■本の蒐集記録(2005年11-12月)


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2005/12/27(Tue)
●アン・グットマン 文/ゲオルグ・ハレンスレーベン 絵/石津ちひろ 訳『リサとガスパールのたいくつないちにち』(ブロンズ新社)

すっかり、<リサとガスパール>シリーズにハマってしまった。 本屋さんで、ひとつひとつ手にとって眺めては、「う〜、どれもこれも、全部ほしい!」と唸ってしまう。
『リサとガスパールのたいくつないちにち』は、仕事帰りに立ち寄った近所の本屋さんで、シリーズ中一冊だけ棚に残っていたのを、 「この本は、きっとわたしに買われるのを待っていたんだ」と思い込み、すかさずレジへ持っていったもの。

ほんとうに、ハレンスレーベン氏の絵には、癒される。
この色。
塗り重ねた絵の具の厚み。
リサとガスパールの背景に描かれた風景や室内の様子。
すべてが洗練されている。
そして、あたたかい。

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2005/12/25(Sun)
●アン・グットマン 文/ゲオルグ・ハレンスレーベン 絵/石津ちひろ 訳『リサとガスパールのクリスマス』(ブロンズ新社)
●コナン・ドイル 著/阿部知二 訳
『回想のシャーロック・ホームズ』(創元推理文庫)

自分へのクリスマスプレゼント。

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2005/12/21(Wed)
●ジークフリート・レンツ 著/松永美穂 訳『アルネの遺品』(新潮社)

これは、出だしを読んだだけでも、少し泣けます。
静かで、透明で、悲しくて。
オビのコピーは「15歳の少年は、なぜ死を選んだのか」。
冒頭、ともに過ごした屋根裏部屋で、少年アルネの遺品を眺めながら、語り手ハンスの回想がはじまります。 アルネは一家心中のたった一人の生き残りで、ハンスの家に引きとられてきたのです。

わたしにとって、この一冊は、よい本の匂いがします。
じっくり読みすすめるのが、楽しみで幸せです。
 段ボールの蓋を上げ、トランクを開いて、そこに剥き出しになっているアルネの持ち物の方に視線をさまよわせているあいだに、 ぼくは突然、彼が部屋のなかにいるような気がしてきた。そして、彼がよくそうしたみたいに、迫るような、 問いただすような目でこちらを見つめているような感覚に襲われた。<中略>
 ああ、アルネ、ぼくはあの晩、きみの遺品をあっさりと集めて静かに片づけ、物置きの暗い片隅にずっと追いやってしまうなんて、最初はとてもできなかった。 あまりにも多くのことが浮かんでは心に働きかけてきた。どんなものもなにかを証言していたし、なにかを打ち明け、それは当然のように過去を語るきっかけとなった。
 木製の、赤白に塗られた小さな灯台の模型を眺めるだけで、思い出があらがいがたく甦り、深まっていく。窓が開いている。港にまた冬がやってきた。 刺すように寒かったあの曇り空の日、アルネはぼくたちのところに連れてこられた。
ジークフリート・レンツ 著/松永美穂 訳『アルネの遺品』(新潮社)
より

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2005/12/10(Sat)
●吉田篤弘 文/坂本真典 写真
『十字路のあるところ』(朝日新聞社)

吉田浩美・吉田篤弘のおふたりによる今回の装幀は、ひとことで言って、渋いです。
カバーが透け感のある白で、表紙のうすい緑色がかすかに透けて見えるようになっています。 タイトルの文字も、オビも、あそび紙も、しおり紐も緑系統で統一。
先日発売された『78(ナナハチ)』とは、また違った趣です。

坂本真典氏の写真の部分だけぱらぱら見たのですが、まさにオビのコピーのとおり「物語あり。」といった印象。 何気ない街の風景にも、物語がひそんでいるのが感じとれ、やっぱり、読むのが楽しみです。

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2005/12/06(Tue)
●エドマンド・デュラック 絵/荒俣 宏 訳
『雪の女王 アンデルセン童話集@』(新書館)

「雪の女王」という童話を、実はきちんと読んだことがなかったのですが、デュラックの挿絵に荒俣氏の訳文、そして季節は冬という、 熟読するには贅沢な条件がそろっているので、これは買ってよかったです。
収録されているカラー絵は12点とけっして多くはないのですが、満足感はかなりありました。
とにかくデュラックの絵が美しいのです!

