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□ 2009/08/25(Tue) |
●ジェーン・オースティン 著/中尾真理 訳 『ノーサンガー・アベイ』(キネマ旬報社) あいかわらずオースティンを読みふける毎日ですが、『ノーサンガー・アベイ』で、長編6編の蒐集はおしまい。 この作品は、オースティンの長編で現在唯一、文庫化されていないものです。 初期に書かれた作品ですが、出版されたのはオースティンの死後のこと。ゴシック小説(アン・ラドクリフ『ユードルフォの謎』など)のパロディが盛り込まれていることでも有名です。 冒頭からゴシック小説への皮肉満載で、主人公キャサリンの父について「娘を幽閉する趣味などは持ち合わせていなかった」とか、母について「誰でも期待するように、キャサリンをこの世に送り出すときに死んでしまう代わりに、彼女はまだ生きていた」とか書かれていて、かなり笑えます。 巻頭に、舞台となっている当時のバースの街の地図と、参考としてミルトン・アベイの改良前と後の版画が掲載されています。 巻末には、作中で扱われるアン・ラドクリフ『ユードルフォの謎』『森のロマンス』の抜粋も付されているので、とても親切。ゴシック小説を知らなくても、充分楽しめるよう配慮されています。 『分別と多感』でも言及されていたけど、オースティンがこの作品を書いた当時は、怪奇的なゴシック小説がもてはやされたり、ピクチャレスク・ビューティーと呼ばれる廃墟や荒れはてた風景を称賛する美意識が流行していたりして、へぇ〜という感じです。 オースティンはそういう流行を風刺しているわけだけど、昔の小説を読むと、その当時の風俗や流行がわかるのも、なんとも興味深いです。 *読みすすめてみると、ゴシック小説のパロディとはいっても、オースティンは決して批判的に書いてるわけではなく、むしろゴシック小説を擁護しているんですね。だいたいパロディって、もとになっている作品をよく読みこんでいないと書けないものだし。 オースティンはゴシック小説をとても楽しんで読んだのだろうな、と思いました。 *2009年9月9日、ちくま文庫より、中野康司氏の訳で、『ノーサンガー・アビー』が刊行されました!お〜、やってくれるなぁ、ちくま文庫。 →Amazon「ノーサンガー・アベイ」 |
□ 2009/08/18(Tue) |
●ジェイン・オースティン 著/中野康司 訳『分別と多感』(ちくま文庫) ●ジェイン・オースティン 著/中野康司 訳『説得』(ちくま文庫) ●ジェイン・オースティン 著/大島一彦 訳 『マンスフィールド・パーク』(中公文庫) オースティン作品を読みふける毎日。 ほんとうにこういう有名な作品は、どの訳で読むか迷ってしまうのですが、ちくま文庫の中野康司氏の訳は、新しいので、本当にわかりやすくて読みやすい。 また、ちくま文庫のオースティン作品は、このカバー装画が雰囲気たっぷり。19世紀初頭のイギリス中上流階級の風俗が伝わってきます。 これを伝統と優雅と見るか、植民地からの搾取による豊かさと見るか…はさておき、何よりオースティン作品は永遠の、さまざまな読み方のできる、すばらしい人間喜劇であると思います。 ちなみに『説得』は、岩波文庫では『説きふせられて』というタイトルで刊行されています。 『マンスフィールド・パーク』は、ちくま文庫では出ていないので、中公文庫のものを買いましたが、こちら大島一彦氏の訳は、ちくま文庫のものより少々硬め。 でも内容的にも『マンスフィールド・パーク』は少し地味で真面目な感じだし、硬い訳文が似合っているというか、さほど気になりませんでした。 