■本の蒐集記録(2010年7-8月)




2010/08/27(Fri)
●Peter Trippi 著『J.W. Waterhouse』(Phaidon Press)
●ダーロフ・イプカー 文と絵/光吉夏弥 訳『よるのねこ』(大日本図書)

J.W. Waterhouse 『J.W. Waterhouse』は、英国ヴィクトリア朝時代の画家ジョン・ウィリアム・ウォーターハウスの画集。
洋書で、英語の説明部分はまったく読めないのですが、それでも満足感のある一冊です。
ローレンス・アルマ=タデマとフレデリック・レイトンに影響を受けた古典的な主題の初期作品から、代表的な「The Lady of Shalott」「Ophelia」「A Mermaid」「Hylas and the Nymphs」など、多数の作品がカラーで収録され、代表作は大判の1ページもしくは見開きでレイアウトされています(表紙は「オフィーリア」を描いた作品のひとつの細部)。
ウォーターハウスの絵は、ニンフや人魚など妖精が描かれた幻想的なものも多く、わたし好み。ニンフたちの雪花石膏のような肌には、ひきこまれずにはおられません。オフィーリアやシャロット姫を主題にした絵はもの悲しく、なんとも美しいです。
「A Mermaid」は、伝説や戯曲を描いたものではなく、人魚を単独で主題にしたもので、珍しい絵画作品だと思います。
ある医学系の雑誌(たぶんアメリカの)が、このウォーターハウスの「A Mermaid」を表紙の装画に使っていたことがあって、すごいな〜洒落てるな〜と思ったものです。

→「幻想美術館」ジョン・ウィリアム・ウォーターハウスのページで「Ophelia」「Hylas and the Nymphs」の画像を確認できます

『よるのねこ』は、アメリカの画家ダーロフ・イプカーの愛らしい絵本。
よる、外に出た飼い猫は、まっくらな中で、いったい何をしているのでしょう?
まず青と黒で描かれた夜の風景の見開きの次に、猫の目で見たあざやかな夜の風景の見開きがあらわれます。この暗闇とカラフルな色彩の繰り返しがなんとも楽しい。
見返しもにぎやかでかわいい、素敵な一冊です。

→Amazon「J.W. Waterhouse」(洋書ペーパーバック版)、「J.W.ウォーターハウス」(邦訳版)
→Amazon「よるのねこ

▲トップ



2010/08/19(Thu)
●P・G・ウッドハウス 著/岩永正勝、小山太一 編訳
『ユークリッジの商売道 P・G・ウッドハウス選集W』(文藝春秋)
●P・G・ウッドハウス 著/岩永正勝、坂梨健史郎 訳
『P・G・ウッドハウスの笑うゴルファー』(集英社インターナショナル)

ユークリッジの商売道 (P・G・ウッドハウス選集4) P・G・ウッドハウスの笑うゴルファー ウッドハウスを一度読んだら、ウッドハウスなしには生きられない体になるような気がするのは、わたしだけでしょうか?
毒のある比喩と詩や聖書の引用が満載の、にやりとさせられずにはいられない文体。プロットの計算されつくした巧みさはミステリ並みかそれ以上。マンネリとお約束とドタバタとハッピーエンドの安心感でいっぱいの、心あたたまる笑いに満ちている、愛すべきウッドハウス作品!
もうこんなことは、この「本の蒐集記録」コーナーで、何度も何度も繰り返してきてますが…。

『ユークリッジの商売道』は、文藝春秋のP・G・ウッドハウス選集第4巻で、詐欺スレスレ(というか詐欺)の儲け話を思いついては、そのたび華麗に失敗する「ユークリッジもの」の短篇集。国書刊行会の『エッグ氏,ビーン氏,クランペット氏』に収録の数篇のユークリッジものと重複する作品もあります。訳の違いが興味深い!
『P・G・ウッドハウスの笑うゴルファー』は、タイトルのとおりウッドハウスの「ゴルフもの」の短篇集。これだけ集英社インターナショナル刊行。でも訳者のひとりはP・G・ウッドハウス選集の岩永正勝氏。ゴルフがちっとも分からない人間(わたし)でも笑えてしまうのだから、ウッドハウスはやっぱり素晴らしいです。

