□ 2009/06/22(Mon) |
●エリザベス・ボウエン 著/太田良子 訳 『あの薔薇を見てよ ボウエン・ミステリー短篇集』(ミネルヴァ書房) ●加島祥造 編『対訳 ポー詩集―アメリカ詩人選(1)』(岩波文庫) Amazonでイーディス・ウォートン『幽霊』(下記に紹介)を買ったら、「この商品を買った人はこんな商品も買っています」のところに、エリザベス・ボウエンの本が。 国書刊行会のボウエン・コレクションのカバーに、勝本みつるさんの作品が使われていて、ボウエン作品は気になっていたので、この機会にと買って読んでみたら、これが大当たり。 とても面白い。淡々とした語り口で、辛辣なことがさらりと書かれているにも関わらず、どこか謎めいた夢を見てでもいるような、何とも不思議な読み心地。 ネットでレビューを検索すると、大概ボウエンは難しいとか、訳が直訳っぽくて読みにくいとか、最後でぞっとさせられる怖い話が多いとか書いてあるけど、そこは重要じゃない気がする。 と思っていたら、ボウエン・コレクションを紹介する国書刊行会のリーフレットに、小池昌代氏がちゃんと書いていらっしゃいました。 ボウエンの作品は辛らつな真珠だ。淡々と進む筆致のなかに、謎が、真実が、詩が仕掛けられてある。(中略)人間を見つめる目は、容赦がないが、それでいて作品全体は、柔らかな光にくるまれている。…(以下略)まさに、そう! 「辛らつ」なんだけれど、「柔らかな光にくるまれている」という、この読み心地をじっくり味わうことが、ボウエン作品の大きな魅力のひとつではないでしょうか。 副題に「ミステリー」という言葉が使われていますが、これは日本で一般的に言われるミステリーというジャンルを指すのではなく、ミステリアスな、謎めいた作品集という意味でうけとったら良いのかなと思います。 『対訳 ポー詩集―アメリカ詩人選(1)』については、なぜこのタイミングでポーなのかというと…。 イーディス・ウォートン『幽霊』(下記に紹介)に、ゴシック風の物語がけっこう収録されていて、にわかにゴシック小説に興味をおぼえ、調べてみたらエドガー・ポーの「アッシャー家の崩壊」が、まさにゴシック小説仕立てだというので、学生時代に読んで、ぜんぜん面白さがわからなかったのを再読してみたのです。 そうしたらこの短篇中に出てくる詩「The Haunted Palece」が、怖いのだけれども美しくて。 ポーの詩といえば、あまりに有名な「Annabel Lee」も読んだことないし、ちゃんと読んでみようと思って、とりあえず岩波文庫の対訳詩集を購入。 やっぱり「Annabel Lee」は、とても美しくて悲しい詩だと思いました。40歳で亡くなったポーの、死の年に書かれたとされているそうです。 →勝本みつるさんの作品集の紹介はこちら →Amazon「あの薔薇を見てよ―ボウエン・ミステリー短編集 (MINERVA世界文学選)」 |
□ 2009/06/15(Mon) |
●イーディス・ウォートン 著/薗田美和子 山田晴子 訳 『幽霊』(作品社) いわゆる、ジャケ買いというやつです。 この表紙カバーの写真…派手ではないのにドラマティックで、物語を感じさせる。それで、思わず買ってしまったのです。イーディス・ウォートンという作家について、何も知らなかったというのに。 この本の著者略歴によると、イーディス・ウォートンはニューヨーク出身の作家で、1921年『無垢の時代』でピュリッツアー賞を受賞しており、1993年マーティン・スコセッシ監督により『エイジ・オブ・イノセンス』として映画化もされた、とのこと。 『幽霊』は、さまざまな手触りの作品を描きベストセラーも出しているイーディス・ウォートンが、実は熱心に書き続けていたという幽霊物語を集めた短篇集です。 で、ああ、なんとなくこの話の雰囲気、デ・ラ・メアの幻想短篇に通じるものがあるなあ、と思ったら、ここに訳出された作品のほとんどが収録されている『Ghosts』(1937)は、まさにそのウォルター・デ・ラ・メアに献呈されたのだそうです。 巻末に付された『Ghosts』(1937)の序文では、ウォートンはデ・ラ・メアのことを「私が一級と太鼓判を押す、現代ただひとりの幽霊を呼び出すひと」と書いています。 そして訳者解説によるとウォートンは、超自然現象に対して「鋭いケルト的感覚」を持っていたと、自伝で述べているのだとか。 幻を見る人たちのほうへ、ケルト的感覚を持つ人たちのほうへ、知らないうちに惹かれていくのは、なぜなのでしょう?? それはさておき、ここに収録された幽霊物語は、なんとなくゴシック風で、古めかしくて、品があって、なかなか面白いです。巻末の序文で、ウォートンが書いていることにも、しみじみ共感してしまいます。 けれども私がはじめて幽霊ものの創作に手をそめて以来、現代人にはそれを楽しんで読むのに必要な能力がほとんど衰えてしまった、という悲しい発見をしてきました。(中略) 幽霊を感知し、ぞっとするためには、北欧の原始林のもの寂しい樹木の音とか、辺境の海辺での暗い波のうねりを、いまも耳の奥に聞けるひとでなければなりません。それって、妖精物語にも言えることじゃないかな、と思います。 目に見えないもののことを、もう信じることも想像することもできないのだとしたら、現代人はとても大切なものを、失ってしまったことになるのではないでしょうか。 →「ウォルター・デ・ラ・メアの本」はこちら →Amazon「幽霊」 |
