□ 2007/08/26(Sun) |
●ビネッテ・シュレーダー 文・絵/矢川澄子 訳 『お友だちのほしかったルピナスさん』(岩波書店) ●ウルスラ・ジェナジーノ 作/ヨゼフ・ウィルコン 絵/いずみちほこ 訳『ミンケパットさんと小鳥たち』(セーラー出版) ●アナリーセ・ルッサルト 文/ヨゼフ・ウィルコン 絵/いずみちほこ 訳『月がくれたきんか』(セーラー出版) 『お友だちのほしかったルピナスさん』は、初めて手にとるビネッテ・シュレーダーの絵本。まずは処女作から読んでみようと思い、この本を購入しました。 ネット上では、「幻想的」だとか「シュール」だとか評されているのを多く見かけたのですが、たしかに、シュルレアリスム的な作風。絵もおはなしも。 ページをめくると独特の濃密な世界がひろがっていて、圧倒されてしまいます。 グラフィックを学んだ人ならではの、すっきりとデザインされた画面構成。けれども絵のすみにひそむ、どこか不安な昏いかげ。 これは夢の中の風景だな、と思いました。 ビネッテ・シュレーダー、とっても気になる絵本作家さんです。 『ミンケパットさんと小鳥たち』『月がくれたきんか』は、ヨゼフ・ウィルコンの絵本。 ヨゼフ・ウィルコンは初期と後期で画風がかなり変遷しているようですが、初期の作品である『ミンケパットさんと小鳥たち』は、とても好きだなあと思いました。 水彩で、フルカラーとモノクロの見開きが交互になっているのですが、フルカラーのページでも色味はごく押さえられていて、静けさの漂う画面の中に、主人公ミンケパットさんのやさしさがにじみ出ています。 ミンケパットさんがやねうら部屋で、ひとり古いピアノを弾いている、フルカラーなんだけれど茶色っぽい絵や、モノクロで描かれた町の様子など、もうとっても素敵です。 『月がくれたきんか』は、現在よく知られるウィルコンの画風で、パステルを塗り重ねて描かれています。 たしかに『ミンケパットさんと小鳥たち』とは、まったく絵の雰囲気が違います。 こちらはページをめくるごとに、赤、ピンク、青、緑、黄色…と基調となる色があざやかさに変化するのが魅力的。 なかでも緑を基調に描かれた見開き、ぎんのまきばに月のひかりが降り注ぐシーンは圧巻です。 |
□ 2007/08/19(Sun) |
●江國香織 作/こみね ゆら 絵『おさんぽ』(白泉社) ●ささき まき 作『おばけがぞろぞろ』(福音館書店) ●R.L. スティブンスン 著/小沼 丹 訳 『旅は驢馬をつれて』(みすず書房) 『おさんぽ』は、ひきつづき”こみねゆら”熱にうかされて購入。 「高飛車」「無闇に」「いかんせん」など、難しい漢字や言い回しを(おそらく)あえて多用した江國香織氏のテキストは、 どちらかといえばヤングアダルト〜大人向けなのかなとも思えますが、子どもというのは案外言葉に敏感なものですから、 面白がる子は面白がるかもしれません。内容はナンセンス絵本ともいうべきものですし。 きっと江國さんは、こういう絵本を面白がるおんなのこだったのでしょうね。 こみねゆらさんの絵は何と言っても素晴らしく、飽きず眺めてしまいます。見返しなど装幀も素敵な一冊。 『おばけがぞろぞろ』は、『変なお茶会』の佐々木マキ氏が描いた幼児絵本。 たぶんきっと、子どもとお母さんたちの間では有名な一冊なのでは? びろ〜ん、といきなり木のうろから現われたおばけは「ぞぞまるちゃん」。 「もものりくん」に「おろむかくん」、「ぞんびえくん」に「おびるべちゃん」、次々といろんなところから現われる変な名前と姿のおばけたち。 う〜ん、これが子どもにウケないわけがない! 『旅は驢馬をつれて』は、『宝島』『ジキル博士とハイド氏』等を著したスティブンスンの紀行文。 でもそんなことより何より、”小沼 丹 訳”ということころに惹かれて購入しました。 解説が江國香織氏で、江國氏も小沼氏の訳文を「美しすぎてためいきがでた」と書いています。 何が良いといって、「吝かでなかった」「よしんば」などの近頃とんと聞かない言い回しが散りばめられた、古めかしく正しい日本語の美しさ。 <大人の本棚>シリーズの一冊であるこの本。同シリーズのJ.M.シング『アラン島』は、新しくみずみずしい訳文を読みやすく感じましたが、 こちら『旅は驢馬をつれて』の小沼氏の訳文も味わい深く、それぞれに古い紀行文の魅力を現代に蘇らせていると思います。 やっぱり<大人の本棚>は要チェックのシリーズですね。 |
