■本の蒐集記録(2011年5-6月)


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2011/06/28(Tue)
●ルイス・キャロル 著/高橋 宏 訳
『不思議の国のアリス・オリジナル』(書籍情報社)
●Anne Higonnet 著『LEWIS CARROLL』(PHAIDON)

不思議の国のアリス・オリジナル(全2巻) ヴィクトリア朝イギリスにおいて生まれた物語『不思議の国のアリス』は、いまもシュバンクマイエルの絵本が出たり、ジョニー・デップの映画があったり、グッズもたくさん売られていて、「アリス産業」とも呼べそうな、高い人気を誇っています。
そもそも『不思議の国のアリス』は、ルイス・キャロルが、ある夏の日に、リデル家の三人姉妹に即興で語り聞かせたお話がもとになっています。
キャロルはこの即興の物語を自作の本に仕立て、挿絵まで自分で描いて、リデル家の次女アリスにクリスマス・プレゼントとして贈ったのだそうで、タイトルは『Alice's Adventures Under Ground(地下の国のアリス)』となっていました。
のちに『Alice's Adventures Under Ground』に新たなエピソードを加え、テニエルの挿絵を付して出版されたのが『Alice's Adventures in Wonderland(不思議の国のアリス)』なのです。

『不思議の国のアリス・オリジナル』は、大英博物館所蔵のキャロル直筆の原本『Alice's Adventures Under Ground』の復刻版と、日本語訳とが2冊セットで函入りになっているものです。
じつは『Alice's Adventures Under Ground』の邦訳版としては、新書館の『地下の国のアリス』をすでに持っているのですが、どうしても原本の復刻版というのが欲しくて、この書籍情報社版を買ってしまいました。
やっぱり原本の復刻版は美しい〜。手作りの本らしい佇まい、ヴィクトリア朝の雰囲気、キャロルの手書き文字に、決して上手いとは言えない挿絵…これにパラフィン紙がかかっていて、キャロル撮影のアリス・リデルの写真が刷られた栞と、やはりアリス・リデルの写真が刷られたカードが入った生成りの封筒が付いています。
日本語訳のほうは、黒柳徹子さんの前書があり、ラッセル・アッシュの解説とともに、アリスの物語への理解を深めてくれますし、こちらの挿絵はジョン・テニエルのものが使用されていて、テニエルの絵も楽しめます。
キャロルの挿絵とともにテキストを楽しみたいなら新書館版、原本の佇まいを知りたい、コレクションとして持っておきたいなら書籍情報社版、ということになるでしょうか。

Lewis Carroll さて、ルイス・キャロルが撮影したアリス・リデルの写真に興味がおありの向きには、こちらの写真集『LEWIS CARROLL』はいかがでしょう。
アリス・リデルやリデル家の姉妹を撮ったもの(有名な乞食姿のアリスの写真もあります)をはじめ、キャロルの写真56点が収められたこの本は、装幀も美しく、写真集としては比較的安価です。PHAIDONの美術書は良心的な値段で、ありがたいなあ〜と思います。
「本棚の奥のギャラリー[写真篇]」にレビューをアップしているので、詳しくはそちらをご覧いただけるとうれしいです。

→「恵文社一乗寺店」で、『LEWIS CARROLL』の中身を確認できます。

→『不思議の国のアリス』の紹介はこちら
→写真集『LEWIS CARROLL』の紹介はこちら

→Amazon「不思議の国のアリス・オリジナル(全2巻)」*Amazonで中身検索できます
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2011/06/22(Wed)
●Randolph Caldecott 著『Ride A-Cock-Horse and Other Rhymes and Stories』(Everyman's Library )

Ride A-Cock-Horse and Other Rhymes and Stories: Children's Classics (Everyman's Library Children's Classics) ランドルフ・コールデコットは、19世紀イギリスのイラストレーター。
彫版師エドマンド・エヴァンスととともに、マザーグースなどを題材とした子ども向けの絵本を多色木版で制作。ウォルター・クレイン、ケイト・グリーナウェイとともに、現代絵本の基礎を築きました。
その業績にちなんで、アメリカ図書館協会が「コールデコット賞」を設立したことは、よく知られていると思います。

