■夏の絵本



山の夏、海の夏、北欧の夏、夏の喜びが描かれた絵本たち。



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「ガンピーさんのふなあそび」

「すばらしいとき」

「フルリーナと山の鳥」

「マウルスと三びきのヤギ」

「ジス・イズ・ヴェニス」

「おひさまがおかのこどもたち」

「オンネリとアンネリのおうち」

参考:「少女ソフィアの夏」



「ガンピーさんのふなあそび」

ジョン・バーニンガム 作/光吉夏弥 訳(ほるぷ出版)
ガンピーさんのふなあそび
川べりに住むガンピーさん。ある日、ふねで漕ぎ出すと、こどもたちにうさぎ、ねこ、いぬ、ぶた、ひつじ、にわとり、こうし、やぎたちが、次々にわたしも乗せてとやって来ました。「いいとも」とガンピーさんはみんなを乗せて、はじめは楽しかった川下りでしたが…。

ケイト・グリーナウェイ賞を受賞した、バーニンガムの有名な作品。ちいさな子どもにも楽しめる、単純なくりかえしのストーリーは、のんびり、ほのぼのしています。
ほのぼのしたお話にぴったり寄り添う、やさしいタッチの絵は、ネットで表紙画像を見ているだけでは分からないのだけれど、軽やかで爽やかなだけでなく、深みや渋みもあるバーニンガム独特の色合いで描かれていて、とても美しい。
ガンピーさんが、自分の家の前で舟を漕ぎ出すシーンの、静かなみどりいろの絵を見て、もう「大好き〜」と思ってしまいました。
にぎやかな川下りのしめくくりに、みんなでティータイムを楽しむというのも、イギリスらしくて素敵。
夏に読むのにぴったりの、なんとも涼やかな一冊です。

→「ジョン・バーニンガムの絵本」はこちら

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「すばらしいとき」

ロバート・マックロスキー 文・絵/渡辺茂男 訳(福音館書店)
すばらしいとき (世界傑作絵本シリーズ・アメリカの絵本)
ぺノブスコット湾の水面に
岩勝ちのみぎわをみせる
小島のつらなりの上で、
みてごらん、世界のときが
ゆきすぎるのが みえるから。

『すばらしいとき』4ページより

『すばらしいとき』の原題は”Time of Wonder”。自然にめぐまれた入り江に浮かぶ小島で過ごす夏の、時がうつり変化する美しい風景を描いた絵本です。
舞台となっているのは、アメリカ、メイン州のぺノブスコット湾。巻末の著者紹介によると、作者一家は、この入り江の小島で、実際に夏を過ごしていたのだそうです。
作者が愛したぺノブスコット湾、その時のうつりゆくさまを、ふたりの娘たちに語りかけるマックロスキーの眼差しが印象的です。
やっぱり何といっても素晴らしいのが絵。繊細に描きこむのでなくて、ざっくりとしたタッチで、自然の美をダイナミックに表現している。
早春の霧の朝。夏の盛りの海での楽しみ、ヨット、海水浴、夜の海にうつる星。そして夏の終わりには嵐がやってくる。
自然の美しさをうたいあげるだけでなく、嵐のあと、たおれた古い木の下に、インデアンの貝塚を見つけるくだりがあるのが意味深い。
「おまえたちは、/いま たっているところに、/白人たちが このくにへくる ずっとまえ、/インデアンの 子どもたちが たっていた/ことに きづく」
インデアンと呼ばれた先住民族に対する「クリアランス」のことを抜きにして、アメリカという国は語れないと思うから、作者のこの視点は信用できるなと感じる。
こういう視点があってこそ、今自分の立っている場所が、気の遠くなるような時の流れのなかの一点だと、わかるのだとも思います。

子どもたちにとっては長い長い夏休みの楽しみがたくさん描かれた、夏にぴったりの一冊だけれど、大人が読むのもいいかもしれない。素朴で誠実な絵本です。

海に浮かぶ小島での夏休み、なんだか、トーベ・ヤンソンの『少女ソフィアの夏』を思い出したりもします。
1958年のコルデコット賞受賞作品。

→トーベ・ヤンソン『少女ソフィアの夏』の紹介はこちら

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「フルリーナと山の鳥」

ゼリーナ・ヘンツ 文/アロイス・カリジェ 絵/大塚勇三 訳(岩波書店)
フルリーナと山の鳥 (大型絵本 (18))
動物が大好きな、やさしい山のむすめフルリーナ。谷間に夏がくると、フルリーナの一家は村の家にさよならし、動物たちをつれ、道具をもって、朝はやく山の夏小屋に向かいます。 ほし草つくりや、牧場めぐり、山の夏小屋でのすばらしい日々に、フルリーナは一羽のオオライチョウのひなに出会います。

