■アロイス・カリジェの絵本

〜スイスの山々、自然に寄り添ったつつましく美しい暮らし〜


●アロイス・カリジェ ― Alois Carigiet ―

1902年、スイス中東部の山村トルンの農家に生まれる。
装飾画家の徒弟として絵を学び、チューリッヒでグラッフィックデザイナーとして活躍。 1940年に詩人ゼリーナ・ヘンツと出会い、山の子どもを描いた彼女の物語に心をひかれて絵本を手がけるように。
ヘンツとの絵本に『ウルスリのすず』(1945)、『フルリーナと山の鳥』(1952)、『大雪』(1955)、 文も絵も自ら手がけた絵本に『マウルスと三びきのヤギ』(1965)、『ナシの木とシラカバとメギの木』(1967)、『マウルスとマドライナ』(1969)がある。
1966年、第1回国際アンデルセン賞画家賞を受賞。
1985年、故郷トルンにて永眠。

↓タイトルのあいうえお順です。クリックすると紹介に飛びます。


「ウルスリのすず」

「大雪」

「ナシの木とシラカバとメギの木」

「フルリーナと山の鳥」

「マウルスと三びきのヤギ」

「マウルスとマドライナ」



「ウルスリのすず」

ゼリーナ・ヘンツ 文/アロイス・カリジェ 絵/大塚勇三 訳(岩波書店)
ウルスリのすず (大型絵本 (15))
元気な山の子どもウルスリ。いつもお父さんやお母さんを手伝って、よく働きます。 アルプスの山々の雪解けの頃に行われる、鈴行列のおまつりに、大きい鈴を持って行列の先頭を歩きたいウルスリは、 山の夏小屋に置いてある鈴をとりに、ひとりで山に入っていくのですが…。

『ウルスリのすず』は、ヘンツの物語にカリジェが絵を添えた作品。
このページで紹介している岩波書店刊行のカリジェの6冊の絵本の中でも、もっとも初期に描かれた一冊で、他の作品よりも描線は素朴で荒々しいのですが、そこがまたよし、なのです。
おはなしとしては、『フルリーナと山の鳥』よりも前の話で、ウルスリの幼い頃の出来事を描いたもののよう。
ゼリーナ・ヘンツによるテキストは、ちいさい子どもにやさしく語りかける調子で、読み聞かせにはぴったりです。

カリジェの絵の素晴らしさは言うまでもありませんが、たとえば家や山小屋の雑貨類の描写などには見入ってしまいます。
ウルスリが手にした大きい鈴の、皮のおびに施された花の刺繍の美しいこと。
実際の山の暮らしに基づいて、細部まで丁寧に描きこまれた絵は、子どもだけでなく大人にも、充分見ごたえがあります。

→冬の絵本の紹介はこちら

→Amazon「ウルスリのすず (大型絵本 (15))

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「大雪」

ゼリーナ・ヘンツ 文/アロイス・カリジェ 絵/生野幸吉 訳(岩波書店)
大雪 (大型絵本 (2))
子どものそり大会のために、そりに素敵な飾り付けをしようと、協力するウルスリとフルリーナの兄妹。 ウルスリは、そりに飾る毛糸のふさを手に入れてくるようにと、フルリーナをふもとの村までつかいにやります。フルリーナは寒くて雪も降っているのにと、嫌がったのでしたが…。

『大雪』は、ヘンツの物語にカリジェが絵を添えた作品。
タイトルのとおり、冬に読むのにぴったりの素敵な一冊です。
おはなしの途中には、大雪に見舞われたフルリーナがなかなか帰ってこないという、はらはらどきどきする展開が待ち受けているのですが、 このあたり、頭で考えただけの描写ではなく、ヘンツとカリジェ、実際の山暮らしを知る二人ならではの、たしかな筆づかいに圧倒されます。
山の冬の、厳しくも楽しい子どもたちの暮らし。
この絵本からは、雪のおそろしさと美しさ、植物や動物たち自然の生き物のたくましさが、ひしひしと伝わってきます。

『フルリーナと山の鳥』と同じく、見開きの右側にカラー絵、左側にテキストとモノクロの線画がレイアウトされていますが、カラー絵の美しさは言うまでもなく、 ちいさく描きこまれたモノクロ絵も、見逃せない味わい深さです。

→冬の絵本の紹介はこちら

→Amazon「大雪 (大型絵本 (2))

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「ナシの木とシラカバとメギの木」

アロイス・カリジェ 文・絵/大塚勇三 訳(岩波書店)
ナシの木とシラカバとメギの木 (大型絵本 (9))
スイスの山々の奥のほう、カンテルドンという村に、ちっちゃな家が一軒ありました。 タバコのドメニ、おくさんのネーサ、ビトリンとバベティンというふたりの子どもたちが仲良く暮らすこの家には、 とても年とったナシの木と、大きいシラカバ、そしてとげだらけの枝をもつ、メギの木のしげみがありました。

『ナシの木とシラカバとメギの木』は、文も絵もカリジェが手がけた作品。
絵がなんといっても素敵で、ナシの木とシラカバとメギの木に囲まれたお家も、シラカバの木の下のベンチに家族みんなで腰掛けてくつろぐ姿も、 とにかくすべてが美しく、あたたかいのです。
スイスの山奥の、ときに厳しく、ときに恩寵のように美しい自然のなかで、家族が寄り添い、土地に根を下ろして暮らしている様子が、 絵を眺めているだけでリアルに感じ取れて、それがたまらなく幸せで。

