■本の蒐集記録(2006年11-12月)





2006/12/29(Fri)
●ゼリーナ・ヘンツ 文/アロイス・カリジェ 絵/大塚勇三 訳
『ウルスリのすず』(岩波書店)

アロイス・カリジェは、スイスの山村の農家で生まれ、数々の美しい絵本を描き、国際アンデルセン賞画家賞を受賞した絵本作家。
この『ウルスリのすず』は、岩波書店から刊行されているカリジェの6冊の絵本の中でも、もっとも初期に描かれた一冊で、 先に購入した『フルリーナと山の鳥』よりも、描線は素朴で荒々しいのですが、そこがまたよし、なのです。

おはなしとしては、『フルリーナ』よりも前の話で、ウルスリの幼い頃の出来事を描いたもののよう。
アルプスの山々の雪解けの頃に行われる、鈴行列のおまつりに、大きい鈴を持って行列の先頭を歩きたいウルスリが、 山の夏小屋に置いてある鈴をとりに、ひとりで山に入っていくのですが…。
ゼリーナ・ヘンツによる文章は、ちいさい子どもにやさしく語りかける調子で、読み聞かせにはぴったりです。

カリジェの絵の素晴らしさは言うまでもありませんが、たとえば家や山小屋の雑貨類の描写などには見入ってしまいます。
ウルスリが手にした大きい鈴の、皮のおびに施された花の刺繍の美しいこと。
実際の山の暮らしに基づいて、細部まで丁寧に描きこまれた絵は、子どもだけでなく大人にも、充分見ごたえがあります。

→「アロイス・カリジェの絵本」はこちら

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2006/12/15(Fri)
●グロリア・ヒューストン 作/バーバラ・クーニー 絵/吉田新一 訳『おもいでのクリスマスツリー』(ほるぷ出版)

物語の冒頭、雪のもうふをかぶった山並みを見晴かす、美しい光景が見開きいっぱいに描かれているのを見て、やっぱり、 「バーバラ・クーニー大好き〜」と思いました。
やさしい色合いの、春の山々。高い崖の岩の割れ目から咲く、ちいさな花々。雪に埋もれた山道をゆく、冬の夜の寒さ。 主人公ルーシーのベッドにかかった、パッチワークのかけぶとん。むかしながらの暖炉のあたたかさ。おかあさんの青いギンガムチェックのエプロン…。
この絵本の中には、それらのものがすべて描きとめられています。

バーバラ・クーニーは、『エミリー』や『ちいさな曲芸師バーナビー』などの作品でも、綿密な取材を行った上で絵を描いており、 その丁寧な仕事ぶりに感心させられたものですが、この作品でもやはり、舞台アパラチア山脈を訪ね、事実を正確に考証したとのこと。
クーニーは、およそ手を抜くということを知らない、誠実な画家なんですよね。
『おもいでのクリスマスツリー』では、大判の画面いっぱいに描かれた、クーニーの精緻な、それでいてあたたかみのある絵を堪能することができます。

物語は、第1次世界大戦を背景に、戦争にかりだされた父親の帰りを待ちわびる、母と娘のけなげな姿を語っています。
戦争が終わっても、夫がなかなか帰ってこず、貯えも底をついた状態での、一家を守る主婦としてのお母さんの勇気に、背筋の伸びる思いがします。
いまもアフガニスタンやイラクとの戦争が終わっていないアメリカでも、この美しい絵本は読み継がれているのでしょうか。
家族のもとにクリスマスの恩寵がおとずれる結びの部分は、ことに感動的です。

クリスマス絵本を読めば読むほど、西洋の人々にとって、いかにクリスマスが大事で、神聖な行事であるかが伝わってきます。
救いの御子が生まれた夜。
希望という恩寵が与えられた日。
やっぱり、日本人のクリスマスに対する意識は、もう少し変えたほうが良いのでは…と思ってしまいます。

→「バーバラ・クーニーの絵本」はこちら

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2006/12/08(Fri)
●片山廣子 松村みね子 著『燈火節―随筆+小説集』(月曜社)

