■本の蒐集記録(2006年3-4月)





2006/04/29(Sat)
●ジョージ・マクドナルド 著/荒俣宏 訳『リリス』(ちくま文庫)

ジョージ・マクドナルド初心者だというのに、どのレビューでも難解だと書かれている、この一冊に挑戦してみたくなって、買ってしまった。

実は学生時代、ロード・ダンセイニの諸作品に触れ、英国産ファンタジーやケルトの文化に興味をもつようになったわたしは、 W・B・イエイツやフィオナ・マクラウドを集中的に読もうとしたことがあり、この『リリス』も、書店の店頭で何度か手にとってはみたのである。
けれども、ぱらぱら拾い読みしてみて、理解できそうにないと感じ、ずっと買わずにいたのだった (しかも、イエイツにもマクラウドにも挫折して、結局「アーサー王」さえも読まずにきてしまった)。
いまだって理解できるかどうかは疑問だが、しかし『リリス』の「あとがき」で、訳者の荒俣氏はこう書いている。
「この作品を、めくるめく色彩に満たされた音楽として味わうことが、まず重要だと思います」と。
心を真っ白にして、いざ、『リリス』の世界へ。

ちなみにこの本は、原書にはなかった挿絵が付されており、この作品のために描かれたものではないらしいのだけれども、 エリナー・ヴェレ・ボイルの木版画も味わうことができる。挿絵本好きな方にも、見逃せない一冊ではないかと思う。

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2006/04/27(Thu)
●W・デ・ラ・メア 著/荒俣宏 訳『妖精詩集』(ちくま文庫)
●フェリクス・ホフマン 編・画/大塚勇三 訳
『グリムの昔話1』(福音館文庫)
●ローズマリ・サトクリフ 著/山本史郎 訳
『アーサー王と円卓の騎士 サトクリフ・オリジナル』(原書房)

『妖精詩集』は、ちくま文庫復刊フェアで、めでたく復刊した本。 挿絵本の紹介者としても名を馳せる荒俣氏らしく、ドロシー・P・ラスロップの挿絵も魅力の、夢幻的な一冊。
『グリムの昔話1』は、「フィッチャーの鳥」「ネズの木の話」をぱらぱらと読んだのだけれども、残酷さがアンデルセン童話とは趣を異にしている。 フェリクス・ホフマンの挿絵が、何とも魅力的。カラー挿絵多数。
『アーサー王と円卓の騎士』は、初めてのサトクリフ。アーサー王の世界への読書の旅も、これが本格的な第一歩。読み進めるのが、とても楽しみ。
なんにも見えない

穴をすみかに
 ミミズさがして這いまわる
四指モグラは
 なんにも見えない。

夕闇の空
 フワフワ飛びまわる
大耳コウモリは
 なんにも見えない。

暑い日盛り
 まごまごしながら巣へ帰る
家フクロウは
 なんにも見えない。

この三つの生き物は
 わたしにとっては盲目だけど、
きっと、別のだれかにしてみれば
 このわたしは盲目にちがいない。

W・デ・ラ・メア 著/荒俣宏 訳『妖精詩集』(ちくま文庫)より

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2006/04/23(Sun)
●クリスチナ・ロセッティ 著/入江直祐 訳
『クリスチナ・ロセッティ詩抄』(岩波文庫)
●フィオナ・マクラウド 著/松村みね子 訳
『かなしき女王 ケルト幻想作品集』(ちくま文庫)

『クリスチナ・ロセッティ詩抄』は、2006年2月にリクエスト復刊。初版発行は、1940年。
日本語訳は旧仮名遣い、文語体のものもありますが、ヴィクトリア朝の詩人クリスティーナ・ロセッティの詩に、しっくり合っていると思います。
4月20日の記録で触れた、物語詩「Goblin Market」が、「お化け商人」というタイトルで収録されているのも、興味深いです。
ただ「Goblin Market」は、数々の画家たちの想像力を刺激した題材であったとのこと、一度は挿絵入りで読んでみたいなあという希望もあります。
なにはともあれ「岩波文庫にクリスティーナ・ロセッティの詩集が無いなんて、そんなバカな!」と思っていたので、復刊されて嬉しい限りです。

