■本の蒐集記録(2007年9-10月)


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2007/10/28(Sun)
●J.ワグナー 文/R.ブルックス 絵/大岡 信 訳
『まっくろけのまよなかネコよおはいり』(岩波書店)
●グリム兄弟 原作/M・ジーン・クレイグ 再話/バーバラ・クーニー 絵/もき かずこ 訳『ロバのおうじ』(ほるぷ出版)

『まっくろけのまよなかネコよおはいり』は、ネットで表紙の絵を見て、はっと惹かれるものがあり、タイトルも魅力的だったので、どうしても気になって購入。
原題は”JOHN BROWN, ROSE AND THE MIDNIGHT CAT”。この素敵な邦題は、やはり詩人である訳者の感性によるところが大きいのでしょう。
手にとってみると、表紙はもちろん、見返しの絵も素敵で、これは良い絵本だ〜、と感じました。
色彩は極力抑えられていて、独特の描線で緻密に描きこまれた、部屋の中の様子や、犬やネコの毛並みなど…じっくり見入ってしまいます。
おはなしは、齢を重ねるほどに、しみじみと味わいを増してくるような、奥の深いテーマが込められていて、とても長く楽しめる絵本だと思います。

『ロバのおうじ』は、大好きなバーバラ・クーニーの絵本。グリム童話の再話に、クーニーの、あたたかい色彩の絵が添えられています。
何が素敵と言って、主人公である「ロバのおうじ」の可愛らしさ!
魔法使いの呪いで、ロバの姿で生まれてきてしまった王子様。ほんとうに愛くるしいロバなんだけれど、でもどうしようもない孤独の影も漂っていて。
最後はもちろんメルヒェンだから、美しい人間の王子様の姿に戻れるのだけれど、このロバの姿のほうが、なんとも魅力的なのでした。

→「バーバラ・クーニーの絵本」はこちら

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2007/10/21(Sun)
●アンデルセン 作/ドロテー・ドゥンツェ 絵/ウィルヘルム・きくえ 訳
『えんどう豆の上にねむったお姫さま』(太平社)

『えんどう豆の上にねむったお姫さま』は、アンデルセンのごく短い童話。
ほんもののお姫さまを探して、なかなか見つけられない王子さまのもとに現われたひとりのお姫さま。 何枚も何枚も重ねたふとんの下に、ただ一粒しのばせたえんどう豆が痛くて眠れなかったという彼女こそ、ほんもののお姫さまだと認められたという、なかなか印象的なお話です。
一冊にするには短すぎるほどですが、ドロテー・ドゥンツェの絵が個性的で、ピンク色の表紙もかわいらしく、たいへん美しい絵本に仕上がっています。
雨の中、召使たちが、お姫さまのふとんにしのばせるための「えんどう豆」を菜園にとりにいく場面が見開きで描かれているところなど、文章にあらわされていない細部が丹念に描きこまれていて、物語の奥行きを感じさせる挿絵になっていると思いました。

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2007/10/14(Sun)
●バージニア・リー・バートン 文・絵/石井桃子 訳
『せいめいのれきし』(岩波書店)
●アリスン・アトリー 作/石井桃子 中川李枝子 訳
『西風のくれた鍵』(岩波少年文庫)

『せいめいのれきし』は、『ちいさいおうち』のバートンが、8年をかけて完成させたという作品。
地球の誕生から現在まで、気の遠くなるような時間の流れを、5幕8場の劇に見立てて描いた、じつに壮大な絵本です。
くらい宇宙に太陽が生まれ、地球が生まれ、地球の上に生命が生まれ、恐竜が大地を闊歩し、やがて人間が誕生して……。
子どもの頃、宇宙や星のこと、恐竜の図鑑なんかが大好きだったのですが、この絵本には図鑑をめくるのに似た楽しみがあります。
子どもたちはこの生命の歴史絵巻に、きっとわくわくするはず。
でも、大人にとっても、この絵本は読みごたえ充分です。
バートンの誠実な言葉が、読後、しずかに胸に残ります。
いますぎていく一秒一秒が、はてしない時のくさりの、新しいわです。
いきものの演ずる劇は、たえることなくつづき――いつも新しく、
いつもうつりかわって、わたしたちをおどろかせます。