片山廣子は、大正期の歌人。松村みね子の筆名で、ロード・ダンセイニやフィオナ・マクラウド等、多数のケルト圏の文学を翻訳し、日本に紹介したひとでもあります。
歌人としては歌集『翡翠(かわせみ)』『野に住みて』などを発表。
凛とした佇まいの才媛であった彼女は、あの芥川龍之介の、最後の恋の相手であったとか。
また随筆集『燈火節』は、1955年に、第3回日本エッセイスト・クラブ賞を受けています。

まあ、そんなこんなの片山廣子/松村みね子に関するエピソードは、あとから聞きかじったもの。
わたしはもちろんダンセイニやマクラウドの翻訳作品から彼女を知り、そのたおやかな感性で紡がれる日本語に、魅せられることになったのでした。
フィオナ・マクラウド『かなしき女王』の訳文は、ケルトの文学に興味はなくとも、一読の価値ある名訳です。
訳文の素晴らしさに感銘を受け、いざ片山廣子/松村みね子の著作を探してみると、これが安価でハンディなかたちではもはや流通しておらず…。
月曜社の『燈火節―随筆+小説集』は、片山廣子初の集成。とにかくお値段のはる一冊で…でも結局、買ってしまったのですけれど。

片山廣子/松村みね子というひとは、ケルト圏の文学に共鳴した幻視の魂の持ち主として、その人生にも興味のつきないものがあります。
この集成は、装幀も著者の人柄をあらわしたように奥ゆかしく、じっくりゆっくり美しい日本語を味わうのに最上の本。
また、わたしは今まで短歌にはほとんど親しんでこなかったのですけれど、片山廣子の歌には、つよく惹かれます。 できれば彼女の歌集も、いつか手にとってみたいと、憧れをつのらせているほど。
歌集『翡翠』のなかの有名な一首を、ぜひここに引用させて頂きたいと思います。


よろこびかのぞみか我にふと来る翡翠の羽のかろきはばたき


→松村みね子 訳『ダンセイニ戯曲集』の紹介はこちら
→松村みね子 訳『かなしき女王』の紹介はこちら

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2006/12/06(Wed)
●マーガレット・ワイズ・ブラウン 作/ベニ・モントレソール 絵/矢川澄子 訳『クリスマス・イブ』(ほるぷ出版)
●E.T.A. ホフマン 作/上田真而子 訳
『クルミわりとネズミの王さま』(岩波少年文庫)

『クリスマス・イブ』は、「おやすみなさいおつきさま」等の絵本で有名な、マーガレット・ワイズ・ブラウンの遺作。
クリスマス・イブの夜、眠れずにベッドから抜け出した、四人の子どもたちの目をとおして、クリスマスの神聖な雰囲気、雪の夜の静けさと美しさを描いた一冊。
オレンジ色の下地に、ぬくもりのあるやさしい線画、そこに黄色でアクセントをつけた、クラシカルな絵。
クリスマス・ツリーの絵がことに見事で、暖炉のまえにつるされた靴下や、ツリーのまわりに並べられたプレゼントなど、 たしかに「まるで まほうが ほんとうになったみたい」に、美しいです。
しんしんとふる雪の中から聞こえてくる聖歌のうたごえに、窓辺で子どもたちが耳をすます様子…読者の耳にも、きよらかな調べが、遠くから響いてくるようです。