『Ride A-Cock-Horse and Other Rhymes and Stories』は、<Everyman's Library Children's Classics>シリーズの一冊で、コールデコットの絵本集です。
「Ride A-Cock-Horse to Banbury Cross(バンベリーのまちかどへ)」「The House thet Jack Built(これはジャックのたてた いえ)」「The Queen of Hearts(ハートのクィーン)」「Sing a Song for Sixpence(六ペンスの うたをうたおう)」等のマザーグースや、 「The Babes in the Wood(森の中の子供たち)」等のイギリス古来のバラッドを描いた作品など、全9篇が収められています。
コールデコットの作品は、美しく彩られた愉快な絵で、ごく短いマザーグースのテキストをふくらませ、独自の表現にしています。まさに「絵本」の源流!
<Everyman's Library Children's Classics>シリーズは、原本の版型と違っている場合、無理に挿絵を縮小したり拡大したりして、印刷がぶれたりしていることがあるのですが、この本ではさほど気にならず、かなり安価に、コールデコットのクラシカルな絵を堪能できる一冊になっています。

余談ですが、P・G・ウッドハウス『よしきた、ジーヴス』の中で、ダリア叔母さんが、バーティのせい(というか、ジーヴスの策略のせい?)で真夜中に屋敷から閉め出される羽目に陥ったとき、怒りまくってイヤミたっぷりに、こう言う場面があります。
あたしたちは『森の中の子供たち』みたいに凍えて死ぬ見とおしを、従容として受け入れるしかないの。ただただ、あたしたちの亡きがらを木の葉で覆ってくれるよう、古い友達のアッティラに遺言をのこしてくことしかできないんだわ。

森村たまき 訳『よしきた、ジーヴス』(国書刊行会)324-325ページより

ダリア叔母さんは、普段はバーティととっても仲良しだけど、怒らせるとすごーくコワいのです。「アッティラ」っていうのはバーティを指していて、これもイヤミでこう呼んでいるのですが。
最初読んだときは、この引用の意味がもちろん分からなかったのだけれど(そんなの分からなくても充分面白いウッドハウス作品ではありますが)、木の葉で覆われた子どもたちの亡きがらを描いたコールデコットの絵を見たあと、『よしきた、ジーヴス』を再読したとき、「ああ、あれかあ」と、やっと納得したものです。
本国イギリスの人には、説明する必要もない引用なのでしょうが…^^;
でもいろんな本を読んでいくうち、次々にあたらしい発見があるのは、なんとも楽しい、幸せなことです。

→「ウィキペディア」でコールデコットについて確認!
→「連想美術館」でコールデコットについて確認!

→「ウォルター・クレインの絵本」はこちら
→「ケイト・グリーナウェイの絵本」はこちら

→Amazon「Ride A-Cock-Horse and Other Rhymes and Stories: Children's Classics (Everyman's Library Children's Classics)

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2011/06/14(Tue)
●P・G・ウッドハウス 著/岩永正勝・小山太一 編訳『ジーヴズの事件簿―才智縦横の巻』『ジーヴズの事件簿―大胆不敵の巻』(文春文庫)
●勝田 文 著/P.G.ウッドハウス 原作/森村たまき 訳
『プリーズ、ジーヴス 1・2』(白泉社)

ジーヴズの事件簿―才智縦横の巻 (文春文庫) ジーヴズの事件簿―大胆不敵の巻 (文春文庫) 文芸春秋から刊行されている、P・G・ウッドハウス選集。国書刊行会とともに、ウッドハウス作品を精力的に邦訳刊行しつづけてくれていて、ほんとうに有難いのですが、このたびP・G・ウッドハウス選集の第1弾として人気を得ていた『ジーヴズの事件簿』が、ついに文庫化されました!

