■エルンスト・クライドルフの絵本

〜自然を見つめる眼差しから生まれた小人たち〜


●エルンスト・クライドルフ ― Ernst Kreidolf ―

1863年、スイスのベルンに生まれる。
石版工として学費をかせぎながら、ドイツのミュンヘンで美術学校に通い、絵をまなぶ。しかし過労のため体をこわし、1889年から1895年まで、療養のためアルプスのふもとパルテンキルヘンに住んだ。
その間、花々を主人公にした詩と絵が心に浮かび、みずから石版をつくって、1898年に絵本『花のメルヘン』(ほるぷ出版、絶版)を出版。
1917年にスイスに帰ったあとも、芸術性の高い絵本の製作をつづけた。
1956年、永眠。
代表作に、『ふゆのはなし』『くさはらのこびと』(ともに福音館書店)、『アルプスの花物語』(童話屋、絶版)などがある。

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「くさはらのこびと」

「ふゆのはなし」

「くさはらのこびと」

エルンスト・クライドルフ 文・絵/おおつかゆうぞう 訳(福音館書店)
くさはらのこびと (世界傑作絵本シリーズ―スイスの絵本)
大きな森の向こうに、くさはらのこびとたちが、家族いっしょに暮らしていました。こびとの家の上には、ばったたちが住み、屋根の草をぱりぱりと食べていました。
ご近所も仲が良く、みんなで遊びに出かけ、親戚の結婚祝いで大騒ぎ。
ところがある日、隣同士のこびとたちが、ばったのことで、ケンカになってしまいました…。

絵本に芸術性をもたらしたクライドルフの作品、この『くさはらのこびと』は、素朴で愉快な一冊です。
くさはらに住む、ばったよりもちいさい「こびと」たちの、なんということもない日々の暮らし。でも小人たちの日々は劇的でないからこそ素敵なんです。
クライドルフは、ほんとうに小人らしい小人(?)を描いているので、子どもの頃「コロボックル」に魅せられた小人好きの管理人にはたまらない。
虫眼鏡でくさはらをのぞいてみたら、小人たちが自然の中でちいさく幸せに暮らしていました、とでもいうような、繊細に描きこまれた絵が美しい。
こびとの家の屋根のうえに住んでいる「ばった」が写実的で、だからこそファンタジーなのにリアリティがあります。
この絵本を読むと、草原が小人の住処に見えてくる。姿の見えないちいさな虫たち、みどりいろのアマガエルたちがかさこそ草を揺らす、そんな草原をじっと見つめていると、ほんとうに「くさはらのこびと」たちに出会えるような、楽しい気持がしてくるのです。

→佐藤さとる「コロボックル物語」の紹介はこちら

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「ふゆのはなし」

エルンスト・クライドルフ 文・絵/おおつかゆうぞう 訳(福音館書店)
ふゆのはなし (世界傑作絵本シリーズ・スイスの絵本)
森に住む三人の小人たち。七年ごとに七人の小人をたずねて、雪あらしのなかを降りてくるという白雪姫に会うため、冬の森の深い雪のなかを出かけます。
その道のりで出会う、かわいい鳥たち、雪をかぶって怪物みたいに見える木々、まっくらい夜、踊る氷の精たち…。
やがて小人たちはリスに出会い、彼らの引くそりに乗って、七人の小人たちのところへ…。三人の小人たちは、白雪姫に会えるのでしょうか?

絵本に芸術性をもたらしたクライドルフの作品、この『ふゆのはなし』は、繊細で透き通るように美しい一冊。
何と言っても小人たちの様子が、とてもかわいい!三人の小人たちは、「年より」だと書かれているのだけれど、冬の森をゆく道のりでは、誰かや何かに出会っては立ち止まって、子どものように遊んでばかり。そうして遊んでいるときの、小人たちの、軽くてすばしこい感じ、仕草がなんとも愛らしいのです。
そして自然の描写の素晴らしさ。丁寧に細やかに描かれたすべての絵、透き通る雪と氷の色彩から、冬の森の美しさ、怖さ、冷たさ、楽しさが伝わってきます。
また「七年ごとに七人の小人をたずねて」くるという白雪姫のモチーフが、不思議で幻想的。白雪姫は美しい仙女さまかマリアさまみたいで、ディズニーの白雪姫とも、他のグリム絵本の白雪姫とも違います。

クラシカルで美しいクライドルフの絵本。作者のゆたかな想像力もさることながら、自然を見つめる繊細な眼差しに、はっとさせられます。
クライドルフの小人たちは、自然の風景に溶け込んで、なじんでいて、空想の産物という気がしない。
森の美しさ、草や木や虫たちや、風、雪、日の光。そういう自然に親しむことで、小人たちは当たり前のように、自然の一部として、作者の心に息づきはじめたのだろうと思います。

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