クリスマスにはじまる物語として有名なのが、ホフマンの『クルミわりとネズミの王さま』。
リスベート・ツヴェルガーが絵を寄せた美しい絵本『くるみ割り人形』を読んで、物語の幻想的な魅力にも惹かれ、原作をきちんと読んでみたいと思い購入しました。
さっそく第1章、「クリスマス・イブ」のページを繰ったのですが、ここで語られている、クリスマスと、クリスマスの贈り物の神聖な由来は、クリスチャンでなはい日本人でも、きちんと知っておくべきなのだと思います。
子どもたちは、お父さまとお母さまが、あれやこれやいいものを買ってきて、それをいま並べているところだということを、知っていたのです。 そして、幼子イエスさまが、やさしい、清らかな幼子の目でそれを見つめていらっしゃるのだということも。 だから、クリスマスのプレゼントはその目の光につつまれて、祝福にみちた御手にふれられたように、どれもほかのものとはぜんぜんちがう、 すばらしいよろこびをもたらしてくれるのだということも、わかっていました。
上記マーガレット・W・ブラウン『クリスマス・イブ』の中でも、夜中にこっそり起き出した四人の子どもたちが、目の前にある靴下やプレゼントの包みに、 手を触れることができなかったのは、クリスマスの神聖な雰囲気を、無言のうちに感じとったからなのです。
クリスマスは、救い主、幼子イエスの誕生を信じる人々にとって、何よりたいせつな行事。
西洋の人々が描くクリスマスの絵本や物語を読んでいると、 日本人も軽薄に騒ぐだけでなく、西洋の伝統的なクリスマスの習わしを、尊重するべきではないかと、考えさせられてしまいます。

(※マーガレット・W・ブラウン『クリスマス・イブ』は、現在bk1で入手可能です)

→リスベート・ツヴェルガー『くるみ割り人形』の紹介はこちら
→ホフマン『クルミわりとネズミの王さま』の読書日記はこちら

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2006/12/04(Mon)
●ジャクリーン・ブリッグズ・マーティン 作/メアリー・アゼアリアン 絵/千葉茂樹 訳『雪の写真家 ベントレー』(BL出版)
●Clement Clarke Moore /Robert Sabuda 『The Night Before Christmas: A Pop-Up (Classic Collectible Pop-Up) 』(Little Simon)

『雪の写真家 ベントレー』は、ネット上の書評でも、あちこちで高く評価されており、ずっと気になっていました。 書店の店頭で手にとったとき、ぬくもりのある版画、そこに描かれたオールド・アメリカンの暮らしぶりに魅せられ、購入を決めました。
雪の写真家ベントレーの生涯をつづった伝記絵本。じっくり文章を追ってみると、ベントレーの生き方や、彼をとりまくひとびとの温かさが、心にしみ入ります。
アメリカの豪雪地帯の、ちいさな農村に生まれたベントレー。農夫として働くかたわら、雪に魅せられ、生涯を雪の研究と結晶の写真撮影にささげます。 雪の専門家としての彼の業績は高く評価され、ベントレーが出版した雪の結晶の写真集は、世界中のひとびとに雪の神秘と美しさを伝えたのです。
わたしはこの絵本で、はじめてベントレーという人を知りましたが、彼があくまで農夫として一生をおくったアマチュア研究者だったというのが、驚きでもあり、尊敬の念を抱かずにはいられません。
本の最後にベントレー自身の言葉が引用されていますが、こんな言葉が出てくるのも、彼がただ雪を愛した、ひとりの農夫であったからなのでしょう。
酪農家からは、いっぱいのミルクを。 そして、わたしの写真からも、おなじくらいだいじなものを受け取ってもらえるだろうと、わたしは信じている。
大人の心にも響く、珠玉の伝記絵本。
1999年の、コルデコット賞受賞作品です。

(※ ちなみに、ベントレーの雪の結晶の写真集は、現在でもアマゾン洋書ストアで購入できます。うーん、欲しいかも)


『The Night Before Christmas: A Pop-Up (Classic Collectible Pop-Up) 』は、言わずと知れたロバート・サブダのポップアップ絵本!
とは言いながら、わたしはポップアップ絵本、いわゆる仕掛け絵本というものに、「大人なのに、今さら飛び出す絵本なんて…」などといった気持ちも抱いていたのです。
けれど「紙の魔術師」とも呼ばれるロバート・サブダの作品、一冊は手にしてみたいと思い、やはりクリスマスなので『The Night Before Christmas』を購入。
開いてみて、洗練された、精巧な仕掛けに感動しました。
サブダの作品には、他にももっと凝った作りのものがあるようですが、この『The Night Before Christmas』には、シンプルな美しさがありますね。
白い紙のポップアップが映える、背景の洗練された配色。
これは…飛び出す絵本というよりは、紙のオブジェ、芸術作品だと思います。