□ 2009/06/10(Wed) |
●ポール・エリュアール 作/オードリー・フォンドゥカヴ 絵/須山 実 訳『grain-d'aile グランデール』(エクリ) ●オードリー・フォンドゥカヴ 物語・絵/内田也哉子 文 『わたしのロバと王女』(ピエ・ブックス) 『grain-d'aile グランデール』は、シュールレアリスムの詩人ポール・エリュアールがのこした唯一の童話に、東京在住のフランス人女性アーティスト、オードリー・フォンドゥカヴが絵を寄せた一冊。 表紙の色彩だけ見ても印象的な絵本ですが、オードリー・フォンドゥカヴの絵がとても美しい。 透明感のある色彩、軽やかなタッチ、画面構成もしゃれている。ぱらぱらとページをめくって、この澄んだ色を眺めているだけでも心地好い。 詩人としてのポール・エリュアールをよく知らないのですが、翼をほしがる少女グランデールのおはなしを幼い娘に語り聞かせるというテキストが、またなんとも素敵です。 『わたしのロバと王女』は、オードリー・フォンドゥカヴの絵本画集。 ペローの童話『ロバの皮』からイマジネーションを広げ、展覧会のためのアートワークの一環として作られた物語を、内田也哉子が日本語に置き換え、書籍化したものだそうです。 装幀が凝っていて、表紙はピンクのフラミンゴが刷られた手触りのある紙に、金の箔押しでロバが描かれ、透明カバーがかけられています。見返しの片隅には仔山羊の絵、標題紙にピンクの花をかたどった紙が挟み込まれています。 おはなしは、なんとも切なく、『ロバの皮』に「ノアの方舟」のモチーフも融合して、奥深いものになっています。 2冊ともに繊細な、とても美しい絵本です。 →Amazon「grain-d'aile グランデール」 |
□ 2009/06/02(Tue) |
●ヤニコフスキ・エーヴァ 作/レーベル・ラースロー 絵/うちかわかずみ 訳『ふたごのベルとバル』(のら書店) ●モンゴメリ 著/村岡花子 訳『エミリーの求めるもの』(新潮文庫) 東欧の絵本に興味をもちはじめた今日この頃。 レーベル・ラースローさんは、ハンガリーを代表する人気イラストレーターとのことで、2001年にお亡くなりになっています。 ヤニコフスキ・エーヴァ&レーベル・ラースローのコンビでの作品は、すでに何冊か邦訳がなされていますが、この『ふたごのベルとバル』は、とりわけかわいい一冊ではないでしょうか。 ふたごのダックスフントのベルとバル、飼い主のボルバラおばさんとボルディおじさんの心温まるおはなし。 ボルバラおばさんとボルディおじさんのおうちの様子がとても素敵で、壁にかけられた絵皿やタイルばりの暖炉、アンティークのミシンなど、ディテールがとてもかわいいです。 『エミリーの求めるもの』は、モンゴメリの「エミリー」シリーズ最終巻。 アンの目やエミリーの目を通してみた、この世界の美しさといったら。 やはりモンゴメリは、デ・ラ・メアやマクドナルドに通じる、夢想家の魂をもつ人だったのだなあと思う。 そういえば「エミリー」シリーズでも、主人公エミリーはマクドナルドの『北風のうしろの国』を愛読していた。 →Amazon「ふたごのベルとバル」 |
□ 2009/05/25(Mon) |
●トゥルンカ 絵/ボリガー 文/矢川澄子 訳 『ほたるの子ミオ』(メルヘン社) チェコの人形アニメの巨匠であり、たくさんの絵本も描いているイジー・トゥルンカ。 『ほたるの子ミオ』が欲しいなあと思っていて、いろんなネット書店で品切れ状態だったので、あきらめていたのだけど。 アマゾンでいろんな絵本をチェックしていたら、『ほたるの子ミオ』が在庫ありになっていた!ので早速購入。 奥付を確認したら、昭和56年の第1刷のものだったので、どこかの倉庫に眠っていたものが出てきたのでしょうか。とにかく嬉しい! トゥルンカのデカルコマニーを駆使した幻想的な絵で、ほたるの子ミオの成長の過程が描かれた、詩情ゆたかなこの絵本。 先に購入していた『おとぎばなしをしましょう』とはまた違った画風。大判の画面いっぱいに、ランタンを手にしたほたるたちが飛び交う青い夜の風景が描かれて、なんとも美しい。 ちいさなほたるたちを擬人化した姿、その小人のような風貌、自然の中でのちいさな暮らしの様子…なんだか佐藤さとるの「コロボックル物語」を思い出す。 トゥルンカの絵本には、素朴なあたたかさ、不思議に懐かしい魅力がある。 →Amazon「ほたるの子ミオ」 |