ああ、やっと文庫でウッドハウスが読める日がきたんだ! と、感慨もひとしお…。
ウッドハウスっていうのは、わたしにとって、つねに傍らに置いて、手のすくたびにページを繰っては、くすりと笑って疲れを癒す…そういう本なわけでありますから。
「公務の重圧で大変なとき、いつも私はウッドハウスを読み返すことにしている」(*)と、トニー・ブレア元英国首相でさえ語っておられます。

そんなわけで『ジーヴズの事件簿』ですが、国書刊行会の森村たまきさんの訳とは、また全然イメージが違います。
文芸春秋版ではバーティはジーヴズのことを「おまえ」ってよく呼んでるけど、国書刊行会版では「きみ」だし、文芸春秋版では国書刊行会版ほどジーヴズのセリフもややこしくないし。
あと、国書刊行会版のほうがバーティがかわいい…これは、訳者である森村たまきさんの愛情がにじみ出た結果でしょうかねえ。
とりあえず訳の違いを興味深く比較しつつ、『ジーヴズの事件簿』文庫版は、いつも鞄に忍ばせています。

プリーズ、ジーヴス 1 (花とゆめCOMICSスペシャル) プリーズ、ジーヴス 2 (花とゆめCOMICSスペシャル) そして、『ジーヴズの事件簿』文庫版を買ったついでに、国書刊行会の「ジーヴス」シリーズの漫画化作品である、『プリーズ、ジーヴス 1・2』も買ってみました。
ウッドハウスの漫画化(しかも少女漫画)ってどうなのかなあ、と懐疑的だったりもしたのですが、読んでみたら、これが面白い!
バーティがかわいいし、ジーヴスは腹黒だし、ビンゴはアホだし、イメージどおり! バーティの服装とかロンドンの街並みだとかも丁寧に描かれていて目に楽しい。
あと、絵にすることで、原作とはまた違った笑いもあるなあと思いました。バーティのバカヅラ百面相とか、服装にうるさいジーヴスがビンゴの付け髭に衝撃を受ける姿だとか…。
この漫画を入口に、ウッドハウス読者がどんどん裾野を広げて、そのうちブランディングズ城シリーズも全部邦訳されないかな〜、なんて思ってしまいます。

*国書刊行会「ウッドハウス・スペシャル」リーフレットより

→「イギリスはおもしろい」はこちら

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2011/06/07(Tue)
●フェリクス・ホフマン 画/寺岡寿子 訳
『うできき四人きょうだい グリム童話』(福音館書店)
●利倉 隆 構成・文
『ボッティチェリ 春の祭典 イメージの森のなかへ』(二玄社)

うできき四人きょうだい―グリム童話 (世界傑作絵本シリーズ) フェリクス・ホフマン生誕100周年記念限定復刊『うできき四人きょうだい』です。
復刊をきっかけに手にとったのですが、ホフマンの絵本のなかでも、そうとうのお気に入りになりました。

まず表紙の絵、このシブい色使いが、いかにもホフマンらしくて素敵。見返しも、こげ茶の地に白い線画で、街と、街並みの向こうにひろがる海、水平線をゆく帆船が描かれています。
中の絵も、使われている色数は限られていて、それがまたシブい画面を作り出しているし、海や空の青さが印象に残ります。
おはなしも、初めて読んだのですが、とても面白い。貧しい四人兄弟が、父のもとを旅立ち、それぞれに一流の仕事をおぼえて、うでききになって帰ってきます。
あるとき王さまのお姫さまが竜にさらわれ、四人兄弟はそれぞれの仕事の技を生かして、力を合わせてお姫さまを助け出します。
この兄弟たちの仕事というのがどれも面白く、四人が協力してひとつの事を成し遂げるさまが巧みに語られていて読ませるし、竜が出てきてお姫さまを救出するというところも冒険の要素があって、男の子が楽しめそう。結末も、もちろんすっきりハッピーエンドです。
とても上質の絵本だと思うので、いつもながら、なぜ限定復刊なのか…と思ってしまいます。