オブジェとして大人の鑑賞に堪えうる作品でありながら、サブダのポップアップ絵本は、子どもの気持ちによりそうような遊び心も忘れていません。
ひとを喜ばせる贈り物として、これほどふさわしい絵本はないかも。
クリスマスギフトにぴったりのサブダ作品は他にもたくさんあるので、毎年一冊ずつ選ぶのも楽しいのではないでしょうか。

(※こんな作品が流通にのっていること自体がすごい、とは思いますが、やはり値段は普通の絵本より高め。 わたしはアマゾンの洋書ストアで、20%オフで買いました。ポップアップ絵本、という性質上、中身が英語でも問題はないと思いますので、アマゾンでのオフ価格での洋書購入はおすすめです)

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2006/12/02(Sut)
●クレメント・クラーク・ムア 詩/ターシャ・テューダー 絵/中村妙子 訳『クリスマスのまえのばん 改訂新版』(偕成社)

ずっと、昨年のクリスマスから欲しいと思っていた、ターシャ・テューダーの『クリスマスのまえのばん』、やっと購入しました!
ぬくもりと幻想的な雰囲気とがみごとに合わさった、ターシャらしい『クリスマスのまえのばん』。

藍色の夜空をバックに、楕円の枠の中におさめられた絵は、サンタクロースが、コーギ・コテージと思われる家を訪れる様子を描いています。
部屋の中の家具調度、雑貨、愛らしい動物たち。どれもターシャの住いコーギ・コテージに、実際にあるものばかり。
そして雪深い冬の夜、月明かりに照らされて、トナカイたちの引くサンタクロースのそりが登場する場面の、神秘的で美しいこと。
ターシャの描くサンタクロースは、輪郭もはっきりしない、妖精のような小人のおじいさん。
こんなサンタ像が、いちばんリアリティがあるなと感じるのは、わたしがケルト好き、妖精好きだからでしょうか。
だけど煙突を、さっと幻のようにのぼっていくところなんか、なるほどと思いました。
あと、ターシャの絵本はいつも、見返しも凝っていて、この一冊でも見所のひとつになっています。 楽しそうな動物たちの音楽会。クリスマスのまえのばんなら、こんなことも起こりそう。

コーギ犬や猫、ねずみなど、ちいさな動物たちとサンタクロースがくりひろげる、クリスマスのまえのばんの楽しい光景。
大人も子どもも、家族みんなで、クリスマスにページを繰るのにふさわしい絵本だと思います。

→「ターシャ・テューダーの本」はこちら

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2006/11/30(Thu)
●クレメント・C・ムーア 作/ジェシー・W・スミス 絵/ごとう みやこ 訳『クリスマスのまえのばん』(新世研)
●フェリクス・ホフマン 作/しょうの こうきち 訳
『クリスマスのものがたり』(福音館書店)

ジェシー・W・スミス『クリスマスのまえのばん』は、リンクをさせて頂いている絵本サイト「風のなか」のオーナー、ゆうぴょんママさんが教えてくださった一冊。
絶版だと思っていたのが、アマゾンでたびたびチェックしていたら、60%オフで在庫ありになっていたので、即購入しました。
とっても素敵な『クリスマスのまえのばん』。初版は1912年とのこと、クラシックな雰囲気の絵が美しいです。
テキストは英詩に日本語訳が添えられているかたちで、英文の頭文字には、美しいデザインが施されています。
古い作品だけに、サンタクロース(St.Nicholas)が赤でなく黒い毛皮を着ていたりして、サンタのイメージの変遷も興味深いです。
ほかのネット書店では品切れになっているので、欲しい人は今すぐアマゾンでゲットすべし、です。