オースティンの小説は、とにかく先へ先へとページを繰る手をとめられなくなるし、登場人物それぞれが、あまりにも周りの誰かに似すぎていて、読んでいても笑えるし、ちょっと周囲の人間観察をしてみると、「あっ、この会話、いかにもオースティン的だなあ〜」とか思ってしまう。 でも実は、自分もまたその「オースティン的」な辛口喜劇の一部だったりするのでしょうね。 『ジェイン・オースティンの読書会』は未読だけれど、オースティンの小説は誰かと一緒に読んで、いろんな話をしたくなるような、普遍的な面白さがあるなあと思います。 →Amazon「分別と多感 (ちくま文庫)」 |
□ 2009/08/10(Mon) |
●渡邉良重 絵/内田也哉子 文『ブローチ』(リトルモア) ●ジェイン・オースティン 著/中野康司 訳『エマ 上・下』(ちくま文庫) 『ブローチ』は、すでに有名な絵本だと思います。 プロダクトデザイン・プロジェクト「D-BROS」のメインデザイナー渡邉良重さんが絵を、絵本画集『わたしのロバと王女』でも知られる内田也哉子さんがテキストを手がけた、可憐で美しい一冊。 薄紙に印刷された絵は、向こうが透けて見えることを計算した、繊細なデザインがなされていて、幻想的な美しさ。この薄紙に印刷するという趣向は、ブルーノ・ムナーリの『闇の夜に』を思い出させます。 また薄い紙のため、ページはゆっくり慎重に繰らなければならず、自然、短いテキストを、ゆっくりと読んでいくことになります。内田也哉子さん独特の感性で紡がれた言葉を、時間をかけてかみしめるうち、心がしずかに落ち着いてくるのが不思議。 言い尽くされていることだろうけれど、大人の女性にぜひおすすめの一冊です。 そして『エマ』ですが、もうすっかりジェイン・オースティンに夢中になってしまいました。 『自負と偏見』の面白さに、続いて『エマ』も購入したのですが、これがまた無類に楽しい小説なのです! ジェイン・オースティンがこんなに面白いってこと、今まで知らなかったのが恥ずかしい。それともやっと、オースティンの面白さがわかるトシになったということでしょうか^^;? 実はエリザベス・ボウエンの短篇「割引き品」(単行本『あの薔薇を見てよ』に収録)の作中で、重要な登場人物である女家庭教師が、『エマ』を読んでいるのです。 「割引き品」はちょっと怖い話なのだけれど、それで『エマ』はどんな話なのかと気になっていたら、こんな明るい結婚喜劇だったのですね〜。たしかに『エマ』にも「女家庭教師」が登場するのですが…(ちなみに当時のイギリスの「女家庭教師(ガヴァネス)」は、社会的地位が低く、差別的な扱いを受けることも多かったようです)。 とにもかくにも、これはジェイン・オースティンの長編読破を目指すしかありません。 ちくま文庫版の『エマ』は、読みやすい新しい訳で、すべての未読の人におすすめだと思います。 →絵本画集『わたしのロバと王女』の紹介はこちら →Amazon「ブローチ」 |
□ 2009/08/04(Tue) |
●永井 宏 文/福田利之 絵『みんなねている』(mille books) ●オースティン 著/中野好夫 訳『自負と偏見』(新潮文庫) 『みんなねている』は、この真っ白い表紙に惹かれて手にとりました。 画像ではわかりにくいけれど、白い紙に、白い凹凸で絵が描かれています。これも箔押しというのかな? テキストは美術作家の永井 宏さん、絵は「ほぼ日」の「福田のフォト絵」などで知られるイラストレーター福田利之さんが手がけられ、しずかな、洗練された、でもほのぼのとした(?)絵本に仕上がっています。 シンプルなテキストが良い。そして絵が不思議、抽象的とでもいうか。福田利之さんの作品をあまり知らないのですが、この作品はちょっといつもと雰囲気が違うのかな? わかりやすいキャラクターとかの絵じゃなくて、だからじっくり見てしまう。 