『フルリーナと山の鳥』は、ヘンツの物語にカリジェが絵を添えた作品。
子どもの頃、アニメ「アルプスの少女ハイジ」が大好きだったわたし。
『フルリーナと山の鳥』は、まさにハイジの世界!
少女フルリーナとその家族の、夏の山での暮らしを描いたこの絵本。牧場にヤギを放ち、ニワトリの面倒をみ、ほし草をつくる…。
自然に寄り添ったつつましい生活が、実際にそれを知っている画家の手によって細部まで丁寧に描かれており、ひじょうに読みごたえのある絵本になっています。
ゼリーナ・ヘンツによる物語がまた素晴らしく、自然の美しさとともに、厳しい一面もきちんと描写されています。

『大雪』と同じく、見開きの右側にカラー絵、左側にテキストとモノクロの線画がレイアウトされていますが、カラー絵の美しさは言うまでもなく、 ちいさく描きこまれたモノクロ絵も、見逃せない味わい深さです。

→「アロイス・カリジェの絵本」はこちら
→ヨハンナ・シュピリ『アルプスの少女ハイジ』の紹介はこちら

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「マウルスと三びきのヤギ」

アロイス・カリジェ 文・絵/大塚勇三 訳(岩波書店)
マウルスと三びきのヤギ (大型絵本 (6))
ヤギ飼いの少年マウルスは、夏のあいだだけ、村の広場のわきにある、シュチーナおばあさんのちいさな家に泊まっています。 マウルスは毎朝、村のヤギたちを預かって、山の牧場へとつれていくのです。なかでもシュチーナさんのヤギ、シロとアカとチビの三びきは、マウルスのお気に入り。ところが、ある日のこと…。

『マウルスと三びきのヤギ』は、文も絵もカリジェが手がけた作品。
ヤギ飼いの少年マウルスの一日を描いた、なんということもない素朴なおはなしなのですが、ちいさいヤギ飼いたちへの思いをつづった序文を読んだだけで、もう目頭があつくなるほど、作者の純粋な気持ちが伝わってきます。
ページを開くだけで、スイスの夏の山の清々しい空気を感じさせてくれるカリジェの絵は、一匹ずつ個性のちがうヤギたちの表情や、室内の雑貨のかわいらしさなど、細部まで見入るのもたのしいです。
いちばん最後の、マウルスの見ている夢の様子を描いた一葉が、なんともあたたかくて素敵。
たくさん働いた、たいへんな一日のあとに、マウルスがしあわせそうに寝入るところで終わるこのおはなしは、おやすみ前に読む絵本としても、おすすめの一冊です。
ふるさとの山々をたったひとりあるいていて、とおくのほうにヤギのむれのすずの音をきいたとき、 またはヤギのむれとであったとき、いつでもわたしは、よろこびでいっぱいになりました。

アロイス・カリジェ『マウルスと三びきのヤギ』序文より

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「ジス・イズ・ヴェニス」

ミロスラフ・サセック著/松浦弥太郎 訳(ブルース・インターアクションズ)
ジス・イズ・ヴェニス
旅する絵本作家サセックが、世界中の都市を訪れ、その土地の魅力を紹介している旅行絵本<ジス・イズ・シリーズ>。
世界遺産でもあるヴェニスの街には、やっぱりつよい憧れがあります。
だって、あんな不思議な水上都市、ほかにあるでしょうか?
海の上に浮かぶ街、運河、そこにかかるたくさんの橋、迷路のように入り組んだ路地、美しい広場、歴史ある建造物…。まるで幻想小説の中に出てくる架空の都市のようではありませんか!

サセックの描くヴェニス紹介はやっぱりとても素敵で、この一冊の基調となる色は、さわやかな水色。
<ジス・イズ・シリーズ>中のロンドン編やアイルランド編のどんよりとした曇り空(そこがまた良いのですが)から一転、ページを繰るたびに、アドレア海のあかるい陽射しを感じさせる青空が広がっています。
ヴェニスは有名な都市ですから、紹介されている内容はすっかりおなじみのものかもしれませんが、サセックの筆になるヴェニスの風景というのがまた、味わい深くて良いのです。
夜のグランド・カナルの絵などは、とても幻想的で美しい一葉となっています。
夏の頃、部屋に飾っておいても涼しげでおしゃれに見える一冊。

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「おひさまがおかのこどもたち」

エルサ・べスコフ 作・絵/石井登志子 訳(徳間書店)〜3歳から〜
おひさまがおかのこどもたち
この絵本は、「おひさまがおか」と呼ばれる屋敷で暮らす子どもたちの、楽しい夏の日々を描いています。
初出は1898年、べスコフ初期の作品です。ストーリーは特になく、マロニエの木陰でのブランコやシーソー遊び、森のなかの秘密の場所での野いちごつみ、 夏のとっておきの楽しみである湖での水あそびなど、いくつもの美しい絵に、ごく短い文章が添えられています。

