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□ 2011/04/26(Tue) |
●石井好子 著 『バタをひとさじ、玉子を3コ』(河出書房新社) シャンソン歌手として、音楽事務所所長として、そしてエッセイストとして活躍された石井好子さん。 昨年訃報に接したときは、悲しく思いました。『巴里の空の下オムレツのにおいは流れる』をはじめとする一連のエッセイに深く魅了された、多くの読者のひとりとして。 もうあの美味しい料理エッセイを、新たに読むことはできないんだなと残念に思っていたら、なんとこんな素敵な一冊が刊行されているではありませんか! 単行本未収録のエッセイ51篇を収録した、その名も『バタをひとさじ、玉子を3コ』。「オムレツ」の石井好子さんの著書にぴったりのタイトル。「バター」でなくて「バタ」となっているところがミソですよね。 この本、装幀がとってもしゃれているんです。 佐々木美穂さんのイラストがあしらわれた、品の良いかわいい表紙カバー、カバーをはずすとあらわれる本体表紙のモダンでおしゃれなデザインに、フランス語で刷られたタイトル。 目次や本文の字の組み方も、小さくレイアウトされた佐々木美穂さんのシンプルなイラストも、すべて神経がゆきとどいていて、石井好子さんの古き良き時代の香り高いエッセイに、よく似合っています。 それで嬉しくなりながら読み始めたら、収録されたエッセイのどれもが、やっぱり美味しいエッセイで、おなかがぐぅと鳴ってしまうのでした。 →Amazon「バタをひとさじ、玉子を3コ」 |
□ 2011/04/19(Tue) |
●Cicely Mary Barker 著 『The Complete Book of the Flower Fairies(Special Edition)』(Warne) ずっと気になりながらも買っていなかった、シシリー・メアリー・バーカーの、「フラワーフェアリー」シリーズ、やっと入手しました。 この本は、シリーズのコンプリート版です。「Flower Fairies of the Spring」からはじまり、「Summer」「Autumn」「Winter」「Trees」「Garden」「Wayside」「Alphabet」、それぞれ8冊の小さな本におさめられた妖精たちの絵と短い詩がすべて、大きな版型の一冊におさめられています。 ただ、背景がトリミングされてしまっている絵も、けっこうあります。大きなサイズで絵が見られるのは嬉しい人もいるだろうし、小さなサイズの原本の雰囲気が好きという人もいるかもしれません。 またコンプリート版の中でも、さまざまなエディションがあって、どの版が自分の好みにあうか、迷うところです。結局わたしが買ったのは、この「Special Edition」でした。 函入り、布張りの表紙、ピンク色を基調にしたブックデザインは贅沢でかわいらしい。 だけどこれを眺めていると、結局、小さなサイズの原本も欲しくなってきてしまうんですよね(^^; シシリー・メアリー・バーカーの描く花の妖精たちは、伝承のなかで語り継がれてきた妖精ではなくて、愛らしい子どもの姿に擬人化された花々。 月明かりのもとで妖しく誘う伝承のなかの妖精も好きだけど、太陽の光しか知らないようなシシリー・メアリー・バーカーの妖精たちもまた、健康的な魅力たっぷり。 ひとつひとつの花の描写が丁寧で素晴らしいし、花の特徴をよくあらわした妖精の衣装も、妖精たちの表情や仕草も、この上なく愛らしく、眺めているだけでおだやかな気持ちになれます。 →「子どものための美しい庭」で、シシリー・メアリー・バーカー「フラワーフェアリー」シリーズの画像を確認できます →「連想美術館」で、シシリー・メアリー・バーカーについて確認 →Amazon「Complete Book of the Flower Fairies, The (Special Edition)」 |
□ 2011/04/12(Tue) |