ボッティチェリ 春の祭典 (イメージの森のなかへ) 『ボッティチェリ 春の祭典』は、ボッティチェリの「春(プリマヴェーラ)」をじっくり鑑賞したくて購入。
「春(プリマヴェーラ)」は大判見開きで収録されているし、子ども向けにわかりやすい解説もついていて、なるほどと思いましたが、やはりボッティチェリのようなルネサンスの大画家の画集は、高くてももっと収録作品が多いものを選んだほうが良いのかなと考えてしまいました。
あれもこれも、もっと見たい絵があったけど載ってないな、という感じ。まあ、たったの48ページだし、「イメージの森のなかへ」というシリーズのコンセプトは、画家の全作品を網羅することではないわけですから、無理もないのですけれど。

でも本格的な画集ってほんとうにお高いんですよね…欲しいものはいくつもあるけど(クノップフとかモランディとか…)、どれも値段にひるんで手が出ません…^^;

→「フェリクス・ホフマンの絵本」はこちら

→Amazon「うできき四人きょうだい―グリム童話 (世界傑作絵本シリーズ)
→Amazon「ボッティチェリ 春の祭典 (イメージの森のなかへ)

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2011/05/31(Tue)
●フェリクス・ホフマン 絵/せた ていじ 訳『七わのからす グリム童話』『ながいかみのラプンツェル グリム童話』(福音館書店)

七わのからす―グリム童話 (世界傑作絵本シリーズ) ながいかみのラプンツェル―グリム童話 (世界傑作絵本シリーズ) ながらく絶版だったフェリクス・ホフマンの傑作絵本4冊『七わのからす』『ながいかみのラプンツェル』『しあわせハンス』『うできき四人きょうだい』が、福音館書店から5月に限定復刊されました。
2011年は、フェリクス・ホフマン生誕100周年にあたるのだそうで、記念の限定復刊とのことです。
『七わのからす』『ながいかみのラプンツェル』は、ずっと欲しかった絵本だったので、この機会を逃してはならないと、即購入しました。

『七わのからす』は、リスベート・ツヴェルガーの絵本も持っているのですが、描く人によって絵本の雰囲気が違うのも面白いです。
『ラプンツェル』にしても、内田也哉子/水口理恵子の絵本も持っているのですが、このホフマンの絵本では、ラプンツェルが塔に閉じ込められているあいだに王子と密会を重ねて身ごもるというくだりが語られておらず、子どもへの読み聞かせ向きではありますが、大人の目線では、魔女だけが悪者になっている感じなど、物足りなく感じました。

フェリクス・ホフマンは、その絵本の多くを、自分の子どもたちへの贈り物として描いたということですから、たとえば『七わのからす』に出てくる子どもたちは、おそらくはホフマンの子どもたちの面影を映しているのだろうなと感じられます。
ホフマンの絵本は、宗教画を思わせる格調高い画風のなかに、そういうあたたかみが感じられるのが魅力ではないでしょうか。
また福音館書店のホフマン絵本は、見開きも見どころ。『七わのからす』では物語に出てくる小道具がユニークに配置されていたり、『ながいかみのラプンツェル』では森の奥の風景が描かれていますが、よく見ると森を馬で行く王子の姿や、動物たちが描きこまれていて、じっくり見る価値あり、なのです。

→「フェリクス・ホフマンの絵本」はこちら

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→Amazon「ながいかみのラプンツェル―グリム童話 (世界傑作絵本シリーズ)

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2011/05/24(Tue)
●シャルル・レジェ 著/高橋達明 訳『バラの画家ルドゥテ』(八坂書房)
●熊澤 弘 解説
『ボタニカルアート 西洋の美花集』(パイインターナショナル)

