■本の蒐集記録(2012年5-7月)




『新訳 夏の夜の夢』
ウィリアム・シェイクスピア 著/
ヒース・ロビンソン アーサー・ラッカム 画/井村君江 訳(レベル)

2012/07/15

icon icon ウィリアム・ヒース・ロビンソンは、20世紀初頭の挿絵黄金時代に活躍したイラストレーターの一人。
ロビンソン兄弟は挿絵の世界では名高く、トーマス・ロビンソンが長男、チャールズ・ロビンソンが二男、ウィリアム・ヒース・ロビンソンが三男。
チャールズ・ロビンソンの挿絵も幻想的で好きです。

『新訳 夏の夜の夢』は、1914年に出版されたウィリアム・ヒース・ロビンソン挿絵による『A Midsummer Night's Dream』の邦訳版です。
実はDover Publications のCalla Editions から原書の復刻版が出ていて、そちらを買おうかなあと思っているときに、この邦訳版がタイミングよく刊行されたのでこちらを購入。
原書とはデザインもレイアウトも違うけれど、ヒース・ロビンソン挿絵の『夏の夜の夢』の邦訳が出るとは思わなかったので嬉しい。妖精学の権威、井村君江氏による訳とともに美麗な妖精画が楽しめます。
『夏の夜の夢』の挿絵は、日本ではラッカムのものが有名だと思います。この本は巻末にラッカムの1908年版および1939年版のカラー挿絵も全点まとめて収録されていて、なんというかお買い得な一冊。
妖精画を比較鑑賞することを意図しての編集のようです。…まあヒース・ロビンソンの名前だけだとアピール力が弱いってのもあるのかな?(^^;
でもヒース・ロビンソンの絵も素敵なんですよ〜。とくにモノクロ画が良いと思う。夏の夜、妖精たちの戯れる森の奥の、生い茂る植物が細密にすみずみまで描き込まれた画面といったら…なんとも幻想的。
シェイクスピア作品と気構えず、夏に読むのにぴったりの妖精絵本です。

→Dover Publications『A Midsummer Night's Dream』紹介ページ
(『新訳 夏の夜の夢』にも掲載されているヒース・ロビンソンの図版を少しだけ見ることができます)
→チャールズ・ロビンソン挿絵『A Child's Garden of Verses』の紹介はこちら

→Amazon「新訳夏の夜の夢
→セブンネットショッピング「新訳夏の夜の夢 icon

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『A House of Pomegranates』
Oscar Wilde 著/Jessie Marion King 絵(Dover Publications)

2012/06/24

A House of Pomegranates (Calla Editions) ジェシー・マリオン・キングは、20世紀初頭の挿絵黄金時代に活躍した女性イラストレーター。
『By a Woman's Hand』という、挿絵黄金時代の頃に活躍した女性画家の挿絵作品アンソロジーの中に、いくつかイラストが収録されていて、興味を持っていました。
『A House of Pomegranates』は、オスカー・ワイルドの童話集にジェシー・マリオン・キングがカラー挿絵をつけた豪華本を、原本のデザインそのままに復刻したものです。
16葉の挿絵は、どれも繊細で幻想的で、とても美しいです。色彩が、淡いけれど独特。
原本の復刻というのは、見返しや頭文字のイニシャルデザインも見逃せないし、背表紙のクラシックなデザインなどは本棚に並べてもいい感じ。

幸福な王子―ワイルド童話全集 (新潮文庫) 英語が読めないわたしのような挿絵ファンのためには、新潮文庫の『幸福な王子 ワイルド童話全集』(右の画像)があります。『A House of Pomegranates』に収録された童話は、すべてこの文庫で日本語で読むことができます。
ちなみにこの文庫の表紙は、南桂子さんの作品。南桂子さんの銅版画もしずかで素敵ですよね。

*この本は、Dover Publications のCalla Editions というシリーズの一冊です。Calla Editions では原本のデザインそのままにニールセンやハリー・クラーク等の豪華挿絵本が数々復刻されていて、次は何が復刻されるか、目がはなせません。