それはそうと、今回購入の2冊で、現在新刊本として流通してるウッドハウスの邦訳版は全部集めてしまった!!
どうしようウッドハウスなしには日々の疲れが癒せないってのに…。
国書刊行会さん、森村たまきさん、ウッドハウス・コレクションの次回配本(この秋、刊行予定ですよね!?)、心から待ってます。何卒よろしくお願いいたしますm(__)m

→「イギリスはおもしろい」はこちら

→Amazon「ユークリッジの商売道 (P・G・ウッドハウス選集4)
P・G・ウッドハウスの笑うゴルファー

▲トップ



2010/08/10(Tue)
●ミロスラフ・サセック著/松浦弥太郎 訳『ジス・イズ・エジンバラ』『ジス・イズ・ヒストリックブリテン』(ブルース・インターアクションズ)

ジス・イズ・エジンバラ ジス・イズ・ヒストリックブリテン 旅する絵本作家ミロスラフ・サセックが描く、子どものための楽しい旅行絵本<ジス・イズ・シリーズ>。
デザイン性の高さで大人までも魅了するこのシリーズは、世界の代表的な都市がポップでおしゃれに描かれ、全18冊にもなります。
わたしはアイルランド、パリ、ヴェニス、ロンドン編をすでに持っていますが、イギリス好き(?)を自称してもいるので、今回エジンバラと、ヒストリックブリテンの2冊を追加購入しました。

もともとケルトの文化に惹かれるわたし、『ジス・イズ・エジンバラ』は、とても楽しめました(エジンバラに行ったこともないのだけれど)。
「ウェールズのケルトは余裕がある、 アイルランドのケルトも楽天的だ。 しかしスコットランドのケルトだけが昏く悲しい。」(*)と、スコティッシュ・ケルトの作家フィオナ・マクラウドは言っていますが、サセックの描いたエジンバラは、美しい景色が広がるすてきな町です。
サセックはこう書いています。エジンバラは、「丘の多いロマンティックな都市」で、「もの悲しいという言葉とはかけはなれた町」。そして「空を背景にそびえたつ美しい建物たち。そんな景色がみられる都市は世界でもまれですが、エジンバラではとてもすてきな景色を見ることができます」と。
チェコスロヴァキア生まれのサセックは、複雑で暗い歴史をもつスコットランドの首都エジンバラを、絵本作家らしい目線から、カラフルでゆかいな表情をもつ町として描き出しています。

『ジス・イズ・ヒストリックブリテン』は、<ジス・イズ・シリーズ>の中では少し異色の一冊で、イギリスの有名な建築物を綿密に描き、歴史的なエピソードを淡々と誠実に説明してあります。
イングランド、ウェールズ、スコットランド…イギリスの複雑な歴史と、美しいゴシック建築の数々。イギリス好きなら必見の絵本です。

*フィオナ・マクラウド 著/荒俣 宏 訳『ケルト民話集』(ちくま文庫)

→「ミロスラフ・サセックの絵本」はこちら

→Amazon「ジス・イズ・エジンバラ」「ジス・イズ・ヒストリックブリテン

▲トップ



2010/08/03(Tue)
●島田 紀夫 監修『アルフォンス・ミュシャ作品集 アール・ヌーヴォーの華』(ドイ文化事業室)
●ドロシー・L・セイヤーズ 著/浅羽莢子 訳
『死体をどうぞ』(創元推理文庫)

アルフォンス・ミュシャ作品集 花や植物などの有機的モチーフと曲線を組み合わせた装飾的なアール・ヌーヴォーのデザインは、ウォルター・クレインやエルサ・べスコフといった絵本画家にも影響を与えています。
アルフォンス・ミュシャは、国際的な芸術運動であったアール・ヌーヴォーを代表するグラフィックデザイナー。
女性と草花を組み合わせ、華麗な曲線で描いたミュシャのポスターや装飾パネル、カレンダー等の作品は、現代でも、誰もがどこかで目にしたことがあると思います。
『アルフォンス・ミュシャ作品集』は、「没後50周年記念アルフォンス・ミュシャ展図録」を編集刊行した92年版の新装版で、2004年刊行。
華やかなパリ時代のポスターだけでなく、生涯を通してのミュシャの作品が収録されています。
挿画やオブジェ、故国チェコのためにスラブ民族の歴史を描いた絵画連作「スラヴ叙事詩」など、ミュシャの作品はポスターや装飾パネルにとどまらず多岐にわたっています。
この作品集の中でとくに印象的だったのは、聖書をテーマに描かれた水彩画<真福八端>「幸福なるかな、心の清き者…」という作品(→「サルヴァスタイル美術館」で画像を確認できます、とても美しいのでぜひご覧ください!)。
アメリカの『エヴリボディーズ・マガジン』からの依頼で、1906年12月号の付録として手がけられたという<真福八端>は、タイトル頁及び6点のカラー頁で構成されていて、「幸福なるかな、心の清き者…」は、とりわけ可憐で美しい一葉です。
ミュシャってこういう絵も描いていたんですね〜。と、無知をさらけだす管理人なのでした(^^;

