□ 2011/10/25(Tue) |
●海野 弘 解説・監修『ジョルジュ・バルビエ 優美と幻想のイラストレーター』(パイインターナショナル) 『ジョルジュ・バルビエ 優美と幻想のイラストレーター』は、20世紀初頭のパリで活躍したイラストレーター、ジョルジュ・バルビエのフルカラーイラスト画集です。 バルビエについては詳しいことは知らず、何しろこれまでバルビエの絵をこれだけ収録した上に(約270点も!)、比較的安価な和書というのはなかった気がするので(もちろん鹿島茂氏が紹介してくださっていましたけど)、こんな本が出て嬉しいです。 海野 弘氏の解説によると、バルビエは「デュラック、ニールセンと同時代で、互いにパリやロンドンで近いところにいた。だからともに<挿絵の黄金時代>を担っているのであるが、バルビエはそこで語られてはこなかった。それは、彼が子どもの本の挿絵画家ではないからである」 とあり、オーブリー・ビアズリーやウォルター・クレインの絵に魅了されていたと語られています。 この本を見るとバルビエは、大人向け(ときに男性向け)の雑誌などにファッションプレートを描いたり、きわどい小説の挿絵を手がけたり、バレエ・リュスの世界を画集にしたりしていて、淫靡な描写も多く、たしかにデュラックやニールセンとは活躍の場が少し違っています。 バルビエのイラストの魅力は、人物画、彼らが着ているコスチュームのデザインの華やかさでしょうか。 この表紙画像を見てもわかるように、とにかくロココ趣味に満ちたドレスを着た乙女たちの絵が満載。華やかで、雅で、艶やかで…クープランやラモーのクラヴサン音楽でも聴きながらページを繰れば、フランス宮廷のけだるい空気、衣擦れの音やおしろいの匂い、男女の恋のかけひきの雰囲気が感じられそう。 ロココだけじゃなくてモダンな洋服に身を包んだ乙女たちも描かれているんですけど、こういうファッションプレートなんか、服装は違うけど、竹久夢二の美人画を思い出させる…なんとなく。 バレエ・リュスのイラストも、バルビエを語る上では欠かせないんだと思います。わたしはバレエはまったく無知なのですが、『ニジンスキー』『カルサーヴィナ』から約20点のイラストが収録されています。他、演劇関係のイラスト多数。 とにかくひたすらバルビエのイラストに耽溺せよ、という感じの一冊です。 ちなみに『おとぎ話の幻想挿絵』と同じく、この本もポストカードブック(左の画像)が出ているので、バルビエのおしゃれな絵を気軽に部屋に飾ったりして楽しむのも良いのではないでしょうか。 →「挿絵本のたのしみ」はこちら →Amazon「ジョルジュ・バルビエ-優美と幻想のイラストレーター- (西洋アンティーク図版本シリーズ)」 |
□ 2011/10/18(Tue) |
●海野 弘 解説・監修『おとぎ話の幻想挿絵』(パイインターナショナル) 『おとぎ話の幻想挿絵』は、20世紀初頭の挿絵黄金時代に活躍した画家たちの、フルカラーイラスト画集です。 採りあげられている画家は、アーサー・ラッカム、エドマンド・デュラック、カイ・ニールセン、ウォルター・クレイン、ハリー・クラーク、アラステア、ジョン・オースティンの7人。 ラッカム、デュラック、ニールセンの3人は有名で、これまで日本でも多数紹介されてきましたし、ハリー・クラークは、荒俣宏氏訳の豪華挿絵本が新書館から続々刊行され人気を博しています。ウォルター・クレインの復刻絵本も、当サイトではすでにご紹介ずみですよね。 なので、この本の見どころは、これまで日本で紹介されることの少なかったアラステア、ジョン・オースティンの、めくるめくイラストではないでしょうか。 アラステアとジョン・オースティン、わたしはこの本で初めて知りました! きっと荒俣さんと新書館さんが邦訳刊行してくれていないからだと思いますが(笑)、アラステアについては、これまでに『アラステア画集【Amazon】』というのが刊行されていたようです。Amazonマーケットプレイスでは、すごい高値がついています。 ジョン・オースティンについては、洋書ですが『Hamlet, Prince of Denmark (Calla Editions)【Amazon】』が刊行されています。これはなかなか豪華なハムレットの挿絵本の復刻版です。 さて、肝心の『おとぎ話の幻想挿絵』に収録されているイラストですが、アラステアのそれはオーブリー・ビアズリーの影響を受けた頽廃的な画風で、描線はなんとも繊細。