■本の蒐集記録(2007年3-4月)





2007/04/28(Sat)
●ルドウィッヒ・ベーメルマンス 作/ふしみ みさを 訳
『パセリともみの木』(あすなろ書房)

<マドレーヌ・シリーズ>で有名なベーメルマンスの初邦訳作品。
アマゾンからの広告メールで発売を知ったのですが、版元であるあすなろ書房のサイトで本の情報などを見て(→Click!)、すっかり欲しくなってしまい購入。
やっぱりベーメルマンスの絵は素敵です。
一見、子どもが描いたように素朴なタッチ、だからこそ、あたたかみがあって。

<マドレーヌ・シリーズ>では、パリをはじめとする街の風景が巧みに描かれていますが、この絵本では、もみの木と動物たちが暮らす、森の自然の様子が表現されています。
テキストのページに、野の花の絵があしらわれているのも愛らしいです(^-^)
少し黄味のあるマットな紙質については、絵の発色という点でちょっと疑問なのですが、原書の装幀がわからないので何とも言えません。
初版が50年以上も前であることを考えれば、黄味がかった紙も、古びた雰囲気やぬくもりを感じさせて、むしろ味わい深いかもしれませんね。

▲トップ




2007/04/14(Sat)
●南 桂子 著『ボヌール 南桂子作品集』(リトルモア)

2007年3月20日発売の雑誌『クウネル』(マガジンハウス)に、「南桂子の銅版画に描かれた世界」という記事があり(→Click!)、 掲載されていたいくつかの絵にふしぎに惹かれるものを感じて、思わず作品集を購入してしまいました。
この記事を読むまでは、銅版画家・南桂子という人について何も知らなかったのですが、この作品集はとても素敵で、買ってよかったと思います。

『クウネル』の記事から引用させてもらうと南桂子の銅版画は、「描かれるモチーフはいつも決まっていて、少女、鳥、樹々、花、蝶、魚、城…といった童話的なイメージが、 組み合わせを替えながらも、その都度登場する」とのこと。
たしかにそのとおりで、これらのモチーフは、絵本や童話の好きな人にとっては、どうしても惹かれてしまうものですよね。
では単に可愛らしい絵かというと、そうではなくて、南桂子の作品世界は、どこか淋しい雰囲気のする静謐な空気に満たされています。

銅版に穿たれた、完璧に孤独な心の王国。
ひとつひとつの絵をじっと眺めていると、しんと心が落ち着くのは、なぜなのでしょう。
タイトルの<ボヌール>というのは、フランス語で幸福を意味する言葉で、著者のたいせつにしていた指輪の裏に、ひっそり刻まれていたのだそうです。

▲トップ




2007/04/07(Sat)
●ジョン・バーニンガム 作/木島 始 訳
『ボルカ はねなしガチョウのぼうけん』(ほるぷ出版)
●アロイス・カリジェ 文・絵/大塚勇三 訳
『マウルスと三びきのヤギ』(岩波書店)

『ボルカ はねなしガチョウのぼうけん』は、ジョン・バーニンガムの処女作にして、ケイト・グリーナウェイ賞を受賞した作品。
『はたらくうまのハンバートとロンドン市長さんのはなし』『ずどんといっぱつ すていぬシンプだいかつやく』などの作品に通ずる、王道のストーリーテリングと、力強い描線が魅力の油絵タッチの画風。
”ガンピーさん”のようなやさしい画風も素敵だけれど、バーニンガム初期のこのプリミティブともいえるタッチは、やっぱり大好き。

こつこつ集めているカリジェの絵本。
『マウルスと三びきのヤギ』は、絵もおはなしもカリジェが手がけたもの。
ヤギ飼いの少年マウルスの一日を描いた、なんということもない素朴なおはなしなのですが、序文を読んだだけでもう涙ぐんでしまうほど、作者の純粋な気持ちが伝わってきます。
ページを開くだけで、スイスの山々の清々しい空気を感じさせてくれるカリジェの絵は、一匹ずつ個性のちがうヤギたちの表情や、室内の雑貨のかわいらしさなど、細部まで見入るのもたのしいです。
いちばん最後の、マウルスの見ている夢の様子を描いた一葉が、なんともあたたかくて素敵。
たいへんな一日のあとに、マウルスがしあわせそうに寝入るところで終わるこのおはなしは、おやすみ前に読む絵本としても、おすすめではないかなと思います。
ふるさとの山々をたったひとりあるいていて、とおくのほうにヤギのむれのすずの音をきいたとき、 またはヤギのむれとであったとき、いつでもわたしは、よろこびでいっぱいになりました。