→「サルヴァスタイル美術館」でミュシャ作品の画像を多数確認できます。「真福八端−幸福なるかな、心の清き者」ほか、「ジスモンダ」「黄道十二宮 」などリトグラフ、「百合の中の聖母」などテンペラ・油彩画、「スラヴ叙事詩」などなど多数!

死体をどうぞ (創元推理文庫) ドロシー・L・セイヤーズのピーター卿シリーズ、長編7作目。
ですが、集中力が切れてしまって、しばらく読めそうにありません(…やっぱり)。
『五匹の赤い鰊』は、物語性を排除したフーダニット(犯人当て)作品で、苦手な作風だったけど、まあ読了しました。
犯人当ても、当たってたし。
でも『死体をどうぞ』からは、けっこう真面目な心理描写が入ってきて、ちょっとめんどくさいなぁ〜、と…(すみません、こんな言い方で)。
ピーター卿が恋する探偵小説化ハリエット・ヴェインの人物造詣がしっかりしすぎていて(?)、女性の人生を真面目に、これが70年も前の小説だとは思えないくらいリアルに考えてくれるもんだから…。
ハリエット・ヴェインは、地位も金もあるピーター卿にホレられてプロポーズされてるのに、ほいほい結婚しないんだよね〜。職業もプライドもあるからさ〜。
…ぱっと結婚しちゃえばいいのに…ああもったいない…(確かにピーター卿って労働者階級からすれば鼻につくようなボンボン育ちですけど)。
まあ、これはこれで、そのうち読むと思います。

→「おすすめミステリ」はこちら

→Amazon「アルフォンス・ミュシャ作品集
→Amazon「死体をどうぞ (創元推理文庫)

▲トップ



2010/07/27(Tue)
●Alison Gernsheim 著『Victorian and Edwardian Fashion:
A Photographic Survey』(Dover Publications)

Victorian and Edwardian Fashion: A Photographic Survey イギリスの古い小説ばかり読んでいると、当時の大英帝国の風俗が気になってきます。どんな服を着ていたのか、家具調度はどんなふうだったのか。

『Victorian and Edwardian Fashion: A Photographic Survey』は、ヴィクトリア朝からエドワード朝の人びとの服装写真が、235点掲載されています。 ペーパーバックの廉価版なので、紙の質や印刷の質が良いとは言えません。また、わたしの場合英語が読めないので、たくさんある英文のページはとばすことになってしまいます。
写真は、ヴィクトリア時代のものなのだから、当然モノクロ。写真のレイアウトは、B5判型のページに2枚ずつというのが大半です。

それはそれとして、写真そのものはとても魅力的。優雅なドレスを着た女性の写真の、フリルやレースの凝りに凝ったデザインを眺めるだけで飽きません。
ヴィトリア女王や、オスカー・ワイルド、アルフレッド・テニスン、ウィリアム・モリスの妻ジェイン・モリスなど、有名人の写真などはそれだけで興味深いですし(ジェイン・モリスはほんとにラファエル前派的な美人!)。
また、絵でもなく、映画でもなく、実際の写真ということで、時代の雰囲気がまざまざと感じられるのが面白い。
当時のパリの店先に吊り下げられたクリノリン。スケートするときもテニスするときも海へ行くときも、女性は長い裾のドレス。 ヴィクトリア朝の写真ではモデルはほとんど笑ってないんだけど、年代が下ってくると女性の顔に微笑みがみられるようになってくるのも、時代背景かな〜と思ったり。
ハイドパークホテルでのダンスの様子なんか、ほんとにこんなだったんだ〜と笑ってしまう(なぜ?)ほど優雅。
あ、それからセイヤーズのピーター卿も愛用の、片眼鏡をかけた男性の写真もありましたが、これはほんと日本人にはあり得ないアイテム。
労働者ふうの人たちが川辺でピクニックしてる様子も、野郎どもなのに立派なピクニックバスケット持ってきてるところがさすがはヨーロッパだなと感じたり。 弁当文化(というか弁当箱文化?)がないからこその風景なのだろうけど、やっぱりピクニックバスケットにおいしいものと食器をつめていくというのには憧れます。