『かなしき女王』は、フィオナ・マクラウドが描き出したスコティッシュ・ケルトの幻想物語を、大正期の歌人、松村みね子(本名:片山廣子)が美しい日本語に訳した一冊。
この作品も、1925年の初版発行から、絶版、復刻刊行、文庫化と、時を経て読み継がれてきた名作。
いちばん最初に収録された「海豹」という短篇を読み、その美しさと哀しみに、胸を打たれました。
松村みね子女史の訳文の素晴らしいこと。
けっして古びない、平明でありながら美しい文章は、まさに名訳。一読の価値ありです。


誰が一體 風を見た。
 私もあなたも見たことないが
枝の垂葉がゆれるとき
 風が通つてゐるのです。

誰が一體 風を見た。
 あなたも私も見たことないが
梢がお辭儀をするときは
 風が渡つてゐるのです。

クリスチナ・ロセッティ 著/入江直祐 訳『クリスチナ・ロセッティ詩抄』
(岩波文庫)より

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2006/04/20(Thu)
●クリスティーナ・ロセッティ 著/安藤幸江 訳
『シング・ソング童謡集 クリスティーナ・ロセッティ
SING-SONG A NURSERY-RHYME BOOK 訳詩集』(文芸社)

●バーナデット・ワッツ 絵/ささきたづこ 訳
『つぐみひげの王さま グリム童話』(西村書店)

●フェリクス・ホフマン 絵/おか しのぶ 訳
『ヨッケリなしをとっといで スイスのわらべうた』(小さな絵本美術館・架空社)

バーナデット・ワッツの絵本『とんでいけ海のむこうへ』におさめられた22編の詩は、 もともと、1872年にロンドンのGeorge Routledge and Sons 社から出版された、『Sing-Song』という童謡集に収録されていたもの。
この『Sing-Song』は、ラファエル前派の重要な画家の一人である、アーサー・ヒューズの挿絵入りで刊行されました。
『シング・ソング童謡集』(文芸社)は、原書初版時のアーサー・ヒューズの格調高い挿絵121点が掲載され、ヴィクトリア朝時代の雰囲気も味わうことができる、とても価値ある訳詩集だと思います。

クリスティーナ・ロセッティの、童謡風の初期の詩は、やはり素晴らしいです。
わかりやすく、みずみずしい言葉ににじむ、あたたかさ、やさしさ。
やさしいだけじゃない、自然と現実を見つめる眼差し。
自然への親しみに満ちた眼差しは、エミリー・ディキンソンにも通じるものがあると感じました。

残念ながら、クリスティーナ・ロセッティの訳詩集は、そんなに多くないという気がします。物語詩「Goblin Market」も、邦訳版があると嬉しいのですが。 「Goblin Market」は、クリスティーナの兄、ダンテ・G・ロセッティが絵を寄せているというし、どんなものか味わってみたいのですけれど。
とりあえず、岩波文庫から復刊された『クリスチナ・ロセッティ詩抄』を、さらに注文しました。

『つぐみひげの王さま グリム童話』は、ワッツの色彩感覚が、やはり素晴らしいです。
この絵本は、『おじいさんの小さな庭』等とは違って、あたたかい色調の絵が少なく思えたのですが、よく読んでみると、主人公のお姫さまの心情が、色であらわされているんですよね。
青と黄色の表現が、際立って美しいと思いました。
それにしても、ワッツの絵本をいくつか味わううち、グリム童話の面白さにようやく気づきはじめ、本格的に読み込んでみたくなりました。

『ヨッケリなしをとっといで』は、子どもに読み聞かせることも、子どもが手にとって読むこともできる、横長のちいさな絵本。
スイスのわらべうたが、日本語でも耳にここちよく訳されているし、何よりホフマンの絵が魅力的。
かわいすぎず、あたたかみのある絵が味わい深く、登場するキャラクターたちの表情のゆたかさに、大人もくすりとさせられます。
原書では、表紙の色は水色ですが、邦訳版ではシックな感じの柿色になっています。