『せいめいのれきし』76ページより

『西風のくれた鍵』は、『くつなおしの店』でアトリーのフェアリーテイルに興味を持ったので購入。
読後感のさわやかな、さらりと読める、愛らしい短篇集です。

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2007/10/07(Sun)
●エドアルド・ぺチシカ 文/ヘレナ・ズマトリーコバー 絵/うちだりさこ 訳『りんごのき』(福音館書店)
●アリスン・アトリー 作/松野正子 訳/こみね ゆら 絵
『くつなおしの店』(福音館書店)

絵本らしい絵本を読みたくなって、思いついたのが、この『りんごのき』。
こぶりで、うすいピンク色の表紙、手にもっただけで、心にふわりと安心感が広がります。
ちいさな男の子マルチンと、庭のりんごのきとの関わりを、うつくしい四季の変化を背景に描いたこの絵本。 ズマトリーコバーの絵は、シンプルでくっきりした描線が特徴的。見開きの左にテキスト、右にフルカラーの絵が配置されたレイアウトも、シンプルで読みやすいです。
テキストページの文字の頭に、ワンポイントのちいさな絵が配されているのも素敵。スノードロップとか、みつばちとか、おひさまとか。
チェコスロバキア出身の作者と画家による、まさに絵本らしい絵本です。(「絵本ナビ」で、本の中身を確認できます。→Click!

『くつなおしの店』は、アリスン・アトリーの妖精譚に、こみね ゆらが絵を添えた一冊。
最初、挿絵だけをぱらぱら見て、やっぱりこみね ゆらの絵は素敵だなあ、好きだなあと思い、つぎに物語をじっくり読むと、アリスン・アトリーのお話がまた素晴らしく、ほんとうに良質の絵本だと感じました。
『くつなおしの店』というタイトルからは、「くつやのこびと」のような童話を思い浮かべてしまうのですが、このアトリーの作品はちょっと違っています。
アトリーの創作ではあるけれども、フェアリーテイルの醍醐味を感じさせるしあわせなお話で、また妖精譚をいろいろ読みたくなってしまいました。
妖精がいるとしたらじゃと? こら、ちびこい人たちに失礼ないい方をするんじゃない。世の中には、おまえやわしが夢にも思わんような、ふしぎなことがあるもんじゃ。

『くつなおしの店』28ページより

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2007/09/29(Sut)
●宮沢賢治 作/ささめや ゆき 絵『ガドルフの百合』(偕成社)
●大竹伸朗 絵と文『ジャリおじさん』(福音館書店)

『ガドルフの百合』は、宮沢賢治の作品に、ささめや ゆき氏が絵を添えた一冊。
「ガドルフの百合」は今まで読んだことがなかったのですが、今回一読してみて、とても難解な作品という印象を受けました。
詩的な表現が全編に散りばめられ、感受性をとぎすまして読まないと、宮沢賢治の展開する鮮烈なイメージに追いつけない、という感じ。
これは何度もくりかえして味わうべき作品なのだと思います。
こんな一篇を絵本にするとは、ささめや氏はやはり画家であり、挑戦者だなと感じ入りました。
宮沢賢治の独特なテキストに負けない、鮮やかで力強い絵に、ページを繰るたびはっとさせられます。
第44回小学館絵画賞受賞作品です。

『ジャリおじさん』は、現代美術界の旗手、画家の大竹伸朗氏の絵本。
現代美術界の旗手が描いたと知らなければ、なんじゃこりゃという感じの、まさに子どもがなぐり描きしたような絵!
…こんなこと言って、失礼だったらごめんなさい。
お話もナンセンスの極みで、鼻のあたまにひげのあるジャリおじさん(なんじゃそりゃ)が、 きいろい道を、ピンク色のワニを道連れに、延々歩きつづけるという。
ジャリおじさんの喋る言葉は、「ジャリジャリ(こんにちは)」「くねくねの あおい えんとつが みえるじゃり」という具合。
気鋭の画家が描いたからって、簡単にアーティスティックだとか洗練されているとか言いたくない。
いや、洗練されていない猥雑な感じこそがむしろ魅力の、とにかく凄い絵本です。
第43回小学館絵画賞、95年ブラティスラヴァ世界絵本原画展金牌受賞作品。

