〜シンプルで洗練されたデザイン〜
●ブルーノ・ムナーリ ― Bruno Munari ―
1907年、イタリアのミラノに生まれる。
絵画、デザイン、著作、絵本など、さまざまな分野で業績をのこしたアーティスト。日本ではとりわけ絵本作家としての仕事がよく知られている。 ムナーリは「文字言語と同じように造形芸術にも、ものごとを伝達する機能がある」として、それを「視覚言語」と呼び、視覚言語を探求し形にするべく多方面で創作活動を行った(*)。 主な邦訳絵本に『木をかこう』『太陽をかこう』(至光社)、『きりのなかのサーカス』(好学社、フレーベル館)、『闇の夜に』(河出書房新社)などがある。1998年、没。 *『きりのなかのサーカス』(フレーベル館)2009年9月 |
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「きりのなかのサーカス」ブルーノ・ムナーリ 作/谷川俊太郎 訳(フレーベル館) |
『きりのなかのサーカス』は、プロダクト・デザイナー、グラフィック・デザイナーでもあったアーティスト、ブルーノ・ムナーリが手がけた代表的な仕掛け絵本です。
この絵本の表紙カバーの折り返しには、日本ブルーノ・ムナーリ協会代表、岩崎清氏の短い解説が付されており、それによるとムナーリは「文字言語と同じように造形芸術にも、ものごとを伝達する機能がある」として、それを「視覚言語」と呼んだのだとか。 ムナーリの仕掛け絵本は、ページを開くと飛び出すような仕掛けがあるのではなく、ムナーリが考えた「視覚言語」というものを、形にしているのだと思います。 特色は、「霧」をあらわすのに透け感のあるトレーシングペーパーが使われていること。ページの向こう側が、いくつも先のページまで、ぼんやりと見える。でもはっきりとはわからない。ページをくって先へ進んでいくと、トレーシングペーパーの「霧」の向こうに少しずつ、濃いピンクや黄色や緑、色鮮やかな紙に刷られたサーカスの絵が見えてきます。 サーカスの部分は、ページが大小の円や半円に切り取られて、先のページの鮮やかな色がちらりとのぞく仕掛け。そして賑やかなサーカスを抜けると、またトレーシングペーパーの「霧」の中に戻っていきます。 テキストは最小限で、これはまさに視覚で味わう、「きりのなかのサーカス」なのです。 ぽっちりしかないテキストを、詩人、谷川俊太郎氏が訳されているというのが見逃せません。訳者あとがきもムナーリの創作姿勢について理解する手がかりになります。 洗練されたデザインは、子どもも大人も楽しめるはず。八木田宜子さん訳の好学社版がずっと絶版だったのですが、2009年9月に谷川俊太郎氏の新訳で復刊されました。(でもすぐに(2010年4月時点)入手不可状態に…版元さん、どうにかならないものでしょうか…) →Amazon「きりのなかのサーカス」 |
「闇の夜に」ブルーノ・ムナーリ 著/藤本和子 訳(河出書房新社) |
『闇の夜に』は、プロダクト・デザイナー、グラフィック・デザイナーでもあったアーティスト、ブルーノ・ムナーリが手がけた代表的な仕掛け絵本です。
上記に紹介している『きりのなかのサーカス』と同じく、ムナーリの言う「視覚言語」を形にした一冊で、ページを開くと飛び出すような仕掛けはありません。全体が3つのパートに分かれた構成になっており、パートごとに3種類の紙が使い分けられているのです。 真っ黒のマットな紙で闇の夜を、透け感のあるパラフィン紙で朝の草原を、ざらついた砂のような質感のベージュのマット紙で洞窟の中を表現。 ページには穴が開いていて、先のページに描かれたホタルの光が見えたり、ページの向こうが透けて見えることを利用した画面構成がなされていたり(渡邉良重の絵本『ブローチ』の趣向もこれと似ていますよね)、折りたたまれた紙を開いて見る仕掛けもあり、不思議でしずかな冒険の旅が、さまざまな趣向を凝らして描かれています。テキストは最小限です。 最後、洞窟の冒険を抜けて、闇の夜に戻るのですが、黒いマット紙にあけられたいくつもの小さな穴の向こうに、ホタルたちのともす「豆ランタン」の黄色い灯りが見えています。 この黄色は、見返しに折りたたんで貼り付けられた黄色い紙で、この紙を開くと、ムナーリ自身が書いたプロフィールが載っているのです。 こういうテキストも、デザイン性を損なわないよう配慮されているのが素晴らしいし、ムナーリの言葉がまた、とぼけた風情で良い感じ。 シンプルで洗練されたデザイン、慎重にめくらなければならないパラフィン紙のページなど、大人向けの作品といえるかもしれません。とにかく紙そのものが好きなわたしには、たまらない一冊。 とてもおしゃれで素敵な絵本で、なんと原書が発行されたのが1956年だというのですから、これまた驚き、なのです。 →紙好きなあなたに、チャルカ 著『アジ紙』の紹介はこちら |
ブルーノ・ムナーリの絵本に興味をもったなら…