■グリム童話の絵本



魔法、お城、暗い森。呪いをかけられたお姫さまと王子さま…。
時の扉を開くための古いふるい物語を、美しい絵とともに。



↓クリックすると紹介に飛びます。


「しらゆきひめ」こみねゆら

「白雪姫」アンジェラ・バレット

「かえるの王さま」ビネッテ・シュレーダー

「おどる12人のおひめさま」エロール・ル・カイン

「いばらひめ」エロール・ル・カイン

「ねむりひめ」フェリクス・ホフマン

「おおかみと七ひきのこやぎ」フェリクス・ホフマン

「グリムの昔話 1〜3」フェリクス・ホフマン

「つぐみのひげの王さま」フェリクス・ホフマン

「つぐみひげの王さま」バーナデット・ワッツ

「赤ずきん」バーナデット・ワッツ

「ヨリンデとヨリンゲル」バーナデット・ワッツ



「しらゆきひめ」

矢川澄子 再話/こみね ゆら 絵(教育画劇)
しらゆきひめ (絵本・グリム童話) 「ああ、あかちゃんが ほしいこと。
ゆきのように しろく、ちのように あかく、
まどわくみたいに くろい かみのけの こが あったら!」
おきさきが願ったとおり美しく生まれた赤ちゃんは、「しらゆきひめ」と名づけられました。
しかしおきさきはまもなく亡くなり、やってきた新しいおきさきは、自分が誰よりきれいでなくては気がすまないという、いばりんぼでした。
新しいおきさきはふしぎなかがみを持っていました。かがみに問いかけると、くにじゅうでいちばんの「きりょうよし」はおきさきだと答えるのです。安心するおきさきでしたが、しらゆきひめが七つに成長したある日、かがみは、しらゆきひめはおきさきの千ばい美しい、と答えたのです! 妬みに身を焦がしたおきさきは、とうとう、しらゆきひめの命を奪おうと画策しますが…。

『しらゆきひめ』は、とても上質なメルヒェン絵本。こみねゆらさんの繊細な筆が、おそろしくも美しい『しらゆきひめ』の世界を魅力的に描き出しています。
何と言ってもしらゆきひめが愛らしい!
ゆきのように白い肌、血のように赤い唇、ゆたかな黒髪。白いカチューシャに、フリルやレースのたくさんついた白いドレス。
女の子の憧れを凝縮したようなしらゆきひめの姿は、人形作家でもあるこみねさんらしく、どこか繊細なお人形のようでもあり、抱きしめたいほど愛らしいけれど、抱きしめたら壊れてしまいそうです。
矢川澄子氏による再話は、グリムの原作におそらくかなり忠実なもので、わるいおきさきに訪れるおそろしい結末など、童話の残酷な一面も垣間見え、たいへん興味深いです。

→「こみね ゆらの絵本」はこちら

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「白雪姫」

ジョゼフィーン・プール 文/アンジェラ・バレット 絵/島 式子 訳(BL出版)
iconicon はだは雪のように白く、くちびるは血のように赤く、髪は黒檀のようにまっ黒な、美しい王女、白雪姫。 姫を生んだお妃さまが亡くなったあと迎えられた新しい王妃は、わがままで欲深く、嫉妬深い女性でした。
王妃は魔法の鏡を持っていて、この世で一番美しいのはあなただと、鏡が答えてくれるたびに満足しておりましたが、白雪姫が成長したある日、鏡は、王妃は白雪姫の美しさにはかなわないと告げたのです。
ねたましさから白雪姫を憎むようになった王妃は、姫を殺してしまおうと企んで・・・。

Snow White ずっと気になっていたイラストレーター、アンジェラ・バレット。
どの作品を最初に手にとるべきか迷ったすえ、この『白雪姫』を購入したのですが、何とも美しい一冊で、すっかりアンジェラ・バレットの絵の世界にひき込まれてしまいました。
丁寧で繊細なタッチ、大胆な構図で描かれる白雪姫の世界。
アンジェラ・バレットの絵は、画面に広大な奥行きがあって、この『白雪姫』では、その奥へ奥へと広がる空間に、おとぎ話ならではの魔法の空気がたちこめています。
大人向けの上品な絵柄で、登場人物も、ディズニーのような幼い感じでなく、リアルに描かれているので、物語にひめられた残酷さも際立ちます。
見開きの、まっしろい雪の上におちた血のひとしずくが、美しくておそろしい。
アンジェラ・バレットの絵の魅力を堪能できる、珠玉の絵本です。