→「ささめや ゆきの絵本」はこちら

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2007/09/24(Mon)
●アリス&マーティン・プロベンセン 作/岸田衿子 訳
『かえでがおか農場のいちねん』(ほるぷ出版)
●吉田篤弘 著『フィンガーボウルの話のつづき』(新潮文庫)
●『京都読書空間』(光村推古書院)

ずっと欲しいなあと思っていた『かえでがおか農場のいちねん』、やっと購入しました。
かえでがおか農場での、人間と動物たちのいちねんの暮らしを、淡々と、しかし丁寧に紹介しているこの絵本。
読んでいて思い出したのは、グランマ・モーゼスの描いたいくつもの素朴な絵です。
わたしが持っているグランマ・モーゼスの本は、『モーゼスおばあさんの四季』という一冊だけですが、 この本に収録されている、古きよきアメリカの農家の暮らしを描いた絵と、『かえでがおか農場のいちねん』で描かれている農場の四季の風景とは、とてもよく似ています。
グランマ・モーゼスの描いた風景はずいぶん昔のものですが、『かえでがおか農場のいちねん』を著したプロベンセン夫妻は、いまも実際にこの絵本に描かれているような農場暮らしをされているとのこと。 ああこれがアメリカの、ほんとうの美しい姿だなあと、しみじみ思いました。

『フィンガーボウルの話のつづき』は、言わずと知れたクラフト・エヴィング商會の物語作家、吉田篤弘氏の小説作品。
文庫化にあたり、書き下ろしの一篇が加えられたとのこと、それが読みたいばかりについつい、単行本も持っているのに買ってしまいました。
単行本とはカバー装画も違っています。どちらも吉田篤弘氏の、シンプルで素敵なイラストです。

『京都読書空間』は、自分で購入したものではなく、友人(だよね?)からの寄贈本です。
京都のブックカフェや古本屋さん書店さんが、写真入りで紹介されている、本好きには楽しい一冊。
Mijas Pittooとかアスタルテ書房とか恵文社とか…きっと本好きには有名な(わたしは最近知ったのですが^^;)憧れのお店の数々。ぜひ訪れてみたい!と思わされます。
この本、表紙デザインも、キャッチーじゃなくて味わいがあって素敵です。

→「クラフト・エヴィング商會の本」はこちら

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2007/09/16(Sun)
●ペロー 原作/R・インノチェンティ 絵/谷本誠剛 訳
『シンデレラ』(西村書店)

『シンデレラ』は、西村書店から邦訳版が刊行されている、<ワンス・アポンナ・タイム・シリーズ>の中の一冊。
<ワンス・アポンナ・タイム・シリーズ>は、第一線で活躍するイラストレーターやアーティストたちの自由な発想で描かれた絵本のシリーズで、 サラ・ムーンの写真絵本『赤ずきん』などが有名です。
この『シンデレラ』は、金のリンゴ賞受賞画家ロベルト・インノチェンティが、ペローの有名なメルヒェンを、1920年代のロンドンを舞台にして描いたもので、 数ある『シンデレラ』絵本のなかでも、やはり異色の一冊。
1920年代のロンドンが舞台なので、シンデレラなんだけれど、衣装などはモガ(というのでしょうか?)のデザインで、これもまた面白いです。
インノチェンティの緻密な筆で描かれる、ちょっと昔のロンドンの上流家庭の風俗。 髪型、衣装、雑貨など、すみずみまで興味深く見入ってしまいます。
メルヒェンとしての魅力、ロココ調のはなやかなお姫様の世界の楽しみはありませんが、現代人には、シンデレラの物語がよりリアルに感じられてくる作品かもしれません。

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2007/09/09(Sun)
●ペーター・ニクル 文/ビネッテ・シュレーダー 絵/矢川澄子 訳
『ラ・タ・タ・タム ちいさな機関車のふしぎな物語』(岩波書店)
●ロジャー・デュボアザン 作/やましたはるお 訳
『はる・なつ・あき・ふゆ いろいろのいえ』(BL出版)