アロイス・カリジェ『マウルスと三びきのヤギ』序文より

→「アロイス・カリジェの絵本」はこちら

▲トップ




2007/04/04(Wed)
●Gillian Avery 著/Ivan Bilibin 絵『Russian Fairy Tales (Everyman's Library Children's Classics) 』(Everyman's Library)

ずっと欲しいと思っていた、イワン・ビリービン挿絵の洋書。
<Everyman's Library Children's Classics>という、子ども向けの名作童話のシリーズなので、本文の英語自体は簡単…のはずだけど、わたしには読めません。
でも、イワン・ビリービンの絵本の邦訳版はたいがい絶版だし、洋書でも安価で手ごろなイラスト集というのがなくて、この本がいちばんお買い得だったのです。
結論は、英語は読めないけど買って良かった〜、です。

文章も多いけど、イラストもけっこうたくさん載っているんですよ。
絶版となっている邦訳絵本『うるわしのワシリーサ』『カエルの王女』『サルタン王の物語』のイラストが、ほぼ収録されています。
本のサイズが小さいので、必然的に大判の絵本とは迫力が違うし、ページのすみに縮小してレイアウトされたイラストもあるのですが…。
ただ<Everyman's Library Children's Classics>は、布張りに箔押しの表紙という美しい装幀なので、本棚に並んでいるだけで、なんとなく満足感があります。
背表紙も箔押しで綺麗なんですよ〜(^^)

→「イワン・ビリービンの絵本」はこちら

▲トップ




2007/03/26(Mon)
●小沼 丹 著『福寿草』(みすず書房)

小沼 丹の単行本というのは、ほんとうに値段が高くて、蒐集しようと思い定めたのは良いけれど、ふところ具合と絶版の危惧とで、購入計画をたてるのがとても難しいです。

…とは言いつつ、さっそく買ってしまった『福寿草』。
著者の没後に編まれた随筆集で、創作や書評等も収録されています。
お値段ははるけれども、いかにも日本文学、という感じの渋い装幀が美しくて、幸せ。
お抹茶に似たこっくりとした色の函入り。布張りの表紙にかけられたパラフィン紙。本文はもちろん正字舊假名遣。
これは、ほんとうに大事に大事に味わって読もうと思う一冊。

→小沼丹『黒いハンカチ』の紹介はこちら

▲トップ




2007/03/22(Thu)
●ジョン・M・シング 著/松村みね子 訳
『シング戯曲全集』(沖積舎)

J.M.シング 著/栩木伸明 訳『アラン島』(みすず書房)を読了。
アイルランドさいはての島についてのシングの紀行文は、みずみずしい感動に満ちて魅力的なものでした。

シングは、W・B・イエイツらとともに、アイルランド文芸復興運動の中心的人物として、戯曲を数多く書き残した人物。
これまではなぜかシングの戯曲を手にとってこなかったのですが、『アラン島』を読んだことで、シングへの興味が深まりました。
シングの戯曲の邦訳版はいくつかありますが、やはりシングの作品を愛し、日本で初めて彼の戯曲を紹介した、松村みね子女史の訳文をと思い、沖積舎版を購入。
「谷の影」「海に行く騎者」の2作にざっと目を通すと、まさに、紀行文に綴られていたアラン島での体験が、戯曲というかたちに結晶していて、たいへん感銘を受けました。

これが、松村みね子の愛したシングの世界。
じっくり読みすすめるのが、ほんとうに楽しみです。

→J.M.シング 著『アラン島』の読書日記はこちら

▲トップ




2007/03/20(Tue)
●小沼 丹 著『緑色のバス 短篇名作選』(構想社)