●メーテルランク 作/杉本秀太郎 訳 『対訳 ペレアスとメリザンド』(岩波文庫) ●アスビョルンセン 編/佐藤俊彦 訳 『太陽の東 月の西』(岩波少年文庫) ●小沼 丹 著『銀色の鈴』(講談社文芸文庫) 『対訳 ペレアスとメリザンド』は、下記に紹介した、青柳いづみこ 著『水の音楽 オンディーヌとメリザンド』を読むにあたり、やはりこれも読んでおかねばな〜、と思い購入。 この岩波文庫版は、フランス語テキストと日本語訳の対訳になっていて、横書き。カルロス・シュワップという人の描いた美しい挿絵が添えられています。解説によると、もとは多色刷りの絵だったとのことですが、この本ではモノクロになっています。 カラーで見てみたかったな〜と思わせる、格調高い絵の数々です。 『ペレアスとメリザンド』は、『青い鳥』で知られるメーテルランク(メーテルリンク)の、ごく短い戯曲で、ドビュッシーによってオペラ化されています。フォーレの組曲≪ペレアスとメリザンド≫の中の「シシリエンヌ」などもよく知られているのではないでしょうか。 一読、不思議に現実感のうすい、おとぎ話のような感触があり、『トリスタンとイズー』等の作品に似ているようでもあって、巻末の解説を読んでも、何が描かれているのかよくわからないようなところがあったのですが、青柳いづみこさんの『水の音楽』で与えられた解釈は、なるほどと思わされました。 ひとくちで言うとこの戯曲は、ペレアスとメリザンドの悲恋物語で、ヒロインのメリザンドは、はっきりとそう書かれているわけではないけれど、「水の精」のようなものと受け止められているようです。 でも青柳いづみこさんの解釈は、もう少し踏み込んでいて、大胆。 とにかくメリザンドは水を連想させる女性であり、そこでフーケ―の『ウンディーネ』などの物語も思い起こされます。 さまざまな解釈と連想がひろがっていく作品で、だからこそ幾人もの作曲家が音楽を寄せたのだろうと思いました。 『太陽の東 月の西』は、ノルウェーの民話を集めた、岩波少年文庫の一冊。 これはカイ・ニールセンの画集で、ニールセンが『太陽の東 月の西』に寄せた幻想的な挿絵を見ていて、どんなお話なのか読んでみたくなって。 『銀色の鈴』は、小沼 丹の随筆集。しみじみおかしく懐かしい、小沼作品。 最近、講談社文芸文庫で、小沼 丹の作品集が続々(…というほどのペースでもないか?)刊行されていて、ありがたいことだなあと思う。 →ローズマリー・サトクリフ『トリスタンとイズー』の紹介はこちら →Amazon「対訳 ペレアスとメリザンド (岩波文庫)」 |
□ 2011/04/05(Tue) |
●青柳いづみこ 著『水の音楽 オンディーヌとメリザンド』(みすず書房) 最近、クラシックをよく聴くようになった管理人ですが、ラモーやクープランといったフランスの古典音楽のCDを探していて、出会ったのが青柳いづみこさんです。 青柳いづみこさんは、ピアニストでありながら文筆家としても活躍している方で、ドビュッシーの研究で博士号をとり、もちろんドビュッシーのCDも何枚か出しておられます。 ラモーやクープランのクラヴサン音楽をピアノ演奏したCDもあり、どれも高い評価を得ているとのこと。 わたしは青柳さんの演奏で、クープランのクラヴサン音楽の美しさが、少しわかるようになった気がしました。 また青柳さんは文筆家としての評価も高く、仏文学者であった祖父について書いた『青柳瑞穂の生涯 真贋のあわいに』で、第49回日本エッセイスト・クラブ賞を受賞しておられます。 さて『水の音楽 オンディーヌとメリザンド』は、そんな青柳いづみこさんが、音楽、絵画、文学作品にあらわれる「水の精」のイメージについて論考した本です。 文化論なので、難しいかなと思ったけれど、読んでみるととても面白い。 ピアノや音楽についての知識がほとんどないわたしのような読者でさえも、ラヴェルの『夜のガスパール』の「オンディーヌ」のイメージと、ドビュッシーの『ペレアスとメリザンド』の「メリザンド」のイメージとが、どのようにつながっていくのか解き明かされていくさまは、ミステリ的ですらあって、次へ次へと読み進めてしまいます。 これを読むと、青柳さんという人は、音楽だけでなく芸術全般に造詣が深いのだなと感心。 青柳いづみこさんのCDは、ジャケットに使われている絵画作品にもセンスが感じられて、思わず部屋に飾ってしまうほどなのですが、この『水の音楽』でも、表紙カバーにあしらわれたウォーターハウスから、D.G.ロセッティ、バーン=ジョーンズ、フェルナン・クノップフ、ギュスターヴ・モローの絵画、デュラックやラッカムの挿絵作品にまで触れられていて、青柳さんの好みがわかるような気がしてきます。 この『水の音楽』の面白いところは、なんと同タイトルのCDと同時発売されているということ。 