『ラ・タ・タ・タム』は、『お友だちのほしかったルピナスさん』に続き、ビネッテ・シュレーダーの絵本。
とても夢幻的で美しい一冊! 発明が得意なちびのマチアスが作った、ちいさな白い機関車。 この可愛らしい機関車が、やさしいひとたちのいる新天地を求めて町を飛び出したマチアスを追いかけて、ふしぎな冒険をするという物語。
この機関車のゆく世界の、ふしぎさ、さびしさ、うつくしさ。
計算されデザインされつくした、緻密で奥行きの深い画面は、見る者をきみょうな夢幻のなかへ誘います。
ビネッテ・シュレーダーの絵筆が繰り広げるふしぎな世界に、わたしもすっかり魅了されてしまいました。

『はる・なつ・あき・ふゆ いろいろのいえ』は、最近邦訳されたデュボアザンの絵本ですが、描かれたのは1956年。
あたらしい家に移り住んだ家族が、家をどんな色にするか、それぞれに提案します。どれも素敵な色なのですが、最後に家族が選んだ色は…。
とっても素敵な色づかいの絵本をたくさん発表しているデュボアザンの、色についての考え方が反映されていて興味深いです。
デュボアザンの絵はやっぱりおしゃれで、見返しにも工夫があります。

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2007/09/02(Sun)
●Henriette Willebeek Le Mair 絵
『I Saw Three Ships』(Golden Days)
●ペロー 原作/サラ・ムーン 写真/定松 正 訳
『赤ずきん』(西村書店)
●梨木香歩 著『家守綺譚』(新潮文庫)

ヘンリエット・ウィルビーク・ル・メール Henriette Willebeek Le Mair は、マザー・グースなどの挿絵で知られる、オランダ人女流画家(1889年〜1966年)。
『Mary, Mary, Quite Contrary』に続き、『I Saw Three Ships』も、マザー・グースに絵を添えたこぶりの絵本で、とっても素敵。
もう入手不可なのかなと思っていたけど、注文してみるものですね。Amazonさん、ありがとう。
ケイト・グリーナウェイのマザー・グースとの比較がやはり面白いです。「Lucy Locket」とか。
ル・メールの絵は、繊細でやわらかくて、上流階級の匂いが漂っていて、乙女ちっくというか、女性は憧れてしまいますよね。

『赤ずきん』は、西村書店から邦訳版が刊行されている、<ワンス・アポンナ・タイム・シリーズ>の中の一冊。
<ワンス・アポンナ・タイム・シリーズ>は、第一線で活躍するイラストレーターやアーティストたちの自由な発想で描かれた絵本のシリーズで、 このサラ・ムーンの『赤ずきん』は、なかでも異色の一冊。
『赤ずきん』の絵本は数あれど、写真絵本というのは珍しい。それもメルヒェンの世界をそのまま写真にしたのではなくて、現代の町を舞台に、 赤ずきんをねらう悪いオオカミを黒い車で表現するという、モダンなアレンジが施されています。
原作はペローの『赤ずきん』なので、グリムのそれとは違って、結末がアン・ハッピー。
おばあさんのふりをしたオオカミに、「ここへきていっしょにおやすみ」と言われるがまま、服を脱ぎ、ベッドに入る赤ずきん。
ベッドの中で正体を現した悪いオオカミに、すっかりたいらげられて、ジ・エンド。
最後の見開きの写真に写されているのは、乱れた白いシーツ…。
モノクロのスタイリッシュな写真で展開される、なんともハイセンスで淫靡な『赤ずきん』。
1984年のボローニャ児童図書展グラフィック部門大賞受賞作品です。

『家守綺譚』は、言わずと知れた梨木香歩の人気作品。
単行本が出たときに読もうかどうしようか迷って、読みそびれたまま今に至るわけですが。
文庫本なので気軽に手にとってみると、この作品は、植物をテーマにした随筆のようでもあり、とても読みやすいです。

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