…などなど、まだまだ注目ポイントがたくさんあり、とにかくヴィクトリア〜エドワード朝に興味ある人なら、楽しめるに違いない一冊です。

→「イギリスはおもしろい」はこちら

→Amazon「Victorian and Edwardian Fashion: A Photographic Survey

▲トップ



2010/07/20(Tue)
●サマセット・モーム 文/武井武雄 絵/光吉夏弥 訳
『九月姫とウグイス』(岩波書店)
●ドロシー・L・セイヤーズ 著/浅羽莢子 訳
『五匹の赤い鰊』(創元推理文庫)

九月姫とウグイス (岩波の子どもの本) イギリスの小説家、劇作家のサマセット・モームがのこした唯一の童話に、童画家、造本作家の武井武雄が絵を寄せた美しい絵本。岩波の子どもの本シリーズの一冊。
武井武雄という人のことをまったく知らなかったのですが、「刊本」と呼ばれる芸術的で贅沢な造本の作品(いまでは幻の…と呼ばれるようなもの、古書店で信じられない値段がついている!)を作っていたのだそう。
この絵本は、モームと武井武雄という贅沢な取り合わせの、大人も注目の一冊ということのようです。
廉価版ながら、モームによるシャム(タイ)の国のお姫さまとウグイスの物語は面白く、見返しから武井武雄の絵が美しい。
カラーとモノクロの見開きページが交互になった体裁。カラー絵は鮮やかで、レトロ感があって、シャムの国のアジア的な雰囲気が美しく、モノクロ絵はユーモラスで、幾何学的なレイアウトが面白い。
1954年第一刷という古い絵本の、モダンなセンスに圧倒されます。

五匹の赤い鰊 (創元推理文庫) ドロシー・L・セイヤーズのピーター卿シリーズ、長編6作目。
『五匹の赤い鰊』は、英国黄金時代のミステリ作家の面目躍如といった感のある、純粋な謎解き、物語性をほとんど排除したフーダニット(犯人当て)作品になっています。
そんなわけで、基本的に物語重視派のわたしには、ちょっと読みづらい…。
ピーター卿シリーズの前期作品はハウダニット(どうやって殺したか)が多く、物語性に富み、ユーモアが散りばめられ、とても読みやすかったのですが、どうやら後期作品からは重厚な本格ミステリに作風が変化していくらしい…。
そもそも完全にフェアなフーダニットって苦手なのですが(フーダニットって容疑者がいっぱいで登場人物が多くなっておまけに海外作品の場合、名前を憶えるのからして一苦労だから)…わたしは謎解きファンではなくて、ホームズものも修道士カドフェルも、ファンタジーとして読んでるような人間なので…。
この先読み続けられるのかは、『五匹の赤い鰊』を楽しめるかどうかにかかっている、かも。

→「おすすめミステリ」はこちら

→Amazon「九月姫とウグイス (岩波の子どもの本)
→Amazon「五匹の赤い鰊 (創元推理文庫)

▲トップ



2010/07/12(Mon)
●ドロシー・L・セイヤーズ 著/浅羽莢子 訳『雲なす証言』『不自然な死』『ベローナ・クラブの不愉快な事件』『毒を食らわば』(創元推理文庫)

雲なす証言 (創元推理文庫) 不自然な死 (創元推理文庫) ドロシー・L・セイヤーズのピーター卿シリーズ、4冊。
推理小説は、一度読み始めると止められなくなるので、集中的に読むために大人買い。
(いまでは使い古されたとはいえ)本格派らしいトリック、ユーモア、当時の英国の雰囲気。またキャラが立ってるレギュラー陣も楽しいけれど、脇役のリアルな描写も心に残ります。
セイヤーズって面白いんだな〜(いまさらですが)。

ベローナ・クラブの不愉快な事件 (創元推理文庫) 毒を食らわば (創元推理文庫) 作中、ウッドハウス作品への言及もあり、ウッドハウスとセイヤーズは交流があったというから当たり前なのかもしれないけれど、ウッドハウス読者としては「おお!」という感じ。
文学作品からの引用が多数あるのも、ウッドハウスの作風と重なるところがありますよね。