フェリクス・ホフマン『クリスマスのものがたり』は…。

「ほかにも気になるワッツ作品はあるのですが、実はいろいろと調べているうち、ワッツがグリム童話の挿絵を多く手がけていることから、 同じようにグリム童話に多数の絵を寄せている絵本作家、フェリクス・ホフマンの名前に行き当たりました。
そして、このフェリクス・ホフマンの描いた『クリスマスものがたり』(福音館書店)こそ、 わたしが子どもの頃に、大好きでよく読んでいたクリスマス絵本だったことがわかったのです。
むかし引越しをしたときに、失くしてしまったらしい絵本。
だけど、はっきりと記憶に残っていた絵本。
ああ、そうだったのか! と思って、フェリクス・ホフマンの絵本も欲しくなり、 まずは『ねむりひめ』(福音館書店)を注文しました。
『クリスマスものがたり』は、クリスマスに買いたいしなあ…。」

2006/04/09の蒐集記録より

ついに、子どもの頃に深く親しんでいた絵本を、再び手にしました。
聖書に忠実に描かれた、幼子イエスの誕生のものがたり。
すべての絵が、記憶にはっきりと残っていることに感慨をおぼえます。見返しの模様まで、ちゃんと憶えているんですよね。
子ども時代に出会う本のたいせつさについても、考えさせられます。

→「フェリクス・ホフマンの絵本」はこちら

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2006/11/28(Tue)
●クレメント・クラーク・ムーア 詩/リスベート・ツヴェルガー 絵/江國香織 訳『クリスマスのまえのばん』(BL出版)

サンタクロースのイメージを決定づけたクレメント・クラーク・ムーアの有名な詩には、たくさんの絵本作家さんが絵を添えていて、 いくつもの絵本が存在するわけですが、この秋リスベート・ツヴェルガー絵の『クリスマスのまえのばん』が、ついに邦訳されました。
ずっと見てみたいなあと思っていて、洋書を買おうかとも考えていたのですが、邦訳版が刊行されたのでさっそく購入!
ツヴェルガーらしい『クリスマスのまえのばん』、やっぱり彼女の絵は大好きです。

まず見返しに、トナカイや子どもたちが輪になって手をつないでいる様子が、雪の結晶のようなかたちにデザインされています。
その「雪の結晶」が、銀色や金色で、中のページにもおしゃれに配置されています。
あと、最初と最後に、ベッドに入っている、かわいいねずみが描かれていて、「それこそねずみいっぴき、めざめているものはありませんでした」という一文からくる絵なのだと思いますが、 こういう絵にする場面の選び方が、まさにツヴェルガー。
子どもたちよりトナカイやねずみなどの動物が、とってもユーモラスにかわいく描かれているところや、深いのに透明感のある繊細な色使いなども、もちろん素敵。
クリスマス絵本らしく、きらりと光る銀色や金色が効果的に使われていて、画面にアクセントをつけています。

派手さはないのだけれど、品のある、しずかな、美しい『クリスマスのまえのばん』。
イブにはぜひページを繰りたい一冊です。

→「リスベート・ツヴェルガーの絵本」はこちら

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2006/11/24(Fri)
●平出隆 著『白球礼讃 ベースボールよ永遠に』(岩波新書)
●平出隆 著『左手日記例言』(白水社)

詩人・平出隆氏の文章に、すっかり魅せられ、この2冊を購入。
すでに『葉書でドナルド・エヴァンズに』『ウィリアム・ブレイクのバット』『猫の客』を読了し、いま『ベルリンの瞬間』を読んでいるところなのですが、 もっと平出氏の文章にひたりたいという気持ちがつのり…。

翻訳文の素晴らしさとはまた違った、洗練された、純粋な日本語の美しさ。
平出氏の散文は、淡々としていて、しずかで、落ち着いていて、教養と、気取らない人柄がにじみでていて、とても好きです。
もっと、もっとおいしい水を飲みたい、とでもいうような心持ちで、じっくりと言葉を味わいたくなります。
平出氏の詩作品は、たぶん難しいのではないかと思うのですが、肩のこらない散文作品が多いことは、嬉しい限りです。