*物語の結末は、ジョゼフィーン・プールによって、グリムの原作とは違うものになっています。
*左の画像は、洋書版にリンクしています。邦訳版では中にこの絵があります。クリックすると、中ページも確認できます。

→「アンジェラ・バレットの絵本」はこちら

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「かえるの王さま」

または忠臣ハインリヒ
グリム童話/ビネッテ・シュレーダー 絵/矢川澄子 訳(岩波書店)
グリム童話 かえるの王さま (大型絵本)
むかし、まだ、ねがいごとの何でもかなったころのこと、あるところに王さまが住んでいました。王さまの末のひめは、お日さまでさえはっとするほどの美しさでした。
おひめさまは、暑い日には、お城のそばの大きな暗い森にゆき、菩提樹の根かたの泉のふちにこしかけました。そしてお気に入りの金のまりをほうりあげてはうけとめて遊ぶのです。
あるとき、この金のまりが泉の中に落ちてしまいました。泣き出したおひめさまに声をかけたのは、ずんぐりみっともない一匹のかえるでした。かえるは、金のまりを拾うかわりに、おひめさまと一緒のテーブルで、一緒の金のおさらから食べ、一緒のコップで飲んで、一緒のベッドに寝かせてくれるよう、おひめさまから約束をとりつけますが…。

有名なグリム童話の1篇に、ビネッテ・シュレーダーが絵を寄せた一冊。美しく、なぞめいていて、おそろしくもある絵の数々が、グリム童話のエッセンスを見事に伝えてくれています。
「大きな暗い森」の不気味さは、魔法の息づいていた時代の森のおそろしさが感じられます。遠近法を駆使した奥行きのある画面はとても幻想的で、お城の中の長い長い廊下を、おひめさまがかえるを指先でつまんで奥へ奥へと歩いてゆく場面など、石づくりの広大な城の、魔法のひそむひんやりした空気が感じられるようです。
折々漫画のコマ割りのような手法で、かえるやおひめさまの動きが表現されているのも面白く、ことにかえるが王子さまに姿を変えていく場面は印象的。ネット上ではグロテスクという表現もされているようですが、かえるの変身途中の姿は、映画『ロード・オブ・ザ・リング』の登場人物ゴラムを彷彿させます。
グリム童話の奥深さを伝える絵本であると同時に、ここに描かれた絵のいくつかは、ドイツやヨーロッパのどことも思われない、不思議な風景を描き出しています。
最初と最後の、忠臣ハインリヒがかえるの王さまを迎えに白馬八頭だての馬車でゆく、その魔法の国の風景は、この地上のどこにもない、ビネッテ・シュレーダーの王国なのでしょう。

→「ビネッテ・シュレーダーの絵本」はこちら

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「おどる12人のおひめさま」

グリム童話より/エロール・ル・カイン 絵/矢川澄子 訳(ほるぷ出版)
〜5歳から〜
おどる12人のおひめさま―グリム童話 むかし、ある国に、12人のすばらしくきれいなお姫様がありました。
ふしぎなことに朝になると、お姫様たちのくつは、一晩中おどりあかしたみたいに、ぼろぼろに。 この謎をつきとめることになったのは、ひとりの貧しい兵士。はたして、お姫様たちは真夜中に、いったい何をしているのでしょう?

ル・カインの描くグリム童話は、めくるめく夢幻の世界。
この絵本は、ロココ調の華やかな装いをしたお姫様たちが、12人も描きこまれているというのが、とにかく圧巻。 一人ひとり違う髪型とドレスは、女の子ならうっとり見入ってしまうはず。
華麗な舞踏会の様子、テキストの縁取りの模様なども見どころですが、お姫様たちが通う地下王国の神秘的な風景は、とりわけ印象に残りました。

→「エロール・ル・カインの絵本」はこちら
→同じおはなしを下敷きにした、カイ・ニールセン挿絵『十二人の踊る姫君』の紹介はこちら

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「いばらひめ」

グリム童話より/エロール・ル・カイン 絵/矢川澄子 訳(ほるぷ出版)
〜5歳から〜
いばらひめ―グリム童話より ディズニー「眠れる森の美女」の原作として有名なグリム童話を、ル・カインの華麗な筆で描いた絵本。
呪いをかけられた美しいお姫様。糸車のつむで指をさし、永い永い眠りについてしまいます。 いばらに囲まれた城の奥で眠りつづける姫の目を覚ますのは、王子様のやさしいキスでした。

