど、<ポスト・ムーミン>と呼ばれるおとな向けの作品を取り上げた興味深い特集で、本邦初訳の掌編や、ムーミン以前の初期のイラストなどが収録されていることを友人に教えられ、思わず購入。 政治風刺雑誌「ガルム」にトーベが寄せたイラストの数々は、彼女のファンなら必見です。 あと、この小特集のことを教えてくれた友人とも話していたのですが、特集中に掲載されている金原瑞人氏のエッセイ「少女ソフィアの夏」の中に、ムーミン童話の原作のファンなら、ちょっとあれ?と思う言及があります(それは読んでみてもらえればわかります)。 とても有名な翻訳家であり書評もたくさん書かれている氏に対して偉そうなことを言うつもりはないのですが、 ムーミンってやっぱり日本では、ほのぼのやさしいファンタジーというイメージで、多くの人が捉えているのだろうなあ、と、少し残念に感じたことでした。 |
□ 2007/11/06(Tue) |
●銀色夏生 著 『流氷にのりました へなちょこ探検隊2』(幻冬舎文庫) ●銀色夏生 著『銀色ナイフ』(角川文庫) ●壇 ふみ 著『どうもいたしません』(ちくま文庫) ●岡尾美代子 著『Land Land Land 旅するA to Z』(角川文庫) かばんに入れて持ち歩いて気軽に読めるものをと思い、文庫を4冊。 銀色夏生については、彼女が、きらきらした恋愛詩(?)を書いていた頃からずーっと読んでいるのですが、 いまでは随分と作風も変わり、わたしも時々、好みに合ったものを、ちょこちょこ買っては読んで笑っています。 「へなちょこ探検隊」シリーズは、写真もふんだんに盛り込まれた笑える旅行記。第2弾『流氷にのりました』は、北海道知床でのおもしろ体験が綴られています。 これ読んでわたしはすっかり、編集者であり「へなちょこ探検隊」の旅の同行者でもある、菊池さんのファンになりました。 『銀色ナイフ』は、「つれづれノート」シリーズでも時折顔をのぞかせていた、銀色さんのクールで辛口な面を、あえて前面に出した一冊。 銀色さんの頭の中で日々考えられている辛口意見がくどいほど書き連ねられていて、しかもぶあついこの本。 Amazonのカスタマーレビューでは、やっぱり評価が低いですね!(笑) これは銀色夏生というプロの表現者に対して、きらきらした、ほのぼのした、やさしいあたたかいイメージを期待する読者には向かないけれど、 彼女のクールで厳しい偏屈な変わり者なところを愛してやまない読者には、かなり面白いのではないかと思います。 『どうもいたしません』は、女優でありエッセイストでもある壇 ふみさんの、ごく短いエッセイが多数まとめられた一冊。 阿川佐和子氏との共著も含め、実は壇 ふみさんのエッセイは結構読んでいます。 女優なのにここまで自分の恥ずかしい話を暴露していいのかという面白い内容、端正な日本語で綴られる一篇一篇の完璧な結構。 壇 ふみさんの綴られる文章は、なんともいえない品があって、ほんとうに大好きです。 『Land Land Land』は、スタイリスト岡尾美代子氏が、ライフワークである旅をテーマに著したおしゃれな本で、単行本から文庫化されたもの。 著者自身の手になるポラロイド写真と短いテキストで構成され、文庫だけど装幀も凝っていて、表紙をめくると透ける花柄の遊び紙がはさまれているところなんか、まさにガーリッシュ。 なんとなく、サイトデザインの参考になるかなと思って買いました(だけど本書を読んだ経験が生かされるかどうかは不明)。 |
□ 2007/11/03(Sat) |
●ささめや ゆき 著『ほんとうらしく うそらしく』(筑摩書房) 多くの絵本や童話の挿絵、イラストレーションで知られる、ささめや ゆき氏。本書は氏のエッセイ集で、書き下ろしのほか、雑誌等に発表したものに手直しが加えられて、一冊にまとめられています。 もちろん、著者自身によるイラストが多数添えられていて、これがまた氏の絵本のファンとしては嬉しい。 それにしても氏のテキストもまた、しみじみと魅力的。 これまでに氏が出会った人々や出来事が、独特の語り口で綴られているのですが、いったいどこまでがほんとうの話で、どこからが空想なのか…まさに、「ほんとうらしく うそらしく」書かれた、ふしぎな味わいのエッセイなのです。 また絵本『マルスさんとマダムマルス』『幻燈サーカス』に関連したエッセイが収録されているのも見逃せません。 なにしろ『マルスさんとマダムマルス』は、管理人の絵本蒐集のきっかけになった、だいじなだいじな一冊なので。 |
□ 2007/11/01(Thu) |
●エリザベス・スパイアーズ 著/クレア・A・ニヴォラ 絵/長田 弘 訳 『エミリ・ディキンスン家のネズミ』(みすず書房) 19世紀アメリカに生きた女性詩人、エミリ・ディキンスン。 生前に発表した詩は、わずか10篇。無名のまま生涯を閉じ、その人生の大部分を、ニューイングランド、アマーストの家の中でひきこもるように過ごした、なぞの女性。 しかし彼女が箪笥の抽斗にしまっていた46束もの詩稿は、彼女の死後、妹ラヴィニアの手によって世に出ることとなり、いまやエミリ・ディキンスンは、アメリカを代表する詩人のひとりに数えられています。 もし、そんなエミリの詩の数々が、ディキンスン家に住み着いた一匹の白ネズミと、エミリとの交流によって生まれたものだとしたら…。 このちいさな本には、そんな愛らしい着想で描かれた、ファンタジーとも言える物語がおさめられています。 ですが、引用されているエミリの詩は長田 弘氏の訳しおろしたもので、ひとつひとつのエピソードは事実に即しており、エミリ・ディキンスンの詩の世界への入門書としてもおすすめ。 エミリの部屋の壁穴に住み着いた白ネズミ、エマラインの詩(著者スパイアーズの手になる詩)も挿入されていて、これがまた素敵なのです。 クレア・A・ニヴォラによる、表紙のエマラインがなんとも愛らしい! 中の挿絵は繊細ななモノクロの線画で、物語とよく調和しています。 一つの心が壊れるのをとめられるなら 『エミリ・ディキンスン家のネズミ』16ページより、 |