同じようにビアズリーの影響を受けたハリー・クラークとはまた違って、人物の衣装の描き込みはおそろしいほど細密だけれど、背景は余白が多いのが印象的。 ジョン・オースティンは、ジョルジュ・バルビエの影響を受けたようなロココ調の画風と、時代が移ってアール・デコ調の画風のイラストが両方収録されていますが、わたしはロココ調の絵が好きかなあ。色も明るくてかわいい感じだし。この本には収録されていないけど、上記に紹介した『ハムレット』の挿絵などは、幻想的なモノクロ画がたいへん美しいです。 この本は、イラストに海野 弘氏による解説がついているのが嬉しいし、巻末の「おとぎ話の図像学」という章では、ジェシー・マリオン・キングやN・C・ワイエスなど他の画家たちの絵も、一、二葉ずつですがちゃんとカラーで掲載されていて、黄金時代の美麗な挿絵の世界への手引き書にもなってくれると思います。 ちなみにポストカードブック(左の画像)も出ているので、美しい挿絵を気軽に部屋に飾ったりして楽しむのも良いのではないでしょうか。 →「挿絵本のたのしみ」はこちら →Amazon「おとぎ話の幻想挿絵」 |
□ 2011/10/11(Tue) |
●東山魁夷 著『古き町にて 北欧紀行』(講談社) 昭和を代表する日本画家の一人、東山魁夷。 青や緑が印象的な、どこか神秘的な風景画が、教科書の表紙などに使われていたと記憶しています。 『古き町にて 北欧紀行』は、日本画の大家である東山魁夷が、1964年に明治書房より刊行した限定100部の画文集の、復刻普及版です。 オリジナル書籍は、画家が北欧への旅のあと、二年の歳月をかけて完成させた、リトグラフと紀行文からなる手作りの装画本とのこと。 この普及版にも、多数のカラー絵と、古風なフォントで刷られた紀行文が、余白をたっぷりとったレイアウトでおさめられています。 オリジナルでは投げ込みの形で独立したリトグラフとなっていた図版6点は、巻末にフルカラーで掲載。さらに図版のうちの2点は、付録として、切り取って使えるポストカードに仕立てられています。 「日本画の大家」である東山魁夷が描いた北欧の町の光景は、なんともカラフルで、かわいらしくて、それが意外でした。 「かわいい北欧」なんていうフレーズは最近のものでしょうが、北欧のかわいいものは、すでに「日本画の大家」東山魁夷が発見していたのですね。 もちろん画家の文章には、「かわいい」なんて書かれてはいなくて、古い町々の味わい深さが、静かな美しい言葉でつづられています。 春になって、南の国から長い旅路を超えてやってきたこの童話的な鳥と、この町とは切り離せないものがあると思った。しかし、この頃では、こうのとりの来るのが少くなったと、リーベの町の人はこぼしている。街燈はガス燈であって、夕方になると、竿を持った番人が一つ一つ、つけて歩く。ページを繰っていると、穏やかな静かな気持ちになれる、美しい画文集です。 →Amazon「復刻普及版 北欧紀行 古き町にて」 |
□ 2011/10/04(Tue) |
●片山廣子 松村みね子 著『野に住みて 短歌集+資料編』(月曜社) 片山廣子は、大正期の歌人。 松村みね子の筆名で、J.M.シングやロード・ダンセイニ、フィオナ・マクラウド等、多数のケルト圏の文学を翻訳し、日本に紹介したひとでもあります。 凛とした才媛であった彼女は、室生犀星や萩原朔太郎らに慕われ、芥川龍之介の最後の恋の相手と噂されたこともありました。また廣子とその娘總子は、堀辰雄『聖家族』のモデルとも言われています。 『赤毛のアン』を愛読するわたしとしては、同じく東洋英和女学校出身の翻訳家、村岡花子女史が廣子をとても慕っていたということも、付け加えておきたいと思います。 『野に住みて』は、孤高の歌人とも称される片山廣子の歌集と、訳者あとがきやインタビュー等の資料をまとめた大部の集成本。憧れていたけど価格にひるんでなかなか踏み切れず、ようやく手に入れました。 でもやっぱり買って良かった。 片山廣子は、歌人といっても、生涯に歌集を2冊しか出していません。この本に収録されている『翡翠』と『野に住みて』です。巻末の佐佐木幸綱氏による解説には、片山廣子は「近代短歌史の中でマイナーのあつかいをうけてきた」とも書かれています。 ことに廣子の第一歌集『翡翠』は、「近代短歌史のなかできわだった特色をもってい」るというのに、「同時代にいい読者とめぐりあえなかった」と、佐佐木幸綱氏は言っています。 わたしは近代短歌史のことは何も知らないし、短歌もまったくと言っていいほど読んだことがありませんが、それでも『翡翠』は宝石のように美しい歌集だと思いますし、現代であればむしろ、学校で習う与謝野晶子の歌などより、よほどすんなり共感できるのではないでしょうか。 『翡翠』の中でいいなと思った歌を、何首かここに抜き書きしてみます。