□ 2007/08/12(Sun) |
●矢川澄子 再話/こみね ゆら 絵『しらゆきひめ』(教育画劇) ●いしい むつみ 作/こみね ゆら 訳 『パメラ・パティー・ポッスのあたらしいいえ』(教育画劇) ●フェリクス・ホフマン 絵/大塚勇三 訳 『おやゆびこぞう―グリム童話』(ペンギン社) 『空とぶじゅうたん』で火がついてしまった”こみねゆら”熱。 『しらゆきひめ』は、とっても上質なメルヒェン絵本。こみねゆらさんの繊細な筆が、おそろしくも美しい『しらゆきひめ』の世界を魅力的に描き出しています。 何と言ってもしらゆきひめが愛らしい! ゆきのように白い肌、血のように赤い唇、ゆたかな黒髪。白いカチューシャに、フリルのたくさんついた愛らしい白いドレス。 抱きしめたいほど愛らしいけれど、抱きしめたら壊れてしまいそうに繊細な、しらゆきひめの美しさ。 これは王子様も一目ぼれしちゃうよね〜、と妙な納得。 矢川澄子氏による再話は、グリムの原作におそらくかなり忠実なもので、わるいおきさきに訪れるおそろしい結末など、童話の残酷な一面も垣間見え、たいへん興味深いです。 『パメラ・パティー・ポッスのあたらしいいえ』には、こみね ゆらさんの絵の魅力が凝縮されているといっても過言ではないのでは。 まりのおとうさんが作った、パメラ・パティー・ポッスのあたらしいいえ。 ちょっと澄ましたお人形パメラ・パティー・ポッスと、精巧に作りこまれたドールハウスの魅力、そしてドールハウスから広がる空想の楽しみが、あますところなく描き出されたこの絵本。 お人形とドールハウスのおはなしというのは、こみねゆらさんの画風にぴったりの題材だと思います。 『おやゆびこぞう』は、グリム童話の一篇を描いたフェリクス・ホフマンの絵本。 グリム童話の挿画をたくさん手がけたホフマンの、余白を多くとった味わい深い絵が、語りつがれたメルヒェンの色あせない魅力を伝えています。 |
□ 2007/08/05(Sun) |
●バーバラ・クーニー 絵/鈴木 晶 訳 『しらゆき べにばら―グリム童話』(ほるぷ出版) ●ドロシー・マリノ 文・絵/石井桃子 訳 『ふわふわくんとアルフレッド』(岩波書店) ●ランダル・ジャレル 著/モーリス・センダック 絵/長田 弘 訳 『夜、空をとぶ』(みすず書房) 『しらゆき べにばら』は、大好きなバーバラ・クーニーの絵本。 スケッチ風のタッチで描かれたモノクロの絵に、濃いピンクのさし色が映える、クーニーとしては異色の画風。 でもこの画風が、『しらゆき べにばら』という物語にぴったり。 ページをめくるとすぐ、標題紙の見開きの左側に、しらゆきとべにばら姉妹の絵が挿入されているのですが、この一葉からしてすでに何とも美しく、あっという間に物語世界に引き込まれてしまいます。 貧しくとも姉妹仲良く暮らすしらゆきとべにばら。ふたりが着ている可愛いエプロンドレス、森にイチゴをつみに出かける様子、家の中のかまどや糸車の描写…。 モノクロと濃いピンクの濃淡のみで描かれる、乙女心をくすぐる世界。 女の子にはぜひぜひおすすめの一冊です。 『ふわふわくんとアルフレッド』は、<岩波の子どもの本>シリーズの一冊で、「くんちゃん」シリーズで知られるドロシー・マリノの作品。 少年アルフレッドと、くまのぬいぐるみ「ふわふわくん」の関係を描いた、ちいさい子どもへの読み聞かせにもぴったりのおはなし。 この絵本も、モノクロと赤のみで描かれているのですが、色数の少なさがむしろ良く、赤が効いていてかわいいです。 さりげなく見返しの絵も素敵。 『夜、空をとぶ』は、詩人の長田 弘氏が選んだ、みすず書房「詩人が贈る絵本」シリーズの一冊。 ランダル・ジャレルの詩的な物語に、センダックの緻密なモノクロ画が添えられています。 でも正直、ランダル・ジャレルの物語の意味が、いまひとつよくわかりませんでした。 文も絵もセンダックが手がけた処女作『ケニーのまど』なんかは、わかりにくいけれど幻想的で美しいおはなしで、 この『夜、空をとぶ』も、『ケニーのまど』と通ずるテーマがあるというのは何となくわかるのですが…。 センダックの絵もとてもリアルな画風で、好みの分かれるところかもしれません。 個人的にはセンダックは、初期の画風のほうが好みかなあ。 ただこの作品中の見開きの絵には、センダックが母と自分の姿を描き込んでいて、そういう意味では貴重な一冊。 センダック作品の重要なテーマとして、母と子の関係というのが挙げられると思うので。 |