くさのはの あいだで
きよらかな あかるいめをした ヒナギクたちは
どの ヒナギクも ほしのよう
みどりの そらの なかから

クリスティーナ・ロセッティ 著/安藤幸江 訳『シング・ソング童謡集』
(文芸社)より

→バーナデット・ワッツ『とんでいけ海のむこうへ』の紹介はこちら

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2006/04/14(Fri)
●グリム 文/バーナディット・ワッツ 絵/生野幸吉 訳
『赤ずきん』(岩波書店)

なんて素晴らしい絵本!
ワッツ(※注)の作品のなかでも、とりわけ美しく、愛らしく、かつ、グリム童話ならではの不気味な暗さもひそんでいる、珠玉の一冊ではないでしょうか。

まず赤ずきんの愛らしさ。赤いずきんも、エプロンも、しまもようのタイツも、茶色のブーツも、そしてあどけない表情も、すべてかわいい。

次に魅惑的な森の風景。オオカミの誘惑で、花の咲き誇る森の奥へ奥へとはいりこんでいく、赤ずきんの気持ちがよくわかります。
めくるめく色彩のお花畑。ワッツの描く草花の愛らしいこと。けれども「みちからはずれてあるかないように」という、お母さんのいいつけに背いてしまっている、赤ずきんのうしろめたさや、 未知の森への怖れも読みとれる、暗さもひそんでいます。

それから、おばあさんのお家の、かわいらしい描写。さりげなく描かれた雑貨などにも神経がゆきとどいています。
猫や、小鳥や、蝶などが描きこまれているのも、見逃せません。
オオカミの死の描写も際立っています。残酷だけれども滑稽で、童話のエッセンスがよく伝わってきます。

お花畑を描いた見開きが、この絵本の絵としては目立っていて、表紙にもなっていますが、 夜の森を描いた絵も、ワッツならではの美しさで、とても素敵です。
かりうどが、おばあさんの家のそばを通りかかる場面の、青白い月のかがやきと、月光に染まる木々の、ふしぎな青さ。
ワッツの描く夜の風景の、この青さには、惹きこまれずにはいられません。

標題紙の次のページ、本文のはじまる前に、そっと描かれた、おかしとワインの入った籠と花束。 また本文の終わったあと、奥付の前のページに、赤ずきんの眠るベッドがちょこんと描かれていることなどが、この一冊に対する画家の愛情や、誠実さ、丁寧さをうかがわせます。

いろいろと書いてしまいましたが、わたしの感想としては、ワッツの絵本のなかで、『赤ずきん』がいちばんのおすすめかもしれません。

(※注 ベルナデッテ・ワッツ、バーナデット・ワッツ、バーナディット・ワッツは、すべてBernadette Wattsのことです)

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2006/04/12(Wed)
●グリム童話より/ベルナデッテ・ワッツ 絵/若木 ひとみ 訳
『ヨリンデとヨリンゲル』(ほるぷ出版)
●フェリクス・ホフマン 絵/せた ていじ 訳
『ねむりひめ グリム童話』(福音館書店)

『ヨリンデとヨリンゲル』は、ワッツ(※注)の初期の作品で、現在おなじみの、やさしいパステルカラーの愛らしいタッチとは、画風がずいぶん異なっています。
色彩の見事さや、草花や夜空の描写などに、現在の画風の原点を感じさせられますが、全体的に薄暗くて不気味な雰囲気が漂っています。
この薄暗さと不気味さが、グリム童話の奥深い森や魔法の空気を感じさせて、良いのです。
小暗い森を描いた絵の、塗り重ねた色彩の深さ。魔女の住む古いお城に凝る闇。
魔法の息づいていた時代への想像力が、かきたてられます。
ヨリンゲルのみた夢の描写など、ほんとうに夢幻味あふれる色彩で、なんとなくシャガールの絵を思い出しました。
芸術性が高く、くりかえし味わえる、よい絵本だと思います。