20世紀はじめ英国で流行した豪華ギフトブックの挿絵を多数手がけ、アーサー・ラッカムとならぶ人気を誇っていたというデュラック。
ラッカムの作品からは、あたたかい雰囲気や絵を愛する気持ちが感じられましたが、デュラックの絵には見る者を圧倒する迫力があります。

大瀧啓裕 監修・解説『アーサー・ラッカム』(発行:エディシオン・トレヴィル/発売:河出書房新社)によると、 「技巧の面ではデュラックがラッカムを凌駕しているが、挿絵の魅力という点では、人がらをしのばせる暖かな画風のラッカムが秀でている」とありますが、深く納得。
デュラックの絵には、衝撃を受けるというか、唸らされるというか、上手い!と思わされますね。絵の底力のようなものを見せつけられる感じ。

個人的にはデュラック、ラッカムどちらの絵も美しくて好きです。
癒されたいときにはラッカム、物語世界へいやおうなしに連れ去られたいときはデュラックを眺める、 というふうに両方楽しみたいと思います。

→大瀧啓裕 監修・解説『アーサー・ラッカム』の紹介はこちら

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2005/12/03(Sat)
●吉田篤弘 著『78(ナナハチ)』(小学館)

いつものように(笑)何度か発行が延期になりましたが、やっと発売されました。けっこう分厚くて物語がたくさん詰まっている感じ。
吉田篤弘氏の著書の中では、『フィンガーボウルの話のつづき』(新潮社) と、『針がとぶ−Goodbye Porkpie Hat−』(新潮社) が、わたしのお気に入り。 収載されたいくつかの物語が、ゆるやかにつながりあっているような一冊が、とても好きです。今作は、どうでしょう?
目次によると、すでにクラフト・エヴィング商會『アナ・トレントの鞄』(新潮社)などとの符号が見当たり、期待に胸が膨らみます。
吉田浩美・吉田篤弘のおふたりによる装幀は、ごく飾り気のないものですが、遊び紙が黒で、表紙をめくると漆黒の見開きが目に入ります。 あたたかい手触りの、くすんだグレーっぽい色の表紙との、コントラストが味わい深いです。

●E・T・A・ホフマン 原作/ズザンネ・コッペ 文/リスベート・ツヴェルガー 絵/池田香代子 訳『くるみ割り人形』(BL出版)

ああ、ツヴェルガーの絵の、なんと洗練されていることか!
思ってもみない意外な構図。淡い色はかろやかに淡く、深い色はこっくりと深く描かれ、さらに独特の絵具のにじみが、読者の空想をかきたてます。
ツヴェルガーが絵をつけるために選ぶおはなしが、また素晴らしいのです。彼女って、ほんとうに、物語が大好きなんだろうなと思います。
ホフマンの有名な原作を、絵本にするためズザンネ・コッペが短く書き下ろしたこの『くるみ割り人形』は、 現実と空想とが、複雑にしかし美しくからみあった、魅惑的な物語。
子どもには難しい内容かなとも思いましたが、むしろ、常に理性的であろうとする大人にこそ、理解しにくいストーリー展開かもしれませんね(^^;

●アン・グットマン&ゲオルグ・ハレンスレーベン 作/今江祥智 訳
『夜になると』(BL出版)

BL出版さんのホームページで、この本の表紙画像を目にし、ハレンスレーベンの絵にひとめぼれ。
大判の絵本の見開きいっぱいに描かれた、パリの夜景の美しさ。青と黄色のコントラスト。 ハレンスレーベンの描く夜の風景は、黄色い光が夜闇の青のなかにひときわ明るく輝いて、 ゴッホの「夜のカフェテラス」を思い出させるものがあります。
ハレンスレーベンといえば<リサとガスパール>や<ペネロペ>などのキャラクターを主人公にしたシリーズで人気があるので、 わたしは勝手に、大量生産されるアニメっぽい絵を想像していて、あまり手にとってこなかったのですが、間違いでした。 彼は、はっきりと画家で、芸術家ですよね。
<リサとガスパール>シリーズ、ぜひ集めていきたいと思いました。