→Dover Publicationsのサイトで掲載図版を少しだけ見ることができます
→『By a Woman's Hand』の蒐集記録はこちら

→Amazon「A House of Pomegranates (Calla Editions)
→Amazon「幸福な王子―ワイルド童話全集 (新潮文庫)

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『The Ship That Sailed to Mars』
William M. Timlin 著(Dover Publications)

2012/05/27

The Ship That Sailed to Mars (Calla Editions) 『The Ship That Sailed to Mars』は、イングランド出身の挿絵画家、ウィリアム・M・ティムリンによる豪華挿絵本。初版は1923年。
お話も絵もティムリンが手がけ、ことに挿絵の美しさ、繊細さ、幻想味は、挿絵黄金期を牽引したラッカムやデュラックにも匹敵するほど。
ティムリンの本業は建築家で、彼が残した挿絵本はこの一作のみだったため、『The Ship That Sailed to Mars』は幻の絵本として、コレクター垂涎の一冊となったのだとか。
日本では『星の帆船』の邦題で、立風書房から邦訳版が刊行されましたが、これも絶版となり、古書の価格は定価の何倍にもなっています。
そんなティムリンの幻の絵本が、Dover Publications から原本のデザインそのままに復刻されました。

ずっしりと持ち重りする一冊で、テキストページはティムリンの手になるカリグラフィーが美しい。
お話は、あいかわらず英語が読めないので何とも言えないのですけど、SFファンタジーというか、老科学者が星の帆船を完成させて、火星へたどり着き、そこで囚われの王子を救い出し…というあらすじのよう。
そして挿絵! ラッカムやデュラックに匹敵するというのは本当で、しかもさすが本業は建築家というだけあって、建築物の描写がすごい。火星のお城とか。絵に奥行き、空間の広がりが感じられます。
とにかく帆船のたたずまいといい、妖精や竜、お城や塔、火星の風景描写などなど、どことなく映画『ロード・オブ・ザ・リング』を思わせ、見ごたえたっぷり(この復刻版の序文は映画『ロード・オブ・ザ・リング』にも参加したイラストレーター、ジョン・ハウが書いているんです。やっぱり影響受けてるんですかね〜、読めないからわからないんですけど^^;)。
ラッカムなど黄金期の挿絵がお好きな方なら、一見の価値ありの挿絵本です。

*この本は、Dover Publications のCalla Editions というシリーズの一冊です。Calla Editions では原本のデザインそのままにニールセンやハリー・クラーク等の豪華挿絵本が数々復刻されていて、次は何が復刻されるか、目がはなせません。

→「連想美術館」でウィリアム・M・ティムリンについて確認する
→ラッカム、デュラック、ニールセン〜現代絵本のルーツ〜「挿絵本のたのしみ」はこちら

→Amazon「The Ship That Sailed to Mars (Calla Editions)
→Amazon「星の帆船 (1983年)

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『Andre Kertesz: The Early Years』
Andre Kertesz 写真(W W Norton & Co Inc)

2012/05/20

Andre Kertesz: The Early Years ハンガリー出身の写真家、アンドレ・ケルテスの写真集。
『ON READING』という写真集が素敵だったので、もっとケルテスの写真が見てみたいな〜と思い、こちらを購入。
多様な作風で知られる写真家ケルテスの、初期のスナップショット的な写真を集めた、小型の写真集です。
ほんとにコンパクトな手のひらサイズの本で、収録された写真も、ネガの大きさなのかな〜という、小さな小さなもの。で、モノクロ。
でもなんか、しみじみ、いいんです。なんというか、抒情的で。
20世紀初頭のハンガリーを撮ったものということですが、古いモノクロのスナップ写真って、物語を感じます。
ただね〜、わたしがAmazonで買ったものは、画像のような表紙カバーはついてなかった。なんでだろう?
表紙自体は布装で、真ん中に「Children Reading」という写真(画像と同じ)が貼られていて、小さいながらも贅沢感のある装幀なんですけどね。

