〜少女のようで、おばあさんのような〜
岸田衿子さんの詩は、不思議です。 言葉はやさしく、わかりやすいのだけれど、感受性のつよい少女が書いたようで、でもとても年取ったおばあさんが書いたような、独特の味わい。どこか異国情緒があって、中世の鐘の音や音楽が、かすかに響いてくるような…。 生活臭のしない、慰撫の空間を作り出しているようでいて、凛として、はっとするような怖さも潜んでいる。 このページでは、詩集と、詩作の秘密が垣間見えるエッセイをご紹介。また参考までに岸田さんの翻訳された絵本をあげておきます。 |
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岸田衿子 ― きしだ えりこ ―詩人、童話作家。
1929年、東京生まれ。東京藝術大学油絵科卒。父は劇作家、フランス文学者の岸田國士。妹は女優の岸田今日子。 画家を志すも結核を患い、北軽井沢の山小屋で療養生活。のち詩人となる。絵本の翻訳や、アニメのテーマソング(アルプスの少女ハイジ「おしえて/まっててごらん」、赤毛のアン「きこえるかしら/さめない夢」等)の作詞も手がける。 主な詩集に『ソナチネの木』(青土社)、『忘れた秋』(書肆ユリイカ)、『あかるい日の歌』(青土社)、絵本作品に『ジオジオのかんむり』『かばくん』『きいちごだより』(すべて福音館書店)などがある。 |
海をわたるために 草をわけて 続く道と 雪の林の奥では 岸田衿子 著『ソナチネの木』(青土社)より |
棗のうた 岸田衿子 詩『いそがなくてもいいんだよ』(童話屋)より |
「いそがなくてもいいんだよ」岸田衿子 詩(童話屋) |
『ソナチネの木』を読んで、岸田衿子さんの言葉に惹かれるものを感じ、『たいせつな一日』とともに購入した詩集です。
『たいせつな一日』と同じく、『忘れた秋』『あかるい日の歌』『ソナチネの木』などの既刊詩集から編まれたアンソロジー。そのため、この2冊の詩集のうちには重複して収録されている作品もあります。 『いそがなくてもいいんだよ』は、こぶりの文庫サイズのハードカバーという、かわいらしい装幀の、童話屋の詞華集シリーズのなかの一冊です。 収録されている詩は、短くて読みやすいものが多く、どれも岸田さんの代表的な、珠玉の作品ばかり。 ところどころ、古矢一穂さんの、繊細で美しい草花の絵がそっと添えられています。 この本は鞄の中に入れて持ち歩きやすいサイズなので、詩人の言葉に身近に親しむのに、適した一冊ではないでしょうか。 →Amazon「いそがなくてもいいんだよ」 |
われもこう 『たいせつな一日 岸田衿子詩集』(理論社)より |
「たいせつな一日」岸田衿子詩集水内喜久雄 選・著/古矢一穂 絵(理論社) |
『ソナチネの木』を読んで、岸田衿子さんの言葉に惹かれるものを感じ、『いそがなくてもいいんだよ』とともに購入した詩集です。
『いそがなくてもいいんだよ』と同じく、『忘れた秋』『あかるい日の歌』『ソナチネの木』などの既刊詩集から編まれたアンソロジー。そのため、この2冊の詩集のうちには重複して収録されている作品もあります。 『たいせつな一日』は、A5判型の単行本で、理論社の「詩と歩こう」というシリーズのなかの一冊。やはり古矢一穂さんによる細密な草花の絵が添えられています。 そしてこの本の表紙の美しい花模様は、岸田さん所有のスピネット(小型チェンバロ、製作:野村満男氏)に描かれた絵なのだそうです。 このアンソロジーには、「十二か月の窓」と題する章があり、「スノードロップ」「クローバー」「ひなげし」など、木や草花をうたった詩が多く収録されています。 また巻末には選著者の水内喜久雄さんによる「岸田衿子さんをたずねて」という文章があり、これがとても興味深いです。 この文章のなかで岸田さんは自身のことをこう語っています。「大人の詩人だったら海や山と自分の距離をうたうのが好きみたい。私の場合、向こう側に行ってしまうほうが書きやすい」「たぶん、私は対象のなかに入りやすいのでしょう」 なるほど岸田さんの詩の不思議な味わいの秘密は、そこにあるのかなと感じたことです。 →Amazon「たいせつな一日―岸田衿子詩集 (詩と歩こう)」 |