我が世にもつくづきあきぬ海賊の船など来たれ胸さわがしに 難しくもないし、何の予備知識もなく現代でも読める、女性の内面を素直にうたった歌だと思いませんか。 片山廣子の歌は現代の女性にこそ訴えかけ、受け入れられるのではないか。『翡翠』だけでも入手しやすい廉価版として刊行してもらえないものだろうか。そんなふうに思わずにはいられない管理人なのでした。 →Amazon「野に住みて―短歌集+資料編」 |
□ 2011/09/27(Tue) |
●鹿島 茂 著 『グランヴィル 19世紀フランス幻想版画』(求龍堂) J.J.グランヴィルは、19世紀フランスの版画家。パリで絵入新聞などに政治風刺画を描き、のち挿絵本に力を入れるようになりました。動物を人間に見立てた動物戯画が特徴的です。 『グランヴィル 19世紀フランス幻想版画』は、J.J.グランヴィルのコレクターとして知られる鹿島 茂氏のコレクションを展示した同名の展覧会の図録で、一般の書籍としても発売されたものです。 ロード・ダンセイニ『魔法の国の旅人』(ハヤカワ文庫)のカバー装画にグランヴィルの絵が使われていて、これがとても幻想的な不思議な絵で、かねがね気になっていました。 グランヴィルの作品集、しかも有名なコレクターである鹿島 茂氏のコレクションを紹介したものがあると知って、思い切って購入しました。 グランヴィルの絵って、気持ち悪いというかグロテスクな風刺画も多いという印象があったけど、この作品集を見てみるとグロテスクというより、シュールで幻想的な絵をたくさん描いていたんですね。 ダンセイニ『魔法の国の旅人』のカバー装画は、『もう一つの世界』という、まさにシュールで幻想的な絵がたくさん収録された挿絵本のなかの「彗星の大旅行」という作品でした。 「彗星の大旅行」は1ページに1葉大きくレイアウトされており、気になっていた絵をじっくり鑑賞できてうれしいです。 作品集の表紙にもなっている、『動物たちの私生活・公生活情景』に収録された動物戯画もかわいく素敵ですが、わたしの好みはやっぱり、擬人化された花々が美しく描かれた『フルール・アニメ(生命を与えられた花々』(左の画像、「フルール・アニメ」の扉絵)や、星々を擬人化した『レ・ゼトワール(星々)』の絵ですね〜。 花や星の擬人化の絵は、大衆的人気はあったけど、批評家の評価は低かったのだとか。…なんか、わかるけど(^^;) この作品集、本の外観もカラー写真で掲載されていて、古書の味わい深い佇まいや、カルトナージュ・ロマンチックと呼ばれる美麗な装幀も見ることができます。 展覧会ではこれらの本の実物を見ることができたんでしょうね。見てみたかったな〜。 やっぱり鹿島 茂氏のコレクションは圧巻ですが、鹿島氏によれば「グランヴィルを見たら人生が変わる。グランヴィルを見てから死ね」(本文より)とのことで、とにかく一見の価値ありの作品集です。 →Amazon「グランヴィル―19世紀フランス幻想版画 (鹿島茂コレクション)」 |
□ 2011/09/20(Tue) |
●山田登世子 解説 『眠る女 スリーピング・ビューティー』(トレヴィル) 『眠る女 スリーピング・ビューティー』は、フレデリック・レイトン、アルマ=タデマ、バーン=ジョーンズ、ワッツら19世紀の画家たちが描いた、「眠る女」をテーマとした37点の絵をおさめた画集。 画像がAmazonにもセブンネットにもないので、表紙を飾るワッツ「希望」(1885年)の画像を、ここに載せておきます。 この画集も絶版になって久しく、Amazonマーケットプレイスで中古品を購入しました。 トレヴィル(現エディシオン・トレヴィル)発行の小型の画集で、『水の女』『眠る女』『黄泉の女』という3冊のシリーズになっています。 『水の女』(左下の画像)はすでに持っているのですが、『黄泉の女』も絶版で、これも欲しいと思っているのですが…。 