バラの画家ルドゥテ 植物画家としてもっとも有名なのが、ピエール=ジョゼフ・ルドゥテです。
『バラの画家ルドゥテ』は、18世紀から19世紀初頭のパリで、植物図譜、とりわけ薔薇を好んで描きつづけたルドゥテの生涯を、豊富な図版とともに紹介しています。
ルドゥテの薔薇図譜は、本としては高価な値段ですが、現在も入手可能です(左の画像)。
Les Roses バラ図譜 とっても美しい本ではありますが、わたしにとっては高価すぎる…。
今回購入した『バラの画家ルドゥテ』は、値段からするとカラー図版が多いと感じるし、薔薇はもちろんのこと、ヒナギクや、パンジーや、アジサイや、ワスレナグサなど、ルドゥテの描いたさまざまな植物画が収録されていて、読みごたえも見ごたえもたっぷりです。

ボタニカルアート-西洋の美花集- 『ボタニカルアート 西洋の美花集』は、ルドゥテの薔薇をはじめ、17〜20世紀にかけて描かれた植物細密画の名品220点を収録。
発行元のパイインターナショナルについてはよく知らなかったのだけど、制作協力がピエ・ブックスで、ブックデザインもかわいらしく、大満足の一冊。
春夏秋冬の季節の花、果実、野の花、花束・リースと章立てされて、それぞれ豊富にカラー図版を収録。図版メインのレイアウトでキャプションもなく、巻末に図版のインデックスが付されています。
これは、ただほ〜っと花の絵を眺めて、現実逃避するのにぴったり。
でも巻末に、線画の下絵集もついているので、もちろん実用にも使えるのだと思いますが^^;

それにしても花の絵というのは不思議で、絵を見て改めて、花のかたちや色、その驚異としか言いようのない美しさに気づかされます。
なぜ 花はいつも
こたえの形をしているのだろう

岸田衿子 著『ソナチネの木』(青土社)より

→岸田衿子 著『ソナチネの木』の紹介はこちら

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→Amazon「Les Roses バラ図譜
→Amazon「ボタニカルアート-西洋の美花集-

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2011/05/17(Tue)
●クラフト・エヴィング商會 著『おかしな本棚』(朝日新聞出版)

おかしな本棚 かなり久しぶりの「クラフト・エヴィング商會」名義での新刊です。
タイトルは『おかしな本棚』…ああ、なんて気が利いているんだろう、うちのサイトは「いやしの本棚」だけど、本当は「癒し」って言葉をあんまり使いたくなくて、でも他にこれといって思いつかなくて、 適当にひらがなにでもしとけばいいやと思ってこんな名前になってるんだけど、そうだよく考えたら『おかしな本棚』こそ、わたしが目指していた本棚なのでは…。

…なんてことはどうでもいいことなのですが、『おかしな本棚』というのは、著者によれば「本の本ではなく、本棚についての、本棚をめぐる、本棚のあれこれを考える本」なのだそうです。
だからクラフト・エヴィング商會の本には欠かせない坂本真典氏の手になる書影は、なんと背表紙だけ。
つまり本棚に並んだ本の背表紙の写真だけ、写真には書名・著者名が付されてはいるけれど、本の中身はこれっぽっちも紹介されていなくて、だってこの本の語り手である吉田篤弘氏自身も、その本をまだ読んでいなかったりするのです。

「うちの本棚には、まだ読んでいない本がたくさんある」と氏は語る。うむ、本好きならば誰の本棚も、そういうものではないだろうか?
で、自分の本棚も、ときには他人の本棚でさえ、そこに並んだその背表紙を眺めているだけで、空想やら妄想やらをふくらませてにやりと一人笑い…なんてこと、あるのではないだろうか?
どの本とどの本をとなりあわせに置いておくか、並べ方が面白かったりするんですよね、本って。
このたびのクラフト・エヴィング商會の本は、まさにそういう本好きのツボをおさえまくった、本棚を語る本。
「ある日の本棚」「森の奥の本棚」「金曜日の夜の本棚」「遠ざかる本棚」「波打ち際の本棚」…そんな、ときに架空の本もこっそり並んでいたりする、クラフト・エヴィング商會ならではの本棚を、にやにやしながら楽しめる、すばらしい一冊なのです。