カリジェ本人が手がけたおはなしも、なんとも素朴で、ほんとうの悲しみと、ほんとうの喜びに満ちた、山の暮らしの現実を伝えています。
スイスの山村の農家に生まれたというカリジェでなければ描けない、とても素晴らしい絵本です。

→Amazon「ナシの木とシラカバとメギの木 (大型絵本 (9))

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「フルリーナと山の鳥」

ゼリーナ・ヘンツ 文/アロイス・カリジェ 絵/大塚勇三 訳(岩波書店)
フルリーナと山の鳥 (大型絵本 (18))
動物が大好きな、やさしい山のむすめフルリーナ。谷間に夏がくると、フルリーナの一家は村の家にさよならし、動物たちをつれ、道具をもって、朝はやく山の夏小屋に向かいます。 ほし草つくりや、牧場めぐり、山の夏小屋でのすばらしい日々に、フルリーナは一羽のオオライチョウのひなに出会います。

『フルリーナと山の鳥』は、ヘンツの物語にカリジェが絵を添えた作品。
子どもの頃、アニメ「アルプスの少女ハイジ」が大好きだったわたし。
『フルリーナと山の鳥』は、まさにハイジの世界!
少女フルリーナとその家族の、夏の山での暮らしを描いたこの絵本。牧場にヤギを放ち、ニワトリの面倒をみ、ほし草をつくる…。
自然に寄り添ったつつましい生活が、実際にそれを知っている画家の手によって細部まで丁寧に描かれており、ひじょうに読みごたえのある絵本になっています。
ゼリーナ・ヘンツによる物語がまた素晴らしく、自然の美しさとともに、厳しい一面もきちんと描写されています。

『大雪』と同じく、見開きの右側にカラー絵、左側にテキストとモノクロの線画がレイアウトされていますが、カラー絵の美しさは言うまでもなく、 ちいさく描きこまれたモノクロ絵も、見逃せない味わい深さです。

→「夏の絵本」はこちら
→ヨハンナ・シュピリ『アルプスの少女ハイジ』の紹介はこちら

→Amazon「フルリーナと山の鳥 (大型絵本 (18))

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「マウルスと三びきのヤギ」

アロイス・カリジェ 文・絵/大塚勇三 訳(岩波書店)
マウルスと三びきのヤギ (大型絵本 (6))
ヤギ飼いの少年マウルスは、夏のあいだだけ、村の広場のわきにある、シュチーナおばあさんのちいさな家に泊まっています。 マウルスは毎朝、村のヤギたちを預かって、山の牧場へとつれていくのです。なかでもシュチーナさんのヤギ、シロとアカとチビの三びきは、マウルスのお気に入り。ところが、ある日のこと…。

『マウルスと三びきのヤギ』は、文も絵もカリジェが手がけた作品。
ヤギ飼いの少年マウルスの一日を描いた、なんということもない素朴なおはなしなのですが、ちいさいヤギ飼いたちへの思いをつづった序文を読んだだけで、もう目頭があつくなるほど、作者の純粋な気持ちが伝わってきます。
ページを開くだけで、スイスの夏の山の清々しい空気を感じさせてくれるカリジェの絵は、一匹ずつ個性のちがうヤギたちの表情や、室内の雑貨のかわいらしさなど、細部まで見入るのもたのしいです。
いちばん最後の、マウルスの見ている夢の様子を描いた一葉が、なんともあたたかくて素敵。
たくさん働いた、たいへんな一日のあとに、マウルスがしあわせそうに寝入るところで終わるこのおはなしは、おやすみ前に読む絵本としても、おすすめの一冊です。
ふるさとの山々をたったひとりあるいていて、とおくのほうにヤギのむれのすずの音をきいたとき、 またはヤギのむれとであったとき、いつでもわたしは、よろこびでいっぱいになりました。

アロイス・カリジェ『マウルスと三びきのヤギ』序文より

→「夏の絵本」はこちら

→Amazon「マウルスと三びきのヤギ (大型絵本 (6))

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「マウルスとマドライナ」

アロイス・カリジェ 文・絵/大塚勇三 訳(岩波書店)
マウルスとマドライナ (大型絵本 (24))
夏のあいだヤギたちの世話をしていたマウルスは、秋になって家に戻り、おとうさんとおかあさんを手伝ってよく働いていました。 そんなマウルスのもとに、大きな町に住むいとこのマドライナから、招待の手紙が届きます。 じぶんの貯金箱から鉄道の切符を買うお金を出して、旅に出ることになったマウルスは…。

『マウルスとマドライナ』は、文も絵もカリジェが手がけた作品。
これは山に暮らす少年マウルスが、大きい町に住むいとこのマドライナを訪ねていくおはなしで、 町の子ハンシがクリスマス休暇に山に住む親戚を訪ねる、ベーメルマンスの『山のクリスマス』と、ちょうど反対のシチュエーションです。
『マウルスとマドライナ』では、マドライナの住む町の様子が美しく描かれていて、やはり細部まで絵に見入ってしまうのですが、 おはなしの中にはちゃんと自然の厳しさも織り込まれています。

スイスの山での暮らし、きっと現実には辛く厳しいものなのでしょうが、やっぱり良いなあと憧れもします。
雄大な自然の懐に抱かれて生きる人間の姿こそ、健気で美しいと、いつもいつも思うのです。

→ルドウィッヒ・ベーメルマンス『山のクリスマス』の紹介はこちら

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アロイス・カリジェの絵本に興味をもったなら・・・

ヨハンナ・シュピリ『アルプスの少女ハイジ』の紹介はこちら


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