ちきゅうのうえでねむっている、みんなのためのちいさな絵本。 『自負と偏見』(「高慢と偏見」という翻訳もあります)は、有名な、イギリス小説史上最高の作品とも言える、ジェイン・オースティンの代表作。 訳がたくさんありすぎて、どれを読むかほんとうに迷った!ので、やはり定評がある中野好夫氏の訳を選ぶ。 いまさら初めてジェイン・オースティンを読んだのですが、これはとても面白い。あまり面白くて、言い尽くされたことしか言いようがない。 わたしが言えそうなことといったら、この作品はいかにも文学然として、岩波文庫や新潮文庫の棚におさまっているけど、ほんとうはいまどきのベストセラーと並べておいてもいい、わかりやすくて楽しい一流のエンターテイメント作品なんじゃないか、ということ。(…て、みんな知ってるか〜^^;) とにかく、モームの『世界の十大小説』に選ばれている作品だからって、構えずに普通に読んでみよう!と、未読の人にはおすすめしたいです。 →Amazon「みんなねている」 |
□ 2009/07/30(Thu) |
●ウォルター・クレイン 著『シェイクスピアの花園』(マール社) ●Walter Crane 著『Flora's Feast: A Fairy's Festival of Flowers in Full Color』(Dover Publications) ウォルター・クレインは、1845年イングランドのリヴァプール生まれ。日本の浮世絵の技法を用いた絵本が、商業美術の世界に新風をもたらし、のちにはウィリアム・モリスのケルムスコット・プレスのデザイナーとして活躍しました。 モリスの『輝く平原の物語』の挿絵はとても美しいし、スウェーデンの絵本作家エルサ・ベスコフもクレインの絵に影響を受けているそうです。 『シェイクスピアの花園』は、イングリッシュ・ガーデンとシェイクスピアの戯曲からイマジネーションをふくらませたクレインの美しい絵本『Flowers from Shakespeare's Garden』(1906)の復刻版。 ローズマリー、三色スミレ、ヒナギク、野バラなど、シェイクスピアの戯曲に登場する花々が、美しく擬人化されて描かれています。表紙カバーをはずした本体の表紙が原本と同じデザインになっていたり、紙も真っ白でなく生成りだったりと、クレインのクラシカルな絵の雰囲気を楽しめるよう工夫されています。 こういった花の擬人化は、ベスコフやオルファース、クライドルフ等の絵本でなじんでいる人も多いと思います。クレインの絵は優雅で大人向けといった感じで、絵本好きな人は一見の価値ありではないでしょうか。 『Flora's Feast: A Fairy's Festival of Flowers in Full Color』は、やはりクレインのイマジネーションゆたかな絵本のひとつ。タイトルどおり、擬人化された花々、いわば花の妖精たちの、美をうたう華やかな宴が描かれています。 クロッカス、スノードロップ、マリゴールド、きんぽうげ…。どれも美しいけれど、やっぱり薔薇は華麗な庭の女王、でも忘れな草やすずらんも可憐で綺麗です。 画面構成や、花の擬人化という趣向は、『シェイクスピアの花園』と似ていますが、描かれた花は違いますし、同じ花があっても異なるデザインなので、見比べるのも興味深いです。 洋書だけれど、絵が中心で、テキストは短い花の説明だけなので、英語が読めなくても安心して楽しむことができます。 →「ウォルター・クレインの絵本」はこちら →Amazon「シェイクスピアの花園」 |
□ 2009/07/27(Mon) |