さて「森の奥の本棚」について、篤弘氏はこう書きおこしています。
「これは誰にも言わずにおいた秘密ですけれど、じつは、わたし、森の奥に本棚をひとつ持っていましてね――というおかしな妄想を二十年以上あたためている」
ああ、わたしもあたためているんですよ、その妄想…ええ、もう十年以上…本好きの妄想というのはおかしなもので…(笑)

→「クラフト・エヴィング商會の本」はこちら

→Amazon「おかしな本棚

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2011/05/10(Tue)
●Jonathan Elphick 著
『Birds: The Art of Ornithology(Mini Edition)』(Rizzoli)

Birds: Mini Edition: The Art of Ornithology 博物図譜…それは写真技術がいまだ普及していなかった時代、イラストで自然界のさまざまな生物を正確に細密に記録したもの。
なので鳥類図譜、植物図譜といったようなものは、当然古い時代のものであり、たいへんに高価で、安直に手を出せるようなものではありません。もちろんわたしも今まで、そんな本もあるのだなと、遠巻きに眺めやるだけでした。
が、「恵文社一乗寺店」のホームページで、安価かつハンディにまとめられた鳥類図譜を見つけたので、ついつい買ってしまったのです。
この表紙の鳥の絵を見てください。なんと緻密で美しい…イラストには、写真とはまた違った魅力がありますよね。

Birds: The Art of Ornithology この本は、先に刊行された大判の『Birds: The Art of Ornithology』(左の画像)のMini Edition ということのようです。
大判のほうは、すでにAmazonマーケットプレイスですごい値段がついてます…。わたしのような初心者というかミーハー心で鳥類図譜を見てみたいという人間には、安価なMini Edition がぴったりです。

鳥類図譜といえばグールドの名前ぐらいしか知らないのですが、この本には幾人もの画家による絵が年代順に収録されていて、初心者には見ごたえがあります。
博物図譜というのは芸術として描かれたものではないのでしょうけれど、この緻密さ、鳥とともに描きこまれた植物、そのレイアウトや配色はとても美しく、また年代を経た古い絵の味わいというか、紙の褪せた感じも趣があって、鳥類図譜について何も知らなくても、バードウォッチングが趣味でなくとも、眺めるだけで充分楽しめます。

→「恵文社一乗寺店」で、『Birds』の中身を確認できます。

→Amazon「Birds: Mini Edition: The Art of Ornithology
→Amazon「Birds: The Art of Ornithology

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2011/05/06(Fri)
●ピエール・リエナール(他) 著/大森由紀子 監修/塩谷祐人 訳
『王のパティシエ ストレールが語るお菓子の歴史』(白水社)

王のパティシエ─ストレールが語るお菓子の歴史 「出版ダイジェスト」で紹介されているのを見て、欲しくなった一冊。
パリの老舗パティスリー「ストレール」に残る古い記録やレシピを、現在のスタッフがひもとき、それを創業者ニコラ・ストレールが曾孫のために書き遺した「日記」という設定でフィクションにまとめあげた、なんともユニークな一冊。
日記は、1788年8月から1789年5月に書かれたという設定で、ニコラ・ストレールのお菓子にまつわる回想・レシピとともに、18世紀パリの、革命へと向かう空気までも語られ、たいへん興味深い読み物となっています。

この本は、レシピ集でもあるけれども、お菓子のカラー写真などはなく、文字のレシピとイラストのみ。
古い日記に書きとめられたレシピなのだから、こういう体裁のほうが趣があるというもの。
まあ、わたしはおそらく実際にお菓子を作ったりはしないので、作ってみようという読者にしてみれば、写真つきでないレシピは分かりにくいのかな?
でもこのクラシカルな雰囲気をかもしだしながら手にしっくりなじむ紙質の表紙といい、ブックデザインも落ち着いていて、さすがは白水社の本だなという感じ。
お菓子の味を想像しながら、当時のパリの空気を感じながら、少しずつ読み進めるのが楽しみな一冊です。

→Amazon「王のパティシエ─ストレールが語るお菓子の歴史

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