→Andre Kertesz 写真『ON READING』の蒐集記録はこちら
→「本棚の奥のギャラリー[写真篇]」はこちら

→Amazon「Andre Kertesz: The Early Years

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『Nests: Fifty Nests and the Birds that Built Them』
Sharon Beals 写真(Chronicle Books)

2012/05/20

Nests: Fifty Nests and the Birds that Built Them タイトルどおり、”鳥の巣”の写真集。
木の葉や羽毛や木の枝や、さまざまなもので作られた鳥の巣と、そこに産み落とされたいろいろな模様の卵とを、黒バックで淡々と撮ってあります。
見開きの片方にフルカラー写真、片方に鳥についての解説ページというレイアウト。テキストは英語なので、わたしは読めないのですが(^^;
シンプルな写真集なんですけど、これがなんとも美しい。
ときには新聞紙や、貝殻といった素材で作られた巣の形といい、卵の模様や色といい、オブジェのような現代アートのような見ごたえ。
この表紙の薄青い卵が、白くまるく包み込まれてる様子なんて、ちょっと神秘的ですらあります。
ぼんやり眺めていると、ひきこまれて見入ってしまう一冊です。

→恵文社一乗寺店のサイトで内容を少しだけ見ることができます
→Amazon.comで内容を少しだけ見ることができます
→「本棚の奥のギャラリー[写真篇]」はこちら

→Amazon「Nests: Fifty Nests and the Birds that Built Them

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『花の幻想』
J.J. グランヴィル 画/タクシル・ドロール 著/谷川かおる 訳(八坂書房)

2012/05/06

花の幻想 J.J.グランヴィルは、19世紀フランスの版画家。パリで絵入新聞などに政治風刺画を描き、のち挿絵本に力を入れるようになりました。
挿絵本といってもグランヴィルのそれは、まず絵が先にあり、のち絵に合わせてテキストをおこしたもので、『花の幻想(Les Fleurs Animees)』もそうした「絵が先」に描かれた本のひとつです。

原書が刊行されたのは1847年。巻末の荒俣宏氏の解説によれば、この頃のフランスでは「美しい植物図鑑の伝統を引きながら、博物学とは発想を異にした植物に関するファンタジー絵本が、かなりの数刊行されていた」とのこと。
原書『Les Fleurs Animees』は、擬人化された美しい花々の絵に、フランスふうのエスプリのきいた花の変身物語を添えた挿絵本で、『花の幻想』はその抄訳版。
全66章のうちから27章が訳出され、また52枚の図版のうち、32枚をカラーで収録、本文中未掲載の図版は巻末にまとめてモノクロで収録されています。
ところで『Les Fleurs Animees』は手彩色の初版本と、その後のリトグラフによる彩色が施された版とで、色彩などに違いがあるよう。
この本に収録された図版は、絵のまわりの飾り罫もついていて、色彩も鮮やかなものなので、おそらくリトグラフによる彩色が施された後年の版からとられたものなのだと思います。

Les Fleurs Animees: 51 Coloured Plates テキストの邦訳も収録された画期的な本ですが、図版の印刷があまり良いとは思えないことと、全図版が収録されているとはいえカラーが32枚のみということで、原書の雰囲気がつたわらないのが、ちょっとさびしい。
グランヴィルの絵自体があまりに美麗なものなので、全てカラーで見ることができないのが、なおさらさびしいんですよね。
タクシル・ドロールが書いたお話も、なかなか面白く読み応えがあるのですが。
おそらく初版本からとられた図版がすべてカラーで収録された洋書『Les Fleurs Animees: 51 Coloured Plates』(右の画像)もありますので、興味のある方はそちらと併せて楽しむのも良いかもしれません。(わたしは欲しいけど買えずにいるのですが…)

→八坂書房のサイトで掲載図版を少しだけ見ることができます
→『グランヴィル 19世紀フランス幻想版画』の蒐集記録はこちら

→Amazon「花の幻想
→Amazon「Les Fleurs Animees: 51 Coloured Plates

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