●エリザベス・ボウエン 著/太田良子 訳 『愛の世界 ボウエン・コレクション』(国書刊行会) ●ヴァージニア・ウルフ 著/丹治 愛 訳『ダロウェイ夫人』(集英社文庫) 国書刊行会のボウエン・コレクション、3冊目。 この『愛の世界』は、ほかの2冊にくらべて短く、代わりに巻末の作品解題が、やや長いものになっています。 ボウエン・コレクションは『エヴァ・トラウト』『リトル・ガールズ』『愛の世界』の3冊で完結ですが、訳者あとがきによれば、ボウエンの他の長篇小説も、ボウエン・コレクション2・3というかたちで出せたらと考えていらっしゃるのだとか。 『リトル・ガールズ』を読了し、いま『エヴァ・トラウト』を読んでいるところですが、ボウエンの世界にすっかり魅せられてしまった読者のひとりとして、その希望、ぜひとも叶えていただきたいなと思います。 『愛の世界』の表紙を飾る勝本みつる作品は、「内証の昼下がり」。配置された素材は少なく、余白の多い作品で、その余白に、見る者の空想がひろがります。 ボウエン作品もまた然りで、答えや理由や結末が明言されない、余白の多い小説だなと感じます。 『ダロウェイ夫人』は、映画「めぐりあう時間たち」のモチーフでもあり、ヴァージニア・ウルフのもっとも有名な作品と言えるでしょうか。 文庫にもなっているくらいで、日本でもよく読まれているのでしょうが、わたしは個人的には、ヴァージニア・ウルフはエリザベス・ボウエンより難しい、読みにくいなと思いました。 <意識の流れ>というウルフの手法が、少し、読むのに訓練がいるのかもしれません。 作家としてはヴァージニア・ウルフのほうが先輩で、上記『愛の世界』の作品解題によれば、ボウエンはウルフを敬愛していたとのことです。 →勝本みつるさんの作品集の紹介はこちら →Amazon「愛の世界―ボウエン・コレクション」 |
□ 2009/07/21(Tue) |
●エリザベス・ボウエン 著/太田良子 訳 『エヴァ・トラウト ボウエン・コレクション』(国書刊行会) ●ヴァージニア・ウルフ 作/御輿哲也 訳『灯台へ』(岩波文庫) 国書刊行会のボウエン・コレクション、ついに2冊目を手にとることに。 アマゾンのレビューでは、ボウエン作品はあまり評価が芳しくないし、ネット上のレビューなどいろいろ拝見してみても、ボウエンは難しいとか訳が硬いとか否定的な意見も出ているようなのですが、わたしはエリザベス・ボウエン、短篇も長編もかなり面白いと感じています。 おそらく日本ではボウエンより親しまれているキャサリン・マンスフィールドやヴァージニア・ウルフも面白いけど、エリザベス・ボウエンがいちばん好きだなあと思うくらい。 かつて邦訳され高く評価されたボウエン作品(吉田健一 訳『日ざかり』、 阿部 知二・阿部 良雄 訳『パリの家』)は、いまや入手困難となっていて、だからつよい情熱をもって、ミネルヴァ書房の短篇集と国書刊行会のボウエン・コレクションのすべてを訳し、今日の日本に紹介してくださった太田良子さんには、わたしたち読者はもっともっと感謝するべきなのでは? ボウエンは安易に読める小説ではないけど、とても面白いから(上品で、辛辣で、謎めいていて、何より美しい!)、ぜひたくさんの人に読んでみてほしいし、これからもどんどん邦訳されたらいいなと願っています。 難しそうという人は、最近流行りの、乙女的な、ガーリッシュな文芸作品として読んでみても良いのでは、とも思うのですが…どうでしょう?(^^; さて『エヴァ・トラウト』の表紙を飾る勝本みつる作品は、「ジネヴラ姫の片付け方」。なんとなくこのオブジェのなかの女性の横顔が、主人公エヴァ・トラウトの横顔にも見えてきます。 そしてヴァージニア・ウルフ『灯台へ』。これはウルフの代表的な長編。 こういう訳がいくつもあるような作品は、どの本を手にとろうか迷うけど、結局、安価という理由で文庫を選んだ。最近の文庫は、文字も大きめで読みやすくて良い。 →勝本みつるさんの作品集の紹介はこちら →Amazon「エヴァ・トラウト (ボウエン・コレクション)」 |