フレデリック・レイトン「燃えあがる六月」、ホイッスラー「白のシンフォニー,No3」、ジェームズ・ティソ「回復期」、ジョン・エヴァレット・ミレイ「二度目のお説教」、バーン=ジョーンズ「眠り姫」、ウォーターハウス「聖カエキリア」、アルマ=タデマ「アンピッサの女たち」、そしてもちろんワッツ「希望」…。 お気に入りの絵をあげだすと、ほとんど全部になってしまうかも。わたしはワッツの「希望」をじっくり鑑賞したくてこの画集を買ったのでしたが。 この絵は、「希望」というタイトルには似つかわしくないような暗いイメージの絵で、だからこそ不思議に惹かれる、どこか謎めいた作品ですよね。 「眠る女」―こういうテーマで編集された画集って、珍しい気がするので、できれば復刊を願っています(もちろん『黄泉の女』も!)。 →Amazon「眠る女―スリーピング・ビューティー (A TREVILLE BOOK)」 |
□ 2011/09/13(Tue) |
●辺見葉子 解説 『ミッドサマー・イヴ 夏の夜の妖精たち』(エディシオン・トレヴィル) 『ミッドサマー・イヴ 夏の夜の妖精たち』は、ヴィクトリア朝の画家たちによって描かれた妖精画44点をおさめた画集。 挿絵黄金期の人気画家アーサー・ラッカム、エドマンド・デュラックをはじめ、ペイトン、フィッツジェラルド、リチャード・ドイルらが描いた美しい妖精画が多数収録されています。 エディシオン・トレヴィルの<エーテー・クラシックス>シリーズの一冊で、画集としては小型だけれど、ブックデザインも素敵だし、印刷もきれい。 ページを繰ればたちまちヴィクトリア朝の魅惑的な妖精の世界へ連れ去られてしまいます。 わたしとしては、ジョン・アトキンソン・グリムショーの作品3点と、エレナ・ヴィア・ボイルの作品が1点収録されていたことがうれしかったかな。 グリムショーの絵は素敵だなあと思うのだけど、画集とか容易には手に入らないし、ボイルも美しい挿絵を多数描いている画家だけど、ボイルの絵なんて少なくとも現代日本ではなかなかお目にかかれない(と思う)ので。 ヴィクトリア朝の絵画や挿絵、妖精に興味があるなら、買って損はないおすすめの妖精画集です。 →Amazon「ミッドサマー・イヴ 夏の夜の妖精たち」 |
□ 2011/09/06(Tue) |
●ウォルター・デ・ラ・メア 著/脇 明子 訳 『魔女の箒―世界幻想文学大系〈10〉』(国書刊行会) 『魔女の箒―世界幻想文学大系〈10〉』は、絶版本なのだけど、Amazonマーケットプレイスで中古品を入手。 もうずっとずっと読みたいと思っていたデ・ラ・メアの『ムルガーのはるかな旅』(岩波少年文庫)が、復刊される気配さえないので、これは古書を入手するしかないと思ったのです(でも古書に手を出すときりがなさそうなので自制しているのですが)。 『ムルガーのはるかな旅』は、この『魔女の箒―世界幻想文学大系〈10〉』に収録されている「三匹の高貴な猿」を改題、翻訳も見直して刊行されたもの。 表題作「魔女の箒」も未読だったし、大系本は月報もついているし、おトクかなと思ってこの一冊を購入しました。 「三匹の高貴な猿」は、ネットの書評など見ると難解であるかのような印象も受けてしまいますが、そうは言っても子ども向けの作品なので、素直に面白いお話だと思います。 ムルガー、ティッシュナー、ミーアムット、ノーマノッシなどといった、デ・ラ・メアが作り出した言語がたくさん使われていて、そこが少し読みにくいと感じる向きもあるかもしれませんが、響きの美しさを楽しみながら、なんとなくで読み進めていけば良いのではないでしょうか。 主人公のムルガー、ノッドはとてもかわいらしく、彼の旅と成長を見守りながら、物語の底にあるティッシュナーという概念を感じて、なんとも深遠な気持ちにさせられる。「三匹の高貴な猿」は、やはりデ・ラ・メアの傑作だと思います。 この<世界幻想文学大系>も復刊されないけれど…デ・ラ・メアの作品、もっといろいろ読んでみたいので、各版元さん、何卒よろしくお願いいたします。 ティッシュナーというのはきわめて古いムンザ語であって、言葉で考えることも話すことも表現することもできないものを意味している。つまりムルガーたちの生活を超えた、美しく静かな秘密のすべて―風や星や海や数え切れないほどの知られざるもの―それがティッシュナーなのである。 『魔女の箒―世界幻想文学大系〈10〉』410ページより →Amazon「世界幻想文学大系〈10〉魔女の箒 (1975年)」 |