□ 2007/07/29(Sun) |
●新藤悦子 著/こみねゆら 絵『空とぶじゅうたんI・U』(ブッキング) リンクさせて頂いているサイト、「ハンナの祈り」の管理人まさあぐうすさんの尽力で、復刊された絵本です。 かねてから欲しいなあと思っていたこの作品を、やっと購入しました。 大判の豪華本で、こみねゆら氏のイラストが、とてもとても美しいです。中東を舞台にした、じゅうたんにまつわる幻想的な恋のお話がおさめられています。 I巻には「糸は翼になって」「消えたシャフメーラン」「砂漠をおよぐ魚」の3篇、U巻には「ざくろの恋」「イスリムのながい旅」の2篇を収録。 とにかくじゅうたんの絵が美しいんです。クルド絨毯、ムード絨毯、トルクメン絨毯…とりわけイスファハン絨毯の青の美しさといったら! イスファハンは世界遺産にもなっているイランの古都で、イマーム・モスクの青く輝く美しさなど、ファンタジーの舞台としてはぴったりの土地ですよね。 テキストをふちどる繊細な模様も美しい、エキゾチックな魅力あふれる物語絵本です。 |
□ 2007/07/24(Tue) |
●ルイス・キャロル 著/トーベ・ヤンソン 絵/村山由佳 訳 『不思議の国のアリス』(メディアファクトリー) ●Henriette Willebeek Le Mair 絵 『Baby's First Years』(Golden Days) ムーミン童話の作者として知られるトーベ・ヤンソンが、あの『不思議の国のアリス』の挿絵を描いていた。 というのは、メディアファクトリーからこの邦訳版が出たときに、初めて知りました。 なんとなく買いそびれていた一冊を、ちょっとしたきっかけがあり、ようやく手に入れることができました。 (最近、「ちょっとしたきっかけ」が多いですね。……あれ?) 買いそびれていた理由といえば、トーベ・ヤンソンの描くアリスというのが、きっと、いわゆるアリスの世界、 作者ルイス・キャロルが思い描いた『不思議の国』とは、まったく違ったものになっているのだろうなあ、う〜む、などと考えていたりしたから、なのですが。 実際に手にしてみると、ヤンソンの絵……やっぱり好きなんですよねえ。 かつてムーミン童話の原作の挿絵、つまりアニメのムーミンでなくて、トーベ・ヤンソン自身の手になる絵を、とても気に入って、 妹に「これすごくいいよね」って見せたところ、「なんか不気味な絵」と一蹴された記憶があるのですが。 まあ、確かにヤンソンの絵には、北欧の厳しい自然と孤独な自我を感じさせる影がある、という気がします。 アリスに関しては、なぜか有名なテニエル絵の本でなく、アーサー・ラッカム絵の本をすでに入手しているのですが、 ラッカムの描く可憐なアリスこそ、作者キャロルがモデルにしたと言われるアリス・リデルそのもの、とも思います。 でもヤンソンのアリスもまた、独自の、稀有な世界を拓いているのではないでしょうか。 いろいろと、有名な場面も多数描かれているのですが、ヤンソンらしい挿絵だなあと嬉しくなったのは、 三月ウサギと帽子屋とネムリネズミとのお茶会での一葉。 ネムリネズミが披露する話”糖蜜の井戸の底に住んでいる三人姉妹”の様子を描いたその絵は、 やはりヤンソンでなくては描けない世界だなあと、しみじみ思いました。 『Baby's First Years』は、ウィルビーク・ル・メールの絵本がもっと欲しくなって、やはりAmazonで購入。 ですが、この本は赤ちゃんの成長記録を綴るためのアルバム仕立てになっていて、ル・メールのイラストで彩られてはいるものの、 わたしには必要のないものでありました。 誕生祝いにはぴったりの一冊なので、そのうち妹夫婦に子どもができたら、贈ろうかなと思います。 ル・メールの絵本って、洋書でも絶版のものが多くて、Amazonマーケットプレイスではかなりの高値で出品されている本もあります。 あ〜あ。絶版にはほんと、いつも泣かされます。 |
□ 2007/07/16(Mon) |