『ねむりひめ』については、今日は時間がなくて、ぱらぱら眺めた程度なのですが、フェリクス・ホフマンの絵、かなり好きです。
フルカラーでなくて、色数も色味もおさえてあるところが、洗練された、格調高い雰囲気をかもしだしています。
なんとなく、古めかしい宗教画のようなタッチだなと感じるのは、幼い頃に、ホフマンの『クリスマスものがたり』に、深く親しんでいたからなのでしょうか。

それにしても、やっぱりグリム童話は素晴らしいなと感じています。
「むかしむかし」という呪文にかけられ、おはなしの世界に入り込み、冒険し、 「それからふたりは、いつまでも、しあわせにくらしました」という幸福な結びの言葉で、 魔法を解かれ、満足して、現実世界に再び戻ってくる。
一見単純なのに、なんとすぐれたおとぎ話ならではの仕掛けでしょう。
アンデルセンにしろグリムにしろ、童話(メルヘン)こそ、深く、多様な解釈のできる、豊潤な物語世界を内包しているものだなと、つくづく感じ入ります。

(※注 ベルナデッテ・ワッツ、バーナデット・ワッツ、バーナディット・ワッツは、すべてBernadette Wattsのことです)

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2006/04/09(Sun)
●ゲルダ・マリー・シャイドル 文/バーナデット・ワッツ 絵/
ささき たづこ 訳『おじいさんの小さな庭』(西村書店)

絵もおはなしも、心あたたまる素敵な一冊。
おはなしは、子どもへの、おやすみ前の読み聞かせにもぴったりという感じの、短いもの。
絵は、ワッツの夢幻味あふれる色彩感覚に圧倒されます。
ワッツは、”色彩の魔術師”と呼ばれるブライアン・ワイルドスミスに師事したとのこと。
一見幼子が描いたようにみえるタッチなのに、画面全体をよく眺めてみると、色のあわせ方重ね方が、ひじょうに洗練されていることに驚かされます。
ほんとうに、おじいさんの庭の描写の美しいこと! ことにブルーを基調とした夜の庭の表現が際立っています。

ワッツについていろいろ調べてみたのですが、やはり画風は時とともに変化してきたようで、近年の作品は淡いパステルカラーのイメージのものが多いようですが、 初期の作品ではまったく絵のタッチが違います。
『つぐみひげの王さま』(西村書店)は、現在、取り寄せ中なのですが、もっと初期の作品も味わってみたいなと思い、 さらに『ヨリンデとヨリンゲル』(ほるぷ出版)(※注) を注文しました。
グリム童話「Jorinda and Jorindel」は、2005年に、ワッツが新たに描き下ろしたものも出版されています(未邦訳)。彼女のお気に入りの物語なのでしょうか。
新しい作品の邦訳も待ち遠しいです。

ほかにも気になるワッツ作品はあるのですが、実はいろいろと調べているうち、ワッツがグリム童話の挿絵を多く手がけていることから、 同じようにグリム童話に多数の絵を寄せている絵本作家、フェリクス・ホフマンの名前に行き当たりました。
そして、このフェリクス・ホフマンの描いた『クリスマスものがたり』(福音館書店)こそ、 わたしが子どもの頃に、大好きでよく読んでいたクリスマス絵本だったことがわかったのです。
むかし引越しをしたときに、失くしてしまったらしい絵本。
だけど、はっきりと記憶に残っていた絵本。
ああ、そうだったのか! と思って、フェリクス・ホフマンの絵本も欲しくなり、 まずは『ねむりひめ』(福音館書店)を注文しました。
『クリスマスものがたり』は、クリスマスに買いたいしなあ…。

とにかく、絵本収集熱には、きりがないなあと、頭の中で購入費を計算する毎日なのでした。

(※注 『ヨリンデとヨリンゲル』は、著者の表記が「ベルナデッテ・ワッツ」になっています。外国の作家さんの名前は、できれば表記を統一してほしいですよね^^;)

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2006/04/07(Fri)
●アリステア・マクラウド 著/中野恵津子 訳
『灰色の輝ける贈り物』(新潮社)

物語でなく小説を、描写の巧みさを、文章の美しさを味わいたいと思うときがある。
冒頭に収録された「船」という短篇を読んで、ずっしりと重たいものを感じずにはいられなかった。

