■本の蒐集記録(2005年1-4月)





2005/04/29
●ジビュレ・フォン・オルファース 作/秦 理絵子 訳
「ねっこぼっこ」(平凡社)

まさに、わたし好みの、すばらしい、芸術的な古典絵本。
オルファースは修道院で画家としての修行をつみ、宗教画も手がけたとのこと。 時代的にはべスコフと重なりますし、アール・ヌーボーの影響を受けているらしい画風も、 べスコフの「おひさまがおかのこどもたち」を思い出させます。
べスコフ好きにとっては、たしかにオルファースも魅力的。 でもそれは、オルファース独自の良さがあるからこそです。
オルファースの絵には、あたたかみの中に、なにか荘厳というか、神々しい雰囲気があるように思います。 やっぱり、宗教画の素養があるからでしょうか。

芸術的とか神々しいとか言っても、「ねっこぼっこ」は決して大人向けの作品ではなく、子どもにこそ楽しんでほしい絵本です。
とにかく、これ一冊でオルファースにハマッたので、しばらく彼女の絵本を収集することになりそうです。

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2005/04/21
●ピョートル・チャイコフスキー 原作/リスベート・ツヴェルガー 再話と絵/池田香代子 訳「白鳥の湖」(ノルドズッド・ジャパン)
●アンネ・エルボー 作/木本 栄 訳
「すきまのじかん」(ひくまの出版)

両方とも、美しい絵を眺めるだけでも、癒しになりました。

「すきまのじかん」というのは、要するに薄明や黄昏の時間のことなのかなと思っていたのですが、 たとえばロード・ダンセイニなどが描く神秘に満ちた薄明とは、まったく違っていました。
アンネ・エルボーの描く、擬人化された「すきまのじかん」は、何故か、たけうまにのり、あおいオーバーにマフラーをピンでとめ、 ゆびぬきをかぶっているのです。右手に持っているのは、なにもかいていない、ちいさな本。 そんな「すきまのじかん」の、うすあおい絵が、とても素敵でした。

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2005/04/19
●ラドヤード・キップリング 作/リスベート・ツヴェルガー 絵/宮内悠介 訳 「ラクダのこぶは なぜできた?」(ノルドズッド・ジャパン)

キップリングの、あたたかみのあるお話。ツヴェルガーの、淡々とした美しい絵。 案の定、新たにツヴェルガー作品を注文することになってしまいました。今度は「白鳥の湖」です。

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2005/04/14
●ラーゲルレーヴ 著/香川鉄蔵、香川節 訳
「ニルスのふしぎな旅 1〜4」(偕成社文庫)
●亀井俊介 編
「対訳ディキンソン詩集―アメリカ詩人選(3)」(岩波文庫)

エミリー・ディキンソンは、やっぱり、すばらしい詩人でした。
それから詩集のなかに、ディキンソン邸の写真が載っていたのですが、 マイケル・ビダード 作/バーバラ・クーニー 絵/掛川恭子 訳「エミリー」(ほるぷ出版)に描かれていたのと、そっくりそのままの建物で、ちょっと感動しました。 クーニーは、実際にディキンソン邸を訪れて写生したといいますから、それも当たり前のことなのですが。

Than Oars divide the Ocean,
Too silver for a seam――
Or Butterflies, off Banks of Noon
Leap, plashless as they swim.

継ぎ目も見えぬしろがねの海を、
かき分けるオールよりもそっと――
正午の土手から飛び立って、
音もたてずに泳ぐ、蝶よりもそっと。
亀井俊介 編「対訳ディキンソン詩集―アメリカ詩人選(3)」
(岩波文庫)より

→バーバラ・クーニー「エミリー」の紹介はこちら

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2005/04/02
●ターシャ・テューダー&リチャード・ブラウン著/相原真理子 訳「ターシャ・テューダーの世界―ニューイングランドの四季―」(文藝春秋)

ターシャ自身の言葉と、絵のように美しい写真とで、彼女が実践している、19世紀の生活が紹介されています。

庭仕事、山羊の乳しぼり、糸つむぎ、午後のお茶。 彼女の、満ち足りた孤独な世界が、とてもうらやましいです。 ターシャの暮らしぶりを知れば、誰だって、そう思うはず。
18世紀の農家を模した家、代々伝わっている糸車、ティーセット、アンティークの洋服、ドールハウス、愛くるしいコーギ犬、 そして美しい庭。この本に載っているすべての写真は、彼女が描く絵そのものです。
まるで、絵本の中に住んでいるように見えるターシャ。 だけどそれは反対で、彼女は自分の暮らしそのままを、絵本にしているだけなのです。

