■モーリス・センダックの絵本

〜子どもの感じる不安や寂しさから生まれる幻想〜


●モーリス・センダック ― Maurice Sendak ―

1928年、ニューヨークのブルックリンに生まれる。
両親はポーランド系ユダヤ人。父親が語り聞かせた、ユダヤの古い物語をもとにした即興の話が、幻想と神秘の世界への興味を育んだといわれる。
おもちゃ屋のウィンドウ・ディスプレイなどの仕事を経て子どもの本の世界に入り、多数の絵本を発表、童話の挿絵も手がける。
1964年、『かいじゅうたちのいるところ』でコルデコット賞を受賞。1970年、国際アンデルセン大賞を受賞。2003年、アストリッド・リンドグレーン記念文学賞を受賞。
日本でも多くの作品が邦訳出版されている、たいへん人気の高い、子どものための偉大な絵本作家である。


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「あなはほるもの おっこちるとこ」

「うさぎさんてつだってほしいの」

「きみなんかだいきらいさ」

「ケニーのまど」

「シャーロットとしろいうま」

「ちいさなちいさなえほんばこ」

「とおいところへいきたいな」



「あなはほるもの おっこちるとこ」

ちいちゃいこどもたちのせつめい
ルース・クラウス 文/モーリス・センダック 絵/わたなべ しげお 訳(岩波書店)
あなはほるもの おっこちるとこ―ちいちゃいこどもたちのせつめい (岩波の子どもの本)
どろんこは とびこんで すべりこんで
おっころりんの しゃんしゃんて やるところ
おっころりんの しゃーん しゃん!
『はなをくんくん』などの絵本で知られるルース・クラウスが、アメリカの幼稚園や保育園の子どもたちと一緒に、大人の常識をくつがえす「ことばの定義」を試みた、楽しい絵本。<岩波の子どもの本>シリーズのなかの一冊として刊行されています。
この絵本、子どもの本ではあるけれども、大人の心にも訴えかけます。たとえば、こんな文章。
「おしろは すなばで つくるもの」
「かいがらは うみの おとを きくもの」
「とけいは ちくたく おとを きくもの」
「よるを ながめていると いろんなものが みえることを ゆめって いうんだよ」
もう一度、子どもの心で、世界をあらためて見ることができる、そのきっかけを与えてくれるような絵本です。

センダックが、味わい深いモノクロの描線で描いた子どもたちは、画面の中で、いえ画面からはみ出しそうなくらい、生き生きと動き回っています! この絵本の中には、うるさくって、にくらしくって、愛らしい、そんな子どもたちがいっぱいです。
オレンジがかった紙に、モノクロの絵、テキストは茶色というデザインが、素朴でとっても素敵です。見返しにも子どもたちがはねまわっています。「おっころりんの しゃーん しゃん!」っていう具合に。

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「うさぎさんてつだってほしいの」

シャーロット・ゾロトウ 文/モーリス・センダック 絵/こだま ともこ 訳(冨山房)
うさぎさんてつだってほしいの
「うさぎさん、てつだってほしいの。」
おんなのこは、おかあさんの誕生日のプレゼントをどうするか、うさぎさんに相談します。
おかあさんの好きなものは、あか、きいろ、みどり、あお。でも「あか? あかなんて あげられないさ」と、うさぎさんは言います。
ふたりは、おかあさんの好きな色から、プレゼントをあれこれ考えてみます…。

ゾロトウとセンダックという、絵本界の大御所(?)ふたりが組んだ作品。
手にとってみて意外だったのが、とても小ぶりな絵本だったということ。でもこれが手にしっくりなじむ感じで、とても良いのです。
センダックの絵は、やっぱり上手い、のひとこと。一日の時間の流れが、陽光の色の変化を描写することによって、巧みに表現されています。
女の子が、なぜかダンディで格好いいうさぎさんに手伝ってもらって、おかあさんの誕生日プレゼントを探しながら、森のなかを、奥へ奥へと歩いてゆく。
場面ごとに移り変わる風景が、ふしぎに幻想的なタッチで描かれていて、ほんとうに美しいです。
青く光る湖のほとり、花々の咲き乱れる美しい場所に、腰をおろした女の子、傍らにすらりと立つうさぎさん。うさぎさんが女の子をかき口説いてるようにしか見えない…とか思ってしまうのは、わたしだけでしょうか…(^^;

ゾロトウのテキストは、子どもの喜ぶくりかえしが多用されて読みやすく、あかいもの、きいろいもの、みどりいろのもの、あおいもの、プレゼントを決めるまでの、色についての考察が面白いです。