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2006/03/31(Fri)
●ビアトリクス・ポター 作・絵/いしいももこ まさきるりこ なかがわりえこ 訳『愛蔵版 ピーターラビット全おはなし集』(福音館書店)

「ピーターラビットの絵本」シリーズ全23冊が、一冊にまとめられた、大きくて重い本。 品のいいブルーグレーの布張りの表紙に、愛らしいイラストの施された白いカバーがつき、透明ケースにおさめられている。 これは、大人向けの愛蔵版。
読みごたえたっぷりなので、いま少しずつ味わっているところ。

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2006/03/23(Thu)
●ボハッタ・モルプルゴ・アイダ 著/ふかせあきこ 訳
『ようせいのおはなし』(エンデルレ書店)

3月4日の記録で紹介した、イーダ・ボハッタの絵本。
邦訳版は童心社から刊行されている2冊しかない、と思っていたら、なんともう1冊、発見しました!

いま手許にある現物の標題紙によると、著者の名前は「イダ・ホハッタ・モルプルゴ」となっていますが、 アマゾンでは「I.ボハッタ」、本やタウン及び楽天ブックスでは「ボハッタ・モルプルゴ・アイダ」と表記されています。
このサイトでは、ネット書店での検索の便を考え、「ボハッタ・モルプルゴ・アイダ」の表記に統一しますので、ご了承ください。

さて、ボハッタ・モルプルゴ・アイダというのは、ドイツ語表記「Bohatta-Morpurgo,Ida」で、イーダ・ボハッタのことです。
Ida Bohatta というのは、フルネームではなかったのですね。
そういえば、童心社から刊行されている『はなのこどもたち』『かわいいひかりのこたち』の絵をよ〜く見ると、 片隅に「IBM」というサインが入っています。
そもそも、アマゾンでも本やタウンでも、「イーダ・ボハッタ」で検索すると、童心社の2冊しかヒットしないので、 邦訳版はこれだけと思い込んでしまったのですが、「ボハッタ」で検索すると3冊ヒットしたので驚き、著者名の日本語表記が統一されていないため、 「ボハッタ・モルプルゴ・アイダ」が「イーダ・ボハッタ」であることを確認するのに、あちこち検索をかけまくりました。

まあそんなわけで、ようやく手許に届いた、イーダ・ボハッタ3冊めの邦訳絵本『ようせいのおはなし』。
表紙画像もわからないし、発行所エンデルレ書店というのも初めて耳にする名前だし、ある意味「賭け」で注文したのですが、結論として、いい買い物でした♪
手のひらサイズで、一葉の絵に一篇の詩が添えられた絵本の体裁は、童心社の2冊と同じです。
昭和54年刊行で、装幀には手作り感があります。
絵はボハッタの初期の作のようで、初々しいタッチですが、妖精たちや草花の描き方は、ほんとうに愛らしくて素敵です。
この『ようせいのおはなし』には、こがねむしなど、ちいさな虫たちも登場しますが、虫たちへの親しみ深い眼差しは、 やはりオルファースや、べスコフを彷彿させますね。
最後のページの、霧に溶けいるような3人の妖精たちの絵は、とても幻想的で美しく、どこか悲しい感じがします。

数少ないボハッタの邦訳絵本。
童心社の2冊からボハッタに興味をもたれた方は、この『ようせいのおはなし』も、手にとってみて損はないと思います。

下記は、『ようせいのおはなし』を買いたい! という方への情報。
アマゾン・本やタウン・楽天ブックスには在庫あり。
どうしても画像を確認したい場合は、Amazon.deで、キーワード「Bohatta」「Elfchen」で検索すると、『ようせいのおはなし』に収録されている絵が、『Elfchen』の表紙画像として表示されます。 (Amazon.jpの洋書検索でもヒットするけど、表紙画像がなぜか拡大しないのです)

イーダ・ボハッタについて、うれしい発見の報告でした(^-^)