本好きのわたしが目をひかれたのは、ターシャの蔵書の写真。 今日の日本ではあり得ない、布張りに金文字の、古めかしい装丁の本たち。背表紙が擦り切れてぼろぼろになっているのは、 ターシャが何度も繰り返し、手にとって読んだ証拠です。

「遠くの国へ運んでくれるという点で
どんな軍艦も本にはかなわない」
これは、ターシャがとりあげていた、エミリー・ディキンソンの言葉です。
ずっと孤独に、家のなかにひきこもって暮らしていた、 エミリー・ディキンソンという詩人の、心の世界の豊かさが、よくわかる言葉です。
エミリー・ディキンソンについては、マイケル・ビダード 作/バーバラ・クーニー 絵/掛川恭子 訳 「エミリー」(ほるぷ出版)という絵本を読んでから、興味をもっていたので、 ターシャが彼女の言葉を好意的に紹介していたことが、ちょっと嬉しかったのでした。

本との出会いって、こうやって、繋がっていくものだなと、ほんとうに思います。 それは、とても、幸せなことです。

→バーバラ・クーニー「エミリー」の紹介はこちら

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2005/03/24
●ターシャ・テューダー 著/食野雅子 訳
「喜びの泉 ターシャ・テューダーと言葉の花束」(メディアファクトリー)

ターシャに喜びを与えてくれた作家や詩人の言葉に、彼女自身が絵を添えた、とても美しい本。

「人はみな月と同じように、
だれにも見せない
暗い面をもっている。」
マーク・トウェインがこんな言葉を書き記しているとは、知りませんでした。 きっとターシャ・テューダーは、人のもつ「暗い面」を知っているからこそ、 明るさと喜びと愛情に満ちあふれた絵を、描くことができるのだと思います。

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2005/03/16
●ジャック・フィニイ 著/福島正実 訳
「ゲイルズバーグの春を愛す」(ハヤカワ文庫)

おやすみ前なんかに、ゆっくり読もうと思います。

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2005/03/12
●エルサ・べスコフ 作・絵/おのでらゆりこ 訳
「ペレのあたらしいふく」(福音館書店)

やさしい色づかいの絵がすてきで、人と動物、自然の草花、道具や小物類の描写から、作者のあたたかいまなざしが伝わってきます。
かなり、おすすめです。

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2005/03/04
●メアリー・リン・レイ 文/バーバラ・クーニー 絵/掛川恭子 訳
「満月をまって」(あすなろ書房)

2000年に死去した、クーニーの最後の作品です。
今から100年以上前、アメリカのニューヨーク州ハドソンから、それほど遠くない山間で、 かごをつくって暮らしていた人たちの物語。ハドソンの町の人々の、偏見と差別に悩む主人公の少年に、 かごつくり職人のひとりが言った言葉が、印象的です。
「風からまなんだことばを、音にしてうたいあげる人がいる。詩をつくる人もいる。風は、おれたちには、 かごをつくることをおしえてくれたんだ」
著者のあとがきによると、彼らがつくったかごは、博物館や民芸品のコレクションのなかに、 いまでもたくさん残っているそうです。山に住む人たちが、風の声をききながら編んだかごは、 いつまでも使える、丈夫ですばらしいかごだったのです。

山の木々と風の歌、かごつくりの人たちのうつくしい心が、クーニーの絵からしずかに、 けれども確かに、伝わってきました。

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2005/02/27
●バーバラ・クーニー 作/かけがわやすこ 訳
「ルピナスさん」(ほるぷ出版)

バーバラ・クーニーに、ハマってしまいました。
2月25日の記録に書いたとおり「ちいちゃな女の子のうた ”わたしは生きてるさくらんぼ ”」の絵が、とにかくすばらしくて感動して。
そもそも<絵本屋の日曜日>でこの本が紹介されたとき、 ”ピーチを持っている女の子 ”の頁が載っていて、それが「あっこれは、わたしの好きな絵だ」と、 ぴんとくるものがあったので、注文することにしたのですが。
で、今日、近所の本屋でちらっと絵本のコーナーをのぞいたら、ひっそり棚におさめられていて、 ぱらぱら絵を見たら、やっぱりわたし好みの丁寧であたたかくてやさしい絵で、思わず衝動買い。
今月は、クーニーのおかげで、絵本ビンボーになりそうです。

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2005/02/25
●デルモア・シュワルツ 文/バーバラ・クーニー 絵/しらいしかずこ 訳「ちいちゃな女の子のうた ”わたしは生きてるさくらんぼ ”」(ほるぷ出版)