ケイト・グリーナウェイ賞候補になった作品。細部まで描きこまれた衣装や背景など、中世ヨーロッパの風俗を伝える絵は美しく、 魔法に満ちた幻想的な物語世界をみごとに描き切っています。
グリム童話の中でも、わたしはこのおはなしがお気に入り。姫が指をついてしまう糸車のつむに、 子ども心にも恐ろしい、けれども魅惑的な魔法の匂いをかぎとったものです。 お姫様が古い塔の中で、糸車をまわすおばあさんに出会う場面の絵など、妖しく暗い魔法の空気が匂いたつようです。
なお、フェリクス・ホフマンも同じ原作で、『ねむりひめ』という美しい絵本を描いています(下記に紹介)。

→「エロール・ル・カインの絵本」はこちら

→Amazon「いばらひめ―グリム童話より
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「ねむりひめ」

グリム童話
フェリクス・ホフマン 絵/せた ていじ 訳(福音館書店)
ねむりひめ―グリム童話 (世界傑作絵本シリーズ―スイスの絵本)
なかなか子どものできなかった王さまとお妃さまとの間に、やっと生まれた、かわいらしい女の子。 喜んだ王さまは、お祝いの宴会をひらきますが、その国に13人いる「うらないおんな」たちのうち、招かれたのは12人だけ。 人に運を授ける力をもつ12人の「うらないおんな」たちは、姫にひとつずつ、ふしぎな贈り物をします。
ところが宴会に招かれなかった一人があらわれて、姫におそろしい呪いをかけてしまうのです…。

有名なグリム童話の一篇を、フェリクス・ホフマンが美しい絵本に仕上げた、珠玉の一冊。 教会の壁画などを彷彿させる、格調高い雰囲気の絵が素晴らしく、ホフマンの絵本の中でも、わたしのイチオシ作品。
「おおかみと七ひきのこやぎ」と、この「ねむりひめ」は、どちらもホフマンが自分の子どもたちに贈った、手描きの絵本がもとになっています。 きっと「ねむりひめ」に描かれた、愛情あふれる王さまは、ホフマン自身の姿に違いありません。 呪いをかけるためにあらわれた「うらないおんな」から、姫を守ろうとする王さまの仕草や、 国じゅうの「つむ」が焼かれるのを見つめながら、姫を抱きしめる王さまの姿には、胸を打たれます。
なお、エロール・ル・カインも同じ原作で、『いばらひめ』という美しい絵本を描いています(上記に紹介)。

→「フェリクス・ホフマンの絵本」はこちら

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「おおかみと七ひきのこやぎ」

グリム童話
フェリクス・ホフマン 絵/せた ていじ 訳(福音館書店)
おおかみと七ひきのこやぎ―グリム童話 (世界傑作絵本シリーズ―スイスの絵本)
おかあさんやぎが、森へ食べ物をさがしに行っているあいだ、おおかみに気をつけて留守番すると約束した、七ひきのこやぎたち。 おおかみは、おかあさんやぎのふりをして、とんとんと、入り口の戸をたたきます。「あけておくれ、こどもたち。おかあさんだよ」 さあ、こやぎたちは、おおかみの悪知恵を、見破ることができるでしょうか?

子どもの頃、誰しも夢中になったに違いない、有名なグリム童話。
おおかみが、とんとん、と戸をたたき、「あけておくれ、こどもたち」という場面は、子どもにとっては、ほんとうにドキドキハラハラするものです。 せた ていじ氏の訳が、とても美しく、リズム感のある日本語になっているので、読み聞かせにぴったりの一冊。
フェリクス・ホフマンの絵は、おおかみや、やぎがリアルに描かれていて、子どもには怖い印象があるかもしれませんが、こういう絵こそ、記憶に残るものではないでしょうか。 わたしも幼い頃、ホフマンの絵本を、すみずみまで飽きずに眺めていたことを思い出します。
見返しに描かれた草花も、素敵なんですよ。