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2006/03/16(Thu)
●エリス・ピーターズ 著/岡 達子 訳
『修道士カドフェル(20) 背教者カドフェル』(光文社文庫)
●ジル・バークレム 作/岸田衿子 訳
『愛蔵版 のばらの村のものがたり 全G話』(講談社)

『のばらの村のものがたり』の、あまりにも細やかで可愛い絵を眺め、とても幸せな気分に浸っているところです。
ねずみたちのおうちの中の様子が、ドールハウスのように細かく、精密に描かれていて、小さくて可愛いもの好きには、たまらない〜♪
木の内側のおうちの構造が、断面図のように描かれているのが、特徴的ですね。
とても長い時間をかけて、ひとつひとつの絵を、じっくりとすみずみまで眺め、にんまり笑っております。

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2006/03/10(Fri)
●エルサ・べスコフ 作/石井登志子 訳
『いちねんのうた』(フェリシモ出版)

3人の兄妹たちが過ごす、スウェーデンの楽しい一年が、リズミカルな詩と美しい絵とで表現されています。
スウェーデンの年中行事については、わかりやすい解説も付されていて、とても興味深いです。
1月から12月まで、美しい季節の移り変わりが、12枚の絵で楽しめるのですが、べスコフの絵は、ほんとうにため息がでるほど素敵。

1月の行事「12日節」の絵など、とっても可愛いです。
12日節は、クリスマスから数えて12日目の1月6日。キリスト教国では、この12日節まで、クリスマスのお祝いが続くんですよね。
解説には、「今ではまれになりましたが、エルサ・べスコフが子どもの頃、12日節にはまだ、頭に星のついた三角帽子をかぶった男の子が、当方の三博士になって、 ヘロデ王と一緒に、もらいものを入れる袋をもったユダをつれて、近所を回ったり、聖書のクリスマスの物語を題材にした寸劇を演じたりしていました」とあります。
とにかく子どもたちがかわいくて、とても美しい絵なので、こんな行事も、今ではまれになったのだと思うと、とっても淋しいです。
日本でも、折々の年中行事やおまつりなど、どんどん簡略化されるか、もしくは商業化されてしまう傾向を感じますが、昔から伝わってきた行事というのは、ほんとうは大切にするべきなんでしょうね。

『いちねんのうた』は、他にも花や植物、妖精たちの絵や、子どもたちの生き生きと遊ぶ様子などが、大判の絵本いっぱいに描かれており、べスコフの絵の素晴らしさを堪能できる一冊です。

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2006/03/09(Thu)
●吉田篤弘 文/フジモトマサル 絵『という、はなし』(筑摩書房)

こぶりでかわいい装幀。
愛らしいなかにも渋味のあるフジモトマサル氏の絵。吉田篤弘氏の、気の利いた、それでいてあたたかみのある文章。
オビにあるとおりの、「読書をめぐる小さな絵物語集」。
ああ、癒される…。

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2006/03/06(Mon)
●ロード・ダンセイニ 著/中野善夫 他 訳
『最後の夢の物語』(河出文庫)

これで河出文庫のダンセイニ幻想短篇集成全四巻が、ついに完結。
今回の幻想短篇集成の売れ行きがよければ、もしかしてダンセイニ後期の作品群ジョーキンズ・シリーズも完訳、なんてことになるかもしれないので、 皆様この機会に、ぜひダンセイニの古雅で壮麗な幻想世界を、一度味わってみてください。

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2006/03/04(Sat)
●イーダ・ボハッタ 作/松居スーザン 永嶋恵子 訳
『はなのこどもたち』『かわいいひかりのこたち』(2冊とも童心社)

かわいい、かわいい、ちいさな絵本。装幀は祖父江慎 + 芥 陽子(コズフィッシュ)。
B6変型判の、てのひらサイズの本の中に、見ているだけで微笑んでしまう、やさしい愛らしい絵が、いくつもおさまっています。

