■伊勢英子の絵本

〜「絵描き」としての誠実なまなざし〜


●伊勢英子 ― いせ ひでこ ―

1949年、北海道に生まれる。少女時代、佐藤良雄氏にチェロを師事。東京芸術大学デザイン科卒業。
主な絵本に『雲のてんらん会』(講談社)、『1000の風1000のチェロ』(偕成社)、『絵描き』(理論社)、エッセイに『空のひきだし』『カザルスへの旅』(ともに理論社)などがある。
2007年、『ルリユールおじさん』(理論社)で講談社出版文化賞絵本賞を受賞。



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「ルリユールおじさん」

「旅する絵描き パリからの手紙」



「ルリユールおじさん」

いせ ひでこ 作(理論社)
ルリユールおじさん
舞台はパリ。少女ソフィーは大事にしていた植物図鑑がこわれてしまい、それならルリユールのところに行けばいいと教えられます。
ルリユールというのは製本職人のこと。ソフィーが出会ったルリユールおじさんは、こわれてしまった植物図鑑を、世界で一冊の美しい本に仕上げてくれるのです。

絵もおはなしも極上の一冊。まずパリの雰囲気を伝える水彩の絵がなんとも素敵で、見開きの青い夜の絵など胸に迫るものがあります。
ルリユールについてのおはなしも味わい深く、本好きでも、本好きでなくても、とにかく泣けます。
ルリユールおじさんが回想する、やはりルリユールだったお父さんの言葉が、とても印象的です。
ルリユールはすべて手のしごとだ。
糸の張りぐあいも、革のやわらかさも、
紙のかわきも、材料のよしあしも、
その手でおぼえろ。

本には大事な知識や物語や人生や歴史がいっぱいつまっている。
それらをわすれないように、未来にむかって伝えていくのがルリユールの仕事なんだ。

<中略>

名をのこさなくてもいい。
「ぼうず、いい手をもて」

『ルリユールおじさん』45ページより

ソフィーに名をたずねられ、「ルリユールおじさんでいい」と答えた老職人。
ルリユールに限らず、多くの無名のひとびとの営みが、人間の歴史をかたちづくってきたのだと、あらためて認識させられました。

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「旅する絵描き」

パリからの手紙
伊勢英子 著(平凡社)
 ぼくは、すごいモチーフにつかまってしまったらしい。美しい風景でも流れる雲でもない。前に描いた枯れたひまわりの群生でもないよ。窓だ。なんのへんてつもない窓なんだ。 たて一メートル×よこ一・五メートルもない小さな窓だ。こんなシンプルな窓、華やかなパリではめずらしいよ。レースのカーテンも鉢植えのベランダもない。

『旅する絵描き』2ページより

旅する絵描き―パリからの手紙 「ぼく」という一人称を使い、おそらく恋人であろう「Y」にあてて書いた手紙という趣向で、絵本『ルリユールおじさん』誕生の秘密が明かされる創作的エッセイ。カラー、モノクロの未公開スケッチ多数収録。
一人の絵描きである著者が、パリで一人のルリユール(製本職人)と出会い、その手仕事につよく惹かれ、滞在して彼の仕事の様子やパリの街をたくさんスケッチする毎日が綴られています。
読みすすめるうち、伊勢英子さんという「絵描き」の、絵を描くことに対する真摯な姿勢が伝わってきて、「絵描き」としての著者と、「ルリユール」としてのおじさんの生き方が重なって見えてくる。
たくさんのスケッチが『ルリユールおじさん』として結実したことがよくわかるし、伊勢さんがあの絵本を描くことは必然だったのだなあ、としみじみ感じます。
巻末には『ルリユールおじさん』のエスキス(下絵)も掲載されていて、絵本を読んで感動したなら、この一冊も見逃せません。
文章や多数のスケッチから、パリの空気が感じられるのも嬉しい。

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