□ 2009/07/15(Wed) |
●大澤銀作 訳『マンスフィールド作品集』(文化書房博文社) ●ヴァージニア・ウルフ 著/西崎 憲 訳 『ヴァージニア・ウルフ短篇集』(ちくま文庫) マンスフィールドの短篇小説があまりに美しいので、もっと読んでみたいなと思い、文化書房博文社の『マンスフィールド作品集』を購入。 新潮文庫の『マンスフィールド短編集』と重複しているものもありますが、収録作品は次のとおりです。 「園遊会」「一杯のお茶」「幸福」「人形の家」「小さな女の子」「船の旅」「蠅」「カナリヤ」「初めての舞踏会」「新婚旅行」「風が吹く」「いのんど漬」。 マンスフィールドの作品は文学的にとても重要なのだろうと思うけど、現代日本の女性としては、当時(マンスフィールドの生没年は1888-1923)のイギリスの中上流階級の風俗が垣間見えるのが、なんとも面白い。 いま気に入って読んでいるエリザベス・ボウエン、キャサリン・マンスフィールド。どちらの作家もヴァージニア・ウルフと親交があったということで、やはりウルフも読んでみなくてはと思い、購入。 まさか今になってヴァージニア・ウルフを読むことになるとは思わなかった。学生時代にでも読んでおけば良かったのだろうけど、あの頃はまったく興味がなかった。 『ヴァージニア・ウルフ短篇集』は、ヴァラエティに富んだ内容で、有名な『ダロウェイ夫人』などの長編とはまた違った雰囲気の作品がたくさんおさめられているようですが、読んでみると、やっぱり面白い。 とくに「青と緑」「月曜日あるいは火曜日」は、散文詩とでも言えそうで、短篇小説とは言えなさそうな、不思議な作品。意味をとろうとすると難解だけれど、その言葉だけを追っていくとこの上なく美しく、ヴァージニア・ウルフってこんなものを書く人だったのかと、新鮮な驚きがある。 →Amazon「マンスフィールド作品集」 |
□ 2009/07/13(Mon) |
●酒井駒子 著『BとIとRとD』(白泉社) 酒井駒子さんの新刊絵本。 絵本雑誌「MOE」に連載されたものを再構成、全面改稿して単行本化したものです。 ブックデザインが凝っていて、表紙画像だけではわかりませんが、この本は函入り、そして函も本体の表紙も、タイトルは箔押しになっています。「BとIとRとD」という文字も繊細なレースのようなデザイン。ちなみに装幀の名久井直子さんは、下記に紹介している<ボウエン・コレクション>の装幀も手がけられています。 内容は、□(しかく)ちゃんという小さな女の子を主人公にした8つの短いお話がおさめられていて、黒が印象的な絵は、コラージュを用いてかわいくレイアウトされています。 幼い□(しかく)ちゃんの目を通して見る世界は、どこか不思議で、夢と現のあわいにたゆたうよう。おやすみ前などに、ひとりゆっくりページを繰りたい、静謐な絵本に仕上がっています。 →Amazon「BとIとRとD」 |
□ 2009/07/06(Mon) |
●エリザベス・ボウエン 著/太田良子 訳 『リトル・ガールズ ボウエン・コレクション』(国書刊行会) ●安藤一郎 訳『マンスフィールド短編集』(新潮文庫) エリザベス・ボウエンの短篇がどれも面白いので、長編も読みたくなり、国書刊行会のボウエン・コレクションを購入。 ボウエン・コレクションは、勝本みつるさんによるカバー装画の美しさが魅力のひとつ。この『リトル・ガールズ』の表紙を飾っているのは、「living things / life 2004」と題された作品。三つ編みという素材が印象的に配置されています。 