秋の気配を感じたら、ページを繰りたい絵本たち。
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「オーケストラの105人」カーラ・カスキン 作/マーク・サイモント 絵/岩谷時子 訳
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金曜日の夜。そとがだんだん暗く、寒くなってくる頃、家々の窓にあかりがともりはじめる頃。
町のあちこちでは、105人のひとたちが、仕事に出かけるしたくをはじめます。 からだを洗ってからだをふいて、下着をつけて靴下はいて、黒い服を着てそれから楽器を持って。バスやタクシー、自分の車や地下鉄で、彼らはひとつの場所に向かいます。町のまんなかにある、フィルハーモニック・ホールの大きい舞台へと・・・。 表紙画像だけ見ると、何がなにやら分からないこの絵本。よく調べてみると、面白そうな絵本だし、版元も信頼できるし・・・と思い購入したのですが、結果は大当たりでした。 とっても、とっても素敵な一冊。 オーケストラの105人が、仕事に出かける様子を、ユーモアたっぷりに描いた作品。 コミカルでありながら品のある絵と、オーケストラを構成するメンバーひとりひとりを見つめる、あたたかい眼差しが際立っています。 おふろの中で本を読むひと、寒がりなのであったかい下着をつけるひと、靴下に穴があいているひと、女のひとたちがいろいろな下着をつける様子、みんなの身支度の描写がほんとに面白くて、すみずみまでじっくり眺めてしまいます。 そんな人間味あふれる105人が、最後に奏でる音色の感動的なこと! 秋の夜長に、音楽を聴くように、ページを繰りたい絵本です。 ※すえもりブックス版は絶版ですが、2012年6月、あすなろ書房より『105にんのすてきなしごと』として復刊されています。 →Amazon「オーケストラの105人」 |
「おばけリンゴ」ヤーノシュ 作/やがわすみこ 訳(福音館書店) |
びんぼうなワルターは、いっぽんのリンゴの木を持っていました。けれどもその木には、ひとつも実がなったことがなく、ワルターは、よそのリンゴの花や実を見ては、うらやましく思っていました。
ワルターは祈りました。「ひとつで いいから、うちのきにも リンゴが なりますように」 願いが叶って、ワルターのリンゴの木にも、すてきな白い花がひとつ咲きました。ワルターは大喜びで花の世話をし、秋には実がなりました。 ところがワルターのリンゴは、あまりに大きく、大きくなりすぎ、とうとうおばけリンゴになってしまいました。おばけリンゴは市場でも売れず、悲しく情けない気持ちになるワルターでしたが…。 『おばけリンゴ』は、洋古書絵本のネットショップで絵を見かけて、素敵だなあと思い、入手しやすい邦訳版を購入しました。 この一冊は、ヤーノシュ初期の画風で描かれていて、たっぷり塗り重ねられた絵の具の質感と、奔放な筆づかいが魅力的。 リンゴの花に手をかざして風から守ろうとするワルターの絵、画面の大半を占める青空に、走る筆のあとが、ありありと残っています。こういうプリミティブな画風は、大好き。 ワルター他、登場人物の描き方もユーモラスで、子どもが描いた絵のようでもあります。 ですが、鮮やかな緑が広がるページの次には、夜の青。次は赤を基調とした絵。次はまた草原の緑とリンゴの赤というふうに、色づかいの変化に富んださまは、やはり計算されたものだろうなと感じます。 ワルターの部屋の、バラもようのピンクの壁紙だとか、ベッドに描かれた花の絵だとかの、ディテールも見逃せません。 何といっても、主人公ワルターのリンゴの木に、夜、一輪の白い花が咲く絵は、出色。白い月の光に染まったように、青い夜に浮かぶ白い花。幻想的な一葉です。 おはなしは、教訓があるようでないような…後半には、おばけリュウを退治するエピソードもあって、子どもが楽しめる展開になっているのではないでしょうか。 →ヤーノシュ『おばけリンゴ』のヴィンテージ洋書絵本、「キュリオブックス」で購入可能、中の絵も確認できます。 →Amazon「おばけリンゴ (世界傑作絵本シリーズ―ドイツの絵本)」 |
「風さん」ジビュレ・フォン オルファース 作/秦 理絵子 訳(平凡社) |