文章が短く、明るい絵で彩られているので、ちいさい子どもにも楽しめると思います。 また大人なら、その詩情に満ちた美しい絵を眺めるだけでも、心が癒されるのではないでしょうか。
日本にはない「夏至まつり」などの行事や、北欧ならではの白夜と夏の喜びを知ることができるのも、魅力のひとつです。

→「エルサ・べスコフの絵本」はこちら

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「オンネリとアンネリのおうち」

マリヤッタ・クレンニエミ 作/マイヤ・カルマ 絵/渡部 翠 訳
(プチグラパブリッシング)
オンネリとアンネリのおうち
オンネリとアンネリ、よく似た名前をもつふたりの小さな女の子。
夏休みのある日、ふたりは「正直なひろいぬしさんにさしあげます。」と書かれたふうとうを拾い、その中には大金が。 ふたりはお金を受け取るつもりはなかったのですが、ひょんなことからそのお金で、ふたりで暮らすのにぴったりの、小さなおうちを買うことになるのです。
かわいらしい家具調度、庭も洋服もなにもかも揃った素敵なおうちでの、ふたりだけの夏の暮らしが始まります。

フィンランドの有名な児童文学作品。本国では<オンネリとアンネリシリーズ>として、全四作品が刊行されているとのこと。シリーズ一作目にあたる本書は、1966年に発表されています。
マリヤッタ・クレンニエミさんによる物語は、かわいらしく楽しい展開。大人にとっては「そんなことあり得ない」と思ってしまう場面もありますが、そんなことあり得なくっても良いのです。これは”物語”なんですから。
マリヤッタ・クレンニエミさんの作品にたくさん挿絵をよせているというマイヤ・カルマさんのイラストもまた、かわいらしい! 表紙カバーのカラー絵も、中のモノクロにピンクのさし色が映えるイラストも、乙女心をくすぐります。
訳者はトーベ・ヤンソンの著書の翻訳で知られる渡部 翠さん。アンネリの一人称が、かわいらしく訳されています。
…なんだか「かわいらしい」ばかり言っていますが。
表紙カバーをはずしてもピンク、見返しもピンク、この愛らしさは、ほんとうに女の子にぜひおすすめ。また夏休みのおはなしということで、夏に読むのにぴったりの、読後感もさわやかな一冊です。

→「おすすめ児童文学」はこちら

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<参考>

「少女ソフィアの夏」

トーベ・ヤンソン 作/渡辺 翠 訳(講談社)
少女ソフィアの夏 母を亡くしたばかりの少女ソフィア、ソフィアのパパ、おばあさん。フィンランド湾に浮かぶ岩の小島で、3人が過ごした夏の思い出を、みずみずしく描いた一冊。
訳者あとがきによると、この3人の登場人物は実在していて、少女ソフィアは作者トーベ・ヤンソンの姪、おとうさんはトーベの弟でムーミン・コミックスも手がけたラルス、 そしておばあさんはトーベの母親がモデルになっているのだそうです。
作者トーベもラルスさん一家も、夏には数ヵ月間、フィンランド湾の岩の島で実際に過ごしていたとのこと。 トーベ・ヤンソンは、おばあさんとソフィアとのあいだに実際に起きた出来事を、想像力たくましく物語に仕立て上げたというわけです。
「『Sommarboken』(原題―夏の本―)は、わたしの書いたもののなかで、もっとも美しい作品なのよ」
この作品は、邦題が「少女ソフィアの夏」となっていて、少女の夏の思い出を描いたもののように思われますが、 実は重要なのが、ソフィアのおばあさんの目線です。
ソフィアとおばあさんは、あくまで対等で、どちらかが他方の保護者ということがありません。
人生のとば口に立ったばかりのソフィアと、出口に向き合っているおばあさんは、ふたり一緒に、一所懸命遊び、夏を味わっています。
未来への希望と鋭敏な感受性をもつ少女の思い出だけでなく、老いと死の不安を内に秘めた、おばあさんの目から見た夏の風景が描かれることによって、物語が深みを増し、美しさが際立ってくるのです。
自然と人間の営み、若さと老い、これらの要素が対立することなく調和して描かれているところが、トーベ・ヤンソンならではの筆さばきと言えるでしょうか。
読んでいてほんとうに気持ちの良い、夏にぴったりの一冊。またこの本には、ムーミン童話を彷彿させるトーベの挿絵が付されているのも魅力です。

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