■冬の絵本



雪、氷、冷たくすきとおった空気。冬の美しさを描いた絵本たち。



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「ウルスリのすず」

「大雪」

「しろいゆき あかるいゆき」

「ふたりの雪だるま」

「ふゆのはなし」

「ゆきのおしろへ」

「雪の写真家 ベントレー」

「雪の女王 アンデルセン童話集1」



「ウルスリのすず」

ゼリーナ・ヘンツ 文/アロイス・カリジェ 絵/大塚勇三 訳(岩波書店)
ウルスリのすず (大型絵本 (15))
元気な山の子どもウルスリ。いつもお父さんやお母さんを手伝って、よく働きます。 アルプスの山々の雪解けの頃に行われる、鈴行列のおまつりに、大きい鈴を持って行列の先頭を歩きたいウルスリは、 山の夏小屋に置いてある鈴をとりに、ひとりで山に入っていくのですが…。

『ウルスリのすず』は、ヘンツの物語にカリジェが絵を添えた作品。
岩波書店刊行のカリジェの6冊の絵本の中でも、もっとも初期に描かれた一冊で、他の作品よりも描線は素朴で荒々しいのですが、そこがまたよし、なのです。
おはなしとしては、『フルリーナと山の鳥』(Click!)よりも前の話で、ウルスリの幼い頃の出来事を描いたもののよう。
ゼリーナ・ヘンツによるテキストは、ちいさい子どもにやさしく語りかける調子で、読み聞かせにはぴったりです。

カリジェの絵の素晴らしさは言うまでもありませんが、たとえば家や山小屋の雑貨類の描写などには見入ってしまいます。
ウルスリが手にした大きい鈴の、皮のおびに施された花の刺繍の美しいこと。
実際の山の暮らしに基づいて、細部まで丁寧に描きこまれた絵は、子どもだけでなく大人にも、充分見ごたえがあります。

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「大雪」

ゼリーナ・ヘンツ 文/アロイス・カリジェ 絵/生野幸吉 訳(岩波書店)
大雪 (大型絵本 (2))
子どものそり大会のために、そりに素敵な飾り付けをしようと、協力するウルスリとフルリーナの兄妹。 ウルスリは、そりに飾る毛糸のふさを手に入れてくるようにと、フルリーナをふもとの村までつかいにやります。フルリーナは寒くて雪も降っているのにと、嫌がったのでしたが…。

『大雪』は、ヘンツの物語にカリジェが絵を添えた作品。
タイトルのとおり、冬に読むのにぴったりの素敵な一冊です。
おはなしの途中には、大雪に見舞われたフルリーナがなかなか帰ってこないという、はらはらどきどきする展開が待ち受けているのですが、 このあたり、頭で考えただけの描写ではなく、ヘンツとカリジェ、実際の山暮らしを知る二人ならではの、たしかな筆づかいに圧倒されます。
山の冬の、厳しくも楽しい子どもたちの暮らし。
この絵本からは、雪のおそろしさと美しさ、植物や動物たち自然の生き物のたくましさが、ひしひしと伝わってきます。

『フルリーナと山の鳥』(Click!)と同じく、見開きの右側にカラー絵、左側にテキストとモノクロの線画がレイアウトされていますが、カラー絵の美しさは言うまでもなく、 ちいさく描きこまれたモノクロ絵も、見逃せない味わい深さです。

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「しろいゆき あかるいゆき」

アルビン・トレッセルト 作/ロジャー・デュボアザン 絵/江國香織 訳
(BL出版)
しずかなよるに ふうわり おっとり
きたのそらから しいんと しろく
ひひと ふる ふりつもる こっそりと まいおりて
しずかなよるに ふうわり おっとり 

『しろいゆき あかるいゆき』冒頭の詩より抜粋

iconicon 秋の訪れを鮮やかに描いた『きんいろのとき』(Click!)と同じく、トレッセルトとデュボアザンのコンビによる作品。
この『しろいゆき あかるいゆき』は、ふたりが組んでつくったはじめての絵本とのこと。 トレッセルトの詩的な文章と、デュボアザンの色数をおさえた絵で、季節のうつろいが美しく切りとられています。