→クラフト・エヴィング商會と吉田篤弘氏の本の紹介はこちら

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2005/11/26(Sat)
●ハリー・デイヴィス 著/ジェイ・ポール 写真/相原真理子 訳
『ターシャ・テューダーのクリスマス』(文藝春秋)
●ターシャ・テューダー 著/内藤里永子 訳
『もうすぐゆきのクリスマス』(メディアファクトリー)

『ターシャ・テューダーのクリスマス』は、大判の写真集。
ターシャの友人で、彼女の個人事務所「コーギー・コテージ」主宰でもある著者が、自らの体験を交えながら、テューダー家の伝統的であたたかいクリスマスの様子を綴っています。
クリスマスを愛情深く描いたターシャの挿絵もふんだんに盛り込まれ、ファンにとってもそうでない人にとっても、魅力的な本になっています。
ターシャと家族が森のなかに作るクレッシュ(キリストが誕生したときの厩の情景を人形などで再現したもの)の写真は、個人的に非常に興味深かったです。

『もうすぐゆきのクリスマス』は、ターシャ・テューダー・クラシックコレクションのうちの一冊。このシリーズのブックデザインを手がけているのも祖父江慎氏で、 原書の雰囲気を伝える、こぶりの素敵な絵本に仕上がっています。
古き良き時代のクリスマスの風情、子どもたちのわくわくした気持ちが伝わる絵本。ターシャの絵は美しく、おはなしからは彼女のぬくもりに満ちたまなざしを感じることができます。

クリスマスを心をこめて祝うことの楽しさや、神聖な気持ちといったものを教えてくれる2冊です。

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2005/11/24(Thu)
●トーベ・ヤンソン 著/冨原眞弓 訳
『誠実な詐欺師 トーベ・ヤンソン・コレクション 2』(筑摩書房)

<トーベ・ヤンソン・コレクション>の装幀は、祖父江慎氏によるもので、とても素敵な手触りの本に仕上がっています。
標題紙のイラストに、もうイメージが膨らんできて、読むのがほんとうに楽しみです。
毎晩、わたしは窓にあたる雪の音に耳をすます。風が海から運んできて窓に吹きつける雪のやわらかい呟きが聞こえる、そう、雪が村を覆いつくし、 すっかり消しさってくれればいいのだ。そうすればきれいになるだろうに……。 長い冬の暗闇ほど静かで果てしないものはない。いつまでも、いつまでも、続く。あるときは厚みをまして夜となり、あるときは夜明けの薄闇となる。 こんなふうにすべてから匿われ、守られて、人はふだんよりさらに孤独になる。そしてじっと待って、樹のように身を隠す。
トーベ・ヤンソン 著/冨原眞弓 訳
『誠実な詐欺師 トーベ・ヤンソン・コレクション 2』(筑摩書房)より

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2005/11/21(Mon)
●ルーマー・ゴッデン 文/バーバラ・クーニー 絵/掛川恭子 訳
『クリスマス人形のねがい』(岩波書店)

クリスマスにぴったりの、とっても素敵な絵本です♪
クリスマス人形と、ひとりの女の子の出会いの物語。文章が多く、おはなしは長めですが、ストーリーテリングの上手さに、子どもたちもきっとひきつけられるはず。
クーニーの絵は、丁寧で、あたたかくて、やさしくて、やっぱり大好き、と思ってしまいます。
クーニーの絵筆が描く、古き良き時代の西洋のクリスマスの情景は、大人の心にもあたたかい灯をともしてくれます。

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2005/11/17(Thu)
●クレメンス・ブレンターノ 文/リスベート・ツヴェルガー 画/池田香代子 訳『ばらになった王子』(冨山房)

ツヴェルガーの絵の素晴らしさについては言うまでもないけれど、物語も素敵だった。
ラプンツェルを思わせる、おひめさまの長い髪や、ばらになった恋する王子。ばらの花びらを食べておひめさまが産み落とした娘は、 呪いをかけられ、頭に櫛がささって魔法の眠りについてしまうのだけど、このエピソードなんか「いばらひめ」を彷彿させる。
メルヒェンの道具立てって、こうでなくちゃ。