●Henriette Willebeek Le Mair 絵 『Mary, Mary, Quite Contrary』(Golden Days) ●Henriette Willebeek Le Mair 絵 『A Little Book of Childhood』(Frederick Warne Publishers Ltd) ●トーベ・ヤンソン 著/冨原眞弓 訳 『軽い手荷物の旅 トーベ・ヤンソン・コレクション1』(筑摩書房) ヘンリエット・ウィルビーク・ル・メール Henriette Willebeek Le Mair は、マザー・グースなどの挿絵で知られる、オランダ人女流画家(1889年〜1966年)。 ずっと以前に、リンクさせて頂いているサイト「風のなか」のオーナー、ゆうぴょんママさんに薦められ、でも邦訳版が入手不可状態だったので、手にとることなく日々が過ぎてしまっていました。 最近ちょっとしたきっかけがあって、邦訳が手に入らないなら洋書を、と思いたち、『Mary, Mary, Quite Contrary』『A Little Book of Childhood』の2冊をAmazonで購入。 とっても素敵な美しい絵! すっかりル・メールの絵の世界に心を奪われてしまいました。 繊細で、クラシックで、様式美に満ちていて…。なんとも乙女(?)心をくすぐります。 ゆうぴょんママさんには、たしかケイト・グリーナウェイのマザー・グースに関連して紹介された記憶があるのですが、なるほどグリーナウェイが好きな人なら、ル・メールも好きなはず。 グリーナウェイのマザー・グースはもちろん有名ですが、「Little Jack Horner」の絵なんか、グリーナウェイとル・メールでこんなにも違うものか〜と、感心してしまいました。 こうなると、アーサー・ラッカムのマザー・グースも、どんなものか気になりますが。 とりあえず、ル・メールの絵本が、もっと欲しいよ〜(←やっぱりこうなる)。 ちなみに「ウィルビーク・ル・メール」で検索をかけると、ネット上でも、たくさんの画像を見ることができます。 さて、入手不可と思っていた<トーベ・ヤンソン・コレクション>の第1巻『軽い手荷物の旅』ですが、いろんなネット書店でふたたび在庫ありになっていたので、すかざす購入。 やっぱりヤンソンの作品世界は大好き。 以前にも書いたけど、この<トーベ・ヤンソン・コレクション>は、祖父江慎氏の装幀が素晴らしくて、エンボス加工の表紙カバーなんか、思わずなでなでしてしまいます。 こういう本の佇まいって、ネット上で見ることができる表紙画像だけでは、決して伝わらないものですよね(しみじみ)。 →ケイト・グリーナウェイの絵本の紹介はこちら |
□ 2007/07/08(Sun) |
●ロバート・マックロスキー 文・絵/渡辺茂男 訳 『すばらしいとき』(福音館書店) ●シャーロット・ゾロトウ 文/カレン・ギュンダシャイマー 絵/みらい なな 訳『いっしょってうれしいな』(童話屋) ●ビアトリス・シェンク・ドゥ・レニエ 文/モーリス・センダック 絵/石津ちひろ 訳『くつがあったらなにをする?』(福音館書店) ずっと欲しいと思っていた、マックロスキーの『すばらしいとき』。 夏に読むのにぴったりの絵本と思い、時期がくるのを待っていました。 限定復刊されたこの作品、やっぱり何といっても絵が素晴らしいですね〜。繊細に描きこむのでなくて、ざっくりとしたタッチで、自然の美をダイナミックに表現していて。 自然にめぐまれた島で過ごす、ながい夏の休暇を描いた一冊。なんだか、トーベ・ヤンソンの『少女ソフィアの夏』を思い出したりもします。 ながーい夏休みって、日本人にとっては憧れですよね。 カレン・ガンダーシーマー(ギュンダシャイマー)の絵に魅せられ、買わずにはいられなかったのが、『いっしょってうれしいな』。 しかもテキストはシャーロット・ゾロトウ。やっぱりとっても素敵な一冊でした。 こぶりで正方形、しっくり手になじむかたちに、見返しもかわいい♪ ゾロトウの言葉は素晴らしくて、 「やまをみているぼくは やま」なんていう表現には、やっぱり唸らされます。 そんなゾロトウのテキストに添えられたガンダーシーマーの絵は、あったかくて、やさしくて、眺めているだけでしあわせいっぱいです。 『くつがあったらなにをする?』は、横に長い装幀が目をひく、センダックの絵本。 「くつがあったらなにをする?」、おとこのことおんなのこが、ふたりでケンカしたり遊んだりふざけあいながら、身のまわりのいろんな品々の使い方を考え出していく、ナンセンス絵本。 やっぱりセンダックの描線は味わい深いです。 とっても楽しい絵本ですが、いちばん素敵なのは、さんざん騒いだあとに、「おやすみなさい!」と、子どもたちが眠りについて、おしまいになるところ。 おやすみ前に、子どもたちに読み聞かせるにも、きっとぴったりの一冊ではないでしょうか。 |