こんな花の続く道を、どんどん歩いて行くと、一度や二度は狐にだまされるでしょう。見覚えのない三叉路などに出て、方向をたしかめて川のよこの道へ出ようとしても、どうしても出られません。 戻ってみると、もう、三叉路がないのです。こうしてうろうろしているうちに、そこに見覚えのある木があって、なんだ、ということになります。買い物の帰り道でも、こういう目に逢います。 狐にだまされてみたい、と思っているかたには、おすすめできる道です。べつに、狐にだまされたことで、困ったとか、悪いことがおこるわけではなく、食事の支度にさえ間に合えば、二時間ぐらい迷ったことで、こりごりしたと思う人はあまりいないのではないでしょうか。 岸田衿子 著『草色の切符を買って』(青土社)所収「シロコビトと狐」より抜粋 |
「のばらの村のものがたり」愛蔵版ジル・バークレム 作/岸田衿子 訳(講談社)
小川のほとりの細くからみあったいけがきに、ちいさなねずみたちが仲良く暮らす、のばらの村があります。木の根や幹をすみかにし、身の回りに育つものを収穫する。お菓子やドレスを手作りし、仲間どうし助け合う。ときにはピクニックやパーティで、ふざけあったりして…。自然と共生するねずみたちの、ちいさな暮らしを綴った絵本。
この絵本では、ブルーベルやさくらそう、しだや、のばら、すいかずら、野の花の描写が美しく正確で、岸田さんのお好きな、古矢一穂さんの植物画にも通じるなあと思います。ねずみたちも、服を着ているけれどもたいへん写実的に描かれているのです。 「花と野原、空の星、海へそそぐ川、そしてこれらすべてに命をふきこむふしぎなものにちかって、ふたりは夫婦であることをみとめます」ねずみたちの結婚式で述べられるこんな言葉に、自然に感謝し、身の丈にあった暮らしをすることの、幸福を感じさせられます。 →Amazon「愛蔵版 のばらの村のものがたり 全8話 (講談社の翻訳絵本)」 |
「かえでがおか農場のいちねん」アリス&マーティン・プロベンセン 作/岸田衿子 訳(ほるぷ出版)
かえでがおか農場での、人間と動物たちのいちねんの暮らしを、淡々と、しかし丁寧に紹介している絵本。作者であるプロベンセン夫妻は、いまも実際にこの絵本に描かれているような農場暮らしをされているとのこと。ああこれがアメリカの、ほんとうの美しい姿だなあと、しみじみ感じます。
岸田さんの訳は平明で、リズミカルで、とても読みやすい。ほら、こんなふうに。 「なつは、のはらに はなが いっぱい さきます。 ヤギや ヒツジは はなが すきです。ミツバチも はなが すき。だれでも はなが すき。」 →Amazon「かえでがおか農場のいちねん」 |
「こねこのミヌー」フランソワーズ 作/きしだえりこ 訳(のら書店)
かわいくてやさしくてノスタルジックな、フランソワーズの絵本。単純化された線といい、あかるい色使いといい、フランソワーズの絵は、子どもの感じている完全で安心な世界を描いており、大人にも絶大な癒し効果をもたらします。
いなくなったこねこを探し回る女の子のお話。どきどきさせられながらも、最後にはこねこが戻ってくることが予感され、ほっとできます。 あとがきで、訳者の岸田さんがフランソワーズ作品について、わかりやすく解説してくださっていて、参考になります。 またタイトルについて、「ミヌー」というのは、フランスでは猫そのものを指す「にゃんこ」というようなニュアンスなのだけれども、聞きなれない日本の子どもたちのために、「こねこのミヌー」としたことも語られています。 絵本のタイトルの訳というのも、いろいろ工夫がいるのですね。 |
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