勝本みつるさんの作品は、少女期の思い出を彷彿させるものが多いと感じるので、『リトル・ガールズ』をはじめ、「少女」をテーマにした小説を数多く著しているボウエンの作風と響きあうものがあると思うし、勝本さんの装画に惹かれてこのコレクションを手にとる読者も多いのではないでしょうか。 最近、興味が英米女流文学のほうへ向いてきたので、ほかに面白そうな小説はないかなと探してみて、見つけたのがキャサリン・マンスフィールド。 とても有名な作家なのだろうけど、今まで読んだことはありませんでした。 でもウォルター・デ・ラ・メアとも親交があったらしいし、この機会に読んでみようと思って、入手しやすい新潮文庫の『マンスフィールド短編集』を買ってみたら、なんとカバー装画が、またもや勝本みつるさんでした。 品の良い美しいコラージュ。 ネットのレビューなど見ていると、改版の前の、著者マンスフィールドの写真があしらわれた表紙が人気のようですが、勝本みつるさんによる新しい装いも、マンスフィールドの作風とよく調和していると思います。…まだ少ししか読んでいないけど(^^; 代表作「園遊会」は、完璧すぎるほどに美しい一篇。読後も余韻に心がふるえるようでした。 →勝本みつるさんの作品集の紹介はこちら →Amazon「リトル・ガールズ (ボウエン・コレクション)」 |
□ 2009/07/01(Wed) |
●エリザベス・ボウエン 著/太田良子 訳 『幸せな秋の野原 ボウエン・ミステリー短篇集2』(ミネルヴァ書房) ●アントニア・ホワイト 著/北條文緒 訳『五月の霜』(みすず書房) エリザベス・ボウエン『あの薔薇を見てよ』が面白く読めたので、続いて『幸せな秋の野原』も購入。 やはり「ミステリー短篇集」という副題は、日本で一般的に言われるミステリーというジャンルを指すのではなく、ミステリアスな、謎めいた作品集という意味をあらわしています。 巻頭に収録の「親友」一篇をとってみても、エリザベス・ボウエンという作家は、ほんとうに上手いなと唸らされます。読みすすめるのが楽しみ。 これも、イーディス・ウォートン『幽霊』と同じく、「ジャケ買い」した一冊。 わたしはこういう白い、地味めで、でも上品な装幀に弱いらしい。『五月の霜』というタイトルにも惹かれた。原題は『FROST IN MAY』。 物語は、主人公ナンダ・グレイが、英国のカトリックの寄宿女学校で過ごした数年間を描いたもの。出版されたのは1933年。著者のアントニア・ホワイト自身が、9歳から15歳までを修道院付属の寄宿学校で過ごした体験をもとに書かれた、自伝的ともいえる内容なのだそうです。 上記『幸せな秋の野原』の著者エリザベス・ボウエンは、ヴィラーゴー版の序文でこの本を「少女のスクール・ストーリーのなかで、古典として残る唯一の作品」と書いているのだとか。 まだ一冊の短篇集しか読んでいないけど、エリザベス・ボウエンの描く少女も、とてもミステリアスで魅力的。そのボウエンが賞賛する「少女のスクール・ストーリー」とは、どんなものなのでしょう? 読み始めているけど、訳文は読みやすく、当時のカトリックの寄宿女学校の、日本人には理解しがたい、厳しい規律にしばられた生活というのが興味深いです。 神への信仰に純潔の身を捧げているマザーたちの、生徒たちへの指導が、どう読んでも意地悪としか思えない…。厳しいカトリックを信仰しているがゆえなのだろうけど、もしかして底にはちらりと、ほんとうの悪意が潜んでいるのかも…?もっと読み込んでみなくては。 ちなみにカバー装画は、アドルフ・ディートリヒ「縞のエプロンの少女」。装幀と本の内容の、雰囲気がぴたりと合っています。 →Amazon「幸せな秋の野原―ボウエン・ミステリー短編集〈2〉 (MINERVA世界文学選)」 |