CD『水の音楽 オンディーヌとメリザンド』(左の画像)は、書籍にとりあげられた曲が録音されていて、ラヴェル「オンディーヌ」、ドビュッシー「オンディーヌ」、リスト「エステ荘の噴水」や、ショパン「バラード第2・3番」、フォーレ『ペレアスとメリザンド』から「シチリアーナ」など、水づくしの内容とのこと。 わたしはバロックか、さらに古い音楽に興味があって(…なぜ?)、ラヴェルもドビュッシーもさっぱりなのですが、しかしながらこのCDはとても美しい演奏だと感じました。ピアノの音の粒が、まさに水のきらめきのようで、聴いていると、うっとり、水の中にたゆたう感覚になってきます。 このCDのジャケットの絵は、マリアンヌ・ストークスの「メリザンド」。メリザンドが泉のふちで金の冠を落として、泣いているところ。美しい一葉です。 CDを聴きながら本を読めば、内容の理解がよりいっそう深まるので、興味がおありの向きには、ぜひ本とCD、両方味わってほしいなあと思います。 →ウィキペディアで、マリアンヌ・ストークス「メリザンド」の画像を確認! →「子どものための美しい庭」で、マリアンヌ・ストークスの聖母を題材にした絵画を見ることができます。 →Amazon「水の音楽―オンディーヌとメリザンド」(書籍) |
□ 2011/03/29(Tue) |
●オマル・ハイヤーム 著/エドワード・フィッツジェラルド 英訳/竹友藻風 邦訳/ロナルド・バルフォア 挿絵 『ルバイヤート 中世ペルシアで生まれた四行詩集』(マール社) 『ルバイヤート』は、11世紀ペルシアの詩人ハイヤームの四行詩集。 科学者であり哲学者でもあったというハイヤームの生への懐疑、無常感がうたわれたこの詩集は、19世紀イギリスの詩人フィッツジェラルドの英訳本によって、多くの人々に知られるようになりました。 日本でも、平易な現代語に訳されていて読みやすい小川亮作訳の岩波文庫版が、今日でも多くの読者に親しまれています。かく言うわたしも、折にふれ読みかえす詩集のひとつ。 さて、マール社版『ルバイヤート』の魅力は、なんといってもロナルド・バルフォアの挿絵にあります。 ロナルド・バルフォア(1896-1941)のこと、詳しくは知らないのですが、画風は、オーブリー・ビアズリー、ハリー・クラーク、ジョルジュ・バルビエに通ずる、官能的で退廃的な雰囲気です。 マール社版『ルバイヤート』では、ロナルド・バルフォアの絵が、モノクロ画を中心に多数挿しはさまれ、アラビアンナイト風のオリエンタルな世界観が表現されています。 テキストは、フィッツジェラルドの英訳と、1921年に刊行された竹友藻風の邦訳とを併載。竹友藻風の訳は、五・五・七を基調とした文語体で、クラシカルなバルフォアの挿絵とよく調和しています。 でも実際に詩を読むには、やっぱり岩波文庫版が読みやすい。 マール社版は、絵と文語体の雰囲気を楽しむ一冊になりそうです。 →「子どものための美しい庭」で、ロナルド・バルフォアの『ルバイヤート』の絵の一葉を、美しい音楽とともに楽しめます。 →Amazon「ルバイヤート―中世ペルシアで生まれた四行詩集」 |
□ 2011/03/22(Tue) |
●マール社編集部 編/海野 弘 解説・監修 『幻想の挿絵画家 カイ・ニールセン』(マール社) 英国の挿絵黄金時代に活躍した画家のひとり、カイ・ニールセン。 絵本画家エロール・ル・カインにも通じる様式美に彩られた画風が大好きで、すでにいろいろ挿絵本やイラスト集を持っているのですが、日本でこんな画集が発売(2011年2月刊)されたとは嬉しい限り。 ニールセンの挿絵本から、物語のあらすじと挿絵を紹介、絵には簡単な解説つき。解説を読むと、画家の絵の細部へのこだわりや、絵の背景にある当時の流行の変遷などに気付かされ、たいへん興味深いです。 洋書のイラスト集『Nielsen's Fairy Tale Illustrations in Full Color』には収録されていないモノクロ画や、『レッド・マジック』、『千夜一夜物語』などの挿絵作品も載っています。 ただ、『太陽の東、月の西』のカラー挿絵は、印刷が少し荒くて、描線のずれが気になる部分もあるのが残念。ニールセンの傑作は間違いなく、北欧の幻想にあふれた『太陽の東、月の西』だと思うので…。 なので、『Nielsen's Fairy Tale Illustrations in Full Color』(左の画像、安価なペーパーバック版で、ニールセンの絵を大判フルカラーで楽しめます)と併せ読むと、ニールセンの幻想的な美しい絵の世界にひたれること間違いなしです。 →Amazon「幻想の挿絵画家 カイ・ニールセン」 |
