J.J.グランヴィルは、19世紀フランスの版画家。パリで絵入新聞などに政治風刺画を描き、のち挿絵本に力を入れるようになりました。
挿絵本といってもグランヴィルのそれは、まず絵が先にあり、のち絵に合わせてテキストをおこしたもので、『花の幻想(Les Fleurs Animees)』もそうした「絵が先」に描かれた本のひとつです。
原書が刊行されたのは1847年。巻末の荒俣宏氏の解説によれば、この頃のフランスでは「美しい植物図鑑の伝統を引きながら、博物学とは発想を異にした植物に関するファンタジー絵本が、かなりの数刊行されていた」とのこと。
原書『Les Fleurs Animees』は、擬人化された美しい花々の絵に、フランスふうのエスプリのきいた花の変身物語を添えた挿絵本で、『花の幻想』はその抄訳版。
全66章のうちから27章が訳出され、また52枚の図版のうち、32枚をカラーで収録、本文中未掲載の図版は巻末にまとめてモノクロで収録されています。
ところで『Les Fleurs Animees』は手彩色の初版本と、その後のリトグラフによる彩色が施された版とで、色彩などに違いがあるよう。
この本に収録された図版は、絵のまわりの飾り罫もついていて、色彩も鮮やかなものなので、おそらくリトグラフによる彩色が施された後年の版からとられたものなのだと思います。
テキストの邦訳も収録された画期的な本ですが、図版の印刷があまり良いとは思えないことと、全図版が収録されているとはいえカラーが32枚のみということで、原書の雰囲気がつたわらないのが、ちょっとさびしい。
グランヴィルの絵自体があまりに美麗なものなので、全てカラーで見ることができないのが、なおさらさびしいんですよね。
タクシル・ドロールが書いたお話も、なかなか面白く読み応えがあるのですが。
おそらく初版本からとられた図版がすべてカラーで収録された洋書『
Les Fleurs Animees: 51 Coloured Plates』(右の画像)もありますので、興味のある方はそちらと併せて楽しむのも良いかもしれません。(わたしは欲しいけど買えずにいるのですが…)