■こみね ゆらの絵本

〜愛らしく精巧なドールハウスをのぞきこむような魅力〜


●こみね ゆら

1956年、熊本県熊本市生まれ。イラストレーター、人形作家。
東京芸術大学絵画科油画専攻、同大学院卒業。1985年、フランス政府給費留学生として渡仏。以後8年半の間滞在。
1992年、初めての絵本『Les deux soeurs』をフランスにて出版。帰国後、絵本・イラスト、人形作品の制作など、幅広い分野で活躍する。
主な絵本作品に『仏蘭西おもちゃ箱』(白泉社)、『しらゆきひめ』(教育画劇)、『おさんぽ』(白泉社)、挿絵作品に『妖精王の月』(講談社)、『アンデルセン童話』(小学館)、『すきまのおともだちたち』(白泉社)など。東京都在住。



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「おさんぽ」

「くつなおしの店」

「しらゆきひめ」

「空とぶじゅうたん」

「トトコのおるすばん」

「パメラ・パティー・ポッスのあたらしいいえ」



「おさんぽ」

江國香織 作/こみね ゆら 絵(白泉社)
おさんぽ
レースのたくさんついたきれいなスカートをはいて、おんなのこは散歩に出ました。秋のはじめのよいお天気の日。歌をうたいながら歩きます。
もぐらに頼まれスカートのレースを少し切り取ってあげてしまい、次はへびに頼まれてスカートを切り取って…。そしておんなのこのお気に入りのスカートは、おしりがまるみえになってしまいました。そのとき古い一枚のお皿に声をかけられて…。

江國香織さんの独特のテキストに、こみね ゆらさんが愛らしい絵を寄せた、とてもかわいい一冊。内容はナンセンス絵本ともいうべきものです。
「高飛車」「無闇に」「いかんせん」など、難しい漢字や言い回しを(おそらく)あえて多用した江國さんのテキストは、どちらかといえばヤングアダルト〜大人向けなのかなとも思えますが、子どもというのは案外言葉に敏感なものですから、面白がる子は面白がるかもしれません。(とくに女の子はね〜)
きっと江國さんは、こういう絵本を面白がるおんなのこだったのでしょうね。

こみねゆらさんの絵は何と言っても素晴らしく、飽きず眺めてしまいます。おんなのこのスカートのレース、かわいい小さな手提げ、しゃべる(!)お皿の花模様…これ、ほしいなあ、と思ってしまう。おんなのこが歩く石畳の道とか、寝転ぶ空き地の地面の描き方も、こみねさん独特で幻想的な感じがして美しい。見返しなど装幀も素敵です。

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「くつなおしの店」

アリスン・アトリー 作/松野正子 訳/こみね ゆら 絵(福音館書店)
くつなおしの店 (世界傑作童話シリーズ)
ニコラスじいさんと孫のジャックが営む、くつなおしの店。小さなみすぼらしい店でしたが、ニコラスじいさんは腕の確かな靴職人でした。
くつなおしの店のとなりには、ポリー・アンとお母さんが住んでいます。ポリー・アンは足の具合が悪く、松葉杖をついていました。ジャックとニコラスじいさんは、ポリー・アンの誕生日に、赤いかるい靴を作って贈り、余った革で小さな人形の靴を作りました。この小さい赤い靴が、ある日妖精の目にとまり…。

イギリスの作家アリスン・アトリーの妖精譚に、こみね ゆらが絵を添えた一冊。
最初、挿絵だけをぱらぱら見て、やっぱりこみね ゆらの絵は素敵だなあ、好きだなあと思い、つぎに物語をじっくり読むと、アリスン・アトリーのお話がまた素晴らしく、ほんとうに良質の絵本だと感じました。
『くつなおしの店』というタイトルからは、「くつやのこびと」のような童話を思い浮かべてしまうのですが、このアトリーの作品はちょっと違っています。
アトリーの創作ではあるけれども、フェアリーテイルの醍醐味を感じさせるしあわせなお話。アトリーの他の物語もいろいろ読みたくなってしまいます。
こみねさんの絵は、やさしいフェアリーテイルにぴったりの雰囲気で、かわいい雑貨や街並みの描写もさることながら、ニコラスじいさんの職人然とした横顔や後姿の絵も印象的でした。
妖精がいるとしたらじゃと? こら、ちびこい人たちに失礼ないい方をするんじゃない。世の中には、おまえやわしが夢にも思わんような、ふしぎなことがあるもんじゃ。

『くつなおしの店』28ページより

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「しらゆきひめ」

矢川澄子 再話/こみね ゆら 絵(教育画劇)
しらゆきひめ (絵本・グリム童話) 「ああ、あかちゃんが ほしいこと。
ゆきのように しろく、ちのように あかく、
まどわくみたいに くろい かみのけの こが あったら!」
おきさきが願ったとおり美しく生まれた赤ちゃんは、「しらゆきひめ」と名づけられました。
しかしおきさきはまもなく亡くなり、やってきた新しいおきさきは、自分が誰よりきれいでなくては気がすまないという、いばりんぼでした。
新しいおきさきはふしぎなかがみを持っていました。かがみに問いかけると、くにじゅうでいちばんの「きりょうよし」はおきさきだと答えるのです。安心するおきさきでしたが、しらゆきひめが七つに成長したある日、かがみは、しらゆきひめはおきさきの千ばい美しい、と答えたのです! 妬みに身を焦がしたおきさきは、とうとう、しらゆきひめの命を奪おうと画策しますが…。