□ 2011/03/15(Tue) |
●平出 隆 著『鳥を探しに』(双葉社) 平出 隆氏は、現代日本詩壇を代表する詩人。 詩人とはいっても、肩のこらない散文作品も多く発表されていて、わたしはもっぱら散文ばかりを読んでいます。また氏の著作はどれも、自身が手がけられた装幀もすばらしいです。 『鳥を探しに』は、木山捷平文学賞受賞の『猫の客』以来の、二冊目の小説作品。 まだはじめのほうをちょっと読んだだけなのですが、この小説、なんとも風変わりな手法で描かれています。 表紙カバーに「コラージュによる長篇」と刷られているとおり、平出氏自身の現在の語りと、平出氏の祖父である種作氏の過去の語りと、種作氏の翻訳したものとが交互にたちあらわれます。 間断なく出来事の推移が語られるのではなくて、断片的なテキストの積み重ねの中から、物語をすくいあげる、コラージュのような構成になっているのです。 文章をコラージュする、なんて、ちょっと面白そうですよね。 あと、手にとってすぐわかるのは、やはり装幀の美しさ。 装幀はもちろん著者自身、そして表紙カバー、見返し、本文中の装画は、平出種作氏の手になるもの。 タイトルにもある「鳥」の姿は、表紙カバーの表からは見えないけれど、辞書のように分厚い本のため広いスペースになっている背表紙に、そっと配されています。 タイトル文字などは銀色。カバーをはずした本体の色は深い茶色で、角度によって金色に艶めきます。 標題紙にあしらわれた対馬(物語の舞台のひとつ)の地図も、かっこいい。 平出氏らしい、端正で清々しい装幀。平出氏の本はいつも、この装幀のためだけにでも買って良かったと思わされます。 →Amazon「鳥を探しに」 |
□ 2011/03/08(Tue) |
●デボラ・ソロモン 著/林 寿美, 太田 泰人, 近藤 学 訳 『ジョゼフ・コーネル 箱の中のユートピア』(白水社) ●Diane Waldman 著 『Joseph Cornell:Master of Dreams』(Harry N. Abrams) ジョゼフ・コーネル(1903-1972)は、20世紀アメリカが生んだ、孤独で風変わりで魅力的なアーティスト。 マンハッタンの古書店や古道具屋で漁った写真や古本、十セントショップで売っているがらくたなどを、手作りの木箱のなかに精緻にコラージュして、えもいわれぬ美しい「箱」を作り上げた、<箱の芸術家>です。 コーネルの箱の美しさは、チャールズ・シミック 著/柴田元幸 訳『コーネルの箱』に収録されたカラー図版で知ったのですが、コーネル自身のことは、よく分からないままでした。 『ジョゼフ・コーネル 箱の中のユートピア』は、コーネルの伝記で、そもそも芸術家の伝記にはあまり興味がないわたしだけれど、この本はとても面白いです。 コーネルは他人と友情を築くのが苦手で、恋人なんてもちろんいなくて、この世を去った著名人の伝記を愛読し、彼らの人生に自身を没入させるのが大好きだったのだといいます。 「彼は、死者とならうまくやれた」と、デボラ・ソロモンは書いています。 コーネルのように伝記ではなくても、本をたくさん読む人、本の世界を旅することが好きな人のなかには、この言葉にノックアウトされる人も多いのではないでしょうか。 さて、『ジョゼフ・コーネル 箱の中のユートピア』は、500ページ近い大部なもので、しかしながらコーネル作品の図版は、モノクロで数葉しか収録されていません。 でも読んでいると必ず図版を参照したくなるに決まっているので、『Joseph Cornell:Master of Dreams』をあわせて購入。 こちらは洋書のペーパーバックで、コーネル作品の図版が、カラーとモノクロで多数収録されています。 『コーネルの箱』には収録されていなかった、初期と後期のコラージュ作品なども載っているので、伝記を読みながら、『コーネルの箱』と『Joseph Cornell:Master of Dreams』の2冊で図版を参照しています。 彼はこの世界から消え去ることを望んでいたのだ。白昼夢を見ることによって、そればかりではなく、彼を知る誰もが突き当たったことのある心の壁の向こうに消え去ることによって。 