ゆきの降り始める様子を、ゆうびんやさん、おひゃくしょうさん、おまわりさんと彼のおくさん、 子どもたちとうさぎたちの眼差しをとおして、ゆっくりと丁寧に描いてある一冊。
グレー・黄色・赤・白のみで構成された絵は、冬の寒さと雪の冷たさ、しんしんと雪の降る夜のしずけさ、同時に家の中のあたたかさを感じさせ、なんとも味わい深いです。
テキストは、上記に引用した冒頭の詩の、江國香織さんの訳が印象的。またおはなしの結びが、奇をてらうわけでなく秀逸で、とても素敵だと思いました。
冬の夜にページを繰るのにぴったりの、しずかでおだやかな絵本。
コルデコット賞受賞作品です。

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「ふたりの雪だるま」

M.B.ゴフスタイン 作/谷川俊太郎 訳(すえもりブックス)
ふたりの雪だるま
くる日もくる日も雪が降りつづいたあと、やっと太陽が顔を出した朝。 「私」と弟は庭に出て、いっしょに雪だるまを作って遊びます。
「私」が弟に作り方を教えてあげて、おかしな顔の雪だるまが出来上がりました。
でも家に入ってから、「私」は悲しくなってしまいます。雪だるまはひとりぼっち、夜になっても。
「雪だるま作らなければよかった」、「私」は弟に言いますが…。

シンプルな線画がよく知られているゴフスタインですが、この『ふたりの雪だるま』は、珍しくパステルが使われ、ゴフスタイン独特の「線」が描かれていません。 グレーの、ざらっとした風合いのある紙に、パステルで、輪郭線のない簡略化された絵が描かれています。
雪の白、スノー・スーツの赤と水色、手袋のカーキとオレンジ…。描きこみすぎない画面に、パステルの色とりどりが、効果的にあたたかい雰囲気を醸し出しています。
人物の表情も描かれていない、ざっくりとしたタッチなのだけれど、「私」と弟の仲の良さや、お父さんとお母さんのやさしさがよく伝わってくる、想像の余地のある絵です。
テキストは短く、読みやすく、大人であれば読んでいるうち、自分の雪の日の思い出が浮かんでくることでしょう。谷川俊太郎氏の訳というのも見どころ(読みどころ?)。
表紙カバーのこっくりとした緑と、見返しの深い赤というコントラストもおしゃれで、部屋に飾っても素敵。これはクリスマス仕様の装幀なのかな?
寒い冬の日にページを繰ると、ほっこりあたたかくなるような一冊です。

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「ふゆのはなし」

エルンスト・クライドルフ 文・絵/おおつかゆうぞう 訳(福音館書店)
ふゆのはなし (世界傑作絵本シリーズ・スイスの絵本)
森に住む三人の小人たち。七年ごとに七人の小人をたずねて、雪あらしのなかを降りてくるという白雪姫に会うため、冬の森の深い雪のなかを出かけます。
その道のりで出会う、かわいい鳥たち、雪をかぶって怪物みたいに見える木々、まっくらい夜、踊る氷の精たち…。
やがて小人たちはリスに出会い、彼らの引くそりに乗って、七人の小人たちのところへ…。三人の小人たちは、白雪姫に会えるのでしょうか?

絵本に芸術性をもたらしたクライドルフの作品、この『ふゆのはなし』は、繊細で透き通るように美しい一冊。
何と言っても小人たちの様子が、とてもかわいい!三人の小人たちは、「年より」だと書かれているのだけれど、冬の森をゆく道のりでは、誰かや何かに出会っては立ち止まって、子どものように遊んでばかり。そうして遊んでいるときの、小人たちの、軽くてすばしこい感じ、仕草がなんとも愛らしいのです。
そして自然の描写の素晴らしさ。丁寧に細やかに描かれたすべての絵、透き通る雪と氷の色彩から、冬の森の美しさ、怖さ、冷たさ、楽しさが伝わってきます。
また「七年ごとに七人の小人をたずねて」くるという白雪姫のモチーフが、不思議で幻想的。白雪姫は美しい仙女さまかマリアさまみたいで、ディズニーの白雪姫とも、他のグリム絵本の白雪姫とも違います。

クラシカルで美しいクライドルフの絵本。作者のゆたかな想像力もさることながら、自然を見つめる繊細な眼差しに、はっとさせられます。
クライドルフの小人たちは、自然の風景に溶け込んで、なじんでいて、空想の産物という気がしない。
森の美しさ、草や木や虫たちや、風、雪、日の光。そういう自然に親しむことで、小人たちは当たり前のように、自然の一部として、作者の心に息づきはじめたのだろうと思います。