ツヴェルガーの絵の、独特の絵具のにじみぐあいが、メルヒェンの恐ろしくも美しい雰囲気を、よく伝えている。

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2005/11/15(Tue)
●ゲオルク・ハレンスレーベン 絵/ケイト・バンクス 文/さくまゆみこ 訳『おつきさまはきっと』(講談社)
●大瀧啓裕 監修・解説『アーサー・ラッカム』(発行:エディシオン・トレヴィル/発売:河出書房新社)

『おつきさまはきっと』は、素晴らしい絵本です。 眠りにつく子どもと、夜を見つめながら輝く、まあるいおつきさまのお話。3歳くらいまでの、ちいさな子どもへの読み聞かせにも、おすすめしたいと思います。
それにしてもハレンスレーベンの絵の秀逸なこと。厚く塗りかさねた油絵具の質感に、この上ないあたたかみがあります。
今月末に発売される『夜になると』も、とっても楽しみです。

『アーサー・ラッカム』は、20世紀初頭イギリスで流行した豪華挿絵本の代表的な画家、ラッカムの挿絵作品集。 胸躍るような美しい絵の数々が、装丁も素敵な一冊で楽しめます。
そこかしこに滲む闇、妖精たちのまとう薄衣のひだからも、幻想がゆらめき出てくるようです。
ラッカムの挿絵本の邦訳版は、けっこう絶版・品切れが多いので、この作品集は貴重かもしれません。

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2005/11/11(Fri)
●吉田篤弘 著『つむじ風食堂の夜』(ちくま文庫)
●エリス・ピーターズ 著/岡 達子 訳
『修道士カドフェル(18)デーン人の夏』(光文社文庫)

『つむじ風食堂の夜』は単行本も持ってるけど、文庫って、持ち歩きが楽だからいいよね〜。

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2005/11/03(Thu)
●E.ディキンスン 著/中島 完 訳
『自然と愛と孤独と 詩集[改訂版]』(国文社)

大好きなエミリー・ディキンソン(エミリー・ディキンスン、エミリ・ディキンスンなど、本によって日本語表記が微妙に異なります)の詩集です。

この本を手にしたことで、ひとつ嬉しい発見がありました。
冒頭に、エミリーと兄と妹の三人を描いた肖像画の写真が掲載されていて、その肖像画が、 マイケル・ビダード 作/バーバラ・クーニー 絵/掛川恭子 訳『エミリー』(ほるぷ出版)に出てくる、 ディキンソン邸の居間に飾られた絵と、細部までそっくり同じだったのです。
クーニーが、ディキンソン邸や、エミリー・ディキンスン関連の資料が収蔵されている図書館などを、 綿密に取材して絵を描いたことは、知っていましたけれど、部屋の片隅の小さな肖像画まで、 きちんと現存するものをスケッチしていたとは。
肖像画のなかの、エミリが手にしている本と、おそらく彼女が作ったのであろう押し花まで、きちんと描きこまれているのです。
エミリー・ディキンソンの詩と出会ったきっかけは、この絵本だったので、クーニーが細部までおろそかにせず、 詩人の生きた小さな世界をいとおしむように、絵を描いたことがうかがい知れて、ほんとうに感動しました。

『自然と愛と孤独と』は、シリーズで4冊刊行されているので、続きも買おうと思います。
訳註の解釈と、わたしの感想には、相違する部分もあるのですが…。
エミリー・ディキンスンの研究者はたくさんいて、残された文献や資料、伝記等に基づいた、様々な解釈があるのでしょうが、 一読者であるわたしは、彼女の詩のみから受けた、直感のようなものに、深く共鳴するのです。
胸が苦しくなるほど、彼女の言葉を、美しいと思うのです。

感じたことを、ひとつあげるとするなら、
彼女は――ひきこもりのような暮らしをしていた彼女は――
周囲の人間や世界をではなく、
自分自身をこそ、
恐れていたのではないか、ということ。

草原をつくるには クローバーと蜜蜂がいる
クローバーが一つ 蜜蜂が一匹
そして夢もいる――
もし蜜蜂がいないなら
夢だけでもいい
中島 完 訳『自然と愛と孤独と 詩集[改訂版]』(国文社)より

→バーバラ・クーニー『エミリー』の紹介はこちら

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