小沼 丹。
思えば、氏の初期作品であり、その作風からいえば異色ともいえるミステリ『黒いハンカチ』(創元推理文庫)を読んで、 淡々と長閑な語り口に魅せられたのが出会い。
時が経ち、社会人として働きつづけることに疲れを感じるいま、『小さな手袋 / 珈琲挽き』(みすず書房)を読了し、その静謐でありながらユーモアのにじむ筆致に、深い感銘をおぼえました。
さらに『小さな手袋』(講談社文芸文庫)を読みすすめるうち、もうこれは、氏の著作を出来得る限り蒐集するしかない、と思い定めたのです。

言葉では表現し難い、懐かしいような、なんだか淋しいような、あの心持ちを、こんなふうに綴ることのできる人がいるなんて。
本をめぐる旅の途上で、小沼 丹に出会えたことを、ほんとうに幸福だと思います。
小沼作品のページを繰るたびに、本を読むことの愉悦が、心の奥底から、しみじみと湧き上がってくるのです。

『緑色のバス 短篇名作選』は、初期のミステリ調の作品から、後期の私小説群までをおさめた、お値段も手ごろな一冊。
なんとも古めかしい装幀に、旧仮名遣いというのも、また味わい深くて良いのです。

→小沼丹『黒いハンカチ』の紹介はこちら

▲トップ




2007/03/17(Sat)
●アロイス・カリジェ 文・絵/大塚勇三 訳
『マウルスとマドライナ』(岩波書店)
●Arthur Rackham 著
『Rackham's Fairy Tale Illustrations in Full Color』(Dover Pubns)

大人でも、読むほどに素朴な味わいの虜になってしまう、アロイス・カリジェの絵本。
『マウルスとマドライナ』もまた、素敵な作品でした。
これは山に暮らす少年マウルスが、大きい町に住むいとこのマドライナを訪ねていくおはなし。
町の子ハンシがクリスマス休暇に山に住む親戚を訪ねる、ベーメルマンスの『山のクリスマス』と、ちょうど反対のシチュエーションです。
『マウルスとマドライナ』では、マドライナの住む町の様子が美しく描かれていて、やはり細部まで絵に見入ってしまうのですが、 おはなしの中にはちゃんと自然の厳しさも織り込まれています。
スイスの山での暮らし、きっと現実には辛く厳しいものなのでしょうが、やっぱり良いなあと憧れます。
雄大な自然の懐に抱かれて生きる人間の姿こそ、健気で美しいと思うのです。

『Rackham's Fairy Tale Illustrations in Full Color』は、20世紀初頭、イギリス挿絵黄金期に活躍した、アーサー・ラッカムのイラスト集。
グリム童話(「しらゆき べにばら 」「ラプンツェル」「七わのからす」「ヘンゼルとグレーテル」「赤ずきん」etc.)の挿絵などが多数おさめられています。
現代絵本画家の最高峰リスベート・ツヴェルガーは、ラッカムに影響を受けたと言いますが、初期の彼女の絵はたしかに、 独特の描線の美しさやおさえた色遣いなど、ラッカムの画風に通ずるものを感じます。
「赤ずきん」は、ラッカムもツヴェルガーも挿絵を手がけていますが、このイラスト集におさめられたラッカムの作品は、赤ずきんとオオカミをクローズアップするのではなくて、 無気味な森の木が存在感たっぷりに描かれていて、こういう表情のある樹木の描写はラッカムならではだなあと思いました。

→「アロイス・カリジェの絵本」はこちら
→アーサー・ラッカムの紹介はこちら

▲トップ




2007/03/10(Sat)
●小沼 丹 著『小さな手袋』『椋鳥日記』『懐中時計』
(3冊とも講談社文芸文庫)