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「ゆきのおしろへ」

ジビュレ・フォン オルファース 作/秦 理絵子 訳(平凡社)
ゆきのおしろへ
マリーレンちゃん、まどべにすわり、ひとりぼっちでおるすばん。すると、そらからまいおりた、ゆきのこたちがさそいます。 「ゆきの女王のくにへ いこうよ」ぎんのそりにはこばれて、ついたところは、きらきらひかる、こおりのおしろ。

この絵本は、ファンタジーの世界に遊ぶ子どもを、あたたかい眼差しで素朴に描いた、オルファースの処女作です。 ゆきの女王のくにへ出かけていき、また戻ってくるというお話の筋立ては、完成されたファンタジーのかたちを踏まえています。
ゆきの女王といえばアンデルセン童話を思い出しますが、この絵本に登場するのは、母性にあふれたやさしい女王です。
主人公マリーレンちゃんを、ゆきのおしろに誘う<ゆきのこ>たちの愛くるしさ。 おしろに住んでいる女王さまの神々しくもやさしい眼差し。 どれをとっても、オルファースの絵の美しさに、うっとりさせられます。
ゆきのおしろから帰ってきたマリーレンちゃんを出迎える、 美人のおかあさんの横顔などは、どことなく、作者オルファースの写真の横顔と似ているような気がします(^-^)

→ジビュレ・フォン オルファースの絵本の紹介はこちら
→「アンデルセン童話の世界」はこちら

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「雪の写真家 ベントレー」

ジャクリーン・ブリッグズ・マーティン 作/メアリー・アゼアリアン 絵/
千葉茂樹 訳(BL出版)
雪の写真家ベントレー
アメリカの豪雪地帯の、ちいさな農村に生まれたベントレー。
農夫として働くかたわら、雪に魅せられ、生涯を雪の研究と結晶の写真撮影にささげます。 雪の専門家としての彼の業績は高く評価され、ベントレーが出版した雪の結晶の写真集は、世界中のひとびとに雪の神秘と美しさを伝えたのです。

雪の写真家ベントレーの生涯をつづった伝記絵本。書店の店頭で手にとったとき、ぬくもりのある版画、そこに描かれたアーリーアメリカンの暮らしぶりに魅せられ、購入を決めました。
じっくり文章を追ってみると、ベントレーの生き方や、彼をとりまくひとびとの温かさが、心にしみ入ります。
わたしはこの絵本で、はじめてベントレーという人を知りましたが、彼があくまで農夫として一生をおくったアマチュア研究者だったというのが、驚きでもあり、尊敬の念を抱かずにはいられません。
本の最後にベントレー自身の言葉が引用されていますが、こんな言葉が出てくるのも(下記引用参照)、彼がただ雪を愛した、ひとりの農夫であったからなのでしょう。

大人の心にも響く、珠玉の伝記絵本。
1999年の、コルデコット賞受賞作品です。

酪農家からは、いっぱいのミルクを。 そして、わたしの写真からも、おなじくらいだいじなものを受け取ってもらえるだろうと、わたしは信じている。

『雪の写真家 ベントレー』より

(※ ちなみに、ベントレーの雪の結晶の写真集は、現在でもアマゾン洋書ストアで購入できます。うーん、欲しいかも)

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「雪の女王 アンデルセン童話集1」

エドマンド・デュラック 絵/荒俣 宏 訳(新書館)
雪の女王 アンデルセン童話集(1) イギリス挿絵黄金期の実力派絵師エドマンド・デュラックが絵を寄せた、美しいアンデルセン童話集。
収載作品は「雪の女王」「豆つぶのうえに寝たお姫さま」「皇帝の新しい服」「風の話」の4編。
挿絵は「雪の女王」から7点、「豆つぶのうえに寝たお姫さま」から1点、「皇帝の新しい服」から1点、「風の話」から3点、 全部で12点のカラー絵が収録されています。

「雪の女王」や「風の話」は人生の真実を描いて奥深く、大人にこそ味わい深い童話ではないでしょうか。 この新書館版では、荒俣氏の訳文が優美で美しく、デュラックの挿絵は幻想の美と人生の悲しみとを、見事に描ききっています。
表紙にもなっている、氷の城に座す雪の女王を描いた一葉などは、つめたく凍りついた美しさに圧倒されます。

→エドマンド・デュラックの紹介はこちら
→読書日記に書いた、この本の感想はこちら
→「アンデルセン童話の世界」はこちら

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