『しらゆきひめ』は、とても上質なメルヒェン絵本。こみねゆらさんの繊細な筆が、おそろしくも美しい『しらゆきひめ』の世界を魅力的に描き出しています。
何と言ってもしらゆきひめが愛らしい!
ゆきのように白い肌、血のように赤い唇、ゆたかな黒髪。白いカチューシャに、フリルやレースのたくさんついた白いドレス。
女の子の憧れを凝縮したようなしらゆきひめの姿は、人形作家でもあるこみねさんらしく、どこか繊細なお人形のようでもあり、抱きしめたいほど愛らしいけれど、抱きしめたら壊れてしまいそうです。
矢川澄子氏による再話は、グリムの原作におそらくかなり忠実なもので、わるいおきさきに訪れるおそろしい結末など、童話の残酷な一面も垣間見え、たいへん興味深いです。

→アンジェラ・バレット 絵『白雪姫』の紹介はこちら

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「空とぶじゅうたんI・U」

新藤悦子 著/こみねゆら 絵(ブッキング)
 こわごわ下をのぞいてみると、満月に照らされたイスファハンの町がひろがっていました。丸屋根が連なるバザールやキャラバンサライ、回廊に明かりが灯った長方形の王の広場、きらめく水路が交差する王宮の四分庭園、そして巨大な青い丸屋根をのせた王のモスク。 この町が、「世界の半分」と讃えられるわけを、ファルザネは空の上から、その目で確かめたのです。

『空とぶじゅうたんU』28ページより

空とぶじゅうたん〈1〉 空とぶじゅうたん〈2〉 2巻構成で大判の豪華物語絵本。こみねゆら氏のイラストが、とてもとても美しいです。
中東を舞台にした、じゅうたんにまつわる幻想的な恋のお話がおさめられています。
I巻には「糸は翼になって」「消えたシャフメーラン」「砂漠をおよぐ魚」の3篇、U巻には「ざくろの恋」「イスリムのながい旅」の2篇を収録。
とにかくじゅうたんの絵が美しいんです。クルド絨毯、ムード絨毯、トルクメン絨毯…とりわけイスファハン絨毯の青の美しさといったら!
イスファハンは世界遺産にもなっているイランの古都で、イマーム・モスクの青く輝く美しさなど、ファンタジーの舞台としてはぴったりの土地ですよね。
テキストをふちどる繊細な模様も美しく見逃せません。こみねさんの、細かく描きこまれた画面の幻想的な雰囲気がとりわけ際立つ、エキゾチックな魅力あふれる作品です。

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「トトコのおるすばん」

こみね ゆら 著(ハッピーオウル社)
トトコのおるすばん (ハッピーオウル社のおはなしのほん)
わたし、トトコ。きいろいくまのぬいぐるみ。なのはちゃんが幼稚園に行っているあいだ、お部屋でおるすばん。
トトコはひとりで遊べるんです。くるりとでんぐりがえし、あっちにごろごろ、こっちにごろごろ。のんびりしたり、たいくつしたり、お昼寝したり…。なのはちゃん、早く帰ってこないかな。

まわりに人がいないとき、ぬいぐるみやお人形が、実は動いたり話したりしている…なんて、想像するだけで楽しいですよね。
ぬいぐるみのトトコは、花模様のワンピースを着て、とてもかわいい。なのはちゃんのお部屋もかわいくて、ピンクの壁紙にバラの花模様のカーテン。棚に置かれた雑貨も細かく描きこまれていて、やっぱり、このかわいい箱とかほしいなあなんて思ってしまいます。
さてこの絵本、じつはわたしが持っているのはサイン本なのです! サイン本欲しさに、友人と大阪のとある人形のお店を訪れて購入。見返し(見返しもラブリー♪)の裏にめちゃかわいいイラストとYura Komineのサイン…。ふふふ、いいでしょ〜。これは単なる自慢ですが(^^;)
絵が中心で、テキストは少し。表紙カバーはピンク色、こぶりで手にとりやすく、ちいさい女の子への読み聞かせにも、お子さん自身で読むのにも、ぴったりではないでしょうか?

→「人形たちの絵本」はこちら

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「パメラ・パティー・ポッスのあたらしいいえ」

いしい むつみ 作/こみね ゆら 訳(教育画劇)
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まりのおとうさんが作った、パメラ・パティー・ポッスのあたらしいいえは、とても素敵ないえです。
げんかんを入って右奥の部屋は、おかあさんがおひるごはんを作っている台所。食堂には青い模様のカップやお皿が並んでいます。おばあちゃんは出窓のそばの揺り椅子で、うたたね。2階の左側にお父さんの書斎、反対側がパメラ・パティー・ポッスの部屋。テーブルにベッドに椅子、ちいさな本棚には絵本が並び、おもちゃばこには、おもちゃがいっぱい…。

『パメラ・パティー・ポッスのあたらしいいえ』には、こみねゆらさんの絵の魅力が凝縮されているといっても過言ではないのでは。
まりのおとうさんが作った「パメラ・パティー・ポッスのあたらしいいえ」は、素敵な素敵なドールハウス。このお家の中を、ゆっくりゆっくり見て回る構成になっています。
まるで本物のお家みたいで、でも間違いなく静止した人形の家。パメラ・パティー・ポッスの部屋のバルコニーから見下ろした、弟のクリスが遊ぶ池のある庭の、幻想的な美しさ。
精巧に作りこまれたドールハウスの魅力、そしてドールハウスから広がる空想の楽しみが、あますところなく描き出されています。
テキストページに、ドールハウスに置かれた小物の絵がちいさく描かれていて、これがまたかわいい。あ、よく見ると、『もじゃもじゃペーター』の絵本もありますよ!
お人形とドールハウスのおはなしというのは、こみねゆらさんの画風にぴったりの題材で、とりわけ魅力的な一冊に仕上がっていると思います。

→ハインリッヒ・ホフマン『もじゃもじゃペーター』の紹介はこちら
→「人形たちの絵本」はこちら

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