→「シャーロット・ゾロトウの絵本」はこちら

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「きみなんかだいきらいさ」

ジャニス・メイ・ユードリー 文/モーリス・センダック 絵/こだま ともこ 訳
(冨山房)
きみなんかだいきらいさ
とってもなかよしの「ジェームズ」と「ぼく」。でもきょうはちがいます。
なぜって、ジェームズはいばりたがるし、旗をもってあるくし、クレヨンはかしてくれない、いいシャベルもとってしまう。おまけに、砂までなげる。
だからもう、ジェームズなんかだいきらいさ。「ぼく」は、もうジェームズとは、ともだちになってやらない、なんて心に決めるのですが…。

『きみなんかだいきらいさ』は、男の子ふたりのケンカの様子を描いた一冊。子ども心が巧みに描かれていて、ちいさな読者も「ぼく」の気持ちに共感せずにはいられないことでしょう。
さてセンダックの画風についてですが、この偉大な絵本画家は、美しく幻想的にも、元気にユーモラスにも、お話によって描き分ける才に長けています。
けれどもこの『きみなんかだいきらいさ』のようなユーモラスな作品でも、センダックの描線には、子どものさびしさや孤独がにじんでいるようなのです。
『ケニーのまど』に収録された神宮輝夫さんの文章によれば、お父さんが語ってくれるユダヤの古いお話を聞き、幻想や神秘の世界への興味を育んだというセンダック。彼の作品の真髄は、子どもの感じる不安や、そこから生まれる幻想にあるのではないかな、と感じたことでした。

ちいさな絵本で、表紙と同じく中の絵も、モノクロの描線に赤と緑のさし色が入っているだけの、シンプルなデザインですが、これが何ともかわいくって、部屋に飾っておきたくなります。

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「ケニーのまど」

モーリス・センダック 作/神宮輝夫 訳(冨山房)
ケニーのまど
ケニーは夢を見ました。木がいっぽん立っている庭の夢。まっしろい花の咲き乱れる木のひだりには太陽が、右には月が出ていました。そこには汽車があり、四本足のおんどりがいて、おんどりはケニーに、七つのなぞなぞを書いた紙を一枚わたします。
目が覚めて、あんな庭に住めたらなあと考えたケニー。するとポケットの中に、なぞなぞの紙が入っていることに気づきました…。

『ケニーのまど』は、センダックの処女作。数あるセンダック作品の中でもとりわけ幻想的で詩情に満ちた、とても美しい一冊です。
おはなしの不思議なはじまり方と言い、一読して難解な印象もありますが、ケニーの孤独、子どものみる夢(夜も、昼も)の深さ、家族への愛情が込められた、奥深い作品で、わたしは大好きになりました。
詩的で不思議なケニーの夢の風景を味わううち、なんとなく、ジョージ・マクドナルドの『北風のうしろの国』などの作品に通じるものを感じたのですが、訳者である神宮輝夫氏のあとがきによると、センダックはマクドナルドの『The Golden Key(黄金の鍵)』に絵を寄せているとのことで、なるほどと深く納得しました。
Amazonで検索してみれば、センダックは同じくマクドナルドの『The Light Princess(かるいお姫さま)』にも挿絵を描いているではありませんか。

『The Golden Key(黄金の鍵)』の挿絵では、「神秘な精神の世界がみごとにとらえられて」いると、神宮輝夫氏は書いています。マクドナルドのファンタジーは、大人が読むと不可解で難解な気がするかもしれませんが、子どもの想像力にうったえかける魅力にあふれています。
この『ケニーのまど』にも、そういった魅力、読むたび新しい(それとも懐かしい?)世界がひろがっていくような、深い魅力を感じました。

→ジョージ・マクドナルドの本の紹介はこちら

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「シャーロットとしろいうま」

ルース・クラウス 文/モーリス・センダック 絵/こだま ともこ 訳(冨山房)
シャーロットとしろいうま
シャーロットのしろいうま、名前は「あまのがわ」。「あまのがわ」が生まれたときから、シャーロットはずっと見守ってきました。
なかなか立ち上がれなかった「あまのがわ」が立てるようになったとき、お父さんは、いい「けいばうま」にはなれそうもないから、「あまのがわ」を売ってしまおうと言いました。そうすればシャーロットの弟が上の学校へいくお金ができるからと。
シャーロットは、わたしがちゃんと世話をするから売らないでとお父さんに懇願し、願いは聞き届けられました。そうしてシャーロットと「あまのがわ」は、いっそう仲良しになりました…。

