■サラ・ミッダの絵本

〜あまいようで、あまくない〜


●サラ・ミッダ ― Sara Midda ―

1951年、ロンドン生まれ。
処女作『In and Out of the Garden(邦題:サラ・ミッダのガーデンスケッチ)』で、1982年ヴィクトリア&アルバート・ミュージアムのイラスト賞を受賞。
繊細な描線と透明感あふれる色使いで描かれる、一見やさしい絵のなかに、イギリス人らしい皮肉とユーモア、シュールなセンスが散りばめられた彼女の作品は、日本でも大人の女性を中心に支持を得ており、彼女のイラストをモチーフにした食器などのグッズも人気を集める。
邦訳絵本に『サラ・ミッダのガーデンスケッチ』(サンリオ、現在絶版)、『サラ・ミッダの南仏スケッチブック』(角川書店、現在絶版)、『おとなになること』(ほるぷ出版)がある。



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「サラ・ミッダのガーデンスケッチ」

「おとなになること」



「サラ・ミッダのガーデンスケッチ」

サラ・ミッダ 著/橋本 槇矩 訳(サンリオ)
サラ・ミッダのガーデンスケッチ (1983年)
ながいこと憧れだった『サラ・ミッダのガーデンスケッチ』、Amazonマーケットプレイスでようやく手に入れました〜。

1982年にヴィクトリア&アルバート・ミュージアムのイラスト賞を受賞しているというこの本。邦訳版は函入りで、布装の英語版と、和訳の冊子が2冊組みになっているという豪華な装幀。
布装の英語版のページを繰ると、これはまさに絵本というよりサラ・ミッダの画集。イギリス人の大好きな「庭」への思いが込められた、宝石のように美しい絵がたくさんおさめられています。
とにかく色が美しい! いくとおりもの緑でいくつもの植物が描き分けられていて、この色をぼんやり眺めるだけでも、英国の庭の素晴らしさを思わずにはいられない。
またサラ・ミッダの手描き文字の素晴らしさ、ところどころ種や押し花を使ったコラージュのようなレイアウトの楽しさ、散りばめられたシュールなイラストの、スパイスのようにぴりりとした味わい。
どれをとっても美しい、宝石箱のような本です。
この見返しのところに蔵書票(エクスリブリス)を模した洒落た絵が描かれているのも、たまらん!

あまいイメージを思い描いていたサラ・ミッダのガーデンスケッチ、実際に手にとってみると、やっぱりいい意味でイメージがくつがえされました。
見逃しそうなんだけれど、一見やさしい絵の中に、シュールなセンスが間違いなく潜んでいて、やっぱりナーサリーライム(マザーグース)の国の人だなあと嬉しくなります。
サラ・ミッダの魅力は、あたたかい自然の描写だけでなく、その中にぴりっとしたシュールなセンスが見え隠れするところにあると思うのですが、どうでしょうか。
この『ガーデンスケッチ』は1983年初版、1992年に新版が出ていますが、どちらも絶版。なぜでしょう。復刊してくれないので中古を手に入れましたが、でも復刊してほしいです。

→「庭・ガーデニングの絵本」はこちら

→Amazon「サラ・ミッダのガーデンスケッチ (1983年)
→セブンネットショッピング「サラ・ミッダのガーデンスケッチicon

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「おとなになること」

サラ・ミッダ 作/江國香織 訳(ほるぷ出版)
おとなになること
But they forget
that they also
were once children

おとなは、自分もまたかつて
こどもだったことを
すっかり忘れてしまっている

『おとなになること』より

『おとなになること』は、わたしが最初に手にとったサラ・ミッダの絵本。
サラ・ミッダといえば、上記『サラ・ミッダのガーデンスケッチ』の、やさしい色使いの絵のイメージがつよくて(実際に『ガーデンスケッチ』を手にとってみるとイメージがくつがえされたのですが)、彼女のイラストを使った雑貨は、とても愛らしくて人気。
そんなわけで、サラ・ミッダって、わたしはなんとなく可愛らしいイメージで捉えていたのです。
この絵本を手にとってみて、いい意味で裏切られました。

かわいい表紙にダマされて(?)はいけません。この絵本には、愛くるしいこどもなんてひとりも出てこない! 皮肉とユーモアたっぷりに、こどもからおとなへの、ちょっとつきはなしたメッセージが込められていて、こどもの残酷な一面や、おとなの性への関心もちゃんと描かれている。
ちっともかわいくないこどもこそ、ほんとうのこどもの姿だと思うので、この絵本はほんとうに面白い。
そしてこの作品にあらわれた、他者への淡々とした眼差しと、そこから出てくるユーモア感覚は、いかにもイギリスらしくて、これこそがサラ・ミッダの真骨頂ではないかと思えます。
わかりやすいイギリスらしさを挙げるなら、こどもの「してはいけないこと」として「くろつぐみたちをとじこめる」という例があり、パイの中から顔を出す小鳥の絵が描かれていて、日本人ならあり得ない感性、マザー・グースの世界だなあとしみじみ。
「二十四わのくろつぐみ/パイにやかれて/パイをあけたら/うたいだす ことりたち/おうさまに さしあげる/しゃれた おりょうり?」
(谷川俊太郎 訳『マザー・グース 2』(講談社文庫)より)

絵もよく見たら甘くない。ここに描かれたこどもたちはみんな、言うこときかなそうだし、つまらなそうだし、不安そうだし、シュールでキモチわるいようなイラストもある。色使いも淡いのだけどシブくて、ほんとうに洗練されています。
カバーのピンク色や、表紙の濃いブルーの微妙な色合い。凝った見返しや、カバーの折り返しの端にちょこっと描かれた絵などが、とっても素敵です。

※この絵本は、前半にサラ・ミッダの手描き文字を楽しめる原文のままのカラーページがあり、後半に江國香織さん訳のモノクロページ(青と白の)、という構成になっています。

→Amazon「おとなになること
→セブンネットショッピング「おとなになることicon

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