『ジョゼフ・コーネル 箱の中のユートピア』45ページより 安全な避難所、隠れ場、人目に付かぬところ―ひっそりと休めるどこか。夢見る者たちはみな、おのおの隅にもぐり込む。脱獄囚のように、隠れること、消えることしか彼らは考えていない。世界中のすべてのすきまに、誰かが安らぎを求めて入り込んでいる。壁のひび割れからその誰かは、自分が不在であるところの世界を覗き見る。 『コーネルの箱』134ページより 孤独で内気で繊細で、家族以外の他人と、濃密な人間関係を築くことができなかったコーネル。セールスマン暮らしをしながらがらくたを集め、作品が注目されるようになってからも会社勤めをしていたコーネル。芸術家と呼ぶにはあまりに平凡な、変化の少ない人生のうちで、彼は絶えず夢を見ていた。この世界から脱出して、自由になる夢を。脱出、脱獄、という言葉からは、エミリー・ディキンソンの詩も連想しますが、コーネルがもっとも愛したアメリカの詩人が、まさにエミリー・ディキンソンです。コーネルはディキンソンに捧げる箱も作っています。 エミリー・ディキンソンに惹かれるように、わたしはコーネルの箱にも、コーネルの人生にも、つよく惹かれます。 →Amazon「ジョゼフ・コーネル 箱の中のユートピア」 |
□ 2011/03/01(Tue) |
●シャルル・ぺロー 作/ハリー・クラーク 絵/荒俣 宏 訳 『ペロー童話集』(新書館) ハリー・クラークは、いわゆる挿絵黄金時代に活躍した挿絵画家のひとり。アイルランド、ダブリン生まれで、ステンドグラス作家としても知られています。 ダブリン芸術学校でステンドグラスを学び、『アンデルセン童話集』(1916年)で挿絵画家としてデビュー。怪奇幻想的、繊細な画風で、オーブリ―・ビアズリーの後継と目され、人気を博しました。 ハリー・クラークの絵は、『ポオ怪奇小説集』(1919年)、『ファウスト』(1925年)の挿絵などが傑作として知られており、これらの挿絵はどれも、本の内容にもよるけれども、悪夢のような病的な画風で描かれています。 『アンデルセン童話集』は、日本でも、荒俣 宏氏の訳で新書館から刊行され、ハリー・クラークの挿絵が全点収録されています(さすが荒俣さん!)。でもこのアンデルセンの挿絵も、けっこう怖い。カラーは色彩が美しいけれど、モノクロの精密に描きこまれた線、線、線、そして黒が勝った画面…やっぱり怖い(そこがハリー・クラークの魅力なのかもしれませんが〜^^;)。 さて、新書館版『ペロー童話集』は、『アンデルセン童話集』の黒い装幀と対をなすような白い装幀。 白い函入り、白い表紙、表紙に刷られた絵もタイトル文字もクラシカルで素敵!もちろん函から取り出した本には、パラフィン紙のカバーがかかっています。 で、本の表紙と裏表紙の絵、背表紙に、ポイントとして緑色が使われているのだけど、これに合わせて見返しも緑色の紙が使われていて、ここにも絵が刷られており(しかも表と裏の見返しに別々の絵)、巻頭にはばっちりイラストレーション・リストが付されています。このリストや目次に添えられた絵も美しい。 『ペロー童話集』の挿絵は、ハリー・クラークの挿絵のなかでも、とりわけ軽やかで、明るい色彩に彩られたものが多いと思う。モノクロも、白い余白がけっこう見られて、明るい印象。でももちろんハリー・クラーク独特の、ぴったりと閉じられた過密な線、その繊細さも堪能できます。 またこの新書館版は、荒俣氏の稀覯本コレクションの中のとっておき、ハリー・クラーク挿絵の詩集『ときは春』(1920年)から、クラークが挿絵を付けた詩が選ばれて併載されているのです! 『ときは春』は、イエイツやデ・ラ・メア、チェスタトン作品などのアンソロジーで、わたしとしてはデ・ラ・メアの「狂える王子の歌」の挿絵が見られただけでもうれしい。 『ときは春』の挿絵も、ハリー・クラーク独特の怖さはあるけど、ウィリアム・ワトソン「四月」のモノクロ絵や、アリス・メネル「羊飼い」のカラー絵など愛らしくて、ハリー・クラークの色彩の美しさは、やはりステンドグラス作家だからなのかなと思わされたり。 荒俣氏訳のテキスト、博覧強記の人として知られる氏ならではの詳細な注釈も興味深い! 知ってるつもりのおとぎ話を、こんな一冊で再読してみるのも、大人の贅沢な楽しみではないでしょうか。 原書の稀覯本なんて手に入れるべくもないフツーの読者としては、訳者の荒俣 宏氏と、版元の新書館さんに大感謝の、たいへん美しい一冊です。 →Amazon「ペロー童話集」 |