→平出 隆『葉書でドナルド・エヴァンズに』の読書日記はこちら
→平出 隆『ウィリアム・ブレイクのバット』の読書日記はこちら
→平出 隆『猫の客』の読書日記はこちら

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2006/11/23(Thu)
●マリー・ホール・エッツ&アウロラ・ラバスティダ 作/マリー・ホール・エッツ 画/たなべ いすず 訳
『クリスマスまであと九日 セシのポサダの日』(冨山房)

ずっと欲しいと思っていた、マリー・ホール・エッツのクリスマス絵本。
メキシコのクリスマス行事ポサダについて、セシという少女の視点で丁寧に描いた作品です。

メキシコの人びとの生活の様子、セシの心の動きなどが細やかに描きこまれていて、文章が長いので、読み聞かせより、ひとりでじっくり読むのに向いていると思います。
またコルデコット賞を受賞した絵は、やはり素晴らしく、見返しを開いただけで、もうメキシコの空気がわっと伝わってきます。
オリーブ色の下地に、繊細な鉛筆画、そこに黄色・朱色・ピンク・白でアクセントがつけられていて、その色の選び方が素敵。
クライマックスの、夜のポサダの行列の絵などは、とても神秘的で美しいです。

メキシコのクリスマスの風景って、こんなふうなんですね。(^-^)

→「マリー・ホール・エッツの絵本」はこちら

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2006/11/11(Sat)
●アンソニー・L・マンナ&クリストドウラ・ミタキドウ 再話/ジゼル・ポター 絵/木村由利子 訳『うるわしのセモリナ・セモリナス 小麦粉うまれの王子さま』(BL出版)

なんとなく気になってはいたのだけれど、ネットで表紙画像など目にする限りでは、購入を決断するまでには至らなかった、ジゼル・ポターの絵本。
本屋さんで実際に手にとってみて、色使いの素晴らしさに魅せられ、結局購入することになりました。

ギリシャ民話の再話に、ジゼル・ポターが絵を添えた一冊。
これがデビュー作となるポターの絵は、なんとも不思議な味わい。
人物の顔の描き方が特徴的で、モディリアーニのように細長くひきのばされた輪郭に、細くちいさな目、薄い唇。
とにかく、まったく可愛くないのです。でも表情がどこかユーモラスで、味わい深い。
配色も、冷たいのだけれど暗くはなくて、品があって。
見返しに描かれた絵も、とっても素敵なんですよ。
表紙と見返しのブルーグレーが、この絵本の色使いの基調になっていて、わたしはこの色が、とっても好きです。

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2006/11/03(Fri)
●アルビン・トレッセルト 作/ロジャー・デュボアザン 絵/江國香織 訳『しろいゆき あかるいゆき』(BL出版)

秋の訪れを描いた『きんいろのとき ゆたかな秋のものがたり』も、トレッセルトとデュボアザンのコンビによる絵本ですよね。
この『しろいゆき あかるいゆき』は、ふたりが組んでつくったはじめての絵本とのこと。 トレッセルトの詩的な文章と、デュボアザンの色数をおさえた絵で、季節のうつろいが美しく切り取られています。

ゆきの降り始める様子を、ゆうびんやさん、おひゃくしょうさん、おまわりさんと彼のおくさん、 子どもたちとうさぎたちの眼差しをとおして、丁寧に描いてある一冊。
グレー・黄色・赤・白のみで構成された絵は、冬の寒さと雪の冷たさ、しんしんと雪の降る夜のしずけさ、同時に家の中のあたたかさを感じさせて美しいです。
おはなしの結びが、奇をてらうわけでもなく秀逸で、とても素敵だと思いました。

冬の夜にページを繰るのにぴったりの、しずかでおだやかな絵本。
コルデコット賞受賞作品です。

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