□ 2009/05/19(Tue) |
●オルガ・ルカイユ 作/こだましおり 訳『まほうのむち』(評論社) ●『コラージュ・ブック 身近なものを切って貼って』(ビー・エヌ・エヌ新社) ●モンゴメリ 著/村岡花子 訳『エミリーはのぼる』(新潮文庫) フランスの絵本作家、オルガ・ルカイユ。油絵タッチの絵が素敵なので、『まほうのむち』も購入しました。 うさぎの男の子ヴィルジルと、『こねずみディディ・ボンボン』の主人公ディディも登場。ストーリーはごく単純、文章が短いので、読み聞かせに向いていると思います。 見返しにも描かれている圧倒的な森の風景、「まほうのむち」というちょっと珍しいアイテムが印象的。 『コラージュ・ブック』は、11組のコラージュ作家さんたちの作品と、ちょっとしたインタビューが収録された一冊。 以前から素敵なコラージュだなと思っていた井上陽子さんの作品や、ナカムラユキさん、les deuxのお二人の作品がとりあげられているので、買ってしまいました。 コラージュってたくさん素材を使った凝ったものが多いような気がするけど、ナカムラユキさんの作品は、少しの素材で、余白の多いすっきりしたデザインに仕上がっていて、やっぱり好きだなあと思う。 あとナカムラユキさん含め多くのコラージュ作家さんたちが、素材を購入するお店としてチャルカの名前をあげられていて、なるほどな〜と思ったのでした。 『エミリーはのぼる』は、『可愛いエミリー』に続く、モンゴメリの「エミリー」シリーズ第2作。 やっぱりモンゴメリの少女小説は面白いなあと、『可愛いエミリー』をいま読みすすめているところ。 →ナカムラユキ、les deux、チャルカの本の紹介はこちら →Amazon「まほうのむち (児童図書館・絵本の部屋)」 |
□ 2009/05/11(Mon) |
●オルガ・ルカイユ 文・絵/こだましおり 訳 『こねずみディディ・ボンボン』(岩波書店) ●モンゴメリ 著/村岡花子 訳『可愛いエミリー』(新潮文庫) フランスの絵本作家、オルガ・ルカイユ。 『こねずみディディ・ボンボン』は、表紙の、ピンクのドレスと白いペチコートを着たねずみの女の子に目をひかれて購入。 落ち着いた色合いの絵といい、わかりやすいお話といい、おやすみ前の子どもへの読み聞かせにぴったりなんじゃないかな、と思う。 途中、とても怖ろしいおおかみが登場して、ほんとうに獰猛な表情に描かれているのですが、このおおかみがけっこうきちんとした洋服を着ていたりして、シンプルで品のある画風が素敵。 見返しに描かれた色とりどりのボンボンやキャラメル、テキストのページにあしらわれた野の花の絵もかわいい。 「赤毛のアン」シリーズ全巻を、やっと読破。次はより自伝的といわれるモンゴメリの「エミリー」シリーズを読んでみようと思い立つ。 カナダのプリンス・エドワード島の自然、素朴な暮らしの美しさを描くモンゴメリの少女小説。けれどもその魅力の底には、スコットランド系移民というルーツの問題があるように感じる。 「エミリー」シリーズではモンゴメリのルーツについて、「赤毛のアン」より掘り下げられているのかな、と期待。 →Amazon「こねずみディディ・ボンボン (大型絵本)」 |
□ 2009/05/07(Thu) |
●チャルカ『アジ紙 東欧を旅する雑貨店チャルカの、好きで好きで仕方のない紙のはなし。』(アノニマ・スタジオ) チャルカの新刊、さっそく購入。 チャルカというのは、久保よしみさんと藤山なおみさん、旅友たちの女性ふたりが作った、大阪北堀江にある有名なお店、東欧を旅する雑貨店[チャルカ] のこと。 東欧が大好き!で、東欧雑貨、東欧の文化、東欧に住まい雑貨をつくり使っている人たちへの愛が感じられるお店は、管理人も実際に訪れてみて、なんとも素敵だなあと感じたことです。 チャルカにとっての「アジ紙」というのは、「個性、味わい、趣き、背景、ストーリーのある紙のこと」だそう。この本は、チャルカの紙への思い入れがぎゅぎゅっと詰まった、まるごと一冊「紙」がテーマのマニアックな本(笑)です。 人との触れ合いがじんとくる旅のエピソードとともに紹介される、さまざまなアジ紙。アジ紙から作られるチャルカの文房具や、それを作っている町工場のおじさんたちの話など、どれをとってもチャルカらしい切り口。 紙好きにはたまらない、凝りに凝った一冊。そして紙好きでなくても手にとってみてほしい、あったかい一冊。 ちなみにp145-176は、更紙(ざらがみ)を使用した特別仕様、初版限定だそうですよ。 →Amazon「アジ紙」 |