元気な風さん、いいごきげん。こぶねをうかべて、あそんでる、岸べのハンスの手をとります。
さあいこう、ずっととおくまで。野原をつっきり、木にのぼり、落ち葉をまいあげ、雲にのる。
ふたりのすてきな、秋の一日。 この絵本では、子どもどうしの出会いと成長、自然と触れ合う楽しさなどが、短い文章と美しい絵で表現されています。 風の精らしき「風さん」と少年ハンスとの出会いは、エルサ・ベスコフ『ラッセのにわで』を連想させます。 『ラッセ…』では、庭という小さな空間に、種々多様な植物たちが共存している様子が丁寧に描写されていますが、この作品では、 風さんとハンスとの楽しい遊びの様子が、生き生きと描かれています。 遊びに興じる子どもたちの姿と美しい秋の景色が、ページを繰るごとにあらわれ、読者の目を楽しませてくれます。 →オルファースの絵本の紹介はこちら |
「きんいろのとき」ゆたかな秋のものがたりアルビン・トレッセルト 文/ロジャー・デュボアザン 絵/江國香織 訳
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きりぎりすがなきはじめたら、秋の気配。夜がながくなり、こがねいろの小麦がゆたかに実り、畑からは刈りとり機の音がひびきます。
やがて最初の霜がそっとおりると、木々は赤に金色にうつくしく染まり、りすたちは森で木の実を集めては、ひみつのあなにかくします・・・。 ゆきの降り始める様子を静かに描いた『しろいゆき あかるいゆき』と同じく、トレッセルトとデュボアザンのコンビによる作品。 『ゆくえふめいのミルクやさん』と同じく見返しも凝っていて、秋に実る野菜や果物、瓶詰め、はちみつなどの絵が描かれています。さらにテキストのまわりを囲む絵も素敵。デュボアザンのしゃれたタッチは、大人が眺めても楽しめます。 夏の終わりから晩秋へ、うつろう季節をじっくりと見つめる、ゆたかな時間が綴られたテキスト。金色にかがやくように見える黄色が目に鮮やかで、これは海の向こうの秋の風景を描いた絵本だけれども、読んでいて、日本の身近な紅葉の美しさも、また思い出されてくるのです。 →Amazon「きんいろのとき―ゆたかな秋のものがたり」 |
「コーギビルの村まつり」ターシャ・テューダー 著/食野雅子 訳 (メディアファクトリー) |
この絵本は、ターシャ・テューダーの人気作品「コーギビル・シリーズ」の記念すべき第一作。
コーギビルは、コーギ犬と猫とウサギとボガートが住んでいる小さな村。 住民みんなが楽しみにしている村まつりでは、ヤギレースが開かれ、毎年大にぎわい。 コーギ犬のケイレブは、レースに向けてヤギの調教に気合が入りますが、 優勝を狙う猫のエドガー・トムキャットが、何やら企んでいるようで…。 とても楽しい絵本。コーギビルの様子が、細部まで丁寧に描きこまれていて、じっと見入ってしまいます。 動物たちも、写実的でありながらかわいらしく、ターシャの愛するコーギ犬は、ほんとうに生き生きと魅力的。 空想で描かれたのではない、実際のおまつりの様子をスケッチしたのであろう絵の数々は、 読者に、この村まつりに参加してみたい、と思わせずにはおきません。 →Amazon「コーギビルの村まつり」 |
「どんぐりぼうやのぼうけん」エルサ・べスコフ 作・絵/石井登志子 訳(童話館出版) |
この絵本は、いたずらな兄弟、どんぐりぼうやのオッケとピレリルの、ちいさな冒険を描いています。
風にさらわれる、かしわの葉っぱに乗って、空高く飛ばされたどんぐりぼうやたち。 落ちたところは小人のおばあさんたちの洗濯やさん。仕事をだいなしにしたおわびに、森じゅうの家に洗濯物を運ぶことになった2人ですが…。 はじばみのヌッタ、マロニエの子どもたち、りすのスバンス氏などの個性ゆたかな登場人物と、森の風景。 ベスコフ得意の擬人化された自然の描写が秀逸で、味わいとしては『もりのこびとたち』に似ています。もちろん、どちらも面白いです。 ベスコフの描く子どもや小人、動物たちは、ほんとうにかわいらしくて元気いっぱい。 最後のページの、夜のパーティの絵が楽しそうで、仲間に入りたくなってしまいます。 →Amazon「<どんぐりぼうやのぼうけん」 |
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