『シャーロットとしろいうま』は、手のひらサイズの、ちいさな、それはそれは美しい一冊です。
表紙のデザインといい、見返しの花模様といい、本文に入るまでの標題紙など、読者の期待を高める長いアプローチといい…。
シャーロットと彼女のしろいうま、その名も「あまのがわ」(かわいい!)との友情の物語なのですが、絵がとても繊細で幻想的で美しいんです。
ルース・クラウスのお話自体は、とくにファンタジックな要素が入っているわけではないので、もっと明るいポップな絵をつけたら、こんな幻想的な絵本にはならないはず。
「あまのがわ」の神秘的な表情や、全体的に淡いさびしい色合い。馬小屋でシャーロットとしろいうまが寄り添う様子の描写など、キリストが馬小屋で生まれたことさえ思い出させます。
センダックの絵柄の幅の広さ! ほんとうに驚かされます。
手のひらのなかの、ちいさな宝物のような絵本です。

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「ちいさなちいさなえほんばこ 全4冊セット」

モーリス・センダック 作/神宮輝夫 訳(冨山房)
ちいさなちいさなえほんばこ 4冊セット
この『ちいさなちいさなえほんばこ』には、センダックの豆本が4冊すべておさめられています。
タイトルどおり、ちいさなちいさなえほんばこに、手のひらにすっぽりおさまるほどの、ちいさなちいさなえほんが4冊入っているのです。
全4巻の構成は、下記のとおり。

「アメリカわにです、こんにちは」(アルファベット絵本)
「ピエールとライオン」(教訓的な絵本)
「ジョニーのかぞえうた」(1〜10までのかぞえうたの絵本)
「チキンスープ・ライスいり」(12の月の絵本)

センダックの『ちいさなちいさなえほんばこ』は各冊、分売用の大きな判もあるのですが、この全4冊セットは、小型絵本と呼ばれるものよりちいさい、ほんとうの豆本で、豆本好きにはたまらない!(と思う)
どれも面白いけれど、とりわけお気に入りなのは、「チキンスープ・ライスいり」!
必ず「チキンスープ・ライスいり」という言葉で締めくくられる、リズム感あふれるテキストと、 センダックらしい幻想に彩られたイラストが、とても素敵。
何ともおいしそうな「チキンスープ・ライスいり」を、ぜひとも食べてみたいものです。
また4冊ともに、神宮輝夫氏の訳がほんとうに素晴らしいなと思いました。とくに「ジョニーのかぞえうた」なんか、こんなにうまく日本語にできるものなんだなあ、と感心。さすがですよね〜。

→同じくちいさな絵本セット、T.テューダー『キャラコブックス』の紹介はこちら

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「とおいところへいきたいな」

モーリス・センダック 作/神宮輝夫 訳(冨山房)
とおいところへいきたいな
あかちゃんのお湯をつかわせるのに夢中で、自分の相手をしてくれないお母さんに腹を立てたマーチン。「とおいところ」へ行ってしまおうと、トランクに荷物をつめ、カウボーイの服をきて、ひげをつけて出かけます。
道中、としよりのうま、すずめ、ねこと出会い、いっしょに「とおいところ」へ向かいますが…。さて、とおいところって、一体どこなんでしょう?

『とおいところへいきたいな』は、センダックの初期作品。
これはタイトルがわたしの気分にぴったりだったので(?)購入しました。
あかちゃんの世話にかまけて相手をしてくれないお母さんに腹をたてたマーチン少年の気持ち。子どもならすぐ共感できる、ちいさな家出のきっかけですよね。
でも大人だって、いろんな理由で、「とおいところ」へ行ってしまいたくなるものです。
たとえば「とおいところ」へ行きたくて、ちいさな冒険をして、やっぱりもとの場所に帰ってくるという筋書きに、デュボアザン『ゆくえふめいのミルクやさん』を思い出したりもしました。
誰しも結局は、もとの場所に帰ってくるものなのでしょうか?

オレンジと黒しか使われていないセンダックのシンプルな絵は、やっぱり素敵です。家出のために変装して、鏡を見つめるマーチンの、怒っているけどさびしそうな眼差しが印象的。

→デュボアザン『ゆくえふめいのミルクやさん』の紹介はこちら

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モーリス・センダックの絵本に興味をもったなら…

不思議でシュールな夢の中の風景ビネッテ・シュレーダーの絵本はこちら
ジョージ・マクドナルドの本の紹介はこちら


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