■酒井駒子の絵本

〜ざらついた油絵タッチ、あたたかな黒が印象的〜


●酒井駒子 ― さかい こまこ ―

1966年、兵庫県に生まれる。東京芸術大学美術学部卒業。
主な作品に、『よるくま』『赤い蝋燭と人魚』(ともに偕成社)『ロンパーちゃんとふうせん』(白泉社)『ぼく おかあさんのこと・・・』(文渓堂)などがある。
2005年、『金曜日の砂糖ちゃん』(偕成社)で第20回ブラティスラヴァ世界絵本原画展金牌を受賞。
『よるくま』はやわらかく親しみやすい画風、『赤い蝋燭と人魚』『金曜日の砂糖ちゃん』などはざらざらした油絵タッチで描かれており、作品ごとの画風の違いも興味深い。



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「金曜日の砂糖ちゃん」

「こうちゃん」

「BとIとRとD」



「金曜日の砂糖ちゃん」

酒井駒子 著(偕成社)
金曜日の砂糖ちゃん (Luna Park Books)
あたたかで気持ちのよい午後の庭。花や鳥や虫たちに囲まれて、女の子がひとり眠っています。 女の子は皆から、”金曜日の砂糖ちゃん”とよばれています…。

ざらついた油絵タッチ、あたたかな黒が印象的な、酒井駒子さんの絵。この絵本は、表紙の女の子の絵がまず素敵で、ひきこまれてしまいます。
こぶりの本の中には、3篇の、幻想的で短いおはなし「金曜日の砂糖ちゃん」「草のオルガン」「夜と夜のあいだに」がおさめられています。
ことに「夜と夜のあいだに」は、デ・ラ・メアの幻想短篇「なぞなぞ」にも通じるふしぎな味わい。 髪をとかすちいさな女の子の、鏡にうつった表情に、どきっとさせられます。
またこの絵本は、祖父江慎氏による凝った装幀も魅力のひとつ。
表紙カバーも表紙も、マットな紙に刷られた文字と、イラストの縁が、エンボス加工になっています。 表紙をめくると、しわ感のある半透明の紙に、タイトルと著者名と、一匹の蜂の絵。 次のページに刷られた、一輪の黄色い花が透けて、蜂が花の蜜を吸っている様子が、見てとれる仕掛けになっているのです。
こういうこまやかなデザイン、本好きにはたまりませんよね。

子どもを描いているのだけれども、絵もおはなしも、ともに大人向けの作品に仕上がっている、魅力的な一冊。

→ウォルター・デ・ラ・メア「なぞなぞ」についてはこちら
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「こうちゃん」

須賀敦子 文/酒井駒子 画(河出書房新社)
こうちゃん
こうちゃん、灰いろの空から降ってくる粉雪のような、音たてて炉にもえる明るい火のような、そんなすなおなことばを、もう わたしたちは わすれてしまったのでしょうか。

『こうちゃん』50ページより

『こうちゃん』は、随筆家・須賀敦子さんのテキストに、酒井駒子さんが絵を寄せた一冊。
須賀敦子さんは『ミラノ 霧の風景』(白水社)や『コルシア書店の仲間たち』(文春文庫、白水社)などの著書があり、「こうちゃん」と題された一篇は、『須賀敦子全集』(河出書房新社)にも収録されているものです。 一読して、ふしぎな、難解な、美しい文章という印象を受けました。

「こうちゃん」という、実在と、非実在とのはざまにあらわれる、ふしぎに懐かしいちいさな男の子について綴られた、短い文章。
あまりに繊細で、なにか著者の心の中の、いちばんたいせつな部分を書いたものという気がして、読んでいて少し胸が痛む。
とにかく、もっと年齢を重ねないと、この文章に込められた気持ちが、ほんとうにはわからないかもしれない。
だからこそ、何度も読み返すことになるのだろうと思う、そういう作品。
酒井駒子さんの絵は、挿絵というよりは独立した作品になっていて、難解ながらも美しいテキストとのコラボレーションを堪能できます。

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「BとIとRとD」

酒井駒子 著(白泉社)
BとIとRとD
「リンゴ、地面に落ちてるの?」
「うん」
「そこにカミナリ落ちるの?」
「そう」
 そのときピカッと空が光って、ドーンと鈍い音が続きました。

「今の、リンゴに落ちた?」
「ううん、あのね、リンゴは小さいから、小さい小さいカミナリが落ちるの……」

『BとIとRとD』所収「カミナリ」より

絵本雑誌「MOE」に連載されたものを再構成、全面改稿して単行本化した一冊。
□(しかく)ちゃんという、奇妙な名前の小さな女の子を主人公にした、8つの断片的なお話がおさめられており、黒が印象的な絵は、レースやマスキングテープによるコラージュの技法を用いて、かわいくレイアウトされています。

酒井さんが描く子どもたちはいつも、ふくふくと子どもらしいようで、はっとするような深い表情も垣間見せてくれます。幼い□(しかく)ちゃんの目を通して見る世界は、どこか不思議で、夢と現のあわいにたゆたうようです。
小さくて深い子どもの世界。自分も子どもの頃は、世界をこんなふうに見ていたのでしょうか。
子どもが主人公だけれど、忘れていた感覚を大人にこそ思い出させてくれる、そんな一冊。おやすみ前などに、ひとりゆっくりページを繰りたい、静謐な絵本です。

また手にしたときに気づくのが、とても凝ったブックデザイン。表紙画像だけではわかりませんが、この本は函入り、そして函も本体の表紙も、タイトルは箔押しになっています。「BとIとRとD」という文字も、繊細なレースのようなデザインで素敵。
装幀は名久井直子さん。国書刊行会の<ボウエン・コレクション>(→Amazon「ボウエン・コレクション」)等の装幀を手がけられている方です。
上記で紹介している『金曜日の砂糖ちゃん』も、装幀が凝っていて、部屋に飾っておいてもかわいらしいですが、この『BとIとRとD』も、飾るとおしゃれな感じです。

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