→「フェリクス・ホフマンの絵本」はこちら

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「グリムの昔話 1〜3」

フェリクス・ホフマン 編・画/大塚勇三 訳(福音館書店)
グリムの昔話〈1〉 (福音館文庫)
グリム童話の中から、フェリクス・ホフマンがみずから101の話を選び、美しい挿絵を付けたこのシリーズ。 全3巻で、愛蔵版と文庫版があり、わたしは文庫版を購入しました(とりあえず1のみ)。
絵本ではなく、挿絵つきの童話集で、グリム童話の奥深さをじっくり味わうことができます。
第1巻には、「ラプンツェル」「ヘンゼルとグレーテル」「灰かぶり」「七羽のカラス」など35篇が収められ、文庫版でもカラー挿絵が多数付されているのが、ありがたいです。

グリム童話は、数多くの無名の人たちによって語りつがれてきたものを、グリム兄弟が編纂したもの。 「フィッチャーの鳥」「ネズの木の話」など、多くの人々の心の結晶であるおはなしの数々は、ときに驚くほど残酷です。
この「ネズの木の話(百槇の話)」について、『指輪物語』の作者として知られるJ.R.R.トールキンが、自身のエッセイ(*1)の中でとりあげています。
このお話の「なんともいえず悲しい始まり、忌まわしい人肉シチュー、身の毛もよだつ骨、木から霧が立ち上がって現れた陽気な復讐の鳥の霊魂のことはあまりにも美しく恐ろしくて、子どもの頃からずっとわたしの頭を離れない」と述べ、また、 「記憶に漂うあの物語の香気は美でも恐怖でもなく、二千年という単位でも測り知れない時の遠さと、底知れぬ深さなのである」「あの骨とシチュー抜きの話だったら、時の深淵をかいま見ることなどとてもできないだろう」とも言っています。
そしてさらに、迷信や因習の名残をとどめた古い物語の文学的効果について、「あのような物語は異次元の<時>への扉を開く。その扉を通ると、ほんの一瞬だがわたしたちはこの現実世界の時間の外、おそらく<時>そのものの外に立っているのである」と語っているのです。
わたしはこのトールキン教授の言葉で、「ネズの木の話」の残酷すぎる描写について、よく理解できたし、その魅力をわずかながらも味わえるようになりました。

ホフマン編纂の『グリムの昔話』では、「ネズの木の話」のおそろしい道具立ては、子ども向けに削除されたりはせず、きちんと残っています。「異次元の<時>への扉を開く」、古いふるい物語の数々を、ホフマンの芸術的な絵が彩ります。

*J.R.R.トールキン 著/杉山洋子 訳『妖精物語の国へ』(ちくま文庫)
→『妖精物語の国へ』の紹介はこちら

→「フェリクス・ホフマンの絵本」はこちら

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「つぐみのひげの王さま」

グリム童話
フェリクス・ホフマン 絵/大塚勇三 訳(ペンギン社)
つぐみのひげの王さま―グリム童話
美人だけれども、気ぐらいが高くて、うぬぼれやのおひめさま。 だれが結婚を申し込んできても気に入らず、相手をばかにして、からかいます。 ある時、求婚者がたくさん招かれた大宴会で、おひめさまは、あごがちょっと曲がっている、人のいい王さまを、「この人のあご、まるでつぐみのくちばしみたい!」と言って笑いました。 その時からこの王さまは、《ツグミヒゲ》と呼ばれるようになったのです。
娘のそんな態度に、腹をたてた父王さまは…。

グリム童話の一篇。バーナデット・ワッツも、同じ物語に絵をつけています(下記に紹介)。 女の子なら、ワッツの絵本が気に入るでしょうし、こちらホフマンの絵本は、古典的な雰囲気が何ともいえず素敵。正統派の一冊、といった感じです。
ホフマンの、描きこみすぎないのに、多くを物語ってくれる、芸術的な絵。 描線のひとつひとつが、物語の秘密を語りかけてくるようで、何度眺めても見飽きることがありません。

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「つぐみひげの王さま」

グリム童話
バーナデット・ワッツ 絵/ささきたづこ 訳(西村書店)
綺麗で利口なことが自慢のお姫さまは、求婚者たちをばかにして、みんな追い返してしまいます。 ある日、偉い人たちが大勢招かれたパーティで、お姫さまは、あごのさきが少しとがっている、人のよさそうな王さまを、「つぐみのくちばしみたいな あご」と言って笑いました。 お姫さまの振る舞いに、とうとう腹を立てた父王さまは…。