『はなのこどもたち』は、きみどり色の表紙に、紺色の遊び紙のコントラストがおしゃれ。
ねこやなぎや、すみれ、ヒース、のばらなど、ちいさくてささやかな野の花々が、子どもの姿に擬人化されて描かれているのですが、これがとっても愛らしいのです。
色使いもふんわりとやさしくて、ほんとうに眺めているだけで、にっこりとしてしまいます。
ひとつの花の絵に、ひとつの短い詩が添えられたスタイルで、物語はありません。 短詩はごく明快なもので、自然へのやさしさと、人間への希望にみち、かつユーモアのセンスが感じられます。

『かわいいひかりのこたち』は、赤をバックに、黄色のひかりの子どもたちの絵が映える表紙。
この絵本も、ひとつの絵に、ひとつの短詩が添えられたスタイル。
物語はありませんが、こちらは太陽の光と、野の花の出会いをモチーフにした絵が描かれています。
光の擬人化である、黄色にかがやく子どもたちが、これも擬人化された野の花たちと戯れる様子がほほえましく、ひかりのこが、たんぽぽの古いぼうしを、 あたらしいお花のボンネットにとりかえるという絵と詩は、オルファース『ちょうちょのくに』を彷彿させるものがありました。

イーダ・ボハッタはウィーン生まれの絵本作家。
その著書は70冊を超えるとのことですが、邦訳版は、まだこの2冊しかありません。
アマゾンで洋書版を検索すると、たくさんの愛らしい絵本の表紙画像を見ることができました。
はっきり言って、もっともっとイーダ・ボハッタの絵本が、ほ〜し〜い〜!
洋書は英語が読めないし、ドイツ語はもっと読めないし(^^;
今後、彼女の絵本がたくさん邦訳されることを、切に、切に願うものであります。
あたらしいぼうし

ひかりのこたちは
たんぽぽの ところにやってきて
ふるい ぼうしを ぬがせると
すてきな ボンネットを かぶせたよ

それから せっせと たんぽぽの
みじたくを てつだった
なぜって きょうは だいじなひ
たんぽぽが さくひだよ

イーダ・ボハッタ 作/松居スーザン 永嶋恵子 訳
『かわいいひかりのこたち』(童心社)より

→オルファース『ちょうちょのくに』の紹介はこちら

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2006/03/03(Fri)
●エルサ・べスコフ 作/いしいとしこ 訳
『ちいさなちいさなおばあちゃん』(偕成社)
●市川里美 作『春のうたがきこえる』(偕成社)

『ちいさなちいさなおばあちゃん』は、べスコフのデビュー作。
訳者の解説によると、この絵本は、ウォルター・クレイン(→Click!)の展覧会を見て、着想を得たものなのだとか。
アール・ヌーヴォーの影響を受けた飾り枠が素敵な作品で、すべての絵が、ゼラニウムやねこやなぎなどの植物をモチーフにした、まあるい枠の中に描かれているのです。
まあるい飾り枠のなかにおさまったちいさな絵は、どれもシンプルでかわいく、さりげなくスウェーデンの生活習慣が描きこまれていたりして、細部まで見入るのも楽しいです。
文章は短く、「ちいさなちいさな」という繰り返しのリズムが印象的。なので、ちいさなお子さんへの読み聞かせにも向いていると思います。

『春のうたがきこえる』は、作者の市川里美さんが、イースターの休暇をブルゴーニュ地方のいなかで過ごした折の思い出を、一冊の絵本に仕上げたもの。
この絵本を手にとると、春の、あのやわらかくまぶしい光が、心の奥に希望のようによみがえってくる、そんな気がします。
やわらかい色使いの、郷愁に満ちた画風。春の野原で、子どもたちが遊びたわむれる様子が、繊細に描かれています。
なんというか、わたしはこの絵本の装幀が好きだなと思っていて、まずカバーのつや消しの紙の風合いが素敵です。
そしてページを開くと、見開きの左側に短い文章がぽつんとあって、右側に額縁におさまったような体裁のちいさな絵があり、白い余白のスペースが多いのが印象的です。
この空白が、とても良いと思うのです。読者の思い出を喚起する「間」になっているというか。
忙しい人に、春の光や風のにおいとともに、しずかでゆっくりとした時間を与えてくれる、そんな素晴らしい絵本だと思いました。

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