みすず書房の《大人の本棚》シリーズのなかに、小沼丹の名前を見つけて以来、なぜかむしょうに小沼丹に惹きつけられているわたし。
いま『小さな手袋 / 珈琲挽き』を入手し、読んでいるところなのですが、これが何とも味わい深くて良い。
ということで、どうしても小沼丹を読み込んでみたくなり、上記の3冊を購入しました。
『小さな手袋 / 珈琲挽き』では、昭和51年に小澤書店より刊行された単行本『小さな手袋』所収の作品が、ごく一部しか収録されていなかったので、 こちら講談社文芸文庫の『小さな手袋』も、ぜひ買おうと思ったのでした。

それにしても講談社文芸文庫は、文庫といいながらもお値段が高めに設定されているのが辛いのですが、表紙カバーなんか、つや消しの紙で品があっていい感じ。
ラインナップも渋くて、なんと少し前までは全集でしか読めなかった小川国夫の作品も入っているではありませんか。
小沼丹にしても、この文庫が出るまでは、けっこう入手困難な作家さんだったようですし、講談社文芸文庫というのも要チェックのシリーズだなあ、なんて思いました。

ところでわたしは、本職の作家さん、文章で食べている人の書いたものよりも、小沼丹の随筆のような、余技的な作品のほうを好む傾向にあるようです。
余技といってしまうと、少し違うのかな…ちゃんと他に職業をもっていて、その仕事の合間にでも書かれたような。
小沼丹や平出隆、アリステア・マクラウドなんかも、大学で芸術や文学を教えながら、作品を書いているんですよね。
社会的な立場や、時間的な拘束。そんな自由にならない仕事もちゃんと経験している人の書いたものにこそ、 しみじみと共感してしまうのは、わたし自身が、仕事の合間に本を読んでいるからでしょうか。

→小沼丹『黒いハンカチ』の紹介はこちら

▲トップ




2007/03/02(Sat)
●アロイス・カリジェ 文・絵/大塚勇三 訳
『ナシの木とシラカバとメギの木』(岩波書店)
●ジャック・プレベール 作/ジャクリーヌ・デュエム 絵/内藤 濯 訳
『つきのオペラ』(至光社)

岩波書店から出ているアロイス・カリジェの絵本。お値段がはるので、なかなか一気には集められないのですが、 『ナシの木とシラカバとメギの木』は、とってもとっても楽しみにしていた一冊。
やっぱり期待を裏切らない傑作絵本でした♪
絵がなんといっても素敵で、ナシの木とシラカバとメギの木に囲まれたお家も、シラカバの木の下のベンチに家族みんなで腰掛けてくつろぐ姿も、 とにかくすべてが美しくて、あたたかくて。
なんていうかこう、スイスの山奥の、ときに厳しく、ときに恩寵のように美しい自然のなかで、家族が寄り添い、土地に根を下ろして暮らしている様子が、 絵を眺めているだけでリアルに感じ取れて、それがたまらなく幸せで。
カリジェ本人が手がけたおはなしも、なんとも素朴で、ほんとうの悲しみと、ほんとうの喜びに満ちた、山の暮らしの現実を伝えています。
スイスの山村の農家に生まれたというカリジェでなければ描けない、とても素晴らしい絵本です。
カリジェの絵本、やはり時間をかけて全部集めたいと思います。

『つきのオペラ』は、ずっと何となく気になっていた作品。
まずタイトルにひかれたのだけれども、わたしは「月」関連の絵本には、なぜか魅力を感じてしまいます。
この絵本は、哲学的というか抽象的というか不思議な内容で、主人公ミシェル・モラン少年が、自分の夢見ためくるめく月世界の様子を、大人たちにしずかに物語っていきます。
この絵本では月は、夢のような、理想郷として描かれていて、地球はその対極に置かれています。
ジャクリーヌ・デュエムの絵は夢幻的な月世界を美しく表現していますが、ジャック・プレベールのおはなしの底には、人類への鋭いメッセージがひそんでいます。
絵本としては、見開きにも素敵な絵が描かれているところや、中に大きな絵がたたまれて挿入され、裏には「ミシェル・モランのうた」(クリスチァンヌ・ベルジェ 曲)の楽譜が付いているところなど、凝っていて面白いと思います。

→「アロイス・カリジェの絵本」はこちら

▲トップ

本の蒐集記録 Index へ戻る



■HOME