この絵本も、ワッツの色彩感覚が、やはり素晴らしいです。
『おじいさんの小さな庭』等とは違い、一見してあたたかい色調の絵が少なく思えたのですが、よく読んでみると、主人公のお姫さまの心情が、色であらわされているのです。
青と黄色の表現が、際立って美しいと思いました。
それにしても、ワッツの絵本をいくつか味わううち、グリム童話の面白さにようやく気づきはじめ、本格的に読み込んでみたくなりました。 絵本には、こういった物語世界への入り口としての魅力もありますよね。
なお、フェリクス・ホフマンも同じ原作で、『つぐみのひげの王さま』という美しい絵本を描いています(上記に紹介)。

→「バーナデット・ワッツの絵本」はこちら

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「赤ずきん」

グリム 文/バーナディット・ワッツ 絵/生野幸吉 訳(岩波書店)
赤ずきん (大型絵本 (30))
おばあさんのくれた赤いずきんがよく似合うので、「赤ずきん」と呼ばれるようになった女の子。 ある日おかあさんの言いつけで、病気のおばあさんに、おかしとワインを届けに行くことに。 森の中にあるおばあさんの家へ向かう途中、一匹のオオカミがあらわれて…。

グリム童話の「赤ずきん」を、ワッツの色彩豊かな絵で味わえる一冊。
まず素敵なのは、赤ずきんの愛らしさ。赤いずきんも、エプロンも、しまもようのタイツも、茶色のブーツも、あどけない表情も、すべてかわいい。
そして魅惑的な森の風景。オオカミの誘惑で、花の咲き誇る森の奥へ奥へとはいりこんでいく、赤ずきんの気持ちがよくわかります。 めくるめく色彩のお花畑の美しいこと。けれども「みちからはずれてあるかないように」という、お母さんのいいつけに背いてしまっている、赤ずきんのうしろめたさや、 未知の森への怖れも読みとれる、暗さもひそんでいます。

また、おばあさんのお家の、かわいらしい描写。さりげなく描かれた雑貨などにも、神経がゆきとどいています。 猫や、小鳥や、蝶などがあちこちに描きこまれているのも、見逃せません。
オオカミの死の描写も際立っており、残酷だけれども滑稽で、童話のエッセンスがよく伝わってきます。

お花畑を描いた見開きが、この絵本の絵としては目立っていて、表紙にもなっていますが、夜の森を描いた絵も、ワッツならではの美しさで、とても素敵です。 かりうどが、おばあさんの家のそばを通りかかる場面の、青白い月のかがやきと、月光に染まる木々の、ふしぎな青さ。 ワッツの描く夜の風景のこの青さには、惹きこまれずにはいられません。

標題紙の次のページ、本文のはじまる前に、そっと描かれた、おかしとワインの入った籠と花束。 本文の終わったあと、奥付の前のページに、赤ずきんの眠るベッドがちょこんと描かれていることなどが、この一冊に対する画家の愛情や、誠実さ、丁寧さをうかがわせます。
この絵本は、ワッツの作品のなかでも、とりわけ美しく愛らしく、かつ、グリム童話ならではの不気味な暗さもひそんでいる、珠玉の作品です。

→「バーナデット・ワッツの絵本」はこちら

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「ヨリンデとヨリンゲル」

グリム童話より/ベルナデッテ・ワッツ 絵/若木 ひとみ 訳(ほるぷ出版)
icon icon むかしむかし、大きな森の真ん中に、古いお城がありました。お城には、一人の年とった魔女が住んでいました。 この魔女は、城に近づく若い娘を、たちまち小鳥の姿に変え、かごに閉じ込めて、連れ去ってしまうのです。
ある日、愛し合う恋人同士ヨリンデとヨリンゲルは、森に入って、知らぬ間に、おそろしい城のすぐ近くまで来てしまいました…。

この絵本は、ワッツの初期の作品で、現在おなじみの、やさしいパステルカラーの愛らしいタッチとは、画風がずいぶん異なっています。
色彩の見事さや、草花や夜空の描写などに、現在の画風の原点を感じさせられますが、全体的に薄暗くて不気味な雰囲気が漂っています。
ですが、この薄暗さと不気味さが、グリム童話の奥深い森や魔法の空気を感じさせて良いのです。
小暗い森を描いた絵の、塗り重ねた色彩の深さ。魔女の住む古いお城に凝る闇。魔法の息づいていた時代への想像力がかきたてられます。
ヨリンゲルのみた夢の描写など、ほんとうに夢幻味あふれる色彩で、なんとなくシャガールの絵を思い出しました。
芸術性が高く、くりかえし味わえる、よい絵本だと思います。

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