2月20日の毎日新聞日曜版、落合恵子氏の<絵本屋の日曜日>で紹介されていた絵本。
いろいろなレビューを読んでも、結局は手にとってみるまで、本との相性はわからないものですが、 これは自分の目で直接、表紙の絵を見たときに、すばらしい本だと感じました。
ネットでカバーの写真など確認して注文したのですが、パソコンの画面で見るのとは、全然違います。 何と言うか、手で描いた、絵筆のやさしい感触が伝わってきて、もうそれだけで誠実につくられた本だとわかりました。
手にとったときに、もうわかるって、とても幸せな、本との出会いの瞬間です。

ページを開いてみると、バーバラ・クーニーの絵も、デルモア・シュワルツの文章も、ほんとうにうつくしく、 やっぱり思ったとおり、とても素敵な絵本でした。
「5歳から」とありますが、子どもからおとなまで、何度でも読み返したくなる一冊です。

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2005/02/11
●タシャ・チューダー作/末盛千枝子 訳
「すばらしい季節」(すえもりブックス)

丁寧で素朴でやさしい絵。自然のなかで、季節の移り変わりをからだじゅうで感じながら暮らすことのすばらしさを教えてくれる。
これは毎日新聞の日曜版に連載されている、落合恵子氏の<絵本屋の日曜日>で紹介されていて、 気になったのでネットで作者のことなど、いろいろ調べた結果、購入したもの。

タシャ・チューダー(もしくはターシャ・テューダー)は、伝説的な絵本作家とのことで、 本好きを自称しておいて、彼女について何も知らなかった自分は、まだまだ本の世界を知らない。
19世紀の生活を実践し続けているという、彼女の暮らしぶりについて書かれた本もたくさんあって、 ちょっと欲しいかも。

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2005/02/05
●谷川俊太郎 著/吉村和敏 写真「あさ/朝」(アリス館)

「赤毛のアン」の舞台として知られる、プリンス・エドワード島を中心としたカナダの美しい<朝>を撮った写真と、 谷川俊太郎氏の<朝>をうたった詩とのコラボレーション。

コーヒーメーカかなんかのCMでとりあげられ話題になったという、あの有名な詩『朝のリレー』も収録されています。
でもわたしにとって『朝のリレー』は、あのCMより、学校の教科書に載っていた詩として印象深いものがあります。 「カムチャッカの若者が…」ではじまる、あのフレーズは、つよく心に刻まれていて、テレビCMで耳にしたときも、 とても懐かしかったのだけれど、この本で読みかえしてみて、また改めて、すばらしい詩だなと感じました。
読んでいると<あの頃>が思い出されて、なんだかせつなくなるのです。
<せつない>なんて、ひさしぶりに使う言葉。

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2005/01/26
●長田弘 作/荒井良二 絵「森の絵本」(講談社)

癒し効果、高し。長田弘氏は、いつもかんたんでわかりやすい言葉を選ぶ詩人だな、と思う。
絵も、緑を基調としたやさしい絵で、わたしも絵を描きたくなった。 というか、白い紙に好きな色を塗りたい、って感じ。気持ちよさそう。

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2005/01/22
●長田弘 著「深呼吸の必要」(晶文社)

篠原哲雄監督の映画『深呼吸の必要』の元になった本ということで、最近、毎日新聞の余録にもとりあげられていたのですが、初版は1984年。
長田弘氏の詩は、たしかむかし国語の教科書に載っていて、ずっと気になっていた詩人だったのだけど、 いままで詩集というものがなんとなく苦手で、買うのをためらっていたのです。

<深呼吸の必要>を切実に感じている今、ついに読むべきときがきたのだ、と思って、今日購入して読んでみました。
涙が出ました。「もう二どともどれないほど、遠くまできてしまった」ということ。 「失くしてしまった想い出」の、とうとさ。
そして「立ちどまって、黙って」「言葉を深呼吸する」ということの必要。

「大事なのは、自分は何者なのかでなく、何者でないかだ」
長田弘著「深呼吸の必要」(晶文社)より

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2005/01/07
●吉田篤弘 著「百鼠」(筑摩書房)

クラフト・エヴィング商會の物語作家、吉田篤弘氏の最新刊。書き下ろし作品。
発売が延び延びになっていたけど、ずっと楽しみに待ちつづけていたのだ〜。
氏が語るのは、いつもとてもやさしくて、あたたかくて、品があって、ときにユーモラスで、 こころにちいさな灯をともしてくれる、そんなささやかな物語ばかり。
一気に読んでしまうともったいないから、大事にちょっとずつ読もう、と毎回思ってしまいます。

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