セイヤーズの特徴として思ったのは、推理とは関係ないけど、女性の登場人物が、メインキャラから端役まで魅力的なこと。女性陣の魅力の前には、メインの男性陣はいまいちぱっとしないくらい…。
『不自然な死』『毒を食らわば』における、キャサリン・クリンプスン嬢(ピーター卿の聞き込み代理人、初老の独身女性)の活躍の痛快さといったらありません。
クリンプスン嬢の素晴らしさは、アガサ・クリスティのミス・マープルと違って、性格がいいことかな〜なんて思う(笑)。

→「おすすめミステリ」はこちら

→Amazon「雲なす証言 (創元推理文庫)」「不自然な死 (創元推理文庫)
ベローナ・クラブの不愉快な事件 (創元推理文庫)」「毒を食らわば (創元推理文庫)

▲トップ



2010/07/05(Mon)
●David Harris 著『Eugene Atget: Unknown Paris』(New Pr)
●ドロシー・L・セイヤーズ 著/浅羽莢子 訳
『誰の死体?』(創元推理文庫)

Eugene Atget: Unknown Paris ウジェーヌ・アジェの写真集、3冊目を購入。
この本はハードカバーの大判で、テキストもけっこう多い。英語はからきしなので、写真だけ眺める。
英語も読めないのに、けっこうな値段の洋書を買うようになってしまった…あぶないあぶない。
それはそれとして、やはりウジェーヌ・アジェの写真は、凄い。ひとめ見ただけで、胸を打たれる。
アジェが撮り始めるまでの、パリに流れた時間。アジェが写真を撮り歩いたあいだに流れた時間。そこから今までに流れた時間。
アジェの写真を観るたびに、その長いながい時間を感じずにはいられません。
淡々と、静かに、日々の糧を得るために撮り続けられた写真を前に、自然と、呼吸もひそやかになってしまうほど。
アジェの写真は、もともとぼやけている部分も多くあるけれど、この本におさめられた写真は、白くかすれて細部が見えないということはありませんでした。
教会の内部を写した写真が何枚かあり、これらのためだけにでも、買った価値があったと思いました(なぜか教会好きなので…)。

誰の死体? (創元推理文庫) さて、『誰の死体?』は、ドロシー・L・セイヤーズのピーター卿シリーズ、長編第1作。英国ミステリ黄金時代の作品です(英国って、挿絵黄金時代とか、いろいろ黄金時代があるんですね〜)。
ウッドハウスのジーヴスもの(国書刊行会刊行、森村たまき氏訳のほう)の訳者あとがきに、セイヤーズのピーター卿と従僕バンターの関係を面白がるなら、教養としてバーティとジーヴスのことも知っておいたほうがいいというようなことが書いてあり、 またウッドハウスが、ベルリンで行ったラジオ放送でナチ協力者の汚名を着せられ、イギリスの人々から轟々たる非難を浴びたときも、セイヤーズはウッドハウス擁護の弁を述べたとあったことから、セイヤーズのミステリを読んでみようという気になったのです。
読んでみると、なるほどピーター卿と従僕バンターは、バーティ&ジーヴスと同じく、間抜けな主人と賢い従僕という関係。
セイヤーズのユーモアあふれる語り口からも、ウッドハウスに敬意を寄せていたことがうかがわれます。
これはジーヴスものが好きな人にはおすすめのシリーズ!(みんな知ってることなんでしょうが…^^;)
もちろんピーター卿は、バーティみたいに「精神的にはとるに足らない」なんてことはなく、次々と事件を解決する名探偵だし、バンターだって、ジーヴスほど毒はなく、従僕の鑑という感じですが(ジーヴスはトラブル解決のためにご主人様をたいてい酷い目にあわせるからな〜…笑)。
でもピーター卿は言っています。「何だか時々、マーヴィン・バンターに遊ばれている気がする」…やっぱりねぇ。
かなりわたし好みの作風なので、これから続編を集中的に読んでいこうと思います!

→「おすすめミステリ」はこちら

→Amazon「Eugene Atget: Unknown Paris
→Amazon「誰の死体? (創元推理文庫)